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お互い黒歴史には触れない方向で意見の一致をみたあたしと彼の話

あたしたちは手を繋いだまま駅に入り、改札を通った。

切符は高田君が前もって買ってくれてたから、帰りの分をあたしが買う事にした。


ホームで話しながら電車を待つ間も、あたしたちはずっと手を繋いでいた。



高田君の手があたしのよりずっと大きい事は知ってたけど、こうして繋いでると改めて実感してしまう。掌の厚みも全然違うし、指は長くて関節が目立つ感じ。爪は短く切り揃えられてて、指先は……うーん、少しかさついてるかな。


「え!?何?」

急に手を引っこ抜かれて、吃驚したあたしは思わず声をあげた。

「それはこっちのセリフだろ」

高田君が困ったように言う。「なんでそんなに撫でまわすんだ?」


あれ?…そんなに露骨だったか?あたし。


「ごめん、嫌だった?なんかあたしと全然違うなーと思ったら、つい…」

えへへ…って笑いながら言うと、高田君はまたあたしの手を取った。

「ああ、確かに全然違うな。宮野の手は小さいし柔らかいし、その上悪戯ばかりする」

そう言って指を絡めるようにして握り直し、クツリと笑った。

「だから悪い事ができないように、こうしとこう」



こ…これは、世間一般でいう恋人繋ぎってやつではーーー!?

そして高田君、そこはかとなく笑顔が黒い。表情が魔王様になってるよ。


瞬く間に赤くなって青くなるあたしを見て、高田君は俯きプッと吹き出す。

「すごい、宮野。リアルで瞬時に顔色変えるやつ、初めて見た」

……そうでしょうともさ。何しろ、目の前に魔王様が降臨あそばされたからねっ!


ムーっと膨らせた頬は、あっという間に高田君の指で潰されてしまった。





電車に乗ったらほんの数駅で目的地だ。

予定よりかなり早く着いたから、まだ遊園地は開園してない。けどフロアーには開園待ちっぽい家族連れやカップルたちが結構目についた。

券売機で先にフリーパスの券を購入して、あたしたちも(ゲート)が開くのを待つことにした。


ここに来るまでに話してたのは、体育祭の事。

漸く決まった体育祭実行委員会と生徒会主催の競技種目は、教職員及び保護者(略してチームKSP)を含むクラブ対抗リレーとなった。

この前、保護者の参加を募るプリントが配られてたから、そこまではあたしも知ってる。


この実行委員会と生徒会で主催する競技は、ここ数年来ずっと綱引きが続いてたんだけど、年々保護者の参加が減ってきてるのが毎年の課題になってたんだって。

綱引きを推す人たちは、飛び入り参加がしやすいとか、事前の準備に手間がかからないとかの利点をあげるし、リレーを推す人たちは、元々点数に関係のない競技だから、参加人数を増やすより盛り上げる事を優先させたらどうかって意見を出すしで、ずっと平行線のままだった。

その上クラブ対抗のリレーだと陸上とか野球やサッカーなんかの運動部が有利になるって意見も出てきて少し揉めつつ、でも結局、点数に関係ないんだから各クラブの個性を生かして走ればいいんじゃないかって事で、2年の生徒会副会長のもと、どうにか纏まったらしい。


うちの学校では、全学年をクラス毎に縦に色分けしてそれでチームを作るんだ。

各学年のそれぞれ1組が黒軍団。

同じく2組が赤軍団って具合にね。

だから各クラスが入り乱れるクラブ対抗リレーには、点数のつけようがない。本当に体育祭を盛り上げるためだけの競技なんだよ。



先日のプリントで募集した保護者の参加人数は、去年綱引きで募集した時と同じくらいだったらしい。参加する保護者さんにとっては綱引きでもリレーでもたいして変わらないのかな。でも先生たちは、学生には負けんぞっ!って張り切ってるそうだから、まあいいんじゃないかなと思う。


