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95 鼠の苦悩

「……最近存在を忘れられてる気がするっチュ」


 伊勢へ向かう車内の中で、なんかいきなり灰色の鼠がひょこりと現れて喋り始めた。私とデンは顔を見合わせて言う。


「いたのかお前」

「最近本気で存在忘れてた」

「ひどっ!?」


 その鼠の名前は鉄鼠てっそ。銀華からは『チュースケ』と呼ばれている銀華お付きの神獣だ。現在、車は老紳士の山本さんが運転していて、代わりに銀華は布団にくるまって寝ている。その為の布団。1時間も運転してないのに、よっぽど疲れたみたい。うん、交通法規はすごい慎重に守ってたよね。車線変更のときなんか何度確認するのってくらいしてたし。若葉マークがついてるだけある。


「しかしお前はあの悪魔との戦いのとき、いなかったではないか」

「いたっチュ! いたっチュよ! ずっと銀華お嬢様についてたっチュ!」

「え、いたの?」

「というか銀華は寝てるし、その喋り方やめろ。うざい気持ち悪い」

「ひどっ!?」


 デンはチュースケの話し方が気に入らないらしい。確かに媚びてるような喋り方でうざい。チュースケがうざい喋り方をやめて普通に喋る。


「……まぁね、あっしもね、あの戦いのとき確かにあんまり喋らなかったですがねぇ」

「何で喋らなかったの?」

「いやぶっちゃけ、すげぇシリアスだったでしょう? あっしが喋るとああいう雰囲気ブレイクしちゃいそうで」

「確かに。お前はキャラと口調がな……」

「なんでチュースケなんて変なキャラ付けしたのよ」

「さっきから酷すぎじゃねぇですかい? あのキャラ付けはそもそも銀華お嬢のせいなんですがね」


 基本言いたい放題の私とデン。でもまぁ、相手は鼠だし別にいいでしょ。


「というかあんな強い悪魔と戦うのってそもそも嫌だし、薄情なこと言うけど、あっしには特にキッカの姐御さんとか関わり薄いし、別についていかなくても良かったんですがねぇ」

「ふーん。でもついてきてたんでしょ?」

「まぁ、ずうっと隠れてたんですがね。目をつけられねぇようにね。あっしは神獣の中でも神格の低い小物でごぜぇますからねぇ」


 自嘲気味にぼやくチュースケ。なんか自分を卑下しすぎである。鼠だから仕方ないのかもしれないが。ところで神格って何?


「その、『神格』って何なの? 前もデンが調整者とやらに『神格が低い』って言われてたけど」

「簡単に言えば、神獣の格付けランクだな。12段階あって、数字の小さいほど偉い。第一~三位階が上位神獣、第四~七位階が中位神獣、第八~十二位階が下位神獣という扱いになるな」

「神格が高いとすごいの?」

「ああ。特に上位神獣は加護や魔力が桁違いに高く、その力を行使する魔法少女も強くなる」

「ちなみにあなたたちの神格は?」

「第五位階。中位神獣だな」

「あっしは第九位階。恥ずかしながら、下位神獣ってやつでさぁ」

「ふーむ、なんか割と低いんだね」

「失礼なヤツだな、お前は」


 デンがぽふんと抗議の犬ぱんちを私の喉にしてくる。なんだこの的確に急所を狙うような真似は。今のデンは仔犬サイズだから痛くないけど。


「そもそも上位と呼ばれる第一~三位階の神獣は日本全体で百体にも満たんのだ」

「えっ、そんなに少ないの?」

「魔法少女と契約する資格のある神獣のざっと9割が下位神獣、1割が中位神獣。上位神獣なんて0.1%くらいなんでさぁ。第十~十二位階の下位神獣とかは八百万いるって言われるくらい数はむちゃくちゃ多いんでごぜぇますが、ほっとんど契約するような力を持ってないんでさぁ。あっしら、こう見えて神獣の中じゃ選ばれし存在。それなりにエリートでございやす」

