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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
132/422

第123話  誕生日会1

 仮宮殿では、慌ただしく、人の出入りが行き来し、休息していたリーシャは、何事だろう?と、首を捻って、その光景を、静かに傍観している。


(随分と、忙しそうね)


 何もすることがなく、暇を持て余していた。

 早朝に、短い時間で、講義があっただけだ。

 その後は、ほっとかれていたのだった。


 話し相手に、アレスになって貰いたいと、願いながらも叶わない。

 アレスの機嫌が、悪かったからだ。


 ルシードや、フィーロの件で、気まずさが残るものの、声をかけていたのだった。

 だが、応じない態度が、気に入らないのか、凄みのある、冷たい視線と、無言を続けていた。

 そのため、一方的に、話しかけているだけで、その後の会話が続かない。

 そんな日が、幾日か、継続されていたのだった。


(暇にしているのも、申し訳ないみたい)


 誰も彼も、忙しくしていた。

 声をかけるタイミングがなかったのだ。

 その様子を傍観しながら、ジュースを飲んでいるリーシャ。


 そこへ、ユマが姿を現し、頭を下げる。

「申し訳ありません」

 侍従や侍女の目まぐるしく、動く姿を、見ているのを察し、その状況を、詫びに来たのだった。

 傍にいるはずのクララやヘレナも、ついていない。

 リーシャ一人だけが、取り残されていたのを、発見したからだ。


「別に、いいけど。それよりも、何かあるの?」

 ようやく、尋ねることができた。

 何事かと、好奇心ある翡翠の瞳。

 もしや?と、常々、冷静でいるユマの身体が、強張っていた。

「……」


 のほほんとする質問が、続けられる。

「また、お客様? それとも、行事か、何か?」

「……」

 俄かに、ギョッとした顔を、窺わせるユマだ。

 眩暈を起こしそうになるが、気持ちを奮い立たせていた。

「どうかしたの?」


 開きかけていた口を、閉ざした姿が珍しく、何か、大変な催し物があるのかと、考え耽っていると、瞬く間に、いつもの表情に戻っていった。

「申し訳ありません、リーシャ様」

 当然の謝罪に、目をパチクリとする。


(ユマが、慌てている……)


 いつも、冷静沈着で、鉄仮面のような表情が、トレードマークのユマ。

 動かないユマからは、想像できない姿に、愕然とするばかりだ。

 黙っているリーシャ。


 自分を恥じるように。重い口を開く。

「今日は、アレス殿下の、お誕生日でございます。午後より、パーティーが、仮宮殿の庭で、執り行われていることを、お伝えするのを忘れておりました。私どもの、失態でございます」

 深々と、頭が垂れる。

「へぇ?」

 突然の内容に、瞬時に、頭がついていけない。


(誕生日? 午後から、パーティー?)


「……申し訳ありません」

 頭を下げたままで、いっこうに、上げようとはしなかった。

 段々と、頭の中の真っ白な靄が、晴れていく。

「……アレ……、殿下の誕生日なの?」

 いつもの癖で、アレスと言いかけようとして、言い直した。


 何度か、教育係でもあるユマから、無言の威圧感で、違いますと、訂正させられたからだ。

 いつも、傍も仕えてくれる、頼もしい、頼れる存在だが、とても厳しかったのである。


「はい。すでに、ご存知かと、思っておりまして、お伝えするのを、忘れておりました。申し訳ありませんでした」

 何度も、謝罪する姿に、ユマのせいではないと抱く。

 王太子の誕生日を、知らない自分が、いけないのだからと、何でもない顔をしてみせた。

「ユマのせいじゃないから、そんなに、謝らないでよ」

「ですが……」


「顔を上げて」

 言われるがまま、下げていた顔を上げる。

 ニコニコとする顔が、目の前で待っていてくれた。

 そんな仕草に、口元を、微かに緩めた。


「衣装とかは?」

「すでに、用意ができております」

「プレゼントを買いに、外に出かけてきても、いい?」

「すでに、用意してあります」


 伝えなかっただけで、用意は、完璧にでき上がっていた。

 王太子の誕生日を、忘れている人がいるとは、思ってもみなかったのだ。


「もう、用意してあるの?」

 自分の知らないところで、衣装やプレゼントが用意されていた事実に、絶句しつつも、何か、つまらないなと、寂しさを募らせていく。

 せっかくのプレゼントは、いっぱい熟慮してあげたかったのだ。

 どんなに、ムカつく相手でも。

 初めての、プレゼントでも、あったのだった。

「はい。殿下の好みを考慮して、用意させていただきました」


(アレスへの、初めてのプレゼント選び、したかったのにな……)


「……外へいって、私が選んじゃ、ダメ?」

 すんなり、食い下がらない。

 お願いを込めて、頼んでみた。

「……申し訳ありません」

 伏し目がちに、答えた。


(しょうがないか)


