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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第98話  癒しを求める重臣と仕事を片づけたい重臣

「どうしたものか……」

 渋い表情で、ソーマが溜息を漏らした。

 実年齢よりも、若く見られる顔に、疲れを滲ませている。


「そんなに、溜息をついても、解決できない」

「他に、かける言葉がないのか?」

 労わる態度を見せない相手に、不満顔だ。

「溜息を吐きたいなら、自分の部屋でしてくれ。はっきり言って、迷惑だ」

 容赦なく、フェルサが切り捨てた。

 そんな冷たい態度に、さらに渋面する。


 自分専用の部屋があるにもかかわらず、副司令官の部屋に居座り、陰気な顔で、溜息を何度も吐いていた。

 仕事をこなしているフェルサとしては、仕事をしないソーマの存在が邪魔で、早く自分の部屋に戻り、仕事の一つでも、片づけて貰いたいと願っていたのだった。


「仕事、仕事って、うるさいぞ、息抜けをさせろ」

 冷たい視線を浴びせられても、食い下がらない。

 どんなに、突き放した態度をみせても、決して見捨てないことを、長年共にいるので把握していたのだ。

 一見、人を寄せ付けなく、冷たそうなに見えるフェルサだった。

 だが、ソーマと同じように、面倒見がよく、熱い面も持っていたのだ。


「するのは、勝手だが、自分の部屋で、すればいいだろう」

「いやだ。一人だと、つまらないだろうが」

 邪魔だと言っているのに、ケロッとして、立ち去る気配さえない。

「部下がいるだろう。さっさと戻って、部下と話せ」

「仕事を、運んでくるだけだろうが」

「話し相手ぐらいは、なるだろう」


 時には厳しく、面倒見がいいと慕われているソーマも、何事も冷静沈着な行動するフェルサの前では、リラックスするように甘え、頼るのだった。

「面白みに、欠ける」

「付き合えん」

「そう、言うな」

 老齢の表情に、笑みが零れている。


「奥方は、元気にしているのか?」

「変わりはない」

 邪険に扱おうとしても、問われれば、素直にフェルサも答えていたのである。

「それはよかった。今度、久しぶりに遊びにでも、窺うかな」

「年中、顔を合わせているだろう、こうして」

 やや眉間にしわが寄り始めていた。


「奥方とは、会っていないぞ。部下を連れて、遊びに行くから頼む」

「そんなに、パーティー好きだったか?」

 嫌味を、フェルサが口走った。

「気軽な身内だけのパーティーならな」

 あどけなく、ソーマが笑っている。


 このところシュトラー王や、リーシャに合わせるように、貴族たちのパーティーに、二人も、出席の回数を増やしていた。

 それまでは、フェルサや部下、実の弟に任せてばかりで、ソーマ自身、疲れるや、肩がこるなどを言い訳に、あまり出席していなかった。


「……伝えておく」

「よろしく、頼む」

 いつの間にか、フェルサの手が止まっていた。

 いっこうに、仕事が片付かない。

 溜息を吐きたいのは、自分だと巡らす。

 忙しい時に、部屋に居座られると、溜まっていく仕事が減らないのだ。


「フェルサ。お前、冷た過ぎるぞ」

「ここで、溜息を吐くのが、お前の仕事なのか? 陛下だって、仕事をしたんだ」

 シュトラー王のことを、引き合いに出した。

 仕事をサボるシュトラー王を、窘めて仕事をさせたばかりだった。

 それにもかかわらず、ソーマは仕事をしないで、溜まっている仕事をしたい、フェルサの部屋に居座っていたのである。


 さっさと、帰れと視線で促す。

「緊急のものは、すべて終わらした」

 そっけなく返答した。

 上に立つ者としての仕事を、一通り終わらせてから、訪ねたのだった。


(自分が片づけたからと言って、こちらの仕事は、終わっていないぞ)


