表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
118/422

第109話  深夜の散歩1

 寝静まった夜中、リーシャとアレスは、誰にも気づかれないように、秘密の通路を使い、王宮の外に出てきていた。

 そして、アメスタリア国でも、一般の庶民が、決して立ち入らない、素行が非常に悪いと評判の裏街に、足を踏み入れていたのである。


 以前にも、何度か、来たことがあった。

 裏街の出入り口の門に、佇んでいる男たちとは、すでに顔見知りの間柄だ。

 誰でも、出入りできるが、門には、裏街の中を管理している人たちの下で、働いている人間が、それとなく見張っていた。


 初めて踏み入った際に、二人はカジノでトラブルを起こし、やばそうな男たちに追い回されていた。

 何も知らない二人を、助けてくれたのが、裏街の中で暮らしているカーラだった。

 親切にしてくれたカーラに、会うために訪ねてきたのだ。

 カーラの元で、働いている男の案内で、何の危険もなく、カーラの家に辿り着いた。


「ありがとう。ログさん」

 案内してくれたスキンヘッドの男に、礼を述べた。

 先頭を歩くログがいるため、誰も、手出ししない。


「中で、カーラさんが、お待ちです」

 怖い顔でありながらも、にこやかに言い、自分の仕事へ戻っていく。

 ログの仕事は、カーラの護衛と、裏街の中で、不用意な争いが起こらないように、見張っていることだった。


「アレスも、礼ぐらい言いなさいよ」

「何で、僕が、そんな真似をする?」

 眉間にしわを寄せるリーシャ。

 そんな高慢な態度が、許せないのだ。

 やって貰うのが、当たり前と言う考えが、理解しがたかった。


「あのね。わざわざ、私たちのために、案内してくれたのよ」

「礼なんて、言う必要がない」

「そういうところが、わかんない」

 口を尖らせるリーシャだった。

「僕もだ」

 不機嫌な顔を、アレスが露わにしている。


「私は普通よ」

「どこが?」

 睨み合う二人。

 どちらも引き下がるつもりがない。

 二人は家に入らず、軽い口ケンカを始めていた。


 普通の人が、訪れない裏街は廃れていて、廃墟と言っていいほどの街並みに、人が住んでいたのである。

 違法な店が立ち並び、警察を悩ませている場所でもあった。

 そんな街の中に、カーラの住まいがあったのである。

 小さな一軒家で、一人暮らしをし、彼女を慕う人間がたくさん集っていた。


「少しは、人のことを、敬うべきよ」

「なぜ、僕が?」

 高見から、口にする姿が、似合っていた。


(こういったセリフ、ホント、似合ってる)


 見惚れ気味だったことに気づき、いけないと頭を振った。

「どうした?」

 怪訝そうな眼差しを注いでいる。

「何でもない。……ホント、それで、よく務まるわね」

 さすがに、王太子とは口に出せない。


 カーラも、ログも、二人の身分を把握しているが、普通の人と変わりなく、接してくれていたのである。

 そんな懐の広さを気に入り、たびたび訪れていた。


「いつまで、そんなところで、ケンカしているつもり?」

 いつまでも、入ってこない二人に業を煮やし、呆れていたのだ。

 二人の声は、家の中まで通っていた。

「「……」」

 ばつの悪い二人。


 小さく笑っているカーラに、視線を傾けている。

 妖艶な美貌に、瞬く間に見入ってしまった。

 年齢不詳で、年配や、どんな相手でも、物怖じしない。


(同じ女性とは思えない。綺麗な人……)


 美しさの中にも、あどけなさが残っていて、いくつなのか、想像ができなかった。


(どうしたら、カーラさんみたいな女性に慣れるんだろう……)


 華やかさを醸し出しながらも、優しいところもあり、それでいて、凛とするものを感じさせる姿に、どこか憧れを抱いていたのである。

 いつか、こんなふうに慣れたら、アレスの隣に立っていても、遜色なく、写るんだろうなと思い描くのだった。


「私の家の前だからと言って、安全ではないのよ」

 危機感のない二人を窘めた。

「「……」」

「見なさい。ヤクの売人や、女を襲う野獣が、溢れているでしょ?」

 促された先に、視線を巡らす。


 尋常ではない、目つきをした男や、女が、不敵な笑みと共に、こちらを窺っていた。

 隙あらば、回りを注視していない二人を、狙っていたのだ。


 いつまでも、入ってこない、のん気な二人を、優しい声音で窘めていた。

 この辺一体で、知られている存在であるカーラの知り合いだからと言って、完全に安全が守られている訳ではない。


「餌食に、なりたいのかしら?」

「いいえ」

 無言でいるアレスとは違い、しゅんとしているリーシャ。


「わかったのなら、さっさと、入ってちょうだい」

「はい」

 抑揚のない声で、返事をした。


 口を閉ざしているアレスは、ただ見据えていただけだ。

 二人が入室した後、ゆっくり扉が閉ざされる。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