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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第129話  待ち伏せされるルシード2

 疲れを滲ませた顔で、ルシードが回廊を歩いていると、待ち伏せをしていたフェルサと対面したのだった。


(今日は、随分と、待ち伏せされる日だな)


 溜息が出そうになるのを、必死に堪えている。

 みっともない真似ができない。

 平坦な表情で、近づいていくフェルサ。


 直接、屋敷や、会社などを訪ねていけば、フィーロを無駄に刺激すると控え、ルシードが王妃エレナに会う日を、密かに待っていたのだ。

 部下たちに命じたため、人が近づくこともない。


 年上であるフェルサの方から、挨拶をする。

「待っておりました」

 軽く、会釈する仕草を窺っていた。

 視界に、姿を捉えた瞬間、自分を待っているのだと、すぐに把握した。

 その話の内容は、よくないものだと、理解していたのである。


 ゆっくりと、覚悟を決めたルシードも、近づいていった。

 その前で、立ち止まる。

 憂鬱な顔が消え、人の受けがいい顔に、なっていったのだ。


「こないだの件ですか?」

「そんなところです」

 感情が読めない。

 ふと、ルシードが手にしているものに、視線が止まった。


「妃殿下からの、預かり物です」

「会われたのですか?」

「はい。私の帰りを、副司令官殿のように、待っていたようで」

 先ほどのいきさつを隠さず、話した。

 隠す必要が、ないためだ。

 そして、変な勘ぐりをさせないためだった。


「そうですか」

「確かめられますか」

「結構です」

 抑揚のない声で、短く返答した。


 好奇な目や、態度を崩さないフェルサや、ここにいないソーマを、相反する立場にたっていたが、好んでいたのである。

 大抵の貴族や、自分の身元を知っている中流階級の人間は、表に出さないが、冷ややかな言動を、陰で紡いでいるのを把握していたのだ。

 いつも素知らぬふりをし、それらの人間たちと、うんざりしながらも、付き合っていたのだった。

 けれど、そういう人間ばかりではないことも、理解していた。


「司令官殿や、副司令官殿が、懸念していることは、今のところ一切ないので、ご安心してください。まして、妃殿下に、何かするとは思えません。ただ、僅かばかりに、興味があるようで、それで、話をしているようです。温かく、見守っていたただければと、思います」

 真摯に、現状を語った。

「そうですか」

「はい」

 用件が、終わったと思っていると、まだ、終わっていなかったようだ。


「スブニール公爵は、妃殿下の印象を、どのように、思われておいでか」

 予想の範疇を超えた質問に、戸惑いが隠せない。

 どう、答えようかと、逡巡しているルシードは気づかない。

 常に、平素でいる表情に、微かに口元が、上がっていたのを。


「……深くは、存じ上げませんが、いいように、感じているようですよ」

「そうですか」

 鳶色のフェルサの眼光が、何かを考えているようで、僅かに動く。


(余計なことを言ったか? だが、よからぬ出来事が、起こるとは思えない……)


 ソーマやフェルサと、フィーロが、デステニーバトルの仲間だったと言うことは、承知していたが、めったに、その当時の話をしないフィーロなので、どういった間柄なのか、いまいち不明なところもあったのだった。


(話題を変えた方が、賢明かな)


 軽やかな口調で、ルシードが喋り出す。

「陛下のご様子は、いかがですか? 私は、随分と、暇をさせて貰っておりますので……」

 貴族院のメンバーであるルシードは、シュトラー王と、顔を合わす機会が、幾度もあるのに、王太子の結婚の合否を決める採決以来、顔を会わせていない。

 公務の席や、パーティーで、遠くから顔を拝見する機会があっても、近づいて話を交わそうとしなかったのである。


「相変わらずと、お答えしておきましょう」

「そうですか」

「こちらのことは、気にせずに」

 気遣ってくれる姿勢に、ありがたいと抱く。

「ありがとうございます」

「伯爵は、どういった印象を、お持ちですか?」


(何で、妃殿下の話題にするのか……)


