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にゃんは崩れ行く城の叫びを胸に刻む 

大変、間があいてしまいました。

久しぶりの投稿ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

あたしと安藤さんが避難する人たちの列に加わり、高田君やユトさん、ソルハさんたちが、宰相さんと別れて後宮に向かう、その少し前のこと。


先に後宮へ向かって走り出していたゼスさんと、国王たちのあとを追っていた4人の騎士は、その後宮の入り口で数人の男と睨みあっていた。




あたしは遠く離れた場所を見透せる訳じゃないし、元は只の女子高生で今は只の猫に過ぎない。

不思議な光を出したりできるのは安藤さんが居てくれてこそであって、あたし自身にはきっと何の力もない。


だからこれはもちろん、全部あとから聞いた話だ。




ゼスさんは、後宮の場所こそ知っていたけど中に入った事はなかった。

そりゃそうだ。

後宮っていうのは、国王以外の男性は入っちゃいけないんだよ。

王子様だって『男だから』って理由で、5歳の誕生日を過ぎたらもう自由に出入りしちゃダメなんだって。

そして後宮に住むお妃様たちは、滅多な事では後宮を出る事はできない。

つまり、王女様は女の子だからいつでもお母さんに会えるけど、王子様とお母さんは、王子様が5歳を過ぎたらもう余程の事がないと会えないんだ。

5歳って、日本でいったら幼稚園くらい?

まだまだお母さんに引っ付きたい盛りだと思うんだけどなぁ。


何が言いたいかっていうと、それくらい徹底して男を排除してるって事だよ。




後宮の出入り口っていうのは一つしかない。そこ以外の出入りは完全に閉ざされた袋小路の世界だ。

城の中心部に、窓ひとつない石壁で覆われたもうひとつの大きな建物が存在していて、三階層あるその中心には空に向かって開けた中庭がある。

それが、いわゆる後宮だった。

後宮自体は三階層でできているけどその位置は、城でいうと四階から六階の部分だ。城の四階に後宮の一階部分がある、ということになる。

後宮を囲う石壁は三階の更にその上まで伸びていて、周りからの視線を遮る役目を果たしていた。


この城は、後宮を守る石壁を中心に、その周りを取り囲むようにできている。


後宮の内部は、中庭を四角く囲む形で廊下があり、その廊下に沿って部屋が並んでいる。部屋の窓は全て中庭に向いている、つまり廊下側にあるという不思議な造りだ。

一つしかない出入り口は、その三階部分にあった。城でいうなら六階部分だ。

出入り口がある後宮の三階部分には、お妃様たちの世話をする女官や女性騎士、下働きの下女などの部屋があり、二階には厨房や洗濯室、図書室など、後宮内だけで全てを賄える設備が整っている。

そして、一番出入り口から遠い一階部分に、エリア毎に分けられたお妃様たちの部屋があった。


日本人のあたしから見ると、この作りはヘリコプターやドローンなんかを使えば中を覗き放題に思えるんだけど、この世界にはもちろんそんなものはない。

空を飛べる人なんてのも当然いないので、城内の一番中心の一番高い所で石壁に囲まれたこの場所は、宰相さんの言ったとおり『もっとも攻めにくい場所に堅牢に』作られているということなんだろう。


一階部分は東西南北の4つのエリアに分けられていて、そこはそれぞれ二階からの専用階段でしか降りられないようになっている。東に第二妃様、西には第三妃様が住まわれていて、北におられた第一妃様はもう何年も前に亡くなられたそうだ。それ以来ずっと空いている。

南のエリアはその時々、国王が気に入った女性を住まわせるための場所らしい。ここが一番部屋数が多くて、しかも常に沢山の女性がいる。

だから子供の数がやたら多いんだな。


でもそんな情報だって、外部の人間には全くわからない。

ともかく、閉ざされたこの小さな世界がお妃様たちの世界の全てで、外の男たちからするとこの小さな世界は未知の世界そのものだ。


その、未知の世界の入り口には分厚い扉があって、外側には見張りの兵士が、内側にはお妃様たちの護衛も兼ねた女性の近衛騎士が詰めている、筈だった。

本来ならば。




ゼスさんたちの前で、その扉は大きく開け放たれていた。扉の外側を守っていた兵士は3名。

全員が床に倒れている。


そして『男』という存在が許されない筈の、その扉の向こうに立ちはだかる数人の男たち。


ゼスさんはその男たちに見覚えがあった。


「お前ら、第2部隊だな。あの二人を逃がしたのはお前らか!」

ゼスさんが怒鳴ると、中の男たちはニヤリと笑った。

「陛下と師団長をお守りすることが我らの役目だ。陛下に刃向かうお前に、とやかく言われる筋合いはない。それにお前、我が儘変人王女のお()りは馘になったんじゃなかったのか?」

