彼はあたしに選択をせまる
いつも来て頂いてありがとうございます。
突然ですが、1話から8話にかけて改稿致しました。
にゃんの台詞を「猫の鳴き声」(日本語)で表記していたのですが、9話以降、猫の鳴き声を「」無し、又は省略。日本語も( )無しで表記するようになっていったため、思いきって1~8話もそのように統一しました。
それに伴い、地の文章も多少変更していますが、内容は変わりません。
少しは読みやすくなってたらいいのですが(^_^;)
でも全然読み返す必要はないです。
ではでは、ちぴっとでもお楽しみ頂けたら嬉しいです。
もうとっくに避難していると思ってたあたしたちが何処にもいなかったんだから、慌てるのも無理ないよ。
宰相さんは避難する時に、人事の執務室から名簿を持ち出してきてたんだって。ちゃんと全員避難できたか確認するためにね。
その名簿と照らし合わせて、どうやらあたしたちは内政調整室の人たちと同行してる事、彼らが誰一人避難出来ていないって事が分かった。
潰れてしまった一階部分と落ちてきた二階部分をソルハさんが魔法で探索したけど、生体反応ってやつがなくて、でも誰もまさかの事態は考えなかったらしい。それとも考えたくなかったのかな。
後宮でゼスさんと一緒に女性たちを捜索していた騎士さんたちは、二手に別れて居残った者がいないか確認しながら一階に降りたのだけど、途中それらしい者は居なかったと報告している。
ただ崩れていて先に進めない箇所は幾つかあったので、そういうところは声をかけて反応がなかったからそのまま先へ進んだという事だった。
それならば、聖女様たちもどこかで進めなくなって上階に戻ったのかも、という話になり、捜索隊を組んでいるときにお城の北側から淡い光が溢れ出した。
聖女様だっ!聖女様が呼んでおられる!
みんな、一斉にそう叫んだらしい。
で、光の出所を探しに向かおうとしたら、高田君が黒い馬に飛び乗った。
「中を進むのは危険だろ。俺が外側から行く!」
そう言って、エンジェルちゃんたちを引き連れて、あっという間に空へかけ上った。
そこから後は、あたしたちも知ってる通りだった。
それから、あの時どうして突然師団長が現れたのかというと、実は高田君があたしたちの元に飛びたった時、おっさんはどさくさに紛れて逃げ出していたんだって。
彼と同じテントに第2部隊の連中もみんな押し込められてて、転移能力者だけは捕まった時からずっと気絶していた。
能力を使って逃げないように、ユトさんが雷の魔法を流したか何かしたらしいよ。
おっさんはその転移能力者を殴って無理矢理起こし、意識が朦朧としているそいつに、高田君が向かった先を指差した。
「あそこへ転移しろ!今すぐにだっ!」
ユトさん曰く、転移能力っていうのはそんなに使い勝手のいいものじゃないし、転移先の情報も前もって必要で、いきなりさあ連れていけと言われても、そうそううまくいったりはしないものらしい。
師団長が転移して来たのは高田君が来てから少なくとも10分以上は過ぎていた、って安藤さんが指摘した。
ユトさんは、それならやっぱり一度目で上手く着かなくて二度か三度跳んだのだろう、と言った。
転移の能力者は人数が少なく、研究もそんなに進んでいないけど、能力者の魔力値によって跳べる距離や回数が変わる事は分かっていて、第2部隊の転移能力者は二回跳ぶのがやっと。三回跳べばもう動けなくなるそうだ。
確かにへばってたもんね、あの人。
師団長が何を考えてこんなことをしでかしたのかはまだわかっていない。
これから、全部白状するまできっちり締め上げる、とユトさんは言った。
ただ、王位を狙っていたのは間違い無いだろうという事、安藤さんや高田君を狙ったのは、計画が失敗した逆恨みじゃないか、とも言ってた。
師団長はあんまり陰でこそこそ策を練るタイプじゃないから、もしかしたら大司教に唆された可能性もある、って話だ。
あたしももう疲れちゃってあんまり難しい事は考えたくないし、高田君や安藤さんが無事に日本に帰ったら、あとの事はこの世界の人たちで考えればいいと思うよ。
でもさ。
……あたしはどうしたらいいんだろう。
お互いの話が一段落して、ユトさんは宰相さんの所に戻って行った。
まだまだやることが一杯で寝る暇があるか心配、って笑ってたけど、あれは冗談じゃなかったと思う。
お城は結局あの後、小康状態を保っている。
といっても使い物にならないのは明らかだし、全員避難できた今となってはいっそキレイに崩れてくれた方がいいんだけどなぁ、っていうのもユトさんの弁だ。
ソルハさんが言うには、この城はもともと、昔のお馬鹿な国王が『神の祝福』を閉じ込めるために造った城らしい。
あたしは実際には見てないけど、話に聞いただけでも、この世界の人たちから見ても、ここの後宮は常軌を逸した造りになっている。こんな所に閉じ込められてた『神の祝福』は、空を見上げ迎えを待ちながら何を考えてたんだろうか。
日本の記憶はあったのかな。だとしたら、きっと帰りたかったよね?
