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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
109/422

閑話 (4)

第79話目の後の話になります。

 リーシャとアレスがメイ=アシュランス子爵邸に出かけた仮宮殿。

 多くの侍従や侍女たちが残っていた。

 メイ=アシュランス子爵邸に行ったのは、二人と、警護するボディーガードしか行っていない。

 侍従や侍女は、ついていなかったのだ。

 極僅かな人数なのは、アレスの計らいによるものだった。


「今頃、お二人は、どうしているかしら?」

 嬉しそうに、クララが呟いていた。

「さっき出掛けたばかりよ。まだ、ついていないわよ」

 少し呆れながら、ヘレナが突っ込んだ。


 二人が仮宮殿を出て、まだ十数分しか経っていない。

 戻ってこなくても、掃除を休むことがない。

 毎日、侍従や侍女が、快適に過ごして貰うために、掃除や整理、部屋の飾りつけを欠かさなかった。

 常に、磨き上げていたのである。


 このところ、二人が仕えているリーシャが、嬉しそうに、はしゃいでいた顔を、顔を緩めながら思い返していた。

 弟ユークの養子先であるメイ=アシュランス子爵邸で、両親も訪れ、久々の家族団欒ができると喜んでいたのだった。

 慣れない王室の生活に、必死に頑張っている姿が微笑ましく、侍従や侍女に映っていた。

 そのせいもあって、彼らはリーシャに、好意的な感情を持っていたのだ。


「でも、きっと車内で、嬉しそうにしているでしょうね」

「そうね。このところは毎日、はしゃいでいたものね」

 二人して、メイ=アシュランス子爵邸に、泊まりに行けると、わかってからの日々を蘇らせていた。

 不意に、口元が緩んでしまう。

 その脳裏に、指導係のユマに怒られても、ニンマリしているリーシャの顔を過ぎらせていたのだった。


「二人とも、手が止まっていますよ」

 鉄仮面なユマが仁王立ちし、二人を窺っていた。

 ユマの声音に、ビクッと、身体を硬直させる。


 ゆっくりとした動作で、二人は声がした方へ顔を傾けた。

 有無を言わせない顔があったのだ。


「「……」」

「王太子殿下、王太子妃殿下が、今日は帰らないからと言って、少し気が抜けているのではないですか」

「「も、申し訳ありません」」

 身を縮こませ、平謝りのクララとヘレナ。


 仮宮殿を担当している侍従や侍女は、持ち場のところで、お喋りしながら働いていたのである。

 ただ、気を抜き過ぎている二人とは違い、ユマや上司の気配は巡らせていたのだった。


「いいですか? お二人がいなくても、いつも通りに、磨き上げていなければ」

「「は、はい」」

 さらに、言いかける言葉を遮ったのは、リーシャの専属となったバネッサだった。

 その顔は、微かに厳しい対応しているユマに対し、苦笑している。

「その辺にして置いたら、ユマさん」

「……」

 何とも言えない顔を、ユマが覗かせている。


 ユマとバネッサは、同時期に侍女として、王室に仕えていた。

 バネッサが王妃エレナに、ユマがセリシアに仕えていたのだった。

 そのせいもあり、二人はめったに顔を合わせることもなかったのだ。

 だが、二人はリーシャの専属となり、ユマが少し上司になり、バネッサにやりづらい面を抱えていたのだった。


 バネッサ自身は、同期のユマが上司になったことに、全然拘っていない。

 きちんと仕事として、割り切っていたのだ。

 けれど、ユマはモヤモヤとするものを残していた。


 軽く息を吐き、気持ちを切り替え、クララとヘレナに視線を巡らせる。

「ここはいいから、お二人の部屋を、掃除するように」

「「はい」」

 少しだけ甲高い声で返事し、瞬く間に二人は、この場から立ち去ってしまった。


 対照的な顔で、見送っている。

 完全に、二人の背中が見えなくなっていた。

 まだ、ユマとバネッサは、その場に止まっていたのだった。

 肩に力が入っているユマに対し、微笑ましく思えるバネッサだ。


「ユマは、少し気を緩むべきよ」

 黙り込んでいるユマ。

 どこか、苦々しく思いながらも、バネッサの正論を耳にしていた。

「そうしないと、疲れて、ユマ自身が倒れてしまうわよ」

「……」


 正式に、リーシャの専属となってから、ずっと、ユマの肩に、力が入っている状況が続いていたのだった。

 立派な王太子妃になって貰うためにだ。

 一杯、一杯なリーシャ同様に、ユマ自身も、余裕がなかった。

 そんな状態を憂い、気に掛けていたのは、同期のバネッサである。


「私は、大丈夫よ」

 反発するユマ。

 いつも、ゆったりなバネッサに、少しだけ危機感を憶えていた。

「意地を張るのは、やめた方がいい」

「……」

「リーシャ様に、負担が掛かっているわよ」


 連日のお妃教育のことを、バネッサは言っていたのだ。

 遅れ気味になっている状態で、秒刻みで、リーシャの休憩や、睡眠時間を削り、お妃教育の時間に充てていたのだった。


(わかっているわよ。でも……)


 無理をしているとは、ユマ自身、理解していた。

 元の主であるセリシアから、早く王太子妃として、振舞えるようにと、言われていたのである。

 そして、そうであるべきだと抱いていた。

 一刻も早く、自分の身を守れるようにと。

 リーシャを慮って、厳しいお妃教育を入れていたのだった。


「ユマの気持ちも、理解できる。でも、リーシャ様は、王室ではない、まして、貴族の血筋が流れているとは言え、外の世界で、育った人よ。もう少し、ゆっくりした方がいい」

「……」

 正論過ぎて、何も言い返せない。


(自分には、まだ足りないのに……、なぜ? バネッサの上司になってしまったの?)


 嘆息を零しそうになるのを、ユマが堪えていた。

 これ以上、弱いところをみせられないと、自分の心を叱咤している。


「それでなくても、アレス殿下のパートナーとして、デステニーバトルの、パイロットとしての教育だってあるのよ。いつか、リーシャ様が壊れてしまうわ」

「……」

 黙って聞いているユマ。

 けれど、リーシャには自分を守る盾が必要だと訴えていたのだ。

 お妃教育は、リーシャを守る盾でもあった。


 ユマの心の中で、せめぎ合っている。

 もう少し、緩めるべきだと。


「……意見として、聞いておくわ」

「……相変わらずね」

「そう、人間は変わらないわ」

「そうかしら?」

 クスッと笑みを漏らし、バネッサが首を傾げた。

 口を結び、滞りがないかと見回りに行くユマだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

次週は、新章に入ります。

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