 自分本位なソーマに、目を細める。

 息抜きに来ているソーマ同様に、緊急でしなければならない仕事は、すでに片づけていた。

 でも、少しでも片づけて、机の周りに積み重なっている仕事を、減らしたいと思っていたのである。

 いっこうに動こうとしない。


「だったら、次の……」

「大丈夫だ。一日ぐらい遅れたって」

 のん気な言い分に、小さく息を吐いた。

 シュトラー王に、無理やり仕事をさせたと言うのに、自分は先延ばしにするのかと呆れ気味だ。

 気を許しているソーマと、シュトラー王を重ね合わせた。


 互いに、似ていないと豪語している二人。

 だが、気分が乗らないと、仕事をしないところは、昔からそっくりとだと、常々感じていたのである。

 最近は、互いに否定するから、口に出していないだけだった。


 しょうがないと、ペンを置いたところで、ソーマの口が開く。

「それよりも、リーシャと、アレスの問題だろう」

「殿下と妃殿下だ」

 誰もいないことを口実に、呼び捨てにするソーマを窘めた。


 副司令官の部屋に、主であるフェルサと、来客者のソーマしかいない。

 周りにいる部下たちは、ソーマが勝手に下がらしたのだった。

 他の人間が聞いたのならば、不敬に当たるが、ここにはフェルサしかいなかった。

 十代の頃より、共に過ごしてきた友にリラックスし、軽口をついていたのである。

 二人は、元デステニーバトルのパートナーで、共に戦った仲間でもあった。


「相変わらず、硬い性格だな、フェルサ」

「お前の方が、緩すぎる」

 長年に渡って、続けられている掛け合いだ。

 ふんと、鼻先でソーマが笑い飛ばす。

「問題を、どうする? ゲイリー邸で、二人に、何かあったのは確かだ。車内の雰囲気が、悪かったって、報告にあったじゃないか」

 長ソファに仰向けになって、ラクにしていた。


(お前の部屋ではないぞ)


