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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第114話  フィーロとルシード2

 貴族や財界、経済関係者が多いパーティーにルシードを伴い、これまで、めったに顔を出すことなかったフィーロが、珍しく顔を出している。

 顔を見た途端、誰もが、絶句していた。

 そして、そのざわめきが、瞬く間に、広がっていったのだ。


 誰も、表舞台に顔を出さないフィーロが、来るとは思ってもいない。

 喧騒したパーティーに、一時の静寂が、訪れていたのだった。


「いつまで、そんな顔をしてる」

 重くなっていく、場の空気。

 享楽を楽しむように、軽快な口調で、背後にいるルシードに声をかけた。

 自分を見て、驚く観衆を垣間見て、バカな者たちだと、内心嘲り笑っている。

「せっかくのパーティーが、台無しだぞ」


 にこやかな表情の仮面を、かぶったフィーロ。

 それに対し、その後に続くルシードが、憂鬱な顔をし、やや肩を落とし気味になっている。

 その足取りは非常に重く、後悔していた。


 パーティーへの招待状が、王族のフィーロの元にも、届けられていた。

 だが、顔を出した試しが、これまでにない。

 若い時分より、必要最低限のものしか、顔を出していなかった。

 ここ最近では、すっかりなりを潜め、出てこなかったのである。


 主催者側も、一応、王族と言う立場なので、招待状を形式上、出していただけだった。

 出席してくるとは思わず、気軽な気持ちで、構えていたのだ。


「別に」

「別にか。だったら、もう少し、楽しい顔でもしていたら、どうだ?」

「……これが、私の顔です」

 不貞腐れ気味だ。

 機嫌が、よくならないルシードに、呆れていた。

 ここに来るとわかってからは、憮然としていたのである。


「鏡でも、持ってこさせるか」

「……いいえ、結構です」

 身を正して、僅かに襟を直した。

「そうか。では、もう少し、楽しめ」

 楽しまなければ、持ってこさせるぞと、背中が訴えかけていた。


 これまでの経験上、やり兼ねなかったのである。

 これ以上の醜態はないと巡らせ、従わざるをえなかった。

 肩を落とし、ひたすらに黙ったまま、後をついでいく。


 付き合えと言われ、返事したものの、まさか、パーティーにつれてこられるとは思ってもみなかった。

 後悔しても、後悔しきれない。

 ただ、何も考えず、返事したことを悔やむのだ。


 喧騒の中で、注がれる視線が、居た堪れなかった。

 やり場のない視線を、どこに向けていいものかと掠めている。

 どこを向けても、傾けられる眼差しがいやで、何かに、縋るように視線が、僅かに宙を浮く。

 対照的に、注がれる視線にも、お構いなしに見かける人たちに、軽く自ら挨拶をしていった。


 挨拶された側は、顔を引きつらせていたのだった。

 その背中を眺めながら、あそこまで、なりきれないなと嘆息を零していたのだ。

 どうしたら、こういった域に入れるのだろうかと逡巡するが、到底、自分には真似ができない芸当だと思い至る。


 久しぶりに、フィーロと共にパーティーに顔を出していた。

 冷ややかな眼差しがいやで、最近は一緒に出ることがなかったのである。

 どうしても出席する際は、少しだけ顔を出し、すぐに帰ってしまうのだった。


「よりにもよって……」

 空を彷徨いながら、呟きを漏らしていると、突然、フィーロが立ち止まり、ニコッとした顔で振り向く。

 ただ、願っていたことは、早く時間が過ぎてくれないかと言うことだ。

「どうかしたのか?」

 白々しい声音だ。


(どうかしたのかと、聞きますか……)


 パーティーに出ると聞き、即刻、やめるように進言したのだ。

 けれど、一度、決めたことを曲げない性格を、把握しているゆえに、渋々と、ついてくる羽目になってしまった。

 そんな自分の性格が、恨めしいと巡らせている。


「……なぜ? このパーティーなんです? 他にも、あるではありませんか」

「行きたいと思ったからだ、お前と」

 優雅に、微笑んでみせた。


「久しぶりに、歩きたいと思っては、ダメなのか?」

「いいえ。とても光栄なことです」

 満足する言葉を聞き、さらにフィーロが微笑む。

 近くを通った男から、グラスを二つ取り、その一方を、未だに困惑しているルシードに、手渡した。

「ありがとうございます。公爵」


「では、目当ての人のところでも、行くか?」

 ルシードの表情の色が、サッと変わった。

 このパーティーを選んだ理由を、知っていたのである。

 パーティーには、国王陛下夫妻の代理として、王太子夫妻が出席していた。

 式典で、アレスがスピーチを行い、滞りなく終わる。そして、華やかなパーティーへと、突入していった。


 その式典にも、呼ばれていたが、顔を出さず、パーティーにだけ姿を現した。

 できるだけ、接触を控えようとしていたのに、フィーロの悪巧みによって、それは無残に打ち消される。

 自分に賛同していたから、まさか、このパーティーにつれてこられるとは、予想だにしていない。


 左前方にいる年配のご夫人たちと、談笑している姿が、視界を捉えていた。

 先を歩いていたフィーロも、しっかりと、眼光に収めている。

 少し離れた位置に立つ、アレスの姿も、目視していたのだ。

 さらに、気が重くなっていくルシード。


「なぜ? 今日なんですか」

 真意を確かめた。

 何を考えているのか、読めないフィーロ。


 長い年月をかけ、こうではないかと抱くが、確信を持って、言い切ることができない。

 思考が飛んでいる間も、接触してしまう時間が、近づいていった。

 談笑しているリーシャの周囲には気づかれないように、密かにシュトラー王たちがつけている護衛の人間が、ちらほらと配置されていた。


 それを理解しただけでも、身が縮まる気がしている。

 護衛の人間から、シュトラー王に伝わってしまうのが、時間の問題のような気がしていた。

 そのことはルシード以上に、フィーロの方が詳しかったのだ。

 だが、至って様子が変わらない。


「気分が、よかったからだ」

 口角を上げ、余裕な笑みを零していた。

「そのうちに、会おうと思っていた。まさか、お前に、先を越されるとは思ってもみなかった」

「……それは、突発的な事故で……」

「構わん」

 濁すルシードの姿に、僅かにフィーロの瞳が笑っている。

 けれど、ルシードは気づかなかった。


「一人で、会いに行くよりかは、二人の方が、妃殿下も、気楽だろうと思ってな。特に、すでに見知ったお前と、一緒ならばと、思っただけだ」

 一切、フィーロの表情が動かない。

「……本当に、それだけですか?」

 それでも、疑心暗鬼に囚われていた。


「そうだが?」

 そう答えるフィーロを、信じることができない。

 長年、傍にいると、何かを感じられたのである。

「……」


「どうかしたか?」

「……いいえ」

 けれど、問い詰められない。


 性格を踏まえると、騒ぎを起こす可能性もあったのだ。

 余計な揉め事を、極々、最小にしておきたかった。

「では、行くか」


読んでいただき、ありがとうございます。

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