 心の中で、大きな嘆息を、一つ漏らした。

 ただ純粋に、いつも無表情でいるアレスを、喜ばせてあげたかった。


「ダメなのね。……、そうだ、厨房を使っても、いい?」

 落胆するものの、諦めきれない。

 そして、一つの妙案が、浮かんでいた。


「厨房ですか?」

「うん。ダメ?」

 いつも鉄仮面でいるユマに、上目遣いで、お願いをしてみる。

「……今日だけです」

 渋々といった顔だ。


 普段のユマだったら、王太子妃の振舞いではないと窘められ、却下されていた。

 けれど、今回の失態は、何も、伝えなかったユマたち側にあった。

 非があると思えたので、リーシャのお願いに、目を瞑ることにしたのだ。


「ありがとう」

 満面の笑顔で、感謝を伝えた。

「クララとヘレナを、いかせます」

「いいよ。だって、パーティーの準備、忙しいでしょ?」

「いいえ。そのような訳にはいきません」


 厨房で、リーシャを一人にする訳にはいかない。

 誰も、目の行き届かないところで、何かあっては、いけなかったのだ。


「わかった」

「では、二人が来るまで、こちらでお待ちを」

「はい」

 いつもよりも、早歩きで、リーシャの前から姿を消した。




「まさか。アレスの誕生日が、今日だったとは……」

 驚きの話を振り返り、考え込んでいる。

 王室に対し、興味がなかったので、アレスの誕生日を、気にとめていなかった。

 国王であるシュトラー王の誕生日も、どこか、うろ覚えなところがあったのだ。

 その日は、祝日となって、街中も、盛大な催し物などのイベントなどをし、なんとなく憶えている程度だった。


「イルたちだったら……」

 王室ウォッチャーで、王室に関して、詳しい友達イルとルカの顔が、過ぎっていた。

 いつも、この時期に、友達たちは、騒いでいたなと懐かしさが膨らむ。

 その当時のリーシャは、王室よりも、大好きな俳優バルトで、頭がいっぱいで、国民のアイドルと称されるアレスに、眼中がなかった。


(みんな、どうしているのかな……)


 このところのスケジュールが忙しく、アレスが学校にいけても、リーシャが行けない日々が続き、全然、友達と顔を合わせていない。

 スマホを取り出し、イルにかける。

 午前中にもかかわらず、すぐに繋がった。


『どうかしたの? リーシャ』

「教えてくれれば、よかったでしょ? イル」

 唐突な苦情に、話がみえないイル。

 ただ、眉を潜めている。

 何で、そんなに剥れているのか、問いかけ、その理由を聞きだし、ようやく、呆れてしまう。


『ホント、リーシャは、バルト命なんだから……』

「だって……」

 スマホの向こう側の相手に、口を尖らせる。


『普通、王太子の誕生日なんかは、その辺の小さな子供でも、知ってるわよ』

 テレビでも、王太子の誕生日が、近いことが、流れていたのである。

 過密スケジュールのせいで、テレビを見られていない。

 録画してあるものは、すべてバルト関係のものばかりで、その他のものは、一切見られていないのが現状だった。


「う……」

 イルの言う通りだと巡らせ、何も言い返せない。

 知らなかった、自分が悪いのだから。

『それぐらいは知って、用意しているものかと、思っていた』

 呆れている声音に、沈んでいく。


(うっ。そんなに言わなくても……)


『ちなみに、私は、用意してあるわよ』

「えっ? 何で、何で、イルが、用意してあるのよ」

 意外な話に、飛びつく。

『毎年、王室に送っていたけど、今年は、何せ、同じ学校でしょ? それに、なんと言っても、リーシャとアレス殿下とは、近いじゃない? だから、リーシャから、渡して貰おうと思って』


(毎年、送っていたの……。どれだけ、つぎ込んでいるの? あんなアレスに)


 呆れつつも、リーシャ自身、気づいていなかった。

 自分も、どれだけ大好きなバルトに、お金をかけていたのかを。


「私が、渡すの?」

 面倒臭いと言うのが、声で筒抜けだ。

『そうよ、そうに決まっているでしょ! 他に、誰ができるのよ。それなのに、このところ、学校に来ないから、当日に、渡せないじゃない』

「私のせいじゃないもん」

 ブツブツと漏らした。


『ところで、どうするの? プレゼント』

 誕生日を忘れているぐらいだから、プレゼントは、用意していないだろうと、案じたのだ。

「ユマが、用意しておいてくれたみたい」

『それを、あげるの?』

 首を振った。


「外には、いけないって、言われたから、急場しのぎで、ちょっとしたものを、作ろうと思って」

 沈んでいた声が、弾みだしたので、安堵していた。

 普段の二人のじゃれ合うやり取りに、戻っていく。


『何よ、教えなさいよ』

「ダメ」

『ケチ』

「後で、教えてあげる」


『ちゃんと、報告しなさいよ』

「うん。ああー、誰が、来るんだろう、今日のパーティーに」

 何気なく、誕生会のメンバーに、思いを馳せて呟いた。

 プレゼント問題も、解消したところで、別なことで、気に病んでいる。

 顔見知りがいないパーティーで、気苦労するのかと、気が滅入っていくのだ。


『それは、近しい人に、決まっているでしょ? 例えば、友達とか、お世話になっている人とか。それに、ラルムも行くはずよ。プレゼント用意してあるって、この前、言っていたから』

「そうなの?」

 話せる人が、いると抱くだけで、声が弾んだ。

『うん。よかったわね、頼れるラルムが、いてくれて』

「また、訳のわからない話をされたら、どうしようかと、思っちゃった」


『ラルムに、感謝しないとね』

「ホント」

『じゃ、切るわよ。購買で、お菓子買わないと』

 現在、クラージュアカデミーで、イルは油絵を描いている途中で、小腹が空き、エネルギー補給のため、お菓子を買いに、歩いているさなかに、スマホが鳴り、響き出たのだった。


「太るわよ」

『うるさい』

 スマホが切れた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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