こんな城、きれいさっぱり崩れちゃえばいいよ、とあたしも思った。
ユトさんが行った後、ソルハさんも挨拶をして出ていった。教会の人たちと、大司教の処遇について話し合うらしい。もう証拠固めはほぼ終わってるって話で、教会側の大司教に荷担していた連中も捕らえられている。
あとは、大司教本人の口から細かい事を聞き取りして貴族の協力者も割り出し、やつの罪を余すところなく白日の元に晒してやります、と彼は黒く微笑んだ。
ゼスさんも、王女の様子が変だったからちょっと見てくる、と言い置いて行ってしまったので、テントの中はあたしと安藤さん、そして高田君の三人になった。見た目でいえば、一匹と二人だけどね。
あたしはクッションを用意して貰えたので、その上で丸くなって薄目をあけてぼんやり二人を見てる。
安藤さんが抱っこしようとしてくれたんだけど、高田君の目に人間として映ってる、と知ったからにはもはや高田君はもちろん、安藤さんにも抱っこしてもらいにくくなってしまった。
女子高生に膝抱っこされる女子高生。
怪しすぎるでしょ。
そんなわけであたしはお一人様です。
もうこのまま寝ちゃってもいいかなぁ。
そしてーーー。
「安藤、ちょっと相談があるんだけど」
高田君が声をかけた。
「何?」
「ほら、前に少し話にでた『魔王を倒したら“祝福”で満ちる』っていうのがあっただろう?」
「ああ、王がまだどこからも報告がない、って言ってたやつね」
安藤さんは首を傾げた。
「お前、魔王城であの子を還した時、何かそれっぽい感じはあったか?」
高田君の言葉に、安藤さんは考え込む。
「これといって何も。何か発動条件があるのかな?それに、そもそも祝福ってなんなんだろう」
「ソルハさんが言ってた、昔の『神の祝福』が起こしたという奇跡……新種の作物だっけか。あと空から酒が降ってきた、とかそういったものじゃないかと俺は思ってるんだけど、……ソルハさんに詳しく訊いておけばよかったな」
「酒が降ってきた……って。その時の『神の御使い』はどんだけ酒好きだったの、って話よねぇ」
安藤さんがクスリと笑う。
「それだよ。『神の御使い』が願えば、その通りの奇跡が起きるんじゃないかと思うんだ」
「んん?でも実は私、お城の中をさ迷ってる時にこれでもかってお願い事してたけど、何一つ叶わなかったんだよね」
困り顔の安藤さん。
そうか、あの時最後の方になるほど思い詰めた顔してたけど、一生懸命神様にお願いしてたのかもしれない。彼女たちをこの世界に呼んだ神様に。
一拍置いて、高田君は言った。
「俺もそろそろアイツを還してやろう、と思う」
「あの黒馬ちゃんを?」
「ああ、ずっと還りたがってる。一段落つくまでは、って待たしてたからな」
「そう言えばあの黒馬ちゃんの名前、いい加減教えてくれてもいいんじゃない?あるんでしょ?」
安藤さんが前のめりになった。
やっぱり名前あるんだ?てっきり無いと思い込んでたよ。
あたしの尻尾がピーンと立った。
こういう状態って、高田君の目にはどう映ってるんだろうね。
「たいした名前じゃないし、もう還すから必要ないだろ」
ちょっと嫌そうに言う彼に、安藤さんはムーッと唇を尖らせた。
「勿体ぶっちゃってさ」
拗ねた顔も安定の美少女っぷりです。
このテントは一応、勇者様御一行用として準備されたものだけど、ユトさんとソルハさんは恐らく戻ってこない。
ゼスさんはどうかな?わからないな。
安藤さんは他の女性たちが使うテントも勧められたんだけど、今までずっとこのメンバーで旅してたんだから今更だし、よく知らない女性たちに気を遣わせるのも申し訳ないから、って断ってた。
高田君は明日にでも、一応ユトさんたちに報告してから奴を還すつもりらしい。正体の分からない『祝福』については、黒い馬を還す事で何か分かるだろう、と彼は思ってるようだった。