「そうだ。吾輩の五位だって相当高いんだぞ。例えるなら、土地の守護神レベルだぞ」


 デンが力説する。はいはい分かった、偉い偉い。でもそんなデンを『神格が低い』と評するあの調整者ってやつは、相当神格が高いってことか。


「そんな中で排出率0.1%の神獣ガチャを当てて、上位神獣と契約する魔法少女って相当運がいいわけだ」

「神獣をガチャ扱いするな。それを言うならこっちだって確率の低い魔法少女ガチャを当ててるようなものだ」

「魔法少女にも才能があって、同じ神獣が契約しても、スーパーレアな魔法少女とレアリティの低いノーマル魔法少女じゃ全然違うんでごぜぇますよ」

「えっと、魔法少女って結構運任せで決めてるの?」

「ある程度は魔法少女の才能を見積もることが出来るから、そこまで運任せでもないがな」

「その点、お嬢の才能はスーパーレアでごぜぇますよ」

「そうなの?」

「ま、本人の性格があんなんでごぜぇますけども、あっしが出会った魔法少女の中じゃかなり特別で、あんたらに負けず劣らず数奇な運命を背負った人なんでごぜぇますよ。まぁ、お嬢もあまり自分の境遇の深いことは言いやがりませんし、あんたらにゃあいまいちピンと来ないたぁ思いますが」


 銀華が数奇な運命? それってむつきみたいに魔法少女がゾンビになってるくらい数奇なのだろうか? 私はそんなに数奇じゃないよね、普通の高校生だし。というかよく考えたら、私はあんまり銀華のことを知らない。


「本当なら才能があるはずのお嬢が今さして強くないのは、契約神獣たるあっしの力量不足がね。あっしの鋼属性ってのは珍しいし、攻守ともに秀でた属性ではあるんでしょうが、かといってお嬢の才能を活かせるほどの魔力があるわけでもなし。下位神獣はつれぇですわ」

「まあ、そうだな。九位じゃな」

「雷電の旦那は相変わらずはっきり言いやがりますねぇ」


 チュースケはすやすやと寝息を立ててる銀華をじっと見つめながら、言う。


「これから行く伊勢ってとこは日本の神獣たちの総本山ともいえる神聖な土地でさぁ。中位以上の新たな神獣とも出会うかもしれねぇ。もしこれ以上あっしがお嬢の足を引っ張るようなら、契約切って新しい神獣と契約してもらうってのもアリなんじゃねぇかと考えてたりもするんでごぜぇますよ」


 そう言ったチュースケの顔は鼠なのにどこか寂しそうに見えた。でも気のせいかもしれない。鼠だし。そんなチュースケに対し、デンが呆れたように言う。


「いやお前、才能以前の問題を考えてないだろ。性格とかの相性が合わんと、魔法少女とはやっていけんぞ。一般的に神格の高い神獣ほどプライドが高い。それがあの銀華と喧嘩せずにやっていけるか?」


 デンの言ったことを聞いて、チュースケはポカンとした表情をしたあと、わざとらしく難しい顔をしながら思案しだした。


「あぁ、たぶん無理。いや、ぜってぇ無理でごぜぇますわ」


 ちろりと舌を出して言う鼠。その表情は明らかに明るくなった気がしてた。


「お嬢のワガママを聞ける神獣なんて、あっしくらいしかいねぇでごぜぇますからね!……チュッ!」

「とってつけたような語尾をつけるな」


 なんかよく分からんが、元気になったならそれでいいや。一方銀華はそんな鼠なりの苦悩も全く知らず、ふわふわの枕を抱きながら、「……こんなところによんでなにかしら? え、こんにゃくはき? ばか、ちゃんとたべなさい……むにゃむにゃ」とか寝言を言いながら、吞気にすやすや寝てるのだった。というか何の夢見てるんだそれ。


 車内ではキッカ姉ちゃんとむつきが何故か置いてあったチェスでルールも分からずに対決してるし、クロモは窓の外をぼーっと見てて何を考えてるか分からない。瀬良ちゃんは布団かぶってスマホゲーぽちぽちいじってる。それぞれの思惑を乗せて、伊勢行きの車は走る。

この物語は神視点ではなくキャラ視点で進むことが多いので、そのキャラの視界に入らないキャラはいないものとして扱われてます。でも銀華のそばにいつもちゃんといるんだよ、鼠も。無視されてるだけだよ。

というわけで鼠回でした。

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