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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
121/422

第112話  アレスとラルム2

 専用の個室で、ハーツスーツを纏い、久しぶりに、対戦ができると、アレスがほくそ笑んでいる。

 そして、始まるまでの時間まで、集中力を高めていた。

 ラルムとの対戦まで、まだ、時間があったのだ。


 次の試合に、ねじ込むように命を下していた。

 だが、突然、過ぎたせいで、準備の調整がつかず、その次の対戦と、なってしまったのである。

 唐突な命にもかかわらず、大慌てで、研究員は対戦できるように、駆けずり回っていた。


 そうとも知らず、アレスは胸を弾ませている。

 右往左往している研究員は、お構いなしだ。


「ラルム……」

 湧き上がる高揚感で、身体が満たされていく。

 幼少期に、何度も、対戦していた。

 けれど、ラルムが、海外にいってからはしていない。

 その機会が、やっと、訪れたのだ。


 王族として、ハーツパイとロットとして、後世に名前を知らしめたシュトラー王の孫として、王宮の中で、二人は切磋琢磨しながら、訓練を積んできたのである。

 王宮から、なかなか出られず、友達がいなかった二人。

 よく対戦し、遊んでいたのだった。

 幼少の成績は、やや先に生まれたアレスが上だった。


 背凭れに身体を預け、目を細め、天井を見上げる。

 対戦を望む理由が、もう一つあった。


 それは、溜まっている先ほどの、鬱憤を吐き出したかったのだ。

 親しく、触れ合う二人の姿が、面白くなく、どんどんと、負のオーラが溜まっていくのだった。

 同レベルと、思える相手と戦い、発散させたかった。


「重い存分、行くからな」

 目の前にいない相手に向かい、言葉をかけた。

 朗らかな笑みを零しているラルムの姿が、見えてくる。

 誰に対しても、ラルムは微笑みを浮かべていた。


 それが、リーシャにだけ、降り注ぐ微笑みが違う気がしていたのだ。

 なぜか、ずっと、そう感じていたのである。

 そして、それがいやだった。


 ノックをし、研究員が入室してくる。

「準備の方、お願いいたします」

「……わかった」

 了承を聞き、研究員が、静かに下がっていった。

 そして、ゆっくりと、アレスが立ち上がる。


「ダイヤモンドでしたかったが、しょうがあるまい……」

 ダイヤモンドハーツで、準備するように命じていたが、急遽だったため、準備が間に合わなかった。

 そのため、違うものを、使用する羽目になったのだ。

 ダイヤモンドハーツ同士の戦いを、強く望んでいたのである。

 ラルムが、ダイヤモンドハーツに、適合しているのは把握していたからだ。


 七種類あるハーツのうちで、ダイヤモンドハーツだけは、誰でも、騎乗できる訳ではない。

 適合していなければ、起動させられないのである。


「ラルム……。一体、何でくるか……」

 次に、選んだのは、ルビーハーツだった。

 ダイヤモンドハーツの次に、性能が高かい。

 久しぶりに、味わうワクワク感を抱きつつ、ようやくアレスが個室を出ていく。




 観客席では、心配げな表情のままでいるリーシャが待っていた。

 目の前で、行われている試合に、眼中がない。

 その次に行われる、二人の戦いが、気になってだ。


「いつまで、そんな顔してる?」

 隣に移ったゼインが尋ねた。

 二人がいなくなった途端、リーシャが座っている列に、座り直したのだ。

「だって、心配じゃないの? ケガすることだって、あるんでしょ?」

 先ほどから、そのことが頭の中で、渦巻いている。


「それはそうだ。そんなこと、気にしていたら、乗れないだろう」

「そうだけど……」

「せっかくの面白い試合なのに、気分が萎えるぞ」

 面白い試合が、台無しだと、不機嫌な表情を、ティオが滲ませている。


 気落ちしているリーシャ以外の生徒たちは、この二人の対戦が面白く、興味をそそられていた。

 現在、行われている試合よりも、生徒たちの話題は、アレスとラルムのことだった。


「アレスが、戦っているとこ、見たことあるか?」

 何気ないフランクの問いかけだ。

 ゆっくりと、首を振る。

 素直に否定する仕草に、やはりなと、ゼインが抱いた。


 検査を、受けているところを見たことがあっても、戦っている姿を、見たことは、一度もなかった。

 二人が出会う前に、アレスが試合している映像が、テレビで、流れていたこともあったが、王室にも、デステニーバトルにも、興味がなかったので、見たことがなかったのである。


