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【番外編】傭兵はふわふわウサギの夢を見るか 1

ゼスさん視点です

オレがアイシャ王女に出会ったのは3年ばかり前の事だ。




10代の半ばを過ぎて故郷の村を飛び出したオレは、最初に辿り着いた大きな街『グレイス』のギルドでFランク冒険者として登録し、希少植物の採取や低レベルの魔獣を狩るところから始めた。


魔獣は『魔』という字がついてはいるが、いわゆる『魔王』とともに現れる『魔物』とは全く違う。

『魔物』は倒されると消失してしまうが、『魔獣』は消えたりしない。じゃあ何が普通の獣と違うかというと、『魔獣』は食用にならないのだ。その肉は臭すぎたり、固すぎたり。種類によっては毒になるものもあった。

だが、食べられないからといって誰も狩らないのでは、数が増えすぎて人や家畜が襲われる羽目になる。

それで、『魔獣』の討伐がギルドに依頼されるようになったのが何百年も昔のことらしい。

討伐対象となって『魔獣』の研究が進むと、その角や牙、毛皮や爪等が、武器や防具の素材として、或いは魔法の媒介として役に立つことがわかってきた。

そして、魔獣討伐はギルドに集まる依頼の中でもありふれたものとなった。


毎日山や森へ分け入り、魔獣を倒し素材を切り取り、Cランクまで上がった。


オレには魔力があるにはあるが、それを単体で使うにはどうにも適性がない、と気づいたのがこの頃だ。

火をおこしたりする程度のささやかな魔法なら使える。

だが、魔法で攻撃や防御をするには全く追いつかない。


試しに、武器に魔力を乗せるというのもやってみた。

が、これも思うようにはいかない。

魔力値が低いわけではない。むしろ高いほうだ。ユトに比べれば鼻で笑われるような数値だとしても。


うまくいかず、くさっていたあの頃。

オレはあの男に出会った。


山で相変わらず魔獣を狩っていたオレの前に現れたその男は、武器も何も持たずに魔獣を一撃で倒した。

流れるような動きで、優雅に微笑みながら。


どうやらオレが魔獣に襲われていると、勘違いしたらしい。

オレはまだ成長期の途中で、身体もそんなに大きくなかったからな。


獲物を横取りされてオレは怒ってもいいはずだった。

けど、そんな気は更々起きなくて、気がついたらオレはその男に弟子入りを志願していた。


男のその、流れるような無駄のない動きに魅了されていた。


何度断られてもしつこくついて回り、最後はオレの粘り勝ちだった。

そうしてオレはレイさんについてこの国を出、傭兵として諸国を放浪する生活に入ったのだった。


レイさんにはあらゆる事を教わった。

それまで我流でこなしてきた全てが、いかに効率の悪いものだったかを、思い知らされた。

ーーーと、レイさんに言ったら「自分も我流だけど?」と、言われたが。


我流の師匠(レイさん)に習ったやり方は、やっぱり我流になるのか?

