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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第107話  騒々しい王弟

 リーシャとテネルの姿が見えなくなった騒動から、次の日に、スティリア宮殿で大きな騒ぎが巻き上がっていた。

 宮殿内の部屋と言う部屋を空け、捜し回っている男に、珍しくソーマが振り回されていたのである。

 捜し回っている男の後を、必死にソーマが追っていたのだ。


 どうにか止めようと、僅かに、顔を引きつらせながら、躍起になっている。

 先を歩く男も、捕まらないようにしていた。

 そして、逃げ惑いながら、目的の人物を捜している。


「陛下。陛下は、どちらにおられる?」

 宮殿内にも、響き渡るような高めの声で、シュトラー王の行方を捜していた。

 面会するため、突然に、王宮に姿をみせたのだ。

 後を追うソーマ以外、誰も止めようとはしない。

 誰一人として、捜している男と、関わりを持ちたくなかった。


「公爵、落ち着いてください」

 声をかけられても、聞く耳をもたない。

「陛下。陛下に、話があります。どちらに、おられるのか?」

「公爵、公爵。ゆっくりと、私と、話をしましょう」

 止める声も聞かない。

 ひたすら、部屋中の扉を開けていく。

 シュトラー王の姿が、いないか、確かめていた。


 先を歩く男の方が早い。

 宮殿内を走れないソーマだった。

 懸命に、早足で、追いかけていた。


「公爵、公爵」

 その現場に、出くわしてしまった侍従たちは、冷静な対応をしている。

 廊下の端で頭を下げた状態で、追いかけっこをしている二人が、通り過ぎるのを、ただ、静かに待っていたのだ。

 多少、興味があるのか、何人かの侍従たちが、頭を下げながらも、二人の様子を観察していた。

 たじろいているソーマの姿が、意外なものだったからだ。


 その心の内では、ソーマが舌打ちを打っている。

 けれど、侍従がいる手前、大声で、怒鳴りつける訳にもいかない。


 宮殿内を捜し回っている男は、シュトラー王の弟で、フィーロ・スブニール公爵と言った。

 かつて、デステニーバトルのハーツパイロットもしていたので、後を追っているソーマとは、見知っている間柄でもあったのだ。


 二人の面白い追いかけっこが、永遠と、続けられている。

 先に、キレ始めたのはソーマだった。

「いい加減にしろ、フィーロ」

 苦虫を潰した顔で、追いかける。

 だが、侍従がいるせいで、無理やり止められない。


「フィーロ、止まれ」

 そんな声も、無視している。

 構わず、手当たり次第、部屋を空け、捜し回っていた。

 二人が通り去った後、侍従たちが、黙ったまま、開け放たれた扉を閉めていく。


「どちらに、おいでか?」

 この状況を、密かに楽しんでいる節があった。

 捜している顔の口角が、上がっていたのだ。


 いったん、侍従が見えなくなった時を見計らい、速度を上げ、先を歩くフィーロを確保した。

 そして、近くの部屋に、有無を言わさず、連れ込んだ。

 ハーツパイロットを引退したとは言え、総司令官を務めている以上、常日頃から、身体を鍛えていたので、追いかけて捕まえることは造作もなかったのである。

 それをしなかったのは、二人の立場が、複雑に絡みあっていたからだ。


「お前な」

 噛みついてくる視線に、飄々とした顔を覗かせている。

 こういったところは、さすが母親違いとは言え、兄弟で似ていた。

「どこにいる、シュトラーは?」

 二人だけになった途端に、フィーロの方も砕けていた。


「あのな……お前、言うことは、それか?」

「どこだ」

 他人を顧みない態度。


 ただ、ただ、ソーマが呆れている。

 今も、昔も、それは変わっていない。


「……。いないと、言っただろう」

 落胆交じりに、息を吐いていた。

「逃げ場所を、聞いている?」

「知らない」

「ソーマ。お前が、知らない訳がないだろう?」

「俺が、全部、知っていると思ったら、大間違いだ」


 ふんと、鼻息を荒くしていた。

 兄弟揃って、勝手な振舞いをして、周囲を巻き込むのだ。

 その両者とも、全然、その自覚がない。


「……。まぁいい」

 あっさりと、諦める仕草を見せたので、さっきまでの苦労は、何だったんだと顔を顰めている。

 かなりの距離を、二人で追いかけっこしていた。

 仕事している最中に、フィーロが王宮に姿を見せたと言う報告を聞き、それから、したくもなかった、追いかけっこをしていたのだった。


「どうせ、いつものように、身を隠しているのだろう」

 黙ったまま、ソーマが口を閉ざしている。

 それでも、フィーロの口が止まらない。

「ここの宮殿には、いないのかもな」

「……」


 弟フィーロを嫌い、シュトラー王は、王宮でフィーロの存在を察知すると、面倒だと言って、姿を眩ますのだった。

 顔を付き合わせれば、ケンカが耐えない。

 それが面倒だったから、避けるため、隠れてしまっていたのだ。


 胡乱げな視線を、ソーマが投げる。

 これ以上の揉め事を、処理するキャパがない。

