94 伊勢へ
朝早くから私たちは集合していた。面子は私、むつき、瀬良ちゃん、キッカ姉ちゃんの4人とクロモ、デンの神獣2匹。
今日は休日。みんな揃って伊勢旅行だ。着替え等必要なものを用意して、私たちは待っていた。普段インドアの瀬良ちゃんがなんかわくわくそわそわしてて、せわしない。
「あー、15年ぶりにひかりんに会えるんすね」
「そういえば瀬良ちゃんはひかりとは仲良かったわね」
「うむ、超マブダチっす!」
キッカ姉ちゃんと瀬良ちゃんが思い出話に花を咲かせている。……何故だろう。瀬良ちゃんとマブダチってだけでとてつもない不安感を覚えるのは。
「ここで待ってれば銀華が迎えに来るって言ってたけど……」
そのとき、目の前に大きなシルバーの車が停止した。
「来ましたわ!」
銀華だった。助手席からぶんぶん手を振っている。運転席には見知らぬスーツの老紳士。使用人か何かだろうか。二人で来たらしく、老紳士は降車して頭を下げた。
「使用人の山本です。銀華お嬢様共々、よろしくお願いします」
「くるしうなくてよ!」
見た目通り紳士然とした態度を取る山本さん。その柔らかい物腰から、気品を感じられる。というか何気に銀華が使用人と一緒にいるのは初めてみた。やはり旧財閥のお嬢様なだけあって、私生活でも使用人に囲まれてるのが普通なのだろうか。
一方、キッカ姉は車を見て言う。
「これはトヨタのハイエース?」
「ですわ!」
「うひゃー! これが噂の!?」
ハイエースと聞いて何故か喜ぶ瀬良ちゃん。車になんて興味ないはずなのに……一体お前は何を想像した?
「えーと、何それ? すごいの?」
「思いっきり大衆向けの車よ。街中でも乗ってる人多いわ」
つまり、全然すごくないらしい。えっと、この人本当にお嬢様?
「お金持ちだから外車とかで来ると思ってたわ」
「むー、今馬鹿にしたでしょう! 言われなくても、もちろん外車くらい持ってますわ! 100台くらい! ベンツとかリムジンとかフォークリフトとか!」
「あの、銀華ちゃん。フォークリフトは運搬車よ?」
キッカ姉ちゃんがツッコミを入れる。たぶん、銀華はそもそも高級車に詳しくないんじゃないかという疑惑が出てきた。銀華がハイエースの扉をバーンと開け放ち、言う。
「さあ、乗り込みなさい! 早速伊勢へ行きますわよ!」
「え、もしかして車で行くの? 新幹線とかじゃなくて?」
「ふっ、そのつもりですわ」
マジでか。駅までの送り迎えの車かと思ってた。
「何キロあると思ってるの?」
「大体400~500km? ま、昼前には付きますわよ!」
新幹線のが速いと思うんだけど……うーん、銀華の考えることはよく分からない。ハイテンションな銀華の勢いにのせられて、とりあえず中に入る私達。
「うわ、車の中にテーブルがあるっす」
「テレビと冷蔵庫もあるわ」
「椅子すごいふかふか……そして何故お布団まで?」
「ふっふーん。見た目はハイエース。でも中身は改造してありますのよ!」
内装は改造してあり、居心地の良さそうな空間が広がっている。なるほど、こういうところにお金を使っているのか。意外と悪くないかもしれない。
「それにしても大きい車っすねー」
「10人乗りできる車よ。普通免許で運転できる車の中じゃ一番大きいの」
「流石ハイエース! こういう車なら誘拐されてもいいっすね!」
「うん、不適切な発言はやめようね。瀬良ちゃん」
児童ポルノ法に抵触しかねないどこかの薄い本のネタを言う瀬良ちゃんにツッコミを入れていると、何故か運転席に座る銀華の姿があった。えっと、ちょっと待って。何してんの?
「えっと、何で銀華が運転席に?」
「? 見て分かりませんの?」
「あの、銀華。もしかしてだけど、運転するのって……」
「もちろんわたくしですわ! ふふん!」
誇らしげに宣言する銀華。いや、いいのこれ? あの、老紳士さん。笑ってないで止めて下さい。
「一応聞いておくけど、運転免許は……?」
「持ってますわよ、当然」
かつてデンから聞いた話で、魔法少女は中学生が多くて、高1でやってる私なんか遅いくらいだって聞いたことがあるから、勝手に銀華のことを中学生くらいかと思ってた。だけど普通車の運転免許を取れるのは、18歳から。
「もしかして、銀華って結構年上……?」
「えっ、今までわたくし年下と思われてましたの?」
うん、精神年齢的に中二全盛期かと。でも年上って意識すると、付き合い方変わってくるかもしれないよね。
「というかこんな大きいの、運転できるの銀華?」
「ふっ、わたくしの華麗なドラテク(※ドライビングテクニックのこと)を見せてあげますわ!」
妙に自信ありげなのが逆に不安である。そこに老紳士が何やら取り出した。
「お嬢様、公道に出るときはこれをつけていませんと」
「あら、そうでしたわね。つけてちょうだい」
老紳士が取り出したのは、若葉マークのマグネットステッカーである。初心者! 初心者だよこの人!
「あの、本当に大丈夫なの? 銀華」
「なんか怖い……」
「大丈夫ったら大丈夫ですわ! このアルティメット・ハイエース・ダークエンジェル・エディションを運転できるのはわたくしを置いて他に適任者がいますかしら?」
いや、さっきまで使用人の山本さんが運転してたよね? というかダークエンジェルエディションって何?
「安心してください。私が助手席で見ておりますので」
「もう、山本! ホントに大丈夫ったら!」
「それにもしものときの為に、最新のドライブレコーダーをつけております」
「事故する前提!?」
うん、本当に頼んだよ山本さん。我々の命が掛かっているので。そのドライブレコーダーを使わずに済むように祈ってるよ……
「では伊勢に向かってしゅっぱーつ!」
「しんこー!」
元気よく掛け声を上げる銀華と瀬良ちゃん。なんかこいつら異様に仲が良くなったな。何か惹かれるものでもあるのだろうか。そんなこんなで伊勢行きのハイエースは出発したのであった。
……で、肝心の銀華の運転はというと……暴走するかと思ったが、予想に反してめちゃくちゃ安全運転だった!
交通ルール徹底遵守と法定速度を下回る時速で、ものすごい慎重さで安全運転をしたのち、1時間も持たずに体力使い果たして山本さんに交代した。ある意味、模範的な初心者だった。
その後、銀華の遅れを取り戻すように、山本さんとキッカ姉が交代しながらすさまじいスピードで運転し、お昼になる前に無事伊勢に着いたのであった。




