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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
136/422

第127話  誕生日会5

 誕生パーティーも終わり、招待客が帰っていった。

 終わって、仮宮殿で顔を合わせても、リーシャの様子は、いつもと同じだった。

 なぜか、それはラルムが、原因だと感じつつ、変わらずによかったと思う反面、納得できない部分を抱いていたのである。


 アレスが、ソファに腰掛けていた。

 仕事を終えた侍従が、誰もいない。

 ふと、伏せがちな視線を上げる。


 パーティーが楽しくって、高揚し、眠れない訳ではない。

 ただ、あることが気になり、眠れずにいたのだ。


「チーズケーキ……」

 食べてみたいと抱くものの、手を出せなかった。

 周囲の視線が、あったためだ。


 むやみに、食べ物を口にしては、いけないと教え込まれていた。

 毒が、仕込まれている可能性が、あるからである。

 感情が、すぐに面に出るリーシャが、仕込める訳がないと思うが、周囲の視線がある以上、手を出す真似が、できなかったのが実情だ。


 カーラの屋敷では、自分たちを知っている人間が、いなかったから、慣れないことへの躊躇いがありつつも、口にできた。

 しょうがないと抱くが、ずっと、後悔に襲われていた。

 ズシリと、気分が重くなっていく。

 潰れてしまった箱が、脳裏に蘇る。


(泣かなかったな……)


 目の前に、箱が近づいたから、ただ、払いのけようとし、軽く払っただけだった。

 それが意に反し、リーシャの手から、落ちてしまい、潰れてしまう事態に陥ってしまった。

 自分が、悪くないと思えば、思うほど、気になり、モヤモヤとする影が増していく。


「近づける、あいつが悪い。なのに、なぜ、こんな思いをさせる」

 苦々しく、吐き捨てるが、罪悪感が拭えない。

「あんなところで、出すからだ」


(バカが……、何で、あの場で……)


 懇願するような吐露が、ついてしまった。

 二人っきりだったら、食べていたと掠める。

 だが、実際に、出した場所は、人が多くいた場所だった。

 間の悪さに、リーシャを咎めたがった。


 けれど、叱責するよりも、どうしているのかの方が、増していたのである。

 姿を消してしまい、ずっと気になっていた。

 だから、いつもと変わらないように、招待客たちに接してから、休憩を装いながら、リーシャの様子を、見に行ったのだった。


「なぜ、いつも一緒なのか……」

 その脳裏に、休憩室での件が、鮮明に蘇っていた。

 ことあるごとに、二人が示し合わせたように、一緒にいて、笑い合っている。

 それを、いつも密かに眺めていた。


 垣間見るたび、面白くない気持ちが増していく。

 そして、残酷なほど、切り裂きたい気分に、陥るのだった。

 抱くのは、ラルムだけではない。

 このところ、リーシャと話す、親しい者たちにも、抱くようになっていった。


「リーシャが悪い。あいつが、妻らしい振舞いが、できないからだ」

 何一つ、言うことを聞かず、歯向かうからだと、行き着く。

 だが、それも違う気がしていた。

 結局、自分は、どうしたいのか、不明のままだった。

 把握できない、自分の気持ちを、持て余していたのである。


「何で、あんなに楽しそうに笑う、いつも……」

 自分と、ラルムが、一緒の際を、否応なしに比べてしまう。

 いつも、ラルムと一緒の時は、楽しげに笑っていた。

 自分といる時は、あまり笑っていない気がしている。

 それに、怒っている時もあれば、哀しそうにしている時も、それに、泣くこともあった。


(どうして、こんなに違う)


 違い過ぎる状況。

 悔しさを滲ませるが、次第に薄れていく。


(どうすれば、ずっと、笑っているのだ)


 このところ、笑っている顔を、ずっと見ていたい衝動に、駆り立てられていた。

 それまでは、からかって、遊んでやろうと思う部分が多かった。

 ただ、今は笑っている顔を、独り占めしたいと抱いていたのである。


(自分だけに、笑っている顔を向ける……)


 純粋に、リーシャを笑わせる存在を、疎ましく感じ、次々と、その顔が、浮かび上がっていった。

 このところ、ラルムだけではない。

 知り合ったばかりのルシード、テネル親子にも、笑顔を降り注いでいて、無性に、それを好ましく思えずにいたのだ。


 埒も明かない思考に、うんざりとした。

 けれど、ほっとくことができない。

 苛立ちながら、背もたれに、背中を預けた。


 自分に注がれない、リーシャの笑顔。

 幻影となって、天井に浮かび、思いっきり睨めつける。




 同じ頃、別な場所にいるラルムは、窓から見える星空を眺めていた。

 星は、満点の輝きを、演出していたのである。

 そんな美しい夜景とは違い、霧が掛かっている心が、晴れない。


「悲しまなければいい。ただ、笑っていれば……」

 そう願うはずなのに、どこかで、ずっと隣で笑っていてほしいと言う願望が、ちらつく。


 パーティーで、アレスへのプレゼントが、手作りのチーズケーキだと知り、羨ましく、嫉妬せずには入られなかった。

 冷静に考えれば、アレスが口にできないと、わかっていたはずなのに。

 口にすることだって、可能だと思う途端、できることならば、そのチーズケーキとリーシャを手にし、逃げ出したいとまで、脳裏を掠めていたのだった。


 自分の痛む心よりも、リーシャの痛む心を、和らげたい方が勝っていた。

 だから、アレスのため、作られたチーズケーキでも、口にしたのだった。


「少しは、穏やかに、眠れているだろうか」

 哀しいまま、眠りについていないかと、案じる。

 愁いを残したまま、一日を終わってほしくなかった。

 大好きな笑顔のまま、終わって、ほしかったのである。

「そのためならば、僕が耐えられる。耐えてみせるよ、リーシャ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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