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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
129/422

第120話  激震1

 質素な個室。

 メリナの目の前には、微かに渋面しているハミルトンが座っている。


 フィーロ親子が、リーシャと、接触を図ったパーティーに、メリナも参加していた。

 その直後、ハミルトンにコンタクトを取ろうと、パーティーを抜け出すが、なかなか連絡がつかない。

 苛立ちが、募っていく。

 だが、根気よく、コンタクトを図り、ようやく連絡ができたのだ。


 表面上は、落ち着き払った態度を、窺わせていた。

 けれど、内心では、激しく動揺していた。

 突如、フィーロが、動いたことによってだ。


 まさか、可愛がっている息子であるルシードを伴って、シュトラー王が、溺愛しているリーシャの前に、姿を現れたのだった。

 日付が変わる時間に、ハミルトンと会うことが叶った。


「軽率な行動では、ないですか? メリナ様」

 あまり、いい顔を示していない。

 それほどまでに、メリナの行動が、愚かに映っていたのだ。

 目立たないように、裏口を使い、深夜のバーに訪れていた。

 第三者を通し、今、会うことは、得策ではないと、伝えていたのである。

 それにもかかわらず、会うように訴えてきたのだった。


 無視できなくなり、渋々、会うことを、ハミルトンが了承した。

 これまで、ハミルトンと会う際は、何重も気を配り、誰にも、悟られることがないように、心掛けていたのである。

 会う際や、連絡を取り合う際は、必ず、足がつかないように、第三者を返して、執り行われていたのだった。

 それにもかかわらず、慎重の欠けた行動に、訝しげている。


「ですが、緊急事態が、起こったのです」

 若干、早口になっているメリナ。


 誰もいない個室で、会っていた。

 二人前にあるテーブルには、ワインと、簡単なつまみしか、置かれていない。

 どちらも、口にした形跡がなかった。

 勿論、セキュリティーも、しっかりしているところだ。


「公爵殿のことですか」

 目を見張るメリナだった。

 まさか、すでに、もう知っているとは思ってもみない。

 早く知らせ、今後の対策を、相談しなくてはと、気持ちが急いていたので、なおさら驚きが隠せなかった。


 パーティーのドレスに、コートを羽織っただけで、着替えることもしていない。

 それに対し、ハミルトンは、いつも通りに、スーツ姿だった。


「どうして……」

「情報は、命です」

 ニコッと、ハミルトンが微笑んでみせた。


 すでに、情報を得ていたので、会う必要性がなかったのだ。

 慌てている様子だと、報告を受けていたので、重い腰を上げ、会うことを、了承したのだった。


「……そう……でしたね」

 荒れていた心が、少しだけ、余裕を取り戻す。

 それと同時に、自分の失態に、僅かに顔を曇らせていた。

「落ち着かれ、何よりです」

「えぇ」


 ばつが悪い顔を、覗かせている。

 それほどまでに、フィーロの存在が、メリナをざわつかせたのだった。

 冷静になろうと、軽く息を吐いた。


 窺っていたハミルトンが、口を開く。

「ところで、公爵殿のご様子は、いかがでしたか?」

「今までに、見たことがないぐらいに、落ち着かれていました」

「そうですか」

 にこやかな対応を、取り続けている。


「それに、意外でした」

「確か、妃殿下が、陛下と似ていると、発言されたとか」

 微かに、首を傾げ、瞳が揺れ動いているメリナを、捉えていた。

 矜持を保てないほど、瞳の奥が、恐怖に燻っていたのだ。


「えぇ。……何が違うんでしょうか? 妃殿下が」

 僅かに、メリナの声が震えていた。

 気づいているが、気づかない振りをしている。


 そんなハミルトンの行動に、注視する余裕がない。

 どうしても、意識がシュトラー王や、フィーロに、傾けられていたのだ。

 顔を強張らせ、ヘラヘラと笑っているリーシャの顔を、メリナが過ぎらせている。

 どうしても、シュトラー王や、フィーロたちが、気にするような人物とは思えない。

 まして、自分の息子が、執心している理由が、理解できなかった。

 ますます、顔を顰めていく。


「さぁ、私には、わかりません」

 そっけないハミルトンの仕草に、ムッとした顔を滲ませている。

 真摯に、意見を、聞きたかったのだった。


「きっと、何かあるんでしょうね」

「……」

「穏やかに、会話を、嗜まれていたとか」

