表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
130/422

第121話  激震2

 プライベートな応接室である鳳凰の間。

 寛いでいるシュトラー王の元へ、複雑な表情のソーマが訪れる。

 足取りは、非常に重いものだ。


 いやな予感を抱き、みるみるうちに、シュトラー王が顔を曇らせる。

「どうした。そんな血相な顔して」

 過去を懐かしむため、クロスと撮った数々の写真を、そっと置いた。


 うるさい雑踏を抜け、ひと息つける場所だった。

 シュトラー王自身が選んだ、限られた人間しか、出入りできない特別な応接室だ。

 ソーマやフェルサ、リーシャは、彼らは、出入り自由となっていた。

 だが、孫であるアレスやラルムの入室は、許されていない。


 声をかけたにもかかわらず、重い口が開かなかった。

「さっさと言え。その顔で、よくない話だと、わかっている」

 気を紛らすため、次の写真に、手を伸ばし始める。

 大小様々な写真が、部屋のいたるところに、飾られていた。


 感情のままに暴れたら、後で片づけるのが、大変だと思うソーマだった。

 心の中で、嘆息を漏らしている。


「前もって言っておくが、暴れるなよ」

 ソーマの呟きで、伸ばしかけていた手を止める。

 その眼光が、きらりと光っていた。


「相当、よくない話のようだな」

 若干、声音も低い。

「ああ。だから、覚悟して聞け」

 総司令官ではなく、友人としての立場を、取っていたのである。


「フィーロが、リーシャに近づいた。その場に、ルシードもいたらしい。三人とも、和やかに話して、フィーロのことを、知ったようだ」

 最後まで、一気に言い切った。

 途中でやめてしまうと、気持ちが、折れてしまう恐れもあったからだ。

 頬を引きつり始めているシュトラー王。

 話が止まりそうになったが、どうにか、最後まで伝えられた。


「……」

 激昂しても、おかしくない。

 黙っている姿に、首を傾げ、覗き込む。


(珍しい)


「理性は、あるか?」

 酷い言い方に、反応が何もない。

 微動だにしないのだ。

 これまで、なかった行動だった。


「頼むから、殺すなよ。後の処理が、大変だから」

 それまでの鬱蒼としていた気分は、嘘のように引いていく。

 過激な言動を、示さない様子に、逆にソーマの方が、冷静になっていったのだ。


 知らせを受け、ここまで辿り着くまでの間、どう切り出そうかとか、どうやって宥めようか、それに、どうやって止めようかと、考えあぐねいでいたのである。

 けれど、考えていたものが、どれも必要ないようで、一計を案じていたのが、バカらしくなっていった。


(あまりのショックで、動けないとは……)


「お前も、歳か」

 頬を掻きながら、失礼なことを零していた。

 すると、これまで止まっていたシュトラー王が、動き始める。

 緩慢とした仕草で、ドアへと、身体を回転させた。

「どこへ、行く?」


 野獣を宿した鋭い眼光。

 思わず、ソーマが息を飲み込んでしまう。


 呼び止められ、巡らせた顔は、昔を彷彿させていたのだ。

 瞬時に、悠長なことを、言っていられないと募らせる。


「決まっているだろう。この手で、抹殺する」

 はっきりとした、冷たい声音だ。

 決して、これが、冗談ではないと、痛感していた。


「落ち着け!」

 近づき、両肩を、しっかりと掴んで、動きを封じ込んだ。

 次に、何を起こすのか、過去の出来事が、走馬灯のように蘇ってきていた。

「バカな真似は、寄せ」


 焦りだけが、膨らんでいく。

 決して、シュトラー王は揺らでいない。

 ただ、一点を決めていたのだ。


「殺す」

 冷め切った、低い声音だ。

「やめろ! フィーロは、お前の弟だぞ」

 声を荒げ、止めようとするが、相手も頑として譲らない。

「そんなこと、百も承知だ」


「フィーロが、リーシャと話しても、別段、おかしくないだろう」

 もう一人の友人であるフェルサも、連れてくるべきだったと、後悔している。

 だが、ここには、ソーマとシュトラー王しかいない。

 ただ、舌打ちをするのみだ。


「私の許可なく、会うなどと、許さない」

 灯し始めた炎が、消えない。

 煌々と、燃え上がっている。

 そんなシュトラー王に、頭を抱え込みたかった。

 それよりも、止めるのが先決だと、がっしりと両肩を掴んで、部屋から出さないように、根気よく説得を試みる。


 何度、振り切って、とんでもないことを仕出かしたか。

 過去の苦い出来事が、ソーマの頭を掠めていた。


「いいか。フィーロは、お前の弟で、王族だ。リーシャにとってみれば、大叔父なんだ」

「異母兄弟だ」

「半分は、血の繋がった弟だ」

 迸る眼差しを、まっすぐにソーマが、受け止めていた。

「なんだろうと、可愛いリーシャと会うなどと、私が、許さない」

「そんなこと、勝手に決めるな。会うなと言う法律が、ないんだぞ」


 ギロッと、目を細め、ソーマを睨む。

 殺意が、こもっている眼差しにも、怯まない。


「いいな、バカなことは、寄せ」

「だったら、作る」

「……」


 目の前に立つ人間が、やる人間だと言うことを、いやになるほど、人間性を把握していた。

 結婚年齢に、達していないアレスとリーシャを、結婚させるため、法律を改正させ、結婚させてしまったのである。

 それまでアメスタリア国では、両方とも、十六歳になっていなければ、結婚できなかった。けれど、法律を改正させ、王族に限っては、年齢が満たしていない場合、国王の承認があれば、結婚できるようにしてしまったのだった。


