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にゃんの華麗なるステップ

魔王城は、少なくともあたしの予想とはまるっきり違ってた。

あたしの貧相なイメージでは、暗雲漂うボロボロの廃墟のような城で、至る処に骨が転がってたり毒ガスが吹き出てたり、という如何にもみたいなのだったんだけど。


実際は優美なフォルムの、白亜の城だった。

中に入ればボロボロということもなく、物陰から魔物が襲ってくる…ということもない。


油断してはいけない、と思いつつ幾分気が抜けた感は否めない。

あたしを抱えた安藤さんが言った。

「高田君は確か、歴代魔王の資料読んでたよね?」

そんな物があるの?

あたしが耳をピクピクさせると、安藤さんがすかさず耳の付け根をカリカリしてくれる。

はぁ、天国ぅ。うっとりしてたら高田君にジッと見られてた。いやいや、油断してませんってば。


「資料は一応読んだ。何かの参考になるかと思ったからな。けど、3代前まで遡ったが役にたちそうもなかったからやめた」

えー、なんで?なんで決めつけちゃうの?何かわかるかもしれないじゃん。


あたしの抗議の視線に負けたのか、やや狼狽えた高田君は、大体で良ければ、と話しだした。


「こんな話しは昨晩のうちに済ませておくべきだった」

と言いながら高田君が教えてくれた内容は、あたしたちを唖然とさせた。


前回の魔王の復活は80年程前だった。そもそも魔王の復活といっているが、同じ魔王が復活してくるわけではないらしい。

毎回毎回、全く違う魔王が現れるのだ。

前回の魔王は少女の姿だった。召喚されたのは聖女のみで、勇者はいなかった。魔王の城は今回とは全然違う、王都の東の辺境に現れ、それはお菓子でできていた。


この辺りであたしたちの顔には、何それ、という表情しか浮かんでいなかった。

お菓子の城って、あたしには某有名な外国の童話に出てくる『お菓子の家』のお城バージョンしか思い浮かばないんですけど?

この世界の人には通じないかもしれないが、安藤さんも、その資料を読んだときの高田君も同じことを思ったはずだ。

「お菓子でできた城もどうかと思うが、この時は襲ってきた魔物が全て動物の姿をしていた。正確には、その辺にいる動物に角や牙が生えたものだ」

「魔物の姿も違うのか?」

ユトさんの言葉に、高田君は頷いた。

「80年前だし、お年寄りなら覚えている人もいるかもしれない。資料にはそう残っている。」

高田君の話は続いた。

「その前の魔王は更に50年前だ。その時は城ですらなく洞窟だった。魔物は緑色のドロドロした粘液を纏った爬虫類っぽいもので、魔王はそれの親玉といった風貌だったらしい。簡単な絵が残ってたが、SF映画に出てくるエイリアンっぽいと思った」

「何それ、全然違うじゃない」

と、安藤さんは顔を歪めた。

確かに粘液とか気持ち悪すぎ。

「そのもう1つ前も聞くか?そんな感じで毎回全然違うんだ」

高田君の言葉に安藤さんは首を振った。確かに参考になりそうもない。

「ただ、エイリアンの魔王の時だけど、この時は勇者しか召喚されていないんだ。その前の時も勇者だけ。今回のような、聖女と勇者を同時に召喚というのは、俺が読んだ資料の中には無かったし、過去あったとしても最低200年以上前ということになる。その辺り教会はどう考えてるのでしょう?」

高田君はソルハさんの方へ向き直った。

自然皆もソルハさんに視線を向ける

「教会にはそういった詳細な資料は残っていません。あったとしても禁書庫の中で、私には読む権限がありません」

ソルハさんは困ったように笑った。

「タカダ殿が読んだのは王宮の資料でしょう?恐らく歴代の勇者や聖女が直接書いたもの」

「そうです。俺はこっちの字は読めない」


そういわれればそうだ。言葉が通じてたから何も思わなかったけど、字が違うんだ。こっちの世界であたしたちが読めるのは、過去に召喚された人達が書いたものしかあり得ない。

あれ?でもそれにしたって……?


