97 伊勢観光~内宮~
外宮よりバスで10分ほど行ったところに「おはらい町」という内宮に繋がる石畳の街道がある。道の両端に木造建築の店が連なり、風情ある景観の街道が約800mほど続く。伊勢で一番の観光地である。
「牛串がありますわよ!」
「うわー! 美味しそうっす!」
るるぷ(旅行雑誌)片手に銀華が指を差し、瀬良ちゃんがはしゃぐ。片手には外宮前で買ったお土産「ぱんじゅう」を持って。こいつら、ここに来た用事をそっちのけで食い道楽する気でいやがる。ちなみにぱんじゅうとはパンとまんじゅうを合体させたようなお菓子で、中に餡子が入っており、パンみたいな生地がふわふわで美味しかった。
「赤福! 赤福いきますわよ!」
「わーい赤福赤福ー!」
あんころもちの茶屋「赤福」で抹茶と赤福を食べて休憩。はぁ、甘くておいしい……
「何このでっかい干物?」
「わかりませんわ!」
「サメの干物なんて食べるのね、伊勢の人は」
でかい魚の干物が目立つ干物店ではしゃいでみたり。
「勾玉アクセサリーですって!」
「綺麗だねー」
「いや、お土産は後にしろ。荷物になる」
そんな感じで満喫しながらおはらい町を歩いて行って、やっとこさ内宮前にたどり着いた。うん、800mなのに色々寄り道してたからそれ以上に長く感じたよ。というか銀華と瀬良ちゃんのテンションが終始高すぎる。私達もそれなりに楽しんだけどね。
内宮に入る前に、銀華が使用人の山本さんに言う。
「山本、わたくし達は内宮でやることがありますの。先に戻ってホテルのチェックインをしておいてくださる?」
一般人の山本さんを巻き込むわけにはいかないという配慮である。ここから進むのは魔法少女と神獣だけだ。うん、内宮には一般人の参拝客いっぱいいるのに、今更って感じもするが。老紳士な山本さんは深く追求せずに「わかりました」と了承した。
鳥居をくぐると、森の中。先ほどとは別世界のような感じだ。
「神社の中は自然豊かなんだね」
「むやみに木を切り倒してはいけないことになっているからな」
そういえば外宮じゃ野良神獣にたかられてたむつきだが、内宮じゃ大丈夫なのだろうか?
「むつき、またたかられてない?」
「ううん……ここは静かな感じする」
むつきはまだ警戒してるのか、キョロキョロしているが、外宮みたいな感じはしないらしい。
「……静かだな。まるで主の眠りを妨げないようにしているみたいだ」
クロモが低い声で呟く。主って何? ……聞くまでもないか。ここの主は天照大御神だ。だけど「眠り」? 一体何のことだろう。
「まぁ、行ってみればわかるよ」
「……そうね」
そして私達は正宮の石段を上る。参拝客はたくさんいるのに、確かに何故か静かな感じがする。賽銭箱に小銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼をすると……
何も起こらなかった。
「あれー? ここで何か起こると思ってたんだけど」
「おかしいわね……あの調整者の言ってた『伊勢』ってここじゃないのかしら?」
キッカ姉が首をかしげる。これはハズレなのか……とか言ってると、クロモが正宮の奥を指差す。
「まだ終わってないよ。ほら、あそこ」
「あらまつり……みや?」
奥に進むと、『荒祭宮』という神社があった。そこには鳥居も何もない。
「これは……」
「同じだよ。外宮と同じ第一別宮。つまり荒御霊を祀る場所」
「荒御霊……荒い御霊か」
うん、結局荒い御霊って何だろうね。なにゆえ荒ぶっているのだろうか?
「なんか伊勢神宮って普通の神社とは色々違うね」
「古式ゆかしいのだ。社の建て方一つ取っても、他ではやらなくなった建築技法が使われている。なんせ2000年前からある神社だからな」
2000年前からあるの? それって平安や奈良時代よりもっと昔……弥生時代の頃から? 随分古い歴史を持ってるんだね……日本史ってある意味異世界よりファンタジーめいてない?