 帰れと言わないことをいいことにし、さらにリラックスしている。

「お二人の問題だ。たぶん、いつものケンカだろう」

「それにしても、まだ続いているだろうが」

 当惑しているフェルサの方へ、顔だけを傾ける。

「……」


 メイ=アシュランス子爵邸からの車内の様子や、仮宮殿での二人に関する報告が、上がっていたのである。

 由々しき事態に、ずっと溜息を漏らし、ケンカを繰り返す二人に、頭を痛めていたのだった。

 自分だけでは、判断できかねる問題に、フェルサの元に訪れたのである。


「ケンカをしていたとしても、様子がおかしいだろう」

 一理あると、フェルサも巡らせている。

「剥れて、口を聞かないとしても、長過ぎる」

「……」

「顔を合わせても、口を聞いていないそうだ。仮宮殿でも、アカデミーでもだ」

「……少し、大きいだけだろう」


 夫婦の問題に、やはり他人の自分たちが、かかわるのはよくないと巡らせ、素知らぬ振りを通そうとしている。

 仮宮殿の侍従や侍女からも、リーシャの様子がおかしいことが上がっていた。

 話に乗らないフェルサ。


 ダメ押しを加える。

「現に、シミュレーションの結果だって、如実に現れている」

 どうするか考えろと、訴えっているソーマの顔を窺った。

 けれど、未だに迷いが生じていた。

「だがな……」


「夫婦のケンカに介入するな、か?」

「そうだ」

「普通の結婚とは、訳が違う」

「……」


 午後に行われたシミュレーションの結果が、部下たちにより、二人のところまで伝わっていたのである。

 研究員たちにより、少し遅れて、報告が上がってくるが、ダイレクトで結果を知りたかったために、部下たちをホワイトヴィレッジに、潜入させていたのだ。

 次期国王であるアレスの警備などで、普段から部下たちを、警備に当たらせていたが、王太子妃となったリーシャが加わったことで、警備の数も増大していた。


 以前に、行った測定検査の時とは違い、リーシャのシミュレーションの結果は、散々に悪いものとなっていたのだ。

 全然、集中力が欠けていて、ポイントを上げることができなかったのである。

 すべてにおいて、波形の線が乱れていた。

 対照的に、アレスは普段と変わらない結果を収めている。

 けれど、精神面を表す波形が、多少の乱れを見せていた。


「シミュレーションの時のリーシャの様子も、おかしいだろう。アレスの方に、視線も、声も、掛けなかったそうじゃないか」

「……らしいな」

「測定検査の際は、不安げに、何度も視線を注いでいた。今回は、ずっと傍らに、ラルムがついていて、常に一緒だったと聞いた」


「前回もだろう」

「そうだが、今回は違うらしい。常に、寄り添って、傍についていたと聞いた」

 同じような報告を、フェルサも部下から、聞いていた。

「当初の計画よりも、時間があるからと言っても、結果が悪過ぎる」

「予想していたものより、酷かったな」

 ボソッと、フェルサが真実を述べた。

 予想を大きく下回って、悪かったのである。


「アレスとは違う。リーシャは、感情で左右されるようだからな」

「それを、直していくべきだな」

 神妙な面持ちで、分析しているフェルサに呆れる。

「直すのは無理がある。天真爛漫な子だからな」

「けれど、後々が大変だ」

「直すよりも、気持ちを安定させるべきだ」

「一時的なものだ」

 きっぱりと吐き捨てた。


「クロスの孫であると同時に、フランの孫でもある。あの人は、感情に左右されていたからな」

 昔を振り返り、ソーマがクロスの妻フランの面影を、リーシャとダブらせる。

 二人とも、フランと面識があった。

 明るく無邪気な姿は、クロスとフランの要素を、受け継いでいたのである。


「これ以上、こじれたら、どうするつもりだ?」

「……確かに、安定も必要だとは思うが、長いスタンスで、直す方向も取るべきだ」

 ソーマの意見に、納得しながらも、自身の意見も曲げない。

「そうだ。やる必要性ある」

「で、どうする? 二人の問題に、介入するつもりか?」

「夫婦の問題は、夫婦で解決して貰いたいが……。とにかく、そこが問題なんだ」

 思案のしどころで、穏やかではない顔を、ソーマが天井に傾ける。


 このところ、会う暇もなく、直接本人から、話も聞けていなかった。

 何かあるごとに、それとなく近づいて、話を聞いていたのだった。

 だから、今回のケンカの原因を、掴めていない。

 そのせいもあり、なかなか新たな動きが取れなかったのだ。


「それとなく、リーシャ様に接触して、聞き出すのか?」

「そうだな……」

「やはり、もうしばらく、様子を見るか?」

 迷うソーマ。

 反対するフェルサを説き伏せながらも、介入することに迷っていたのである。

 デリケートな問題に。


「ケンカに、他人が介入すると、こじれる場合がある」

「わかっている。けれど、シュトラーにも、報告するしかないんだ。黙っているかが問題だ、勝手に動いて、後始末を押し付けられる前に、俺たちで対処した方が、問題が小さく収まる。この前のことだって、どうにか収めさせたんだぞ」

 パーティーでの一件を、ソーマが持ち出していた。


 複雑な表情を滲ませる。

 前に、出ようとしたシュトラー王を、どうにか止めたのだった。


「わかっている」

「難しいな……」

「とりあえず、陛下への報告は、もう少しわかってから、するべきだ」

「そうだな。けど、自身で、勝手に動く時があるからな」

 二人を通さず、リーシャたちの動きを、直接《コンドルの翼》を使って、探らせている時があるのだ。


「それについては、気をつけておく必要性があるな。ゲイリーのところへは?」

「あそこは、誰も口が堅い。何があったか、知るのは難しいかもな」

「……直接、私がゲイリーに会って、聞いてみるか」

 どこか、ゲイリーに会うことに躊躇いがあった。

 反シュトラー王派の動きが気になるからだ。


「そうしてくれ、フェルサ」

 面倒を押し付けて、悪いなと無言で謝った。

 自分が会うよりも、フェルサが会った方がよいと考えていたのである。

 派手にソーマが動くと、反シュトラー王派を、刺激することにもなるからだ。


「仮宮殿は頼む」

「わかった。と言うことで、少し傍観するしかないか」

「何も、わかっていないからな」

「だな」

 笑ってみせるソーマ。

 それにつられるように、フェルサの口が緩む。


読んでいただき、ありがとうございます。

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