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にゃんが心配症すぎる件について

さて、今更ですがあたしの旅の仲間をご紹介致します。


まずは勇者様。日本からこの異世界へ召喚された高田君です。

そして聖女様。同じく日本から召喚された安藤さん。あたしの元同級生。


更に、この世界の魔法使いであるユトさん。

僧侶のソルハさん。

武闘家のゼスさん。

職業についてはあたしの推測なので、責任は持ちません、悪しからず。


最後にあたし、日本では『みゃんちゃん』と呼ばれ、ここでは『にゃん』と呼ばれることになった元女子高生で今は猫です。


なんかおかしい?あたしはもう諦めたので、皆さんもスルーしてください。

猫の何が悪い。モフモフは正義だ。


………。


ええ、相変わらずモフモフされてますともさ(遠い目)。




数日前の宿屋で行われた作戦会議で、あたしは幾つかの新しい事を知った。

王都からアンサバを結んだ線の更に先に、魔王城があること。

今まで勇者様ご一行が浄化しながら進んできた道が、特に魔物の被害が大きかったこと。

それは魔王城に近い距離程、魔物の発生率が高いからだ。

実際、同じ国の中でも魔王城から離れた地域には、まだ魔物の被害が報告されていない土地もあるという。


ここへきてあたしを加え、浄化のスピードが上がり、快進撃ともいえる速さで魔王城を目指す『勇者様ご一行』は、一躍時の人となっていた。

うっかり街中で勇者一行とバレた日には、領主や町長などの街の有力者からの晩餐会や壮行会?のお誘いのみならず、一般市民からは揉みくちゃの歓迎に合い、八百屋のおっちゃんには「頑張ってくれよ」の声と共に山盛りの野菜をもらい、食堂のおばちゃんからは「ありがとうね」と食べきれない程の弁当を持たされた。もちろんあたしはどこへいっても一番人気のもふもふアイドルだ。そして男連中には夜のお誘いなども密かに、或いは露骨にあるらしい。


あたしと安藤さんは顔を見合わせて薄笑いを浮かべ、鼻を鳴らした。


男達は口々に潔白を訴え、嘘ではないと聖猫様(あたし)に誓ったので、まあ信じてやってもいい。



そんなこんなで、あたしがこっちの世界に来てから20日ほどが過ぎていた。


安藤さんや高田君はいつ、この世界に呼ばれたんだろう。

魔王を倒したら日本に帰れると言われたらしいけど、その話はどこまで信用できるんだろう。


これが最近のあたしの頭を占めている事だ。


あたしはいいんだ。日本に帰っても死んじゃうだけだし、この世界で生きていく覚悟はしている。

それが猫の姿だってのが予想外だったけど、きっとどうにかなる。だってもふもふアイドルだもの。


でも、安藤さんも高田君も帰りたい筈だ。あたしみたいに望んで来たんじゃなくて、無理矢理召喚されて来たんだから。



あたしがまだ女子高生だった頃、友達に借りて読んだ一冊の小説があった。

一般にライトノベルと分類されるそれは、いわゆる『聖女様』ものだった。


日本の平凡な女子が聖女として異世界へと召喚され、彼女を守る騎士や魔法使い達と力を合わせ、聖なる力で人々を襲う危機から世界を救うのだ。


聖女様はその異世界で好きな人を見つけ、異世界に残って幸せになるんだけど、貸してくれた友達の話では『聖女様』ものはとても人気があるジャンルらしく、様々なパターンがあるんだって。

『日本に帰ってハッピーエンド』の他に、異世界に残るパターン。あたしが読んだのはこの、異世界に残るパターンなのだけど、その中にも更に色々あって、戻れる道があるにも関わらず残る決断をするパターン。

戻る方法がなくて諦めるパターン。

この戻る方法がない中には、『敵を倒せば戻る道が開ける』と騙されて、戦いを強いられるパターンもあるそうな。


なんか嫌な予感がしませんか?


この国の腐った偉いさん達がどこまで信用できるのか、嘘をついていないと言い切れるのか。


あたしは気にし過ぎているんだろうか?