 多大な厄介を起こすのは、シュトラー王だけで、十分だったのだ。


「わかっているのに、なぜ、こっそり来る?」

「面白いからに、決まっているだろう、ソーマ。それに、事前に知らせれば、何か、事を作って、逃げるだろう? だから、知らせず、突然、来ている」

 胸を張って、答える態度に、二の句が出てこない。

「……。だったら、俺か、フェルサに知らせろ! そうすれば、まともな用件なら、セッティングしてやる。ただし、ケンカをしないのが、条件でだ」


 睨まれても、痛くも、痒くもないと言ったフィーロの態度。

 いちいち、癇に障るやつだと抱きながら、盛大な溜息を吐いた。

 からかって怒らせるため、シュトラー王と合っている節があったのだ。

 そのため、二人はフィーロがどのような用件で、訪ねてきたのか見定めていたのである。


「ケンカを売る、お前が悪いんだろうが」

「しょうがない、嫌いなんだから」

「露骨に言うな」

 周囲を気遣うソーマ。

 ふふふと、フィーロが笑ってみせた。


「お前と言うやつは」

「ソーマでもいいか」

 全然、ソーマの言葉を聞かず、一方的に話を進めていった。

 他人の話を聞かないのも、シュトラー王と似ている。

 意味ありげな視線に、ソーマが、サッと身構えていた。

「何だ」


「警備体制を、見直した方が、いいのではないか?」

 顰め面に、変わっていく。

「子供を捜すのに、どれだけの時間が掛かっている」

「問題なかったのだから、いいだろう? それに、俺のところには、事後報告しか、伝わっていない。対処しろと言われても、無理だ」


 リーシャとテネルが姿を消して、侍従や侍女が、右往左往していた件を持ち出したのである。

 何となく、訪ねてきた理由としては、そのことではないかと、うっすらと巡らせていた。


「そうか」

「当たり前だ。俺が関わっていたら、もっと、早くに解決していた」


 王妃エレナが、極秘に通達したため、総司令官の元に、仔細が届くまで時間が掛かり、事が丸く収まってから、仕事に追われていたソーマのところまで伝わってきた。

 だが、また同じようなことがあれば、同じことを繰り返すだろうと、王妃エレナの性格を踏まえ、そう思うのだった。


「ミスは、ミスだろう?」

 得意げなフィーロが、視線を注いでいた。

「王妃様が、極秘に事を進めても、お前は知らなくてはならない。そうじゃないのか? 陛下の側近で、優秀な総司令官ソーマ・ラ=メイディランド伯爵殿」

 皮肉が含む声音に、イラッとする。


 口にしていることは、筋が立っているので、何も言い返せない。

 さらに、苛立たせていたのは、フィーロが面白がっている点だ。

 心の中で、長い息をついてから、ソーマの口角が上がっていく。


「そうですね。スブニール公爵のおっしゃる通り」

「では、早く察知してくれ」

 恭しくなるソーマに合わせ、王族らしい威厳を出し始めた。

「仰せのままに」

「話が変わるが、随分と、クロスの孫娘が、いじめられているそうだな」


(お前も、何か仕出かすつもりか?)


 怪訝な顔で、不敵に笑っているフィーロを窺っている。

 だが、いつまでも、黙っている訳にはいかない。

「……ああ。ルシードから、聞いたのか?」


「いや。あれだけの話題の子だ。いや応なしに、耳にする」

 もっともなことかと、あっさりと疑う眼差しを引っ込めた。

 突如、リーシャのことを出され、警戒していたのだ。

 貴族の間だけではなく、広く民間でも、いろいろな噂が流れ、ネットで様々な真もデマも含む噂が、流されていたのである。


「クロスが、不在のままで、決めるからだ」

「事後報告だが、した」

「知っている」

「口出しするのか」


 これまで、何も言ってこなかっただろうと言う眼差しを注ぐ。

 二人の結婚問題について、これまでフィーロは、何も口にしてこない。

 賛成も、反対も。

 ずっと、静観する立場を、取っていたのだった。


「別に。クロスの孫が、どう動くのか、見物しているだけだ」

 非難めいた視線を、じっとして、動きを見せないフィーロに、投げかけている。

 二人の結婚が、決まった当初から、どんな動きを見せるのかと注意していた。

「クロスは、クロス。孫は、孫だろう」

 サラッと、フィーロが言い放った。


「……。そう、少しは、割り切ってくれると、ありがたいのだが」

 まるっきりフィーロの言葉を、信じていない。

「シュトラーの、あの性格は、直らないだろう」

 のん気に、他人事のように口にする仕草に、ソーマがムッとしている。


「少しは、手伝って貰いたいものだ」

「断る。命が、いくつあっても、足りないからな」

 考える隙もなく、フィーロが即答した。


「ケンカを吹っかける、お前が、よく言うよ」

「それは、それ。これは、これだ」

 立ち去っていく背中に向かって、ソーマが声をかける。

「迷惑をかけた」


 リーシャとテネルの件を、素直に詫びた。

 振り向きもせず、手だけ振っている。

 そんな態度に、小さく笑っていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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