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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第116話  不安を憶えていくアレス

 パーティーも、中盤に去りかかり、アレスとリーシャが、途中で休憩を挟む。

 二人のために、用意された控え室に行くと、二人の世話をするために、ユマが待機していた。


 主催者側のおもてなしとして、最高級品の調度で、控え室が固められ、華やかな演出を施すため、至るところに花が飾られていたのである。

 飲み物や、軽食を用意し終わっても、アレスは手を出そうとはしない。

 パーティーでの柔和な笑顔が消え去り、憮然としたままでいる。


(ホント、二重人格なんだから)


 チラッと、隣を垣間見た。

 そして、目の前に置かれているジュースに、手をかける。

 ずっと、話していたせいで、のどが渇いて、一息つきたかったのだ。


「疲れた」

 二人で並んで、ソファに腰掛けていた。

 クッキーに、手をかけようとしたら……。


「スブニール公爵と、何を話していた」

 三人で会話していたことを、横柄な態度で、唐突に聞かれた。

 取ろうとするのをやめ、なぜか、不機嫌そうに見えるアレスに、顔を巡らせている。


 目を合わせようとはしない。

 パーティーでのことを、アレスは回想していた。


 少しでも、自分に近づいてこようとする人間を相手しながら、失敗を繰り返すリーシャと、距離が離れたことに、内心では、舌打ちを打っていたのだ。

 式典の時から、ずっとリーシャを、それとなく様子を窺っていた。

 当初は、近くにいて、何か、面倒を起こさないかと、監視する予定だった。


 けれど、移動している際に、リーシャが夫人たちの集団に捕まってしまい、考えていた距離よりも、開いてしまったのだ。

 そんなところへ、フィーロが近づいていったので、気が気でないものの、浅はかなリーシャの元へいけず、歯がゆい思いをしながら、気づかれないように、窺うことしかできなかった。


(何を考えている? スブニール公爵は)


 不敵に笑う、大叔父の姿が、脳裏に、くっきりと映し出されている。

 祖父シュトラー王と同じで、何を考えているのか、掴めない。

「何って? 普通に、お話していただけよ」

 戸惑いながらも、素直に答えた。

 隠す必要もなかった。


「その普通とは、何だと、聞いている」

 のん気で、危機感がない態度に、苛立ちが深くなる。

 面倒なことを終わらせ、除去したかったのだ。

 これ以上の負担を、リーシャにかけさせたくなかった。

「……陛下に似ていますねとか、テネルのこととか?」


 急に、アレスの目が細くなる。

「公爵に向かって、似ていると言ったのか?」

 前へ、少しだけ乗り出し、ようやく顔を捉えていた。

 その顔は、僅かに驚愕していた。

 普段の冷静なアレスからは、考えられない。


「う、うん」

「何か、されなかったか?」

 次の質問を受け、さらにわからなくなっていく。


(今日のアレスって、変?)


「されたのか? されなかったのか?」

 答えないリーシャを見兼ね、強い口調で、聞き直した。

「されるって? 何も、されなかったけど?」

 問い質してくるアレスが、わからない。

 ただ、当惑しながらも、聞かれることに、答えていった。

 剣幕が酷いようで、答えないと、殺されそうな雰囲気を、醸し出していたのである。


「本当か? 本当に、何も、しなかったのか?」

「うん……」

 たじろいでいた。

 全然、質問の意図が掴めない。


「不機嫌に、ならなかったのか?」

 迫力が、迫ってくる感が否めない。

 逃げ出したいと巡らせても、背後に逃げ場がなかった。


「うん」

「お前が、気づいていないだけじゃないのか?」

 失礼な問いに、ムッとしている。

「そんなこと、ないもん。楽しく、お喋りしていたもん」

「……本当に、怒らなかったのか?」


(変な上にしつこいな、今日のアレスは)


 まっすぐに注がれる眼光を、受け止めていた。

 端整のとれた顔を見ていると、なぜか、頬が赤く染まっていく。


(そんなに、私の顔を見ないでほしい。本当に、今日のアレスは変。それに……)


 近頃、アレスに見つめられるだけで、鼓動が、ドキドキするのを感じていた。


(もしかすると、アレスの顔って、心臓に悪いのかも……)


「どうなんだ?」

 強い声音で、現実に、引き戻された。

「……怒っていない。ねぇ、アレス。なぜ、怒る必要があるの?」

「……別に、怒っていなければいい」


 不意のリーシャから質問に、そっぽを向いてしまう。

 身勝手に、質問してくるくせに、質問を投げかけても、答えない姿勢に、横暴さを募らせていく。


「ありえない」

 頬が、見る見ると膨らむ。

 怒り始めているのをほっとき、自分の思考へと、のめり込んでいった。


(どういうことだ?)