あたしの心配事を他の人に伝えるのは難しい。

あたしが猫語しか喋れないからね。

あたしが人の言葉を理解していると、わかってもらえているかも怪しい。

あたしに関しては不思議な事ばかりなので、普通の猫でないことはわかってもらってる筈だけど。

冗談でも『聖猫(にゃん)様』とか持ち上げられちゃってるくらいだしね。







今日はとうとう魔王城のある森に辿り着いた。流石は本家本元というべきか、襲ってくる魔物の数もレベルも半端なかった。

それでも、にゃんがいるお陰で全然違うんだよ、と安藤さんは笑ってくれる。

浄化の祈りにも時間がかかるようになり、効果の出る範囲もずいぶん狭くなった。

時間がかかる分、襲ってくる魔物を撃退し、聖女様を守らなくちゃならない。

ユトさんの雷の魔法が炸裂し、辺り一帯の魔物と一緒に森の木々を黒焦げにした。

ソルハさんの炎の柱は頭上高くそびえたち、空から襲ってくる魔物を追いかけてうねり狂う。 

ゼスさんは驚いたことに素手で戦っているにも関わらず、彼の拳や蹴りを喰らった魔物は悲鳴をあげて消しとんでいった。暴力的な音さえ聞こえなければ、それはまるで優美な舞のようにも見えたかもしれない。


そして高田君は、例の背中の剣を抜き金色の光を纏わせた。

横なぎに振り抜いた剣から放たれた光は、高田君を取り囲んでいた魔物達を一瞬で凪ぎ払い塵にした。

それは以前あたしを抱っこして光を放った時程ではないものの、充分に目を奪う光景だった。



「にやん!ごめんね、もうちょっと我慢してね」

安藤さんは祈りの合間にもあたしを気遣ってくれる。

あたしはいいの。あたしはいいんだよ、頼むから自分を気遣ってよ。

ユトさんとソルハさん、ゼスさんと高田君、みんなが安藤さんを背に庇って戦ってる。

あたしには安藤さんを守ることは出来ないんだから。

せめて、あたしに気を取られたりしないで。


安藤さんと一緒にあたしも祈る。誰にかわからないけど、あたしも祈るから。


みんなが無事でありますように。

安藤さんの笑顔が消えませんように。


この世界で出会った親切な人達、まだ会ったことのない優しい人たちを守れますように。

あなたたちを守るために、あたしはここに来たんだよ。






魔王城のある森の攻略はなかなか手間どっていた。

森に入ってから、結界を張って夜営するのは4日目だ。

結界を張ってくれるのはユトさん。

昼は全力で戦ってて、夜は一晩中結界を張って、身体は大丈夫なんだろうか。

あたしの心配は安藤さんや高田君の心配でもあったらしい。

高田君が直球で聞くと、安藤さんも眉尻を下げて一緒に詰め寄った。


「心配ないよー。戦っている時はその辺の余力は残してるし、結界は一度張ったらあとは殆ど魔力を消費しないからね」

そういうとユトさんは小さな声で、ありがとう、とつけ足した。


ユトさんは小さな頃から魔力値がとても高かったそうだ。その年齢としては異常といえるほど。

自分で制御できない魔力に小さいユトさんは癇癪を起こし、溢れた魔力は暴発する。

疲れはてた家族は、ユトさんを切り捨てた。魔力の研究施設へ預けたのだ。

以来ユトさんは、施設で魔力実験の被験者となって生きてきたという。

「俺の魔力値は多分今、この国で一番高いよ。そしてありとあらゆる魔法を受けてきたから、大抵の魔法は俺には効かないんだ。それでこの仕事が回ってきたんだな。魔王の魔法が俺に無効かどうかは試してみないとわからないけどね」


そういって笑うユトさんは、きっと色々な感情を飲み込んでいる。


ソルハさんは教会の導師さんなのだそうだ。

赤ちゃんのときに教会の前に捨てられ、そのまま教会の孤児院で育った。

長じて見習いから始まり、徐々に階級を上げ導師となった。

けれど、十数年前から少しずつ腐敗しつつあった教会をずっと見続けてきたソルハさんはとうとう耐えきれなくなり、導師となったのを切っかけに教会の闇に切り込んでいくようになる。

