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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第117話  縮まらない距離

 不機嫌なまま、一度も、リーシャを返る見ることなく、控え室から、アレスが立ち去ってしまった。

 そんなアレスに対し、一度だけ、チラッと、出て行く背中を追う。

 だが、振り向く気配がないと知ると、悔しくって、顔を背けていた。


 化粧を直してから、控え室を出たが、まっすぐに、会場に向かう気分にはなれない。

 ついてきたボディーガードを、途中で下がらせる。

 静かで、誰もいない庭へと足を運んだ。


 これまでも、パーティーなどを抜け出し、庭へ逃げ込んでいた。

 関係ない木々たちに当たりながら、庭の奥の方へと、向かっていく。

 誰とも会わず、一人になりたかったのだ。


 息女たちからの、いじめなどで、落ち込むことが多く、パーティーを抜け出し、誰もいない庭へと避難し、ひと時の休息を取っていたのだった。

 けれど、今日は、アレスとケンカし、すぐに、ムカつく相手を見たくなくて、庭へと逃げ込んだのである。


「何なのよ。いつもにまして、横暴なんだから」

 やりきれない気持ちを、小枝を振り回し、紛らわせている。

 いっこうに、気持ちが、晴れることがない。

「理由ぐらい、言いなさいよね。そしたら……」


(納得できる理由だったら、……聞いたかもしれないのに)


 結婚して、一年も、経っていないが、王宮に住むようになり、アレスの立場や、貴族たちのいざこざなどを耳にし、リーシャなりに、アレスの苦労を察し始めていた。

 自分の知らないところで、きっと、公爵たちとの間で壁があるのだろうと、アレスの口ぶりで感じていた。


 だから、少しでも理解してあげたくて、理由を尋ねたのに、無碍に関係ないと、否定されて怒っていたのだ。

 それが、悔しくって、悲しかった。


「アレスのバカ」

 どんどんと、沈んでいく。

 泣きそうでいると、背後から、突然に声をかけられた。

「リーシャ」


 呼ばれる声に、聞覚えがあった。

「ラルム」

 立ち止まり、振り向いた。

 正装しているラルムが、立っていたのである。


「来ていたの?」

「うん。ところで、どうかしたの?」

「えっ?」

 手にしている小枝を、ラルムが目で促した。

 着飾っているドレスに、不似合いだった。

「ああ。ちょっと……」


 恥ずかしそうに、持っていた小枝を、後ろに隠す。

 愛嬌ある笑みを、ラルムが零していた。


「あっちに、座るところがあるよ」

 二人で話すため、ラルムが話したベンチに向かう。


 そこで、アレスと口論となった原因、スブニール公爵と、ジュ=ヒベルディア伯爵との件を語った。

 だが、リーシャと、その二人が話している現場を、遠くの影から見て、把握していたのである。

 そのことは口にしない。

 ただ黙って、納得がいかないリーシャの話に、耳を傾けていた。


「そう……」

「ラルムは、知っているの?」

 覗き込むように、リーシャが窺っている。

 海外で、長く暮らしていたとは言え、ラルムは生まれながらに、王族の一員だから、知っているのかなと抱いたのだった。


「まぁね」

「どうして? かかわってはいけないの?」

「……」


 突如、口が重くなっているラルムを、翡翠の瞳で捉えている。

「……ラルムも、話せないの。だったら、しょうがないけど……」

「ちょっと、難しいと言うか、プライベートな話になるんだ」

「プライベート?」


 アレスが話せないのも、しょうがないかなと巡らせながら、だったら、そう言えばいいのに、どうして、関係ないしか、言えないんだろうと、肩を落としてしまう。

 話せない事情さえ、話してくれれば、あんなに意固地に、ならなかったのに……と、少し意地になり気味だったと、一人になってから、アレスに対して、した態度が悪かったと、反省を憶えていたのだった。


「プライベートなんだけど、王族や貴族たちは、みんな知っていることなんだ。でも、暗黙のルールみたいになっていて、誰も、口にしないんだ」

「大切なことなんだ……」


(私って、アレスの何なんだろう?)


「どうなんだろう……」

「知らない方が、いいのかな」


(少しでも、アレスの気持ちを、分かち合いたかったのにな……)


 これ以上、リーシャには、悲しまないでほしかった。

「……実は……」

 話し始めたラルム。

 話しても、いいの?と、顔を傾けていた。

 大丈夫と、ニッコリと微笑む。


「スブニール公爵と、ジュ=ヒベルディア伯爵は、実の親子なんだ」

「親子! えっ、誰も、そんなこと……」

 衝撃的な事実に、腰を浮かせる。

「落ち着いて。それじゃ、疲れるよ」

 座るように促し、素直にそれに応じた。


「庶子なんだ。伯爵は」

「庶子って、外にできた?」

「そう。正妻ではなく、愛人と、作った子供だったんだ」

「……」


 想像絶する話に、あんぐりと口を開け、次の言葉が出てこない。

 正妻と、正妻の間に子供がいながら、当時、王妃エレナの侍女をしていた女性との間に、子供を儲け、その後に、子供ができなかった伯爵家の養子になった経緯を、ラルムが知っている範囲で話した。


「そうだったんだ……。でも、どうして、公爵とかかわっては、いけないの?」

 単純な疑問を、口にした。

 それだけの理由で、距離を置くとは、考えられない。

 不意に、まだ、何かあるのかもしれないと抱いたのだった。


「それは……」

「だって、それぐらいのことで、みんな、公爵や伯爵のことを、避けているの?」

「それだけじゃないんだ」

 珍しく、躊躇いが生じていた。


 じっと、口を濁しているラルムを、無垢な瞳で凝視している。

「……公爵と陛下の仲が、悪いんだ」

「えっ……」

「顔を合わせると、いつもケンカらしい。だから、公爵たちを、貴族たちは避けている。何かかかわって、陛下から、変な勘繰りとか、受ける可能性も、あるかもって。……それに、公爵の方にも、少しだけ、問題があって、意に染まらないことを言われると、癇癪を起こして、相手を、こてんぱんにしてしまうんだ」


(おじい様も、同じなんだけどね。癇癪を起こすのは)


「嘘。信じられない」

 先ほど、話したフィーロを思い返す。

 どうしても、ラルムが話すイメージと、合致しない。


(だから、さっきアレスも、驚いていたのか)


 ようやく、アレスが驚いていた訳に、合点がいった。

「随分と、違うんだな。私が、持っている陛下の印象と、公爵の印象が」

 優しげに、微笑む二人の姿が、頭の中に、蘇っていた。

 その姿からは、癇癪を起こすイメージが、出てこない。


 唸り声を漏らし、逡巡している姿を、ラルムが朗らかな顔で、窺っている。

「そうだね」

「ラルムも、怖い?」

「……そうだね。少し、怖いかも」

「そうなんだ」


 意外だなと思いつつ、隣から声が、降り注いでくる。

「でも、優しいところも、あると思うよ」

「本当に」

 自分と、同じ印象を抱いていることが嬉しくって、顔を綻ばせている。

「うん」


(おじい様は、リーシャと、出逢わせてくれた)


 嬉しそうにしているリーシャを、優しげな眼差しで見つめていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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