もし二人で一つの奇跡が起こせるのだとしたら。
高田君が安藤さんに持ちかけた相談っていうのはそれで、高田君の中ではもうその奇跡が決まってるみたい。
もし、奇跡を起こせるとして、好きな願いが叶うのだとしたら、二人は一体何を願うんだろう。
やがてあたしは丸まったまま眠ってしまった。
どの位たったのか、ふと目を覚ますとゼスさんが戻ってきてて、転がって寝てる。
安藤さんもスゥスゥ寝息を立てていて、高田君は…と見ると、パチリと目が合った。
片膝を立てて座った彼は、左腕を押さえている。
痛くて眠れないのかな。
そう思い当たったら申し訳無さで一杯になった。
あたしのせいで怪我したのに、自分だけぐぅぐぅ寝ちゃうとかあり得ない。
立ち上がって彼に近づき、痛むんだよね、ごめんね、って鳴いた。
高田君は黙って首を振る。
そして小さな声で、目が覚めたんなら散歩にでも行かないか?と言った。
雲が出ていて、月も星も見えない夜だった。
避難所を囲むように幾つかの篝火が焚かれていて、その回りは明るいけれど、少し離れればより一層深い闇が覆っている。
こんな時、あたしの定番の位置は安藤さんか高田君の腕の中だったんだけど、今は無理かも。
それに暗くても猫の目にはちゃんと見えるからね。
高田君の隣をテチテチ歩くあたし。
途中すれちがった兵士さんは、高田君を見て、あたしを見て、お気をつけて、とだけ言った。
テントの群れからも、篝火からも少しだけ離れた丘の斜面で高田君は腰を下ろした。左腕が使えないからやりにくそう。
彼の隣に立ち止まったあたしに右手が伸ばされる。
「こっちに、くるか?」
……えーっと、高田君には今も人間に見えてるんだよね、あたし。
躊躇ってると、彼の眉がほんの少し悲しげにひそめられた。
嫌がってるんじゃないよ!恥ずかしいだけだから!!
あたしは覚悟を決めて、一歩二歩高田君に近づく。
手が届く距離になった途端、彼は右手で掬うようにあたしを抱え膝の上に下ろした。
「やっと捕まえた。お前ここに来てからずっと俺を避けてただろう」
吃驚して固まるあたしに、高田君はそう言った。
ばれてましたか……。でも高田君だけじゃなくて、安藤さんも避けてたんだからね。
訊きたい事はいっぱいあった筈なのに、なんだか何も出てこない。
それで、一番気になってた事だけ言う事にした。
ごめんね。いつも心配かけてお世話になってばかりでごめんね。役に立たなくてごめんね。
その上今回は怪我までさせてしまって、しかもあたし暢気にグーグー寝ちゃってるし、ホントにごめん!
そしたら高田君は、疲れてたんだからゆっくり眠ればいい、と苦笑して言った。
「それに、それをいうなら俺も、ちゃんと助けられなくてごめん、って言わないと。もっと格好よく助けられたら良かったんだけどな」
結局最後はゼスやユトに助けられたし、と怪我をした左腕を見てため息をつく。
そんな事ないよっ!高田君が来てくれた時、どれだけ嬉しかったか、安心したか言葉じゃ表せないね。もうイケメンが光輝いて見えたよ!
あ、最後の一言は心の声だった筈なのについ言っちゃった。
思わず前肢で口を塞ぐと、彼は吹き出した。
「やっぱりお前、面白い」
……『面白い』評価頂きました。
昨今のアイドルはバラエティでお笑いもこなせて当たり前。てことは、これは誉め言葉ととるべき?
考えるあたしに、彼は真面目な顔に戻って言った。
「それに優しくて、思いやりもあるし勇気もある。もうずっとお前から目が離せないんだ」
吐息のような声で、
「頼むから……俺を選んで欲しい」
彼は囁いた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