 自分が、知っているフィーロと、リーシャと、接触したフィーロが、別人ではないのかと抱くぐらいに、人間像が違っていたのである。


(あの公爵が、似ていると言われて、黙っていた……)


 めったに、会ったことがないが、シュトラー王との関係性を、いろいろと、耳にしていたりしていた。

 場の空気も考えず、よく口論していたし、貴族相手に、毒を吐いていた現場を、目撃したこともあった。


(信じられない……。変わったのか……、あの公爵が?)


 深まっていく謎に、目を細めている。

 リーシャが、王宮に来て以来、いろいろなことが、変わってきていた。

 ふと、そんなことが、脳裏に浮かんだ。


「ちょっと、それなんなのよ」

 剥れているリーシャに、黙ったまま視線を注ぐ。


(こいつに、どんな力があるって、言うんだ?)


 すぐに、感情を剥き出しにして、怒ったり、飛び跳ねて、喜んだりするやつの、どこに、人を変える力があるのだろうかと、食い入るように窺っていた。

 その答えが、導き出せない。

 目の前にいる人間は、単純で、自分の心も、コントロールできない落ちこぼれだった。

 でも、面白く、居心地のよさはあると、頭で巡らせる。


「どうして、似ているって、言っただけで、怒るのよ」

 だが、アレスは黙ったままだ。

「黙ってないで、答えてよ」

「お前には、関係ない」


 もうすでに、普段通りの優雅さを取り戻し、鷹揚な態度を取っていた。

 ゆったりと、ソファに背中を預けている。

 対照的に、リーシャが剥きになり始めていたのだ。


「関係ないって、そんな言い方あるの」

「関係ないから、関係ないと、言ったまでだ」

「……」

 有無を言わせない態度。


 悔しさで、ギュッと拳を握る。

 そらしていた視線を、もう一度、リーシャに傾けた。


「一つ、言っておく。今後、あの二人にかかわるな」

 訳のわからない言動に、眉間にしわが寄るばかりだ。

「何でよ」

 乱暴に、吐き捨てた。


「何でもだ」

「関係ないって、言うつもり」

 反抗の意を伝えるため、無理やりに、優雅な笑みをみせようとした。

 けれど、その頬が、引きつっている。

 逆に、感情を表に出さないように、幼い頃より、教育を受けていたので、その成果を見せつけた。

 お手本のような笑みを浮かべ、完膚なきほどまでに、演じてみせたのだった。

「ああ」


 勝負の勝ち負けは、はっきりと出てしまった。

「……」

 悔しさで、暴れたい衝動を我慢する。

 感情を爆発したら、負けてしまうと、抱くからである。


「いいな。勝手に、あの二人と会うな。そして、話すな」

 助けを求め、控えているユマに、視線を移した。

 傾けられた顔を目にした途端、珍しく、ユマが目を伏せてしまった。


(何でよ、ユマ。何で、目をそらすのよ)


 納得できないものの、味方がいないのを察する。

「……」

「返事は」

 目が鋭くなり、返事をしないリーシャ。

 アレスが、威圧しに掛かる。


「……いやよ」

 グッと、腹に、力が入っていた。


 なけなしの意地だけで、睨み返している。

 睨み返られたアレスが、目に怒りの炎を滾らせていたのだ。

 全開で、従えと言う傲慢なオーラを、放出させていたのである。

 ここで、屈する訳にはいかない。


「いやと言ったら、いやよ」

「リーシャ」

 冷たい声で、名前を呼んだ。


「理由も言わない、かかわるなだけしか、言わない。従える訳ないでしょ」

「お前な」

「とっても、いい人たちだった。だから、アレス……、いいえ、殿下のおっしゃることに、従うことができません」

 ニィーと、歯向かう笑みを浮かべる。


「……」

 互いに、一歩も譲らない。

 火花を散らす視線。


「ひ、妃殿下」

 これまで黙って、控えていたユマが、殿下に対する態度ではないと窘めた。

 けれど、腹の虫が収まらないので、無視している。

 さらに、笑ってみせようと、自分から両頬を、引っ張ってみせたのだった。


「……」

「妃殿下……」

 どう声をかけていいのか、わからなくなったユマ。

 とうとう、言葉を失ってしまった。


「……命じたからな。僕は、先にいく」

「どうぞ、ご勝手に、殿下」

 憎らしい顔に、そんなに頬を引っ張るのなら、手伝ってやると言う気持ちがあったが、ユマがいる手前、何も行動に移さずにいたのである。

「……」



読んでいただき、ありがとうございます。

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