「まだ馘じゃねぇ!そいつが今ここにいるんだよっ」

あと変人いうなっ、と呟きながらゼスさんは扉の中に駆け込んだ。

けれど、入った途端に何故か外に出てしまう。

試しに腕だけを突っ込むと、その腕が横からニョキリと生えてくる気持ち悪さだ。

「空間を歪めやがったな!」

ゼスさんが獰猛に唸った。

その頃には宰相さんの命令を受けた百名の騎士たちもやって来て合流してたんだけど、そのあまりの不気味な現象に顔を引き攣らせている。



第2部隊っていうのは魔法に特化した特殊部隊なんだって。

普通の人には使えないような、特殊な魔法を使える人たちで構成された部隊だ。

ゼスさんを阻んだ『空間を歪める魔法』っていうのもきっとそう。


入り口はここだけだし、中に入れなくては不審者を追うことも、中の女性たちを保護することもできない。

焦燥の色を滲ませるゼスさんたちを嘲笑うように、第2部隊の男たちは後宮の奥へ消えていった。




「くっそ!ふざけんなよ」

ゼスさんが悪態をついた時に、それは始まった。


ミシミシと音をたてる天井と床。断続的に続く揺れ。パラパラと崩れ落ちてくる何か。


崩壊の跫はここにも聞こえていた。




何だ地震か!?と辺りを見まわし慌てる騎士たち。

だけど地震にしては絶え間なく、長く続き過ぎる。

不安な面持ちの騎士たちの中の誰かが叫んだ。

「まさか、あの言い伝え!?」




後宮にあるという、『全てを終わりに導く仕掛け』のことは城に勤める者なら誰でも知っている。もちろんゼスさんも。

詳しい内容なんて知らないし、信じてるわけでもない。声高に触れ回ったりもしない。けど、誰もが何となく聞いたことがある。

まるであたしたちのいう『都市伝説』みたいなもの?


そこが後宮の前だけに、咄嗟に思い出したんだろう。そしてそれは当たっていた。


ゼスさんもまた、それを確信した。

それほど城全体が軋み、歪み、悲鳴をあげていた。

「あの野郎、『石』を抜きやがったんだな。バカじゃねぇのか」

低い声で吐き捨て、右腕に魔力を流した。


その時鐘の音が鳴り始める。

もう躊躇している余裕はない。



鐘の音は響く。

長く一度、短く二度、を繰り返し、逃げろ逃げろと。城を捨てて生き延びろと。



ゼスさんは魔力を流した右腕で、石壁を殴りつけた。

強固に作られている筈の石壁が、破壊音を響かせ崩れ落ちる。

人一人が潜り抜けられる程の大きさのその穴に腕を突っ込み、ゼスさんは口角を上げた。

「入れねぇなら、別の入り口を作りゃあいいんだ」


唖然とする騎士たちを残し、ゼスさんは穴の向こうに消えた。




鐘は鳴り続け、地鳴りも揺れも続いている。騎士たちだって、躊躇ってる時間はない。

あり得ない、と呟きながら彼らはゼスさんの後を追って、次々と穴を潜って行ったのだった。







馬が城内を移動する姿というのは、中々シュールな光景だと思う。

でも、今そんなことに気を取られる人なんていない。

みんな自分の身を守る事に必死だ。


謁見の間から後宮に向かうには、一旦階段を降りて別の階段で上がらないといけないらしい。

避難する人たちの横をすり抜け城の深部を目指すユトさんたちの姿を、みんなチラリとは見るけど、すぐに自分の足元に視線を戻してしまう。

床に入った亀裂は盛り上がり、瓦礫や割れた何かの欠片も転がり、とにかく危ないのだ。

揺れは酷くなる一方で、もうまっすぐ歩く事も難しい。城全体が軋み傾き始めたせいか窓枠がひしゃげ、歪んだガラスの割れる音がそこかしこに響いた。

それはまるでお城が叫んでいるようで耳に痛い。


砂埃がもうもうと舞い、頭上から予告なく何かが落ちてくるので、みんな上衣を脱いで頭から被っている。

身体中を灰色に染め、うつ向いて揺れを気にし、音に怯えながらヨロヨロと歩くその姿は、さながら地獄へ向かう行進のようだった。


時おり特にキツい揺れがくると、頭を抱えて蹲る。

そしてまたソロソロと立ち上がり歩き出す、を繰り返した。

余所見なんかしている余裕もなかった。



そんな行進の中に、後宮の女性たちと思われる人々が混ざり始める。

15人前後の、煤けた…それでも元はきらびやかだったと解る衣装を頭から被る女性たちを4人ほどの近衛騎士が前後から誘導し進んでいた。

或いは、女官や下女と思われる女性たちの一群が誘導されてくる。

そんな人々と何度も何度もすれちがった。


一体後宮という所には何人の女性がいたのか、目を疑う程の人数だった。



ユトさんは、そんな一群を誘導していた騎士の中の一人を呼び止め、他の者は先に行かせて報告を聞いていた。

どうやら知った顔だったらしい。


後宮内部の事は、ユトさんにもおぼろ気にわかるそうだ。

後は第2部隊の連中がいた事。これも知ってる。

国王と近衛師団長の姿が見えなかった事。

そして、第三妃様とその女官たち、王女様の姿も見えず、ゼスさんと10名の近衛騎士が捜索している事。

それ以外の騎士たちはみんな、女性たちの誘導にあたっている事。


早口で報告を終えたその騎士は、何故殿下自らこんな危険な所に?、とユトさんに食ってかかった。

自分が後宮へ戻るから、殿下はこのまま避難してくれ、と。



ユトさんは埃まみれの顔で、清々しく笑う。

「俺が行くのが一番早いと判断したからだ。大丈夫、死にはしない。何しろ此方には勇者がついている」


高田君の表情は微妙だったらしい。



ユトさんは宰相さんと別れる時に、城の外に一時的に避難所を作り、それを管理する施設を作る事を打ち合わせていた。城内のどの部所に何人が所属していたのか、その人々が全員避難できているかを把握するためだ。

その施設に宰相さんがいるから指示を仰ぐように、と言い置き、また避難する人々とすれ違いながら先を急ぐ。



誰の姿も見かけなくなった頃に後宮の入り口に辿り着いたみんなは、もちろんその壁の大穴がゼスさんの作品だなんて知らない。

だけどユトさん以外は入り口から入れない事を確認するや、その穴の意味に気づいた。

ユトさんの、ほとんどの魔法が効かない、って話は本当だったんだね。



「ここは、その元魔王サマには無理だな」

ユトさんは穴の前でそう言って、黒い馬を見上げた。

「後宮には中庭があって、上には空が見えていた。元魔王サマはそっちから回った方が早いだろう」

と、遠くに見える窓を指した。

この頃にはもう城の殆どの窓枠は大きく歪んでいて、ガラスも全部割れ落ちている。

高田君は頷き、黒い馬に指示した。


奴は二蹴り、三蹴りで窓に到達し、歪んだ桟を蹴り飛ばして空中に躍り出た。そのはずみで窓枠ごと、壁の一部が崩れ落ちる。

奴は上空に向かい、その姿は見えなくなった。




次の瞬間、壁の穴の向こうから、早く来いとばかりに奴のいななきが聞こえてきた。

ユトさんたちは、苦笑しつつ順番に穴を潜ったのだった。





その頃のあたしたちはというと、立ち往生していた。



あたしたちがいた謁見の間はお城のかなり上の方にあった。

避難誘導してくれている騎士さんによると、謁見の間より上には後宮を囲う石壁と、さっきまで鳴っていた鐘くらいしかないらしい。だだっ広い屋上スペースは、兵士が定時に巡回する以外立ち入り禁止なのだそうだ。


つまり地上から離れていた分、あたしたちは避難する人たちの中でもかなり出遅れていた。

多分、運も悪かったのかも。




目の前で天井が崩れ落ちて廊下が塞がれ、あたしたちは前に進めなくなっていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


前書きにも書きましたが本当に久しぶりだったので、内容確認のため改めて最初から読み返してみたら、うわぁ……泣きそうに拙い文章。

こんなのをずっと読み続けて下さって感謝しかないです。

だんだん進歩してるよ、とか思っていただけてたら嬉しいのですが……。



そして、更新ストップしてた間もじわじわとブクマや評価をいただき、とても励みになりました。本当にありがとうございます!


前回終了時に一行が二手に別れてしまったのでどうしようか、とずっと考えていたのですが結局こんな形になりました。


分かりにくいんじゃないかな、とドキドキしております。気が小さいので…。


ここから私的にはクライマックスな感じですので、ヨロヨロと走って行こうと思います。

(でも途中で少し番外編的なものが入るかも)←小さい声


次もお付き合い下さったら嬉しいです。

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