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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第119話  ひと時の安息

 長かった、パーティーも終わり、二人が仮宮殿に戻って、それぞれの部屋で過ごしていた。

 結婚して、時間が経っても、着慣れないドレスを脱いで、シャワーを浴び、ラフな格好で、リーシャが友達のナタリーと、スマホで話していたのである。

 この数日、公務や式典、パーティーに時間を取られ、学校に顔を出せずにいた。

 その合間に、お后教育の講義などもあり、友達と話すことも、叶わなかったのだ。


 部屋の中は、夜遅くなり、誰もいない。

 嫁ぐ前のリーシャだったら、すでに、熟睡している時間だった。

 だが、眠ることができない。

 以前に比べ、睡眠時間が、徐々に少なくなっていたのである。


 ゆっくりと気兼ねなく、ナタリーと話し込んでいた。

「でね、敬遠することもないと、思わない?」

 ラルムから聞いた内容を、語ったのである。

 聞こえてくる声から、大して驚きが感じられない。

 そんな声音に、もっと驚いてくれても、いいじゃないと、落胆を匂わせていた。


『確かに。愛人に、生ませた子供だからとって、敬遠することも、ないわね』

「だよね。でも、もうちょっと、驚かない?」

『今時、普通じゃない? そういった類いの話は?』

「そうだけどさ……」

『当たり前の話に対して、驚けないわよ』

「そうだね。割りと、当たり前の話だよね」

『でも、継承問題とか、あるからじゃないの? そんなに、ピリピリするのは』

「継承問題?」


 ぴんとせず、首を傾げる。

 そんなリーシャの姿が見えなくても、垣間見えるナタリーが呆れていた。

『あんたって、ホント、のん気ね』

「何でよ」

 唇を尖らせ、不貞腐れている。


『もしもね、もしもだからね。アレス殿下に、何かあった場合、現時点では、ラルムが、次の王太子として、選ばれる訳でしょ? 王位継承第二位だから。その後に、確か……、スブニール公爵が入って、その息子になるのかしら…。で、もしかすると、養子とかになっていなければ、その伯爵が、入っていた訳じゃない?』

 言われ、ようやく合点がいく。


 アレスの父親ヴォルテが健在だが、彼には、王位継承権がなかったのである。

 どうしてないのか、理由は知らない。

 デリケートな問題なのかと巡らせ、それ以上、講義してくれるユマに、聞けなかったのを思い出していた。


「……難しいな。どうして、王宮って、ところは」

 改めて、自分が入ってしまった場所に、見えない重みが、乗りかかるのだった。

『しょうがないわよ。ここは、王政君主の国なんだから』

「……」

『あんたは、その渦中にいるんだからね。しっかりしなさいよ』

「うっ」


(そんな、はっきり言わないでよ。考えるだけでも、大変なのに)


