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93 こなたさん

 私は佐藤良子。どこにでもいる普通の女子高生だ。今日はキッカ姉ちゃんのアパートの前に来ている。この間、私の快気祝いを兼ねて祝勝会を開いたが、なんだか結局よく話を聞けなかった。


 とりあえずクロモを捕まえて、あと何故か生後1か月ほどの赤ちゃんサイズになったデンを抱えて、私は玄関のチャイムを押して訪問した。キッカ姉ちゃんが「はーい」と返事をする声。ガチャリとドアを開けると、私の抱えているデンを見て固まった。


「えっと……なんでいるの? 雷電」

「お前、15年間苦楽を共にしてきた相棒と再会して、第一声がそれとか冷たくないか?」

「いや、なんかあのときお別れの挨拶したからもう死んだのかと……」

「勝手に殺すな!」


 そんなこんなで、感動の再会をあっさり果たした二人であった。


 とりあえず私たちが中に入ると、室内にはむつきが先客として座っていた。3人と2匹。このメンツで報告会を行う。今回は騒がしい二人は来ません。


「というか……吾輩の声が聞こえるんだな。キッカ」

「そう言われればそうね。これも覚醒の影響かしら?」


 雷電の疑問ももっともである。元々キッカ姉ちゃんは魔法少女に変身した状態でしか神獣の声が聞こえなかったはず。それが何故か聞こえるようになっていた。本人にも理由は分かってないっぽい。


「で、先日悪魔と戦ったときの話をもう少し詳しく聞きたいんだけど……」

「ああ、そのことね。私の覚えてる限りで話すけど、いいかしら?」


 そうして先日聞けなかった事の顛末は大まかに聞いた。強い悪魔がやってきて、私達はキッカ姉ちゃんを助けに行ったけど結局全滅して、その後キッカ姉ちゃんが生き返って悪魔を倒したらしい。


「生き返って……って普通生き返る?」

「まぁ死にたくなかったんだから、普通に生き返るんじゃないかしら?」

「全然普通じゃないぞ」


 今は平然と喋っているキッカ姉ちゃんも、胸に大穴を空けられて一度本当に死んでたらしい。というか私も含めて下手したら皆死ぬところだった。こうして皆生きてるのは本当に奇跡みたいで……良かった、本当に。そういう感じでキッカ姉ちゃんが覚えてる限りの状況を説明していった。


「……ということがあって、もう私は魔法少女じゃなくなっちゃったのよね」

「それってどういうこと?」

「私のマジカルチャームは砕けて消えちゃったわ。そしてその魔力はむつきちゃんのマジカルチャームに……」


 見ると、むつきの胸についている宝石は、金色の輝きを放っている。前は黒だったはずだ。


「色が変わってる?」

「えっと、起きたらこうなってて。話を聞くに、私も魔力切れで死ぬところだったみたいだけど……」


 むつきがマジカルチャームをさする。どうやら彼女もかなり危ない状態だったらしい。


「キッカから魔力を受け取って、無事復活したというわけだ」

「成功するかは分からなかったけどね。私、実は魔力の受け渡し苦手なのよ……」

「馬鹿が。内側から吾輩が協力してやってたんだから、成功するに決まってるだろうが」

「えっ、そんなことしてたの?」

「お前なー……」


 呆れた口調で小さい犬が言う。うんうん、お前もむつきの為に頑張ってくれてたんだね。初めて会ったときはめっちゃ嫌悪してたのに、すごい変わりよう。ツンデレか。


「ふむふむ……」


 クロモがチャームを見て分析する。


「どうやら、雷属性を得たらしいね。その状態で魔法は試したことはあるかい?」

「いや、あんまり……」

「たぶん使い勝手が変わってくるはずだよ。また今度試してみたら?」

「うん、分かった」


 とりあえず一通り説明は聞いた。私たちが戦った凶悪な悪魔……ゼドは倒したけど、まだ他に敵っぽいのが2人いて逃げたとかも。で、私にはほかにも聞きたいことがあるので質問する。


「それで、学校では今どうなってるの? 多くの生徒にあの悪魔が目撃されてるんでしょ? キッカ姉ちゃんも変身するところを見られたんでしょ? そして校庭に空いた大きな穴。今頃すごい騒ぎになってそうだけど」

「ああ、良子ちゃんは休んでたから知らないのね」

「……何があったの?」

「それがね……」


 真剣な話なのか、キッカ姉ちゃんが一拍置いて話す。


「何もなってないのよ。それが」

「……へ?」


 ぽかんとして間の抜けた声を出す私。何もなってないって……あれだけのことが起きて何もなってないってどういうこと?


「翌日私が学校に行ったら、校庭の穴は普通に土木業者が埋め立ててたわ。話を聞くと、よく分からないけど隕石が落ちたとか地雷が爆発したとか噂で言われてて……誰も悪魔のこととか、私やむつきちゃんのこととか話題にしてなかったわ」

「えーと、それってどういうこと? 私たちが校庭に車で突っ込んで、人込みをかきわけて強引にクレーターの中に入って異空間に侵入したことも?」

「そんなことがあったら話題になるはずだけど、誰もそんなこと言わないのよ」

「新聞沙汰