「一度もか」

 素直に、うんと答えるしかできない。

 その返答に、呆れる面々。


「テレビとか、話題に、なっていただろう」

 賑わせていた映像を思い出し、口にするティオ。

「だって……、まさか、自分がなるなんて、思わなかったし……」

「けど、殿下だぞ? みんなが憧れる?」

 しゅんとしているリーシャを、見下ろしていた。


「別に。周りは騒いでいたけど……」

「見向きもしなかった訳だ。デステニーバトルにも、みんなが、憧れる殿下にも」

「……」

「何に、興味があった?」

 みんなが憧れるアレスにも、話題のデステニーバトルにも、興味を示さないリーシャに、何に興味があるのか、フランクが何気なく聞いた。


「勿論、バルト」

 素直に答えるものの、瞬時に、ゼインたちは、それが、誰なのか把握できない。

「知らない? 若手俳優として、有名なのよ、バルトは」

 僅かに、頬を染め、話す姿に、呆れる三人。

「ああ。言われて、思い出した。そんな、くだらないことに、興味があったのか」


 最近、若手俳優として、人気も、実力もあると、称されるバルトのことは、芸能界に興味がないティオでも、知っていたのである。

 若い女の子の間で、有名で、何度も聞いていたからだ。


「アレスよりもか?」

「当たり前でしょ」

 何の躊躇もなく、答える姿勢に、さらに呆れていた。

「凄く、格好いいだから」


 盛り上がっていくリーシャ。

 そんな姿に、ついていけない三人だ。


「優しくって……、抱擁よくがあって……」

 とろんとしている眼差しに、ますます閉口している。

「まさに、あれが王子様よ」

「「「……」」」

 王子は、あんたの夫だろうと、心の中でゼインが突っ込む。


(映画や、ドラマの役だけで、演じているだけだろうが……)