 大きな嘆息を、リーシャが吐いた。

『殿下が、かかわるなって言うのも、一理あるわね』

「ナタリーは、アレスの味方なの?」

『バカね。リーシャの味方よ』

「やっぱり、ナタリーだ」

 満足する答えを聞け、喜ぶ。

 些細な言葉に、嬉しくなるのが、リーシャなのである。


『ところで、こんな大事なこと、私に話しても、大丈夫なの?』

「へぇ?」

『禁句になっているでしょ? そういう話を、していいのか、聞いているの?』

「あっ!」


 禁句になっていることを、すっかり忘れ、掛かってきたナタリーに、うっかりと漏らしてしまったのだった。

 惚けているリーシャに、呆れている。


『バカね……』

「どうしよう……、ナタリー」

『誰にも、言わないから、安心しなさい』

「……ありがとう」


『いい? 口は、災いの元なんだから、今後は、気をつけること』

「うん。わかった」

『だからと言って、萎縮しては、ダメよ。リーシャは、リーシャらしく』

「うん」

 温もりある言葉に、心が暖かくなる。




 ナタリーに慰められている頃、アレスは、自分の部屋にはいなかった。

 誰も知らない、秘密の部屋で、考え事に、耽っていたのである。


 この部屋は、一人っきりになりたい時に、逃げ込む部屋で、侍従や侍女、誰も知らない場所だった。

 この辺一帯の、人の出入りが少なく、めったに、人が来ない場所だ。

 けれど、つい最近になって、リーシャに部屋の存在がバレて、訪れる機会が少なくなっていた。

 久しぶりに、誰にも邪魔されず、考え事をしたかったため、足を運んだのだった。


 簡素な部屋の造りで、窓の近くに、椅子が一つしか、置いていなかった。

 ここで、誰にも干渉されず、ひと時の休息を、味わっていたのである。


「何を、考えているんだ、リーシャは」

 のほほんと、何も知らず、フィーロやルシードと接する姿に、憤慨していた。

 忠告したにもかかわらず、それを承諾しようともしない態度も、その原因の一端を担っていたのだ。

「つべこべ言わずに、従っていればいいのだ」


 歯向かう姿が、脳裏を掠める。

 腹立たしいと抱く反面、別なことも、抱いてしまう。

 反抗する態度が面白く、もっとからかいたいと、思ってしまうのだ。


 感情の起伏があるリーシャをいじるのが、最近の楽しみの一つとなっていた。

 だが、今回は、面白いだけでは、片づけられない。


「僕は、王太子だぞ」

 誰もが、王太子のアレスに、頭を垂れ、従っていた。

 それが、リーシャだけ、違っていたのである。

 命じても、なかなか、素直に従わない。

「僕に、なぜ、逆らおうとする。自ら、面倒をかぶるつもりか?」


 剣呑な顔で、睨む。

 余計なことに、リーシャを、巻き込みたくなかった。

 負担を、かけさせたくなかったのである。

 ただ、その一点だけだった。


 これ以上の重みを、背負わせたくないため、キツく言ったのだ。

 マヌケなやつだと、軽んじながらも、その内では、気にかけていた。


「バカなやつだ」

 気にかける自分や、リーシャに対し、自嘲気味に吐き捨てた。

 けれど、押し寄せてくる不安が、拭え切れない。

「後で、後悔したら、どうするつもりだ?」


 そのため、二人とは、かかわるなと、口にしたのである。

 詳細を、口にしなかったことが、原因だと思いもよらず、異を唱えるリーシャを理解できず、悩んでいたのだった。


(どうしたら、引き離せる……)


 引き離すことだけに専念するが、妙案が浮かばない。

 シュトラー王さえ、手を焼くフィーロを、押さえ込むことが、できるのかと?と、自問するが、確たる自信を、得られなかったのである。

 それに、側近の二人でさえ、扱いに苦慮するほど、目の上のこぶの存在だった。


(事前に、チェックするしかないか……)


 公式行事や、パーティーへの招待状が、フィーロにも出されているので、まず、そこから把握し、警戒していくしかないと、巡らしていたのである。


(もっとも、厄介な人物と……)


 頭を、悩ませる出来事が、増えていく現状に、目を押さえていた。

 ふと、別な思考が、飛び込んでくる。

 パーティーの休憩が終わっても、リーシャが姿を見せなかったのだ。


「それに、何をしていたんだ。すぐに、戻ってこずに」

 休憩が終わっても、すぐにパーティーの会場に、戻ってこなかったのも、腹立たしかった。

 顔を見て、確かめたくても、いっこうに、会場に現れなかったので、何か起こったのかと、巡らせていたのだった。


 低レベルな息女たちに捕まり、いじめられているのかと、気を揉んでいたのである。

 以前から、リーシャが一部の息女たちから、ドレスを破かれたり、からかわれたりしているのを、把握していた。

 けれど、助けもせず、放置していたのである。


「……また、いっていたのか」

 苦々しげに、思わず、唇を噛み締める。

 パーティーに馴染めず、誰もいない、静かな庭へ、逃げ込んでいることも、把握していた。

 好ましくはないと抱きつつも、これまで、そのことについて、問い詰めなかった。

 僅かでも、泣きそうな顔が、見たくなかったからだ。


「泣き顔なんて、つまらぬ……」

 笑っていて、ほしかったのだ。

「怒ったり、笑っていれば、いい」


 そんな顔を、ずっと、最近は、見てみたいと思うことが、多くなっていた。

 自分とは違って、感情の起伏があるリーシャを、独占したいと、巡らせていたのだ。


「余計な問題は、排除しないとな」

 まず、排除するべき人間の顔を描く。

「とにかく、接触しないように、しなければ……」


 楽しげに語っているリーシャと、ルシードの顔が浮かぶ。

「絶対に、接触させるものか」

 強く決意を、固めるのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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