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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
134/422

第125話  誕生日会3

 鮮やかに、着飾ったリーシャを携え、一段と、目立つ主役のアレスが登場した。

 四人とも、それに習うように、拍手を叩く。

 ゆっくりと歩きながら、アレスが招待客に、気軽に話しかけていった。

 傍らに立つリーシャも、にこやかな笑顔を作り、招待客に対応していたのだ。


「まともに、笑えないのか」

 笑顔を振りまく耳元で、アレスが囁いた。

 どう見ても、酷い作り笑顔だったからだ。

「無理よ。これが精いっぱい」


 作っていますと、わかる笑顔。

 いっこうに、よくならない状態に、小さく嘆息を零した。


「進歩がない」

 しょうがないでしょと、噛み付きたかった。

 けれど、周りに、人がいたせいで、諦めざるをえない。

 せめてもの抵抗とし、一瞬だけ、アレスを睨んでみせる。


(だったら、事前に、誕生日パーティーがあることぐらい、言いなさいよね)


 自分とは対照的に、アレスは完璧な笑顔だ。

 その王子たる笑顔を、招待客に送っていた。


(ふんだ。いくら完璧でも、白々しいものだって、私は、知っているんだからね)


 始まる時間が迫ってくると、アレスに対し、怒りを立てていたのだ。

 自分の誕生日が近いことや、パーティーがあることを、顔を合わせても、事前に伝えなかったからだった。

 登場する際に、顔を合わせた時に、パーティーがあることぐらい、教えてくれてもいいじゃないと抗議したが、知らない方が悪いと、ばっさりと、切り捨ててされてしまったのである。

 だから、余計に腹立たしかった。


 パーティーなんかに出ないと、言いたかったのだ。

 でも、周囲の様子が、そんな雰囲気ではなかった。

 我慢して、会場の中へ、一緒に入る羽目になってしまい、この現状に至るのだった。


「悪かったわね」

 何も、答えず、アレスが招待客の方に、視線を移動させた。


(無視するの!)


 目を瞠っているリーシャ。

 小声で、言い合っている場合ではないと、アレスが招待客たちに、意識を傾けていたのだ。




 離れた場所にいるラルム。

 二人の様子が、彼らにも、見えていたのである。

 何か、揉めているのを四人が察し、何をしているんだと訝しげていたのだ。


 渋々といった感で、先を歩くアレスについていくリーシャ。

 招待客に、挨拶しながらも、ゼインたちやラルム、そして、ステラが来ていることを、僅かに目視しただけで、確認していたのである。




 憤慨している、真っ最中のリーシャだ。

 ラルムを捜すのも忘れ、ただ、アレスの鷹揚な態度に、腹を立てていた。


 機嫌の悪いリーシャを引き連れ、これぞお手本となる、品のある笑顔で、招待客たちに出席してくれた礼を述べていった。

 けれど、その内心は、穏やかなものではない。


(誕生日を、知らなかった? 小さな子供でも、知っていることを、こいつは、知らなかったのか? 信じられない、こいつの頭の中は、どうなっている)