「やめろ。そんなバカな法律を、作るな」

「断る」

 即答な上に、顔が大真面目だった。

 余計に、本気度を表しているようで、怖かった。


 低い声で、ソーマが呟く。

「クロスが怒るぞ。これ以上、バカな法律を作ったら」


 伝家の宝刀を、繰り出した。

 一瞬だけ、シュトラー王の身体が震えている。

 効果は、てき面だった。


「……大丈夫だ」

 十分なほどあった自信が、喪失しかかる。

 そんな隙を、ソーマが見逃さない。

「いや。怒るぞ。バカな法律を、作るなって」

「……」


 二人の脳裏に、クロスの姿が、映し出されていた。

 とても、優しい笑顔を覗かせている。


「国王は、国王らしくあれと言うはずだ。そして、私を、失望させないでくれ、シュトラーには、いい国王でいてほしい、誰もが愛する、強く優しい国王に……と、ここにいれば、言うはずだ」

 少し、濃い目の脚色を加えていた。

「……」


 突っぱねようとした動きを、ぴたりと、やめていた。

 クロスのことを話題にすれば、多少は、落ち着きをみせていたのだ。


(収まったようだな)


「なぜ、接触させた?」

 向けられた矛先に、やれやれと、甘んじて受け入れる。

「最初から、それには、無理があった」

「無理を通させるのが、お前の役目だろうが」


 食って掛かる、子供のようなシュトラー王に、苦笑している。

「お前な」

 そして、知り会っても、変わらない自分本位な性格に、呆れてしまう。


(つくづく思うが、よくついていけるな、こんな、こいつの性格に)


 王室に、リーシャを迎えるに当たり、フィーロと、接触させるなと、強く命じられていた。癇癪持ちのフィーロが、リーシャに、危害を加えないかと、心配していたのと、親しく、接してほしくなかったのである。

 嫌いなフィーロと、分け合いたくなく、独り占めしたいと言う、シュトラー王の我がままでもあった。


 できるだけ、意に添うようにしてきた。

 だが、これまで接触してこなかったため、どこか気が抜けていたのだった。

 いい加減にしろと言う気持ちと、自分たちの落ち度でもあると、言う思いが重なり、強い態度に、出られない面があったのだ。


「今後、絶対に、近づけさせるな」

「無理を言うな」

「やれと言ったら、やれ」

 無茶苦茶な命令。

 脱力しながらも、頑なに意志を曲げない姿勢に、嘆息を吐いていた。

 何が何でも、意志を通させるところが、あったのである。


「リーシャは、私の可愛い孫娘だ。独り占めするのは、私だけで十分だ」

「正確には、クロスの孫娘だ」

 ムッとした顔で、睨んだ。


 臆せず、さらに言葉を紡ぐ。

「それに、独り占めするのは、夫であるアレスだと思うが?」

 忌々しげな視線を、送ってくる。

「お前には、独り占めする権利がない。それにだ、クロスは、そんなこと、望んでいないぞ。可愛がるなら、平等に、可愛がるようにと、言うはずだ。だろう? シュトラー」


 この場にいないクロスとは、そういう人間だった。

 そういったクロスを、慈しみ、大切にしているシュトラー王。

 何も、言うことができない。


「とにかくだ。何かあってからだと困る。フィーロには、近づけさせるな」

「努力はする。けれど、あいつが、癇癪を起こさなければ、そのままだ」

「ソーマ」

 強い口調で、呼んだ。


「俺は、俺なりのやり方をする」

 揺るぎない眼差しに、シュトラー王が唇を噛み締めた。




 鳳凰の間で、シュトラーとソーマが話していた頃、フェルサが、執務室の近くを歩いていると、ファイルを携えた秘書官たちと、出くわしたのである。

「陛下にか?」

「はい」

 素直に、副司令官であるフェルサに答えた。


「当分、無理だろう」

「?」

 すぐに、フェルサの言葉が、飲み込めない。


「……もしかして、機嫌が……」

「今頃、悪くなっているだろう。総司令官が、スブニール公爵のことを、伝えに行ったからな」

「スブニール公爵ですか……」

 その名前だけで、機嫌が非常に悪くなるのを、秘書官たちも、じわじわと浸透していった。


「でしたら……、当分の間、ダメですね」

 困り顔で、真新しいファイルに、視線を注いだ。


「とりあえず、私と、総司令官のところへ」

「いいのですか?」

 助け舟とばかりに、顔を輝かせる。

「しょうがあるまい」


 平素の表情で、答えるものの、二人は、余分に、仕事を増やす余裕なんてない。

 仕事を引く請けた要因は、若い王太子アレスに、これ以上の負担をかけても、よくないと決断したからだ。


「ありがとうございます」

 フェルサの後に、秘書官たちがついていった。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