「過去のことはわかりませんが」

と、ソルハさんは前置きして言った。

「今回の召喚に関して言えば教会は、聖女様と勇者様合わせて一人分と認識しています」

どういうことだ?とあたしたちは首を傾げた。

「我々が召喚術を行うとき、聖女様を、或いは勇者さまを、と指定する事はありません。我々はただ、現れた魔王に対応する者を呼び出すだけ。それが今回は二人だったという事です」


つまりそれだけこの二人の、それぞれの能力が低いと判断された、ということだろうか。

安藤さんは悔しそうに唸り、高田君も微妙な表情をみせた。

「実際にはお二人とも『にゃん』を抱いていれば、過去の召喚者に勝るとも劣らぬ力を発揮される。この場合不思議なのは、にゃんの存在でしょう」

全員の視線があたしに集まった。

安藤さんの腕の中で身じろぎするあたし。なんか居たたまれないんですケド。

そして、さっき頭をよぎった疑問はすっかり忘れてしまったのだった。




「にゃんの事はともかくとして、今話してるうちに、過去の召喚者が残した資料で引っ掛かる部分がでてきた。俺自身が気になってる事もあるし、少し考えたい」

高田君は、例えば、と言った。

「安藤、ノイシュヴァンシュタイン城って知ってるか?」

「??シンデレラ城のモデルになったという城でしょう?写真でしか見たことないけど」


ねずみの国のお城のモデルで有名な城だ。白亜の……ちょうどこんな…あれ?

安藤さんも気づいたみたいだった。

「えっ…と、似てる?」

似てるかといわれれば微妙だがイメージは明らかに近い。

「じゃあ、城内の様子はどうだ?」

安藤さんは困惑したようだった。

「お城の中なんてここのしか見たことないし、わからないわ」

安藤さん、この国の城は見たんだな。あたしはどこも見たことないしわからないけど、この城の中は言われてみれば違和感だらけだった。

大広間やなんかは大きな窓と豪奢なカーテンが目立ち、色鮮やかなカーペットが引かれているが、小さな部屋に入れば急にせせこましくなり、日本のありきたりな洋室っぽい雰囲気になる。

意味もなく大きな螺旋階段が現れ、気紛れにお姫様の部屋のようなひらひらふわふわな部屋があったかと思えば、何の脈絡もなくだだっ広いだけの学校の教室のような部屋にぶち当たる。

この城を作った人は、城の内部を知らないのではないかと思えた。いや、あたしも知らないんだけどさ。


そう考えた途端、不意に頭に浮かんだ恐ろしい考えにあたしは愕然とした。

まさか、そんな…と高田君を見上げると視線が絡む。



ふい、と視線を逸らせたのは高田君だった。

彼は今度はユトさん、ソルハさん、ゼスさんに言った。

「ここまで俺が話した中で、『お菓子の城』『エイリアン』『ノイシュヴァンシュタイン城』『シンデレラ城』という言葉について、何か思った事はないですか?」

3人は顔を見合わせた。

「何の話だかさっぱり?」

「異世界特有のものなのでは?」

「あんたたちにはその言葉の共通認識があるってことか?」

「そういうことです」

最後のゼスさんの答に、高田君は頷いた。

「俺たちと同じ『日本』からやってきた大抵の連中なら『お菓子の城』『エイリアン』で過去の見たことがない魔王城や、魔王の姿を連想できる。今回の城に関しては『ノイシュヴァンシュタイン城』或いは『シンデレラ城』と資料に残せば、この先この国に召喚された人たちには、どんな城だったか伝わるでしょう」



みんな高田君の言葉を考えているようだった。

「でもそれじゃ、魔物の姿もそうなの?私たちの倒してきた魔物は!?いかにも、って姿してたじゃない?」

安藤さんだった。

「俺、ゲーム結構好きだったろ。中学まではRPGばかりやってた」

それでわかるだろ、と言わんばかりの気まずげな高田君の言葉に、でもあたしの頭はごちゃごちゃになるばかりだ。

あたし頭悪いのかな。今まで顔覚えが悪い以外は普通だと思ってたけど、安藤さんや高田君よりは確実に悪そうだわ。




高田君は少し整理したいと言い、黙って歩き出した。

どんよりするあたしを抱えた安藤さんは、先頭を進む高田君から遅れないよう必死で歩く。

遅れがちな安藤さんを気遣って、ユトさんやソルハさんが後ろを、ゼスさんが右側についてくれたけど高田君は気づいてなくて、そんな高田君に誰も声をかけられないでいるようだった。