 別に、誕生日なんて、気にも留めていなかった。

 これまで通りに、淡々とやればいいと思っていたのだ。

 それなのに、ただ、知らなかった、興味がなかったことに、無性に気分を害している。

 そんなことを、億尾にも見せない。

 表情豊かに、次々と、挨拶をしていった。




 無事に、何事もなく、パーティーが進んでいく。

 ある程度、自由に動くことが、でき始める頃合いを見計らい、リーシャと共に、ゼインたちがいるテーブルで談笑し始める。

 これまでの、おとなしくしている姿勢から、打って変わってリーシャが、楽しげにラルムと話を交わしていた。


 その光景を、ゼインたちと話しながらも、それとなく窺っていた。

 勿論、話の内容を聞き耳したりして、二人から目を離さず、観察をしている。

 パーティーも、中盤に去りかかった。

 ゼインたちが、プレゼントで盛り上がり始める。


「どうだ? 気に入ったか」

 自信満々なフランク。

「ああ。最新式の機器だな。よく、手に入ったな」

 貰ったプレゼントを、アレスが評した。

 まだ、出回っていないスピーカーを、プレゼントしたのだ。


「コネを、使ってな」

 口の端を上げ、笑ってみせた。

「後で、じっくりと、楽しませて貰うよ」

「妃殿下から、プレゼントは、何を貰ったんだ」

 含み笑いを浮かべるティオの視線。

 元庶民が、何をプレゼントしたのか、興味があったのだ。


「う……」

 表情のない顔で、アレスが腕時計と言いかけるのが、すぐにやんでしまう。

「ちゃんと、用意してあるわよ」

 胸を張って、満足げにリーシャが答えたからだ。

 すでに、高級腕時計を、侍従を通し、受け取っていたので、首を捻った。

 さすがに、リーシャが用意したものではないと、察していた。


 控えている侍女に、持ってきてと頼む。

 すると、侍女が、一つの箱を持ってくる。

 綺麗に、リボンも、かけられた箱だ。


「何が、入っているのか?」

 ちゃちをティオが入れ、ゼインやフランクが、意地悪い笑みが零れていた。

 どう見ても、高級店のロゴがない、味気がないものだからだ。

 そんな三人を気にしない。

 箱を受け取り、困惑気味のアレスの前に出した。


「何だ、これは」

 じっとしたまま、箱の中身を確かめた。

 いっこうに、受け取らないアレスに、口を開く。

「チーズケーキ」

「「「ケーキ?」」」


「そう。私が作った、手作りチーズケーキ」

 その顔に、自信が溢れている。

「得意なの、チーズケーキ。とっても美味しいだから、早く、食べてよ」

 期待した眼差しを注いでいた。

 ニコニコしているリーシャに、水をゼインが入れる。

「何を、考えているのか、妃殿下は」


「えっ」

 呆れ混じりに、呟くゼインの顔を窺う。

「食べられる訳が、ないだろう?」


「どうしてよ」

「口にするものは、それなりの段取りが、必要なんですよ、妃殿下」

 理解を示さない姿に、小バカにしたように、恭しく説明をしてあげた。

 説明を受けても、納得ができない。


「別に、普通のチーズケーキよ」

「それでも、必要なんだ」

 黙って、静観しているアレスの表情は、何も変わらない。

「食べてくれないの?」

「……」

 ティオたちが、ほらなと、勝ち誇った顔。


「少しぐらい、いいじゃない。せっかくアレスのために、作ったのに」

 さらに、箱を、前へ突き出した。

「……」

「下げた方がいいぜ、無理だから」

 黙っているアレスに代わり、ゼインが口を開いた。


 寂しそうなリーシャの背後で、ずっと何も言えず、ラルムが佇んでいるしかできない。

 ゼインが口にしたことは、王宮の中では、当たり前で、まして王太子と言う身分では、厳しくなるのも当然だった。


「一口だけも、ダメなの?」

 諦めきれない。

「……」

「ねぇ、アレス」


 スレスレに、箱を近づける。

 それを、ただ払おうとした。

 ふんわりと箱が、リーシャの手から、離れてしまい、床に落下してしまう。


「!」

「……」

 誰もが、落ちてしまった箱に注目する。

 無残にも、箱が潰れてしまった。


「残念、これでは、食べられないな。妃殿下」

「これではな」

「酷いあり様だ」

「……」

 顔を伏せ、潰れた箱を見入っている。

 そのせいで、アレスがリーシャの表情を垣間見えない。


 どんな顔をしているのか、確かめたかったのだ。

 けれど、人がいる前では、できなかった。


(泣いているのか?)


「これでは、食べるのは、無理ね」

 やっと、小さな声が漏れた。

 その声を聞いた途端、僅かに、ざわついていた胸が、落ち着いた。

 泣いていないと、ホッとしていたのである。

 侍従が、咄嗟に拾うとした箱を制し、しゃがんで自ら拾った。


(何をやっている。自分で拾って、どうする、侍従たちにやらせろ)


 王太子の体面があるので、何も言えない。

「片づけてくるわ」


(それは、侍従たちに、任せるべきだろう)


 表情が見えないまま、アレスたちの前から、立ち去った。

 その背中を見送り、ラルムが、その後に続いていく光景を、ただ眺めている。

 耳から、流れ込んできたのは、嘲り笑っているゼインたちの声だった。


(泣きも、怒っても、いなかったな。いつもだったら、怒って泣いているのに……)


 いつもとは違う雰囲気。

 何か、胸騒ぎを抱く。

 けれど、ラルムのように、追う真似をしない。

 ただ、何も、できない自分に、苛立つ。


 ゼインたちは、自分たちの話で、盛り上がっていた。

 アレスは、その場で飲み物を、静かに口にしている。

 機会を見計らったように、ステラが、ゼインたちのテーブルに足を運んだ。

「どうしたの?」

「別に」


 シンプルなドレスの正装にもかかわらず、ステラのよさを、上手く引き立てている。

 目もくれないアレス。

 ただ、別な方向へ、視線を巡らせていた。


「戻ってこないわね」

 いるべき人が、いないことを、ステラが指摘した。

「……」

 あの背中を見送ってから、気にかけていた。

 だが、休憩時間でもないのに、席を外す訳にはいかない。


「逃げたのだろう」

「いいの? 妃殿下として、いるべきじゃないかしら」

「僕には、関係ない」

「そう。その割りには、気にしているようだけど?」


「迷惑を、かけられたくないんでね」

「そう」

「くだらないことを、気にするようになったな」

「別に。ただ、妃殿下として、相応しくない行動を、とってほしくないだけ」

「そうか」


「だって、そうでしょ? 王太子殿下の妻に、なったのよ。誰もが、憧れている地位につけたのに、いっこうに、それらしい振舞いが、できないじゃない? それに、パートナーとしても、失格だわ。いつまで経っても、アレスと組んで、訓練できて、いないじゃないの? そんな相手で、大丈夫なの? アレスは」

 辛辣な言葉。

 彼女らしくないと、巡らすアレスだった。


 ずっと、不満をステラは抱いていたのだ。

 自分から、パートナーの立場を奪ったのに、基礎の基礎しか訓練をしない、そんな相手に、負けたと抱くだけで、プライドが深く抉られていた。

 それに、検査の結果にも、不審を抱かずにいられない。

 アレスとパートナーを組ませるため、わざと、高い数値を、偽装しているのではないかと思うほどにだ。


「別に、構わない」

「随分と、高く買っているのかしら? それとも、必要ないと、思っているのかしら?」

 ステラの問いに、アレスは何も答えない。


読んでいただき、ありがとうございます。

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