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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第103話  行方不明2

「スマホは?」

 会議を終え、戻ってきた王太子アレスが、秘書官ウィリアムから、妻リーシャの行方が知れなくなったと言う連絡を、自室の部屋で、聞いている最中だった。


 目の前に立つウィリアムが、自分たちの失態に、やや俯きかげんだ。

「部屋に、置いたままです」

「……」

 間が抜けている行為に、言葉をなくす。


(何のためのスマホだ!)


 姿を消し、騒ぎになるのは、これが初めてではない。

 その時も、スマホは部屋に置いたままだった。


「いなくなって、どれぐらいだ」

「ダンスの講義を終えて、次の講義の時間まで、散歩すると言って、出て行かれたようです。それから、妃殿下は戻られていません」

「何で、ついていかなかった?」

「申し訳ございません」


「……」

「時間を過ぎても、戻られなかったので、侍女たちが、隈なく捜索しましたが、未だに、発見できません。申し訳ありません、殿下」

 会議から戻ってきたアレスに、隠すことができなかった。

「何をやっていたのだ。周りの者は……」

「重ね重ね、申し訳ございません」

 律義に、アレスが漏らした呟きに、平謝りをしていた。

 ふと、庭園にある人気がない、白い東屋が、頭の中に掠めている。


(ラルムと、一緒にあそこにいるのか……)


 目を細め、考え込む。

 何度か、白い東屋で、二人が佇んで、語らっているのを、見かけたことがあった。

 けれど、そのことを、二人に伝えていない。

 話す理由がないからだ。


「ラルムは、来ているのか?」

「いいえ。今日は、王宮にはいらっしゃっておりません」


(ラルムと、一緒じゃないのか……)


 二人が、一緒ではないと知り、どこか、ホッとしていた。

 楽しげに、二人して話しているのが、面白くなかったのである。


(では、どこにいる?)


 居場所がわからなくなった。

 アレスが知りうる場所は、限られていたし、その場所は、すでに捜している可能性が高かった。

 姿がわからないだけで、心許ない。

 早く、行方を確かめ、心に空いた穴を埋めたかった。


 静かに、待ち構えているウィリアムに、視線を注ぐ。

「宮殿内は、隈なく捜索中か?」

「はい。勿論でございます」

「廊下で、眠っていたことや、訓練室で、眠っていたことも、あったが?」

「勿論。その可能性も踏まえて、捜索に当たらせていますが、未だに、発見できません」


 以前、行方がわからなくなって、発見した場所は、すでに捜索済みだった。

 アレスに報告する前までに、散々捜索したが、姿を発見するのに、至らなかったのである。

 何より、足跡が、何一つ見つからず、ウィリアムたちが困り果てていたのだった。


「……そうか」

 脱力し、背凭れに、身体を預ける。

 別な考えが、飛び込んできた。


(秘密の通路を使って、外に出たか?)


 無断で、王宮の外に、出ようとしたことがあった。

 そのことが、頭の中で巡らせている。


(捜しても、見つからないとなると……)


 激しい不安に、襲われる。

 たった一人の人間が、自分の目の前から消えることに、これまで不安を感じたことがない。

 それが、リーシャと出会って、過ごすうちに、アレスの中で、リーシャの存在が、大きくなっていった。


 王宮の外に、繋がる秘密の通路は、アレスとリーシャしか知らない。

 複雑な通路になっていて、方向感覚に乏しいリーシャでは、道に迷う恐れがあった。

 そのために、一人では使うなと、強く約束させ、使わせていなかった。

 けれど、両親に会いたくなって許可なく、一人で使おうとした経緯が、以前にあったのである。


(近頃の様子は、落ち着いていたはず……だ)


 黙ったまま、ウィリアムが傍に控えている。

 そんなことに気を遣わず、深い思考の渦へと入り込んでいた。


(だから、リーシャが、勝手に秘密の通路を、使うはずがない。だとすると……、リーシャは一体、どこにいる?)