「そういえば、今年も借り物競争ってやるの?」

「借り物?毎年恒例だからやるけど、今年は俺は出ないよ。あれを走るのは生徒会の1・2年生と実行委員たちって決まってるから」

「へえ、そうなんだ?」


借り物競争っていうのは、体育祭実行委員会と生徒会役員のためだけに用意された競技の事。体育祭の間中走り回っている彼らは、全員出場の競技以外には出てる暇がない。

そんな彼らのために、この競技の間は他の事は全部置いといて走って下さい、という趣旨で恒例となったのがこの借り物競争なんだって。

でも高田君がいうには、走るのは生徒会役員の1・2年生と実行委員たちだけで、生徒会の3年生は借り物の内容を決める担当になるらしい。

今期の3年生は、高田君の他に会計監査と書記が各1人の計3名で、学校内にあるものを人数分考えて紙に記入し、封筒に納めるまでが彼らの役目なんだそうだ。



因みに去年は『ヅラの人』という借り物があったらしく、ヅラといえば誰もがすぐに思いつくのが教頭先生なんだけど、まさかそんなお題で教頭先生を連れて走るわけにも行かない。


その紙を引いてしまった男子生徒は困惑した後、クラブ行進の時に演劇部員が被ったヅラがある事を思いだした。そして演劇部の備品の箱から奪い取った金髪ロング巻き毛を自ら被り、風になびかせゴールインしたという。


あたしはその次の種目のために運動場の端に整列してたからちゃんと見えなかったんだけど、放送部のアナウンスの盛り上がりっぷりが半端なかったのは覚えていた。



「じゃあ、高田君は去年走ってたんだね。あたし次の準備で見られなかったんだよ、残念」

少しがっかりして言うと、高田君は何故かホッとしたみたいだった。

「でも、別にそんなに楽しみにする程のものじゃないから」

「えーっ!でも高田君が走ってるとこ、見たかった」

「全員出場の競技は走るけど?」

「そういう流れ作業的に走るんじゃないやつが見たいの」

「何のこだわりだよ」

と、苦笑する高田君。


「あーあ、去年から高田君のこと知ってたらなぁ。運動場の端からでも絶対応援したのにっ!ヅラの人が走ってるとこも見てみたかったしさ」

何の気なしにそう言ったら、彼は目を泳がせた。


んん?

もしかして?



「……高田君、まさか去年のヅラの人…だったりする?」

躊躇いつつも好奇心に勝てず問うと、彼は深ーくため息を吐いた。


「……去年の借り物競争は、先輩たちの悪のりが酷かった。ヅラにも参ったけど、毛虫を探して木登りした奴もいたし、『好きな子のハンカチ』を引いた奴は結局リタイアしたんだ。もちろん先輩たちには、後できっちり報復させてもらったけどな」


……高田君、またしても笑顔が黒い…。

そして悪のりした先輩方、どんな目に合ったか知らないけどご愁傷さまデシタ。相手を見るべきだったと思うよ。




「宮野はマスゲームの練習、もう参加してるんだろ?」

ややあって、気を取り直したらしい高田君が訊いてくる。

「うん。いつまでも見学じゃ覚えられないもん。でもなんでみんな、あんなに両手両足がバラバラに動くかな?器用すぎるんじゃない?」

顔をしかめてそう言うと、高田君は一瞬目を丸くして口角を上げた。

「俺、お前が練習してるとこ見てみたい。こっそり見に行っていい?」


「え!?いや!ダメだよっ!今は絶対来ないで!」

まだ曲にのれてすらいない今は、絶対だめだ。


「宮野ってダンスとか得意なのかと思ってた。アイドルになりたいって言ってたくらいだし」

焦るあたしにクツクツ笑いながら、またもや黒歴史をえぐってくる高田君。もうソレ、本気で勘弁してほしい。


「ねぇその発言さ、もう忘れようよ。高田君だって『ヅラの人』って言われるの嫌だよね?」

彼はその言葉に、ピクリと眉を動かした。


この瞬間、あたしたちの心は1つになったと思う。




そうして頷きあったあたしたちは、お互いの黒歴史(ヅラとアイドル)を封印する事で合意に至り、時間がきて開いたゲートを手を繋いだままくぐったのだった。





フリーパスを買った人は、入場時にパスと引き換えに手の甲にスタンプを押してもらう。

これを見せればどのアトラクションでも乗り放題だし、今日1日は入退場も自由に出来るシステムだ。

人気のアトラクションには既に列が出来てるから、急いでコースターに並んだ。

ここは先ず押さえとかないと、一日中列が途切れないって評判だからね。


開園後すぐ並んだからそんなに待つこともなく乗れて、それでテンションが上がったあたしたちは、次々とアトラクションを制覇していった。


何年も前にかのちゃんと来た時とはずいぶん内容が変わってるし、それでなくても高田君と一緒ってだけでドキドキのワクワクだ。

高田君も楽しんでるかな?って見上げたら目が合って、「なに?」って優しい笑みが落ちてきた。

もしかして、またずっとあたしの方見てた?