わからんから取り合えず、勝手にオーウェン流と呼ぶことにした。


彼の名は、レイ・オーウェンという。




人間相手の戦い方に全くの素人だったオレに、レイさんは1つづつ丁寧に教え、オレはそれを戦場で実践して身につけた。


今、大国同士で戦争しているところは無い。オレたちを雇うのは、主に大陸の端っこで領土争いをしている小国だったり、盗賊に頭を痛めている辺境の領主だったりした。


旅をして雇われ、依頼をこなし、また旅に出る。そんな生活を何年も続けた。

オレは自分の手に、足に、身体に直接魔力を流すことを教わった。

物を通さずじかに魔力を操ることで、今まで使いこなせていなかった魔力が初めて自分のものになったのだ。



そしてレイさんに出会って7年。


旅の空で彼は突然、故郷に帰って結婚する!と言い出した。

「レイさん、知らねぇのか?結婚ってのは相手が要るんだぞ」

と、俺が言うと、

「そんなの当たり前だろ。故郷にちゃんと居るんだよ」

と、言いやがる。

「あんた幾つだよ。つか、相手は何歳なんだよ。もう7年以上待たしてるってこったろ?」

「お前、師匠の歳も知らんの?自分は35。彼女は一応女性だからノーコメント。故郷は10年前に出てきた」

「相手、絶対ぇ待ってねぇよ。今頃帰ったって、もうさっさと違う奴と結婚してガキの2~3人もこさえてるんじゃねえの?」

そう言うと、彼は驚いた顔をした。

そんな可能性は全く考えていなかったらしい。酷ぇ話だな。


レイさんは慌てて、すぐにでも故郷に旅立とうとする勢いだ。

襟首を掴んで引き留めどうにか話を聞き出せば、10年前その彼女さんにプロポーズしたときに、『まだ仕事に専念したいんだよね』と、あっさり断られたのだとか。


うん、それ確実にきっぱり振られてるよな。


けど、うちひしがれてる男にそんな直接的な表現は躊躇われる。

それで、

「この10年の間に連絡取ってみた事はあんのか?そろそろ結婚してもいい、みたいな返事貰ったとか?」

と訊いてみた。もちろん、少なくともこの7年にそんな様子は全く無かったことは知ってたが。



……………。

案の定、音信不通もいいとこじゃねーか。


断られたショックで旅に出たらこれが思いの外楽しくて、気づいたら10年も過ぎていた。

もう結婚する気になってくれたんじゃないかなぁ、と思って帰ろうとした。

そういうことらしい。

渾身、かどうかは知らないが、プロポーズを断られたショックを癒すのに10年かかった、ということだろうか。

その内の7年分は、もしかするとオレの責任だったりもするのか?

今更そんなこと言われてもなぁ……。



どうしたもんだろう。

この恐ろしいほど強い男は、吃驚するほど人の心に疎い。

10年ほったらかしの彼女が、まだ自分を待っていると信じて疑わない程度には。

ま、それ以前にプロポーズ断られてんだけどな。


しかし、旅先のあちこちで粉かけられまくっても見向きもしなかったのがレイさんの一途さゆえだとわかった今は、どうにかしてやりたいとは思う。思うのだが、真っ当な常識人のオレには絶望的な未来しか見えない。


困り果てたオレは、付いていってやろうか?、と申し出てみた。

そうすれば、まず間違いなく訪れる悲劇の時に、一緒に酒でも呑んで慰めてやることくらいできるだろう。

それで責任を取らせてくれ。



だがレイさんには断られた。

そんな状態で、弟子同伴で故郷に戻るのは流石に格好悪いと思ったらしい。


「ダメだったらまた旅に出るわ。今度は15年もしたら帰れるんじゃね?」

のほほんと笑う彼に、ダメだったら必ず連絡寄越せ。しょうがないから旅に付き合ってやる、と半ば無理矢理に約束を取り付けた。



そして、オレは独り立ちすることになったのだった。




遠い故郷を目指すレイさんを見送ったあと、俺も自分の故郷に戻ることにした。

もう7年足を踏み入れてないが、ギルドにオレの籍は残ってるんだろうか?

レイさんには、連絡はギルド宛に寄越せ、と伝えたから、もし登録が抹消されてたら再登録しないといけない。


そんな事を考えながらのんびり一人旅を楽しみ、半年かけて故郷の、オレにとっての始まりの地であるグレイスに戻った。

ギルドで再登録の手続きをしたオレを待っていたのは、驚いた事にレイさんからの手紙だった。


早すぎんじゃね?


彼の故郷は海を越えた向こうの大陸だという話だった。

凄く遠いってのだけはわかる。

半年前に別れて、故郷に着いてこの手紙をしたため、それが海を越えてこの国のオレのとこにもう着いている、つてのはどうなんだ?


封を開けてみると、慣れ親しんだ師匠の字で『自分の嫁は美人だぞ!』とだけ書かれていた。


……『嫁』って事は、うまくいったのか!?