「楽しそうに、話していたわ」

「伯爵も?」


「穏やかそうにも、見えなかった。何か、仕出かすのではと、何度も、公爵のことを、気に掛けていたわね」

 心が揺さぶりながらも、フィーロだけではなく、しっかりと、ルシードや、周囲の様子は窺っていた。

「でしょうね。誰にも、理解できないでしょうね、二人のことは」

 冷えきた眼差しを注いでいる。

 けれど、メリナは気づかない。

 一瞬の出来事だったからだ。


「誰にも、理解できないわ、あの人たちのことは……」

 不意に、メリナは、自分が婚約している際や、結婚後にあった、フィーロのことを、閉じ込めていた記憶から、呼び覚まさせていた。


 メリナ自身、フィーロと会った回数は少ない。

 ただ、会うたび、そして、注がれるフィーロの双眸に、気味の悪さと、何とも言えない恐怖を感じていた。それは、シュトラー王に対しても、同じような印象を、抱き続けていたのである。

 それらをひた隠し、いい嫁を演じていたのだった。

 僅かに、身震いをし、両腕で、自分の身体を抱きしめる。


「公爵殿が、嫌いですか? メリナ様は」

「好きではないわ。あの冷めたような目がね」

「私も、好きではないですね、公爵殿は」


 まっすぐに、ハミルトンに向けられる視線。

 余裕を窺わせる態度に、一体、どうしていられれば、落ち着いていられるのかと、巡らせるのだった。

 だが、そういった疑問を捨て払う。


「どうすると、思いますか?」

「唐突な質問ですね」

 困ったような顔を、ハミルトンが漂わせていた。

「茶化している暇なんて、ないわ」

 一刻も早く、解決したかったのだった。

 急いている姿に、ハミルトンが、密かに溜息を漏らしている。


「落ち着いてください、メリナ様」

「落ち着いていられないわ。公爵は、陛下と同じなのよ」

 荒れる思いを、必死に押さえ込もうと、気持ちを奮い立たせていた。

 これ以上、大切なものを、奪われないために。


「承知しています」

「継承権二位だからと言っても、あの公爵が……」

「ですね、覆す可能性も」

 意味ありげな眼差しを注いでいる。


 ハミルトンが、口にしなくても、メリナ自身、否応なく、理解していた。

 継承権なんて、大きな権力の前では、役に立たないことを。


 大きな権力を、保持しているシュトラー王の一言によって、継承権を奪われ、海外に逃げ込むしかなかった、自分たちの姿を、蘇らせていたのである。

 悔しさで、唇を噛み締めていた。

 そんなメリナの姿に、気づかれないように、小さく笑っている。


「自分か、可愛がっている息子である伯爵を、無理やりに……」

 今まで、フィーロは、権力に興味を示していなかった。

 権力に対し、距離を保っていたのである。

 けれど、シュトラー王と、同じような眼光を持つフィーロが、強硬手段に及ぶ可能性だって、少なからず、存在していたのだった。

 そうすれば、また息子であるラルムの王位が、遠のく恐れが、混在していたのだ。


「それらも、考えられますね」

「だったら……」

「だからです、メリナ様」


 眉間にしわを寄せているメリナだ。

 目の前にいる人間の思考が、読めない。


「……傍観すべきです。動かずに」

「ですが……」

 納得できない顔を、窺わせている。

 フッと、笑ってみせた。


 その表情に、寒さを憶えつつも、安心していくのだった。

「大丈夫です。私たち以外の人間たちが、動くはずです」

「出遅れる可能性だって、あるはず」

「あの二人を、過信してはいけません。シュトラー王の力は、強大です。それに追随する力が、備わっているのが、公爵殿です」

「……」

 二人の顔を、メリナが掠めていた。


(確かに、強大すぎる力だわ。……その強大の力に、勝たなくては)


 沸々と、闘志を滾らせるメリナだ。

「今、動けば、目をつけられる可能性も、あります」

「……」

「ここは、おとなしく、静観しておくべきです」

 物怖じしない雰囲気を、ハミルトンが醸し出していた。


「わかりました。私は、一切動きません」

「ありがとうございます」

「何かあれば、連絡をします」


「彼らが、どう動くか、ゆっくりと、見定めましょう。もし、優秀な人材がいれば、手を組むのも、悪くないですからね」

「ですね。少しでも、いい人材がほしいですね」

「えぇ。そうです」

 まだ、手をつけていなかったワインで乾杯し、口にしていくのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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