あたしが重いんだよね、ごめんね。でも万が一の事考えたら、抱っこされてる方が安藤さんが安全だし。


あたしは困って思わず、待ってぇーーーっ!、と鳴いた。

瞬間、弾かれたように高田君が振り向き、遅れがちな安藤さんに気づいた。

「悪い、気が急いてた」

それからはペースを合わせて、ゆっくりと歩いてくれたのだった。




城に入ってから一匹の魔物も見ていない。そのくせ何処かからずっと誰かに監視されているような気配を感じる。

あたしたちはずっと、落ち着かない気持ちで進み続けていた。


広い廊下の両側に幾つものドアが並び、突き当たりに階段が見える。階段を上るのはこれで3つ目だ。単純に考えても次は4階ということになる。


「静かすぎて気持ち悪い」

安藤さんがポツリと洩らした。

あたしも、多分他のみんなも感じていることだ。

「仕掛けてみるか?」

そう言ったのはゼスさん。

「ここで暴れてみるか?都合が悪くなりゃあ向こうから出てくるだろう」

凄い力任せな案が出ましたー。ゼスさん、相当ストレス溜まってそうです。

高田君はどうするのか、と見ると。

「それもいいけど…」

いいんだ!?高田君もストレスが……!?

「対決する前にもう少し考えをまとめたい。まだ襲ってくる気がないならここに結界を張れるだろうか?それとも一度城から撤退したほうが?」

尋ねられたユトさんは、「ここでもできないことはないけど、嫌な感じがするし、万全を期するなら撤退したほうがいいな」と告げた。


そうしてあたしたちは、戦略的撤退ってやつをすることになったのだった。



城から出たところでユトさんが、いつものように結界を張った。この辺りは昨日浄化を済ませたところで、魔物の気配はなく、結界のお陰か城の中のような視線も感じない。

数時間振りに寛いだ雰囲気になり、みんな焚き火のまわりに思い思いに座り込んだ。



さあ、あたしの出番ですよ。

ストレスたまってそうなゼスさんも気になるけど、あたしが今一番気にかかるのは一人難しい顔して何やらグルグル考え込んでいる高田君の事だ。

あたしは安藤さんの腕から飛び降り、高田君に向かってテチテチ歩いた。


あたしは普段あまり、自主的に安藤さんから離れたりしない。ので、みんな何事か、とあたしを見た。


前にこうして近づいた時は拒否られたんだよね。

思えば少しは仲良くなれたのかな?

目を真ん丸にしている高田君の、胡座をかいた膝を前肢でタシタシと叩く。

「え、何?」

訳がわからない表情の彼に、足崩してー!と鳴いて訴え、更にタシタシ叩いたら、足崩せって言ってるんじゃない?と、声がかかった。

ユトさんナイス!

次は、呆然としたまま足を崩し片方の膝を立てた高田君の後ろにまわり、伸びあがって両前肢を背中に当て、ギュウギュウと押す。

次は寝転んでー!と鳴くと、今度はすぐに通じたのか、半信半疑な顔つきでうつ伏せに寝てくれた。

ギャラリーの呆気に取られた顔を気にしてはいけない。



さあ、あたしの肉球マッサージで癒されるといいわ。


あたしは高田君の背中に飛び乗り、肉球を押しつけるようにステップを踏み、マッサージを施した。

あらやだ意外と楽しい。リズムにのって跳び跳ねてみたりして。

…タンタタン、スタタンタン!



すると何故か、ぶはっ!……と誰かが吹き出し辺りは爆笑の渦に。

「何を始めるのかと思ったら、にゃん最高!」

「面白すぎるだろ、お前」

みんな息も絶えだえ、といった風情で笑っている。


解せぬ。


が、みんな癒されているようなので良しとするか?

でも、一番癒してあげたかった筈の高田君があたしの下で、顔を真っ赤にしているのは何故でしょう?


みんなに笑われたのがそんなに嫌だった?



ごめんね?

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

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