 思考のすべてを駆使し、王宮内の、どの辺りにいるのかと巡らせる。

 だが、思い当たる場所がない。


 苛立ちが募らせる。

 だが、その表情が表面に出なかった。

 常に、冷静沈着でいるように、幼い頃より、教えられてきたからだ。


(とにかく、どうにか、対処しなければいけない)


「この後の予定は?」

「殿下の予定は、馬術の時間です」

「中止だ。午後の準備は、万全にしておけ。ただ、もしものことも、踏まえておくように」

「はい。そのように、致しておきます」

 立ち上がったアレスに、ウィリアムが、まだ何か言いたげな顔を滲ませている。


「何だ、まだ何かあるのか?」

「それが……、王妃様の命令で、ジュ=ヒベルディア伯爵のご子息の行方を、捜させています」

「どういうことだ?」

 訝しげに、問い質した。


 表情を出さないアレスには、珍しかった。

 極秘に、テネルの行方を捜索するようにと、通達が来たことを、掻い摘んで語った。


「リーシャと、同じように、行方が知れないのか?」

「はい。そのように、窺っております」

 警戒していたルシードの息子テネルも、同じように行方不明になったと耳にし、王宮内で不穏なことでも、起きたのかと、瞬時に、頭の中を駆け巡っていた。

 それと同時に、ルシードとリーシャが、また接触した可能性も踏まえ、考え始めるのだった。


 怪訝な顔を、アレスが窺わせる。

「来ていたのか? ジュ=ヒベルディア伯爵が?」

 脳裏に、パーティーで、リーシャと接触したルシードの姿が蘇る。

 何も知らないリーシャに、近づいていったのだった。

「はい。そのようです」


 こっそりと、王妃エレナに面会に訪れていることは、以前から、知っていたのである。

 シュトラー王が、会うのを認めていたので、それについて、何も言わなかった。

 それに、言うつもりもなく、ただ傍観者の立場をとっていたのだ。


「無視することも、できないな」

「はい」

「何で、こんな時に……」

 次から次へと、起こる面倒ことに辟易している。


「申し訳ありません……」

「お前が、謝る必要はない。……王妃様からの通達と、一緒に動け。それと、リーシャの件も、できるだけ極秘だ」

「はい」

 通達を、捜索隊に伝えるために頭を下げ、出て行った。




 残されたアレスも、リーシャの行方を捜すために、部屋をすぐに出て行った。

 庭園に出る前に、念のために秘密の通路が、使われた形跡がないかと確かめた。

 けれど、使用した形跡は、残っていなかった。

 それと以前に、バレてしまったアレスの秘密の部屋も捜したが、誰の姿もなかったのである。

 落胆と同時に、見つからないことへの苛立ちが膨らんでいった。


 庭園を一人で、アレスが捜していた。

 自分よりも、先にラルムがリーシャを、捜し出したことがあった。

 だから、誰よりも先に、自分が見つけようと静観していた立場を変え、動き出していたのだった。

 白い東屋や、薬草園を、自分の目で確かめたが、そこにも姿がなかった。


「どこにいる?」

 広い庭園内で、行きそうな場所を、思い描く。

 宮殿内を捜した方がいいかと、立ち尽くしているアレス。

 人一人を捜すには、王宮の庭園は広過ぎた。


 ハイテク機器で、警備されているとは言え、いくつかの穴があり、王宮内も万全ではなかった。

 設置されているカメラにも、センサーにも、発見する要素が見つからない。

 立ち止まっていてもしょうがないと、とりあえず、足を進め始める。

 視界の先に、何種類ものバラが、植えられているバラ園を捉える。


「……ここにはいないだろう……」

 なぜか惹かれ、理由もなく、足が止まってしまった。


(念のためだ)


 バラ園へと、足を踏み入れ、どんどん、奥へと進んでいく。

 王宮のバラ園は、一種の迷路のようになっていて、様々な品種のバラが彩られていた。


「やっぱり、こんなところにはいないな」

 背の高いバラもあるが、大部分が低いもので、視界が隠れていないのだ。

 だから、ここにいるとすれば、すでに視界に入っても、おかしくはなかった。

「引き返すか……」


 身体を回転しようとした瞬間。

 バラの植え込みのところで、寄り掛かるように、眠り込んでいる二人の姿が飛び込んでくる。

 そして、身体を寄せ合いながら、気持ち良さそうに口元が緩んでいた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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