「……明るく、優しいお方と。それと、きっと人を魅了する心が、あるのでしょう。すっかり息子のテネルは、妃殿下に懐いてしまって」

「そのようですね」

 影ながら、リーシャの安全を守っている二人の元にも、何度も、テネル宛ての手紙を、出している情報を掴んでいた。

 そして、それに対する返事がない事実も、承知していたのだ。


「何かと、大変ですね。ただ、そんなに、肩を張らなくても、いいかと」

 表だって、口にしないが、返事を止めていることを、匂わしていた。

「……」

 子供が出した手紙ぐらい、見逃してくれる気がしていた。

 けれど、後々のことを踏まえた上での、苦渋の決断だった。


「……ですが、立場が、大きく違いますので」

「まだ、お小さいのでは、ないのですか?」

 労うような言葉をかけた。

「だからです。大きくなって、大きな傷を受けるよりも、小さいうちに、浅い傷の方が……」

「そういう考え方も、できますね」

 穏やかな口調で、口をついだ。


「お二人のやり取りに、陛下は、口を挟まないと思いますよ」

「……迷惑をかけられません」

 微かに、ルシードが顔を歪めている。

「そうですか」


 二人が話していると、フィーロが声をかけてきた。

 見張らせていた部下たちの隙間を縫って、奥へと、進んでいったのだった。

 そこで、二人がいるとは、思ってもいなかったのだ。


「珍しい二人が、話しているな」

 声をかけられても、フェルサは、一切の動揺を滲まない顔だ。

 疑る眼差しを、フィーロが傾ける。

「偶然に、会ったので、立ち話をしておりました」

 それに比べ、僅かに、ルシードが動転している兆しを、窺わせていた。


(ルシードのやつ。まだ、修行が足りんな)


 けれど、それには触れない。

 徐に、表情が読めないフェルサを見据えている。


「そうか。どんな立ち話だ?」

「この前の、不手際のことを、詫びていたところです」

「テネルのことか」

「そうです。妃殿下は、いたく気にして、おられているようで」

「そうなのか」

 深く、追求する意思をみせない。


「はい。ところで、スブニール公爵、今日は、どんな助言をしていただきに、王宮に、足を運ばれたのですか? よろしければ、私が、お話を窺いますが?」

 そつがない冷静な仕草だ。


(さすがだな、フェルサ)


「副司令官の手を、煩わしに来た訳ではない。懐かしい王宮を、散歩しにきただけだ」

「そうですか」

 同じように、フェルサも、それ以上の追求をしない。

 身体を強張らせているルシードに、双眸を巡らす。

「王妃様に、呼ばれたのか」


「はい、スブニール公爵様。王妃様からの伝言を、承っております」

 瞬く間に、渋い表情を、滲ませるフィーロ。

 若い時より、屈託のない王妃エレナを、警戒していた。

 だが、王妃付きの侍女に、手を出して、さらに、多大な迷惑をかけて以来、頭が上がらなく、苦手としていたのだった。


「……話せ」

 チラッと、まだいるフェルサに、視線を傾ける。

「構わん。へんに勘ぐられるのは、面倒だからな」

「はい、わかりました」

 恭しく話を、進めていった。


「では、そのまま、お伝えいたします。そういう態度を、おとりになるのなら、私にも、考えがありますと、言っておられました。そう言えば、話が通じると」

 苦虫を潰した表情。

 相当、困った内容なのかと案じていると、黙って、静観していたフェルサに向き直った。

 その様子に、首を傾げている。

 黙ったまま、成り行きを窺っていた。


「副司令官、対策を講じておいた方が、いいぞ」

「貴重な情報を、ありがとうございます。けれど、スブニール公爵も、くれぐれも注意を」

「わかっている。そのうちに、出向くとしよう。悪いが、王妃様に伝えしてくれ」

「承知いたしました」

 上の身分であるフィーロが、軽く頭を下げた。


「ルシード。ちょうどいい、私に付き合って、王宮を散歩するぞ」

「ですが……」

「命令だ。私に付き合え」

「……わかりました」

 渋々と承知し、二人してフェルサから、離れていった。

 その背中を、静かに見守っていた。


(随分と、他人行儀な親子だな)


読んでいただき、ありがとうございます。

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