それを鬱陶しく思った上層部に無理矢理ここへ追い遣られたそうだ。

「もっと偉くなってから手を出すべきだったんでしょうが、後ろ楯のない孤児では導師でも破格の地位でしょうし、何より私がもう我慢できませんでしたからね」

ソルハさんもそういって笑った。


ゼスさんは若い頃からずっと傭兵をしていたそうだ。

あちこちの国を流れ渡って、数年前にこの国に戻ってきた。その時たまたま催されていた武術大会に、腕試しで出場したら優勝してしまった。

そして観戦していたこの国の王女に気に入られ、王女付きの護衛となるよう勧誘された。

「魔が差した、としか思えねぇ」

と、ゼスさんは言った。

あっという間に後悔する羽目になったそうだ。我が儘娘のお守りは戦うより疲れる。

けれど契約は傭兵にとって何より大切だ。ゼスさんは3年我慢した。

そしてとうとう耐えきれなくなり、契約の残り2年の任期をなかったことにしてほしい、と王女に申し出た。

ゼスさんに執着していた王女は、意外なことにOKした。

但し、この旅に同行して魔王を倒し、無事に帰ってくる事を条件としたのだった。

「王宮では腐った連中が自分達の都合のいいように、この旅は絶望的だって適当な噂を流してたからな。王女はオレが断るか、もし同行するとしたら死んでもいいとでも思ったんだろ。生憎死んでやる気は更々ねぇけどな」

ゼスさんはいつものように、口角を上げニヤリと笑った。


その色気、ときたら王女様が執着するのも分かるわー。


そもそもこのパーティーは顔面偏差値がやたら高いんだよ。

安藤さんがクラスのマドンナだっていうのは、前にも言ったよね?

茶色がかったふんわりヘアーは、あたしが覚えてたよりも少し長くなっていてふんわり感もアップ。大きな瞳にプリプリの唇が魅惑的だ。

高田君は高田君で、キリッとした眉に涼しげな目元の爽やか系イケメン。

猫になってからは身長とかよくわからないけど、安藤さんと比較するに相当高いと思われる。

こんな人が同じクラスだったら、きっと一番に覚えるだろう。うん、多分。

個人的には、最近よく抱っこされることに戸惑いを覚えております。

安藤さん以外の面子があたしをモフってると、奪い取りにくるのだ。

かといって自分がモフるわけでもなく、頭を撫でる程度。

そして心配そうにあたしを見るのは最早デフォルト。何がしたいのかな?


ユトさんは肩の下くらいの金髪を襟元で一つに纏めて、普段は青いローブを身に付けている。ローブは魔法使いが好んで着る衣装で、色に決まりはないそうだ。人好きのする笑顔の持ち主で、この世界のお姉さんたちは皆フラフラと吸い寄せられるように近づいてくる。モフる技術は安藤さんに続くNo.2である。なのであたしは極力近づきたくはない。あたしにとっては危険な男だ。


ソルハさんは薄い色の金髪が腰の辺りまであって、やはり襟元の辺りで一つに纏めている。

教会では偉くなるほど髪を伸ばすものらしく、上の階級の人では床に引きずるほどの長さの人もいるとか。

落ち着いた風貌で、憂いのある目元。なのに実は笑いの沸点が低い?しょっちゅうクスクス笑っているギャップの人だ。但し近づく女性たちには氷の眼差しを送って撃退していた。


ゼスさんは一言で言うと漢っぽい。

短い黒髪に鍛え上げた肉体。服の上からでも分かる胸板の厚さに女の人は皆、熱い視線を送っていた。王女さまもこれにやられたのかもしれない。


あたしはこのメンバーが、それぞれ個性的な見た目で本当によかったと感謝しております。

全員の髪型が一緒で、髪の色も一緒だったら絶対見分けついてないからね。





明日からは、いよいよ魔王城の攻略が始まる。


今回、説明回ですね。すみません。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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