脱力感に襲われたオレは、手紙の住所に『お幸せに!』とだけ、送り返した。

彼の手紙が本当なのか、それともオレを心配させまいとした嘘なのかはわからない。

ただ、彼はこの7年間オレに、どんな些細な嘘もつかなかった。


いつかレイさんの嫁さんに会ってみてぇなぁ、と思いながらオレはギルドの職員に勧められるまま王都を目指した。

なんでも10年に1度の武闘大会が開催されるらしく、腕に覚えのある奴は皆こぞって参加するのだそうだ。

故郷の国でありながら、王都にはまだ一度も行ったことがない。

王都見物も兼ねて、行ってみようと思った。




そうして王都に着いてみると、武闘大会の受付はもう2日前に締め切られたという。

つい習性でのんびり旅してたのが不味かったか。

顔をしかめるオレに、運営委員会を名乗る男は薄笑いを浮かべながら言った。

通常の受付をすると無料だが、予選から参加して最低3試合は勝ち残らないと本選に参加出来ないらしい。

しかし、金貨を10枚用意すれば今からでも本選から出場出来るという。


金貨10枚といえば大金だ。庶民なら家族で一月は暮らせる。

それは正式なルールなのか?だとしたら随分えげつないルールだ。


そう思うオレに、男は重ねて言った。

このルールを使うのは、予選から参加する時間のない忙しい者や、本選に参加する事に意味を感じる貴族だと。


つまり予選で負けて恥をかきたくない者、ということか。


そして、本選で勝ち残り、賞金で支払った金貨を取り戻す自信がある者。


最後の言葉に男は力を入れた。


どうやら本選でベスト8まで残れば順位に応じた賞金がでるらしい。

8位で金貨10枚。

優勝すれば500枚なのだとか。




金は、ある。

7年間で稼いだ金は殆ど遣っていなかった。

独りもんだしな。たいして道楽もない。

考え込むオレを脈あり、とみたのか男は揉み手をせんばかりの勢いだ。


賄賂、なんだろうなぁ。

オレは男を見た。多分オレが渡す金の半分程度は、こいつの懐に入るのかもしれない。けど、10年に1度の大会だしな。

この国の武術のレベルも知っておきたい。



財布を取り出すオレを見る男の目が輝いたのが、少しムカついた。




そんなこんなで始まった本選に出場したオレは順当に勝ち進み、四日目の準決勝に進出することになった。

準決勝及び決勝戦の今日は、王族が臨席されるという。





そうそう、『魔法を使ってはいけない』という以外、ルールらしきもののないこの武闘大会では、みな得物を使う。素手で戦っているのは、どうやらオレくらいだった。

そして参加してすぐ気づいたが、賭け事も行われていたらしい。

最初、素手で戦うオレに賭ける奴は殆どいなかったようだが、今となっては一番人気だ、とわざわざ囁きにきた奴がいた。


準決勝。

ハンマーを振り回す、オレの2倍近くはありそうな大柄な男を相手に一撃で勝負を決め、湧きに湧く観客席を眺めると、一段高いところに何やら大袈裟な席が設えられている。


そこにふんぞり返って座っていたのが、アイシャ王女だった。



遠目ではあるが、その顔が恐ろしく白い事、その態度が恐ろしく偉そうな事くらいはわかる。


権力者の典型みたいな奴だな。近寄りたくねぇ。

オレはそっと目を逸らした。


やがて会場では、別の一組の試合が始まった。

この試合で勝った方とオレが戦い、優勝者を決めることになる。

オレはどちらと戦う事になるのか、試合に集中することにした。

一人はありふれた剣を握り、もう一人は双剣使いだった。

たがどちらも、言いたかないが無駄な動きが多すぎる。

さっきのハンマーもそうだった。

この国が平和だって証拠だろうか。

国に雇われている軍人や騎士ならともかく、戦いの場がなければこういった連中は傭兵にもなれない。精々冒険者として魔獣を相手にする程度なら、腕も錆び落ちて当然だ。


試合に興味をなくし、無意識にさ迷った視線が再び王女にとまる。

高々と組んだ足の上で頬杖をつき、欠伸をしていた。



オレはまたそっと、目を逸らした。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


『聖女さま~』に足りないものはなんだ!(足りないものだらけだ)

いやいや、それは私の力不足で……。

そーじゃなくてそれ以外で!

つまりラブが足りないんだっ!(だって相手が猫だから…)


そんな訳で(?)少しでもラブになりそうな人達を書いてみました。

ユトさんはそーゆーの興味無さげだし、ソルハさんではBLでダークなお月さま展開しか思い浮かびませんでしたよ(;_;)



なんだそりゃ…な話ですが、1週間お付きあいいただけましたら嬉しいです。

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