「なな、何でもないよ。観覧車の乗り場、すぐそこだし乗りにいく?」

若干動揺しつつ訊くと、頭上の電光掲示板で観覧車の待ち時間を確認した彼は、「今そんなに並んでないみたいだな、行こうか」って言った。

それであたしたちは建物の端っこの方の観覧車乗り場へ移動したのだった。



観覧車乗り場は屋内だけど、観覧車自体は建物から飛び出してるので外の景色が楽しめる仕様だ。

ゆっくりと高い所へ昇るにつれ、眼下の人が豆粒のようになり、車や駅や時たま走ってくる電車がおもちゃみたいに見えた。


高田君は、あたしの向かい側で外を眺めてる。

係の人に誘導されるまま先に乗り込んだあたしの正面に、高田君が腰を下ろしたからだ。

てっきり並んで座るものと思ってたからちょっと気が抜けたけど、顔には出てない…筈!

それにこんなとこで万一膝だっこされても困るしさ。向かい合わせがいいよ、うん。


そうして窓から外を見下ろしてはしゃいで、ふと気づくと頂上が近くなっていた。



観覧車といえば、あたしでも知ってる恋人イベントの王道だ。

もしかしてここで何か起こったりする?

期待してる訳じゃないけど、異世界にいた時も一度そんな雰囲気になった事があった。

あの当時猫だったあたしは、猫のままじゃ嫌だ!って拒否しちゃったんだよ。


でも今は人間だし……もしかしたら、って気もする。

そう思うとなんだか高田君の方を見られなくて、頑なに窓の外に視線を固定し、殊更はしゃぎ続けた。


内心ドキドキのあたしとは裏腹に、視界の端っこに映る高田君は静かに窓の外を見てる。

あれ?何か機嫌悪い?

それにさっきから喋ってるの、殆どあたしだけだ。


気づいた時には、ゴンドラが頂上を通過していた。



うん、何も起こる訳なかったね。


ていうか、何かあるかも…って思った自分が恥ずかしいわ。

今のはなかった事にしよう。そうしよう。



下降する時は何故か言葉数が少なくなり、ただ外を眺めるうちにいつの間にか降り口が迫っていた。

今度は高田君が先に降りて振り返り、手を差し出してくれる。

機嫌悪いと思ったのは気のせいだったかな。


観覧車はゆるゆると動き続けてるから躊躇ってる暇なんてない。あたしが手を伸ばすとグッと握って引っ張られ、ポスンと彼の胸にぶつかるように着地した。


そのまま彼に手を引かれ、係員さんに「ありがとう」って声をかけつつ出口へ歩き出す。



20段程の階段を降りる時に自然にまた指が絡まったのをきっかけに、半歩先を歩く高田君の手を引き声をかけた。

「ねぇ、お昼はどうする?もう少し後にする?」


手にスタンプがある人は、みんなそれを利用して外に昼食を食べに出るから、このお昼前後の時間帯は行列が少なくなる穴場的な時間ともいえるらしい。

「お腹すいてきた?」

振り返った高田君が問うので、まだ大丈夫って答えたら、じゃあもう少し遊んでからお昼を食べに行こう、って笑ってくれた。


まだ入ってないのはお化け屋敷と、恐竜を銃で撃って点数を競うやつ。それと閉じ込められたゾンビの館からヒントを元に出口を探すリアル脱出ゲームの3つだ。


待ち時間の少ない所から並んで、全部のアトラクションを制覇した時にはもう1時半を少し過ぎていた。

それであたしたちは一旦外に出て、遅めのお昼ご飯を食べる事にしたんだ。



食べた後で面白かったアトラクションだけもう一度乗りに来よう…って決めて、あたしたちは一先ず遊園地を後にしたのだった。



体育祭と生徒会に関するアレコレについては、今回もこれ以降もフィクションって事で……。

そんな学校もあるんだな、と流しておいていただければ有難いです。



それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!

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