 先ほどまで、不安を憶えていた顔とは、思えないぐらいに、にやけていた。

「「「変わっている」」」

 三人が、抱いた感想を呟いた。

「何が?」

「既婚者だろう。アレスよりも、興味があるのか?」

 非難めいた双眸を注ぎながら、ゼインが再確認した。

「……しょうがないじゃない。昔から、好きなんだから」


 話している間に、目の前で、行われていた試合に、決着がつき、次の試合の準備に入っていた。

 それも、観客席で、ざわざわと、騒ぐ最中で行われている。




 流暢な足取りで、話題の中心である二人が、試合場所に姿を現した。

 瞬く間に、消えていた不安の渦が、リーシャの胸へ入り込んでいく。


「心配することはない」

 きょとんとした顔を、ゼインに巡らしている。

「ハーツパイロット候補生と言われているが、実際のアレスの力は、正規に選ばれるハーツパイロットと、遜色がない。それにたぶん、ラルムも同じだ」

 ハーツの前で、打ち合わせしているラルムと、研究員たちの光景を眺めながら、ゼインが話した。

 ゼインたちは、ラルムが戦っている姿を、一度も、垣間見たことがない。


「だって、海外で、少し学んでいただけって、言っていたよ」

「本当に、そう思うのか?」

「……そうじゃ、ないの?」

 二人だけしか、訓練してこなかったから、他の人と、比べられなかった。


「たぶん、海外で、相当訓練していたんじゃないのか」

「そうなの?」

「検査を、見ていればわかるし、勝負を挑まれても、戸惑いが、あまり感じられなかった」

「言われてみれば……、そうかも」


 心配の色が消えない顔を、熱心に話し込んでいるラルムに注いでいる。

 僅かに、驚きを見せたものの、自信がないといった感じは、受けなかった。


「アレスだって、レベルが下のやつに、対戦を求めたりしない。同じレベルだって、知っているから、対戦を望んだんだ」

「そうだったんだ……」


 客観的に見ているゼイン。

 感嘆している眼差しを、リーシャが送っている。

 けれど、ゼインは気づかない。

 ただ、柔和な笑顔を覗かせ、打ち合わせしているラルムの姿を捉えていたのだった。


 デステニーバトルに興味がないが、アレスと同等であろうラルムの実力を、知りたいと思っていた。

 ラルムの実力が、自分たちよりも、上と踏んでいたのだ。

 それぞれ、一号機に乗り込んだ。


「アレスがルビー、ラルムがサファイアか」

「へぇ、サファイアか。てっきり、アレスと、同じルビーかと」

「そうだな。意外だな。だって、ルビーの方が……」

 三人の呟きに、リーシャが反応する。

 内容を復唱し、把握に努めていたのだ。


「……七種類とも、違うのよね?」

 それに、答えたのは、ゼインだった。

「ああ。ダイヤモンドは、攻守すべてにおいて、最高だ。その次に、いいのが、ルビーだ」

「確か……、攻撃力や、俊敏さが、高いのよね」

 ハーツマニュアルで、読んだ知識を、朧気に口にしていた。


 苦戦しながらも、一生懸命に時間を作っては、アレスから読むように言われた、ハーツマニュアルを読んでいたのだった。

「その通りだ」

 正解だと言われ、ホクホク顔だ。


「その点、サファイアは、守りが堅いな。俊敏な動きに対しても対応できるし、攻撃を受けても、持ち耐えることが高い。あの二つは、対照的と言うべきだな」

「そうなんだ」

 息つかぬうちに、試合が始まり、拮抗した戦いを繰り広げる。


 緩急をつけたアレスの攻撃。

 交わしつつ、タイミングよく、ラルムも、要所で攻撃を仕掛けていく。

 けれど、器用に操るアレス。

 それを優雅な動きで、ラルムが攻撃を交わしていった。


「さっきまでの試合と、違う」

 呆然として見入っていたリーシャだ。

 素人の目からしても、二人の戦いは、違っていた。

 華麗な戦いに、視線を外したくない。


「言った通りだろう」

 問いかけられたゼインの顔を見ず、頷いた。

 圧巻な戦い。

 一秒でも、目を離すのが、惜しい気がしている。


「で、どっちが勝つの」

 無駄のない動きを窺わせる二機を、目で追いながら、どちらが優勢なのか尋ねた。

 何も知らないリーシャは、どちらが優勢なのか、判断つかない。


「俺たちに、聞くか」

「同じように見えて……、わからないもん」

「十中八九、アレスだろうな」

 迷いもなく、ゼインが口にした。

 ようやく、試合から、ゼインに顔を傾ける。


「俺たちも、見たこともないぐらいに、生き生きと戦っている」

 今度は、ゆっくりと、行われている試合に双眸を巡らす。

 互いに、攻撃を出し、それを受け止めるのを、繰り返していた。

 戦っている姿が、生き生きしているのかと、首を傾げるだけだ。


 長年、一緒にいるゼインたちすら、あんな楽しげに動き回るアレスの姿を、見たことがない。

 どこか、冷めた眼差しと共に動きも、冷めていた。

 それが、ラルムとの戦いは、心の底から、楽しそうに戦っていたのだ。


「あんなアレス、見たことないね」

 釘付けになっている試合を眺めながら、フランクが口を挟んだ。

「ラルムだって、悪くない」


 ただリーシャは黙って、二人が戦っている姿を眺めていた。

 しばらくの間、二人の拮抗している戦いが続き、ようやくアレスの勝利で、幕を下ろす。

 二人の戦いを目にしたため、その後の試合は、印象の薄いものに映ってしまった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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