「とりあえず行きますわよ!」
銀華がずんずん進んでいく。私達は全員で参拝し、正宮と同じように二礼二拍手一礼をした。そして一礼から体を起こすと……異変に気付いた。
周りに私達以外の参拝客がいない。
「これは……一体?」
キッカ姉がきょろきょろ見渡しているが、やはり私達以外いない。クロモとデンが気付いたように言う。
「これは……『入った』みたいだね」
「異空間……か」
なるほど、異空間に入ったのか。荒祭宮はそのままある。だけど現実とは雰囲気が違う気がする。
「ここが調整者の子が言ってたところかしら?」
「分からんな。ただ、あの社殿……奥に何かいる感じがするが」
「ラスボスがいそうですわね!」
いや、ここ伊勢神宮だから。こんなところでラスボスいないから。いるとしても神様だから。いや、神様がラスボス……そういうのもありなのか? そんなことを言ってると、上からぴょこんっと小さい何かが落ちてきた。そしてその小さい何かが喋りだす。
「おう、来たな客人! 何か知らんが、歓迎しろって言われてる! 俺っちの後についてこい!」
ソプラノの少年のような声を上げたのは、手のひらサイズの小さな着物姿の小人だった。それを見て、銀華の肩に止まっていた鼠が驚きの声を上げる。うん、お前いたのか。存在感ないな。
「スクナヒコナ様!?」
「お、ネズ公。俺っちの名前知ってんのか? そうだ、俺っちが少彦名様だ!」
スクナヒコナ……なんか私も聞いたことある気がする。一方、銀華はピンと来てないような顔で尋ねる。
「何ですの? スクナヒコナって」
「かつて出雲の大国主命と一緒に活躍した国造りの偉い神様ッチュ」
「おうさ。今は十二神将の一柱、子神とかいう役職をやってる。まぁ、ネズ公どもの親分みてーなもんだなっ!」
そう言って笑う小人。つまりチュースケの上司ってことか。それにしても……うん、小さい。でも偉い神様……なんだね? 威勢のいい掛け声でスクナヒコナが案内する。
「ま、とりあえず俺っちについてきな。おい、そっちじゃない。こっちだ!」
そう言ってスクナヒコナが目指す方向は、荒祭宮の社殿ではなく、空の彼方。その先にはまばゆい太陽が輝いてる。
「へ? 空?」
「お天道さんってのは空にあるもんだろ?」
「この社殿は?」
「参拝用、儀式用だな。今回は特に用はねぇ!」
ここじゃないのか……さっき「社殿の奥に何かいる」とか言ってたデンが「くっ、違ったのか……」とか言いながら恥ずかしがってる。
「つーわけで飛ぶぜぇ!」
いや、飛ぶってどうやってだよ。すると銀華がマジカルチャームを持って変身する。
「分かりましたわ! 飛べばいいんですのよね!」
飛べるの銀華!? すると銀華は「私は鳥……いやむしろ堕天使……きっと飛べる……飛べるはず……」とか小声でブツブツ自己暗示をかけてる。あ、これ飛べないやつだ。そこにスクナヒコナが突っ込む。
「あー、そうじゃねぇ! 普通の魔法少女が飛んだって辿りつけねぇって!」
「……え? そうなんですの?」
「ちゃんとした移動手段があるんだよぉー! 龍神んーーーー!!」
スクナヒコナが空に向かって叫ぶと、突如空が黒くなった。見上げると、巨大な影が浮かんでいる。銀華がぽかんとして口を開ける。
「で、でかい……」
巨大な、長大な、川のように大きな黄金の龍の姿だ。
「あれに……乗るの?」
「おうよ! 天橋立ってやつだぁ!」
アマノハシダテ……? よ、よく分からないがスケールが大きいな。
「どうやってあんなのに乗りますの?」
「そこはジャンプして跳ぶんだよぉ!」
結局飛ぶんかい!
とりあえず私は変身したが、とてもジャンプとかできそうにない。というか飛べないのが私含めてキッカ姉、瀬良ちゃんの3人いる。とりあえず黄金の龍に低空飛行モードになって貰った後、むつきと銀華が私達を一人ずつ運んでいった。高さ20m以上はあるところに浮いてる龍。むつきは余裕のジャンプ力だったが、銀華はちょっとしんどそうな高さだった。向き不向きとかあるんだろうね。
何故かスクナヒコナも運んでもらってた。お前も飛べないんかい!
「というか普段どうしてるのよ……」
「あんまりいかねぇし、それに乗せてもらうときは龍神に小さくなってもらって……あ、今回もそんなに大きくならなくてよかったなぁ! ははは! ついついスケールのでかさを感じて欲しくてなぁ! まぁ龍神はもっと大きくなれるんだけどなぁ!」
なんかこの人ノリと勢いでで誤魔化してる感すごい。えらい神様だよね?
「んじゃ、龍神さんよ! しゅっぱーつ!」
元気のいい掛け声と共に、龍が飛び立つ。私達はたてがみ部分にしがみつき、飛ばされないように踏ん張るが、不思議なことに風の抵抗を感じることもなくすいすい進んでいった。
「おおお、立てるっす! 全然風圧ないっす! 不思議っすね!」
「こら、危ないから立たないの」
立って歩こうとしてる瀬良ちゃんをキッカ姉が座らせる。うん、落ちたら空の上だよ。あんた普通の人間なんだから死んじゃうよホントに。晴れ渡る青空を、高度を上げてぐんぐん進んでいく黄金の龍。この空をどこまで進んでいくのか、どこへ向かっているのか。
「あの太陽に向かって、真っ直ぐ進むんでい!」
「え、あの中に突っ込むの!?」
空を進む龍は太陽を目指す。太陽の光がどんどん近くなり、大きくなっていき、私たちを乗せた龍は遂に太陽に突っ込んだ。やがて目の前が真っ白になる。思わず目を閉じてしまったが、目を開くとまばゆい白の輝きの中を龍は進んでいた。不思議空間だ……何が何だか分からない。
『……水龍の御子よ。名前は瀬良清美……だったか』
「はぅ、なんか呼ばれた気がしたっす!?」
頭の中に鳴り響く、威厳のある老人の声。まさに神様の声って感じがする。そんな声に突然名前を呼ばれた瀬良ちゃんは混乱している。というか水龍のミコって何? 水龍は瀬良ちゃんの昔の相棒だっけ。
『水龍が世話になったな』
「あ、あんた誰っすか!? なんでスイちゃんのことを!?」
『余は今お前たちが乗っている龍だ。余は十二神将の一柱、龍神。水龍は余の同胞である』
「はわ、今乗ってる龍さんが喋ってるんすか! はわーしゅっごい」
『ふぅむ……水龍に聞いていたのと、少し印象が違うな……こんなだったか?』
龍神がなんか困惑してる。昔の瀬良ちゃんは知らないけど、今の瀬良ちゃんはこんなだったですよ。うちの近所にいる、ちょっと残念なニートが瀬良ちゃんですよ。
「ほらほら龍神、雑談してないでいくんだよー! あの人すっごい待ってるからな! 怒られるからな!」
『全く、相変わらずせっかちな。あの御方はそう怒るまい……まぁ、確かに後で良いか』
そう言って龍神はスピードをぐんぐん上げていく。そして光の中を抜けて……目の前に現れたのは空中に浮かんだ大地。木々が生えた小さな島。
そこに地上の荒祭宮とよく似た社殿が1つ、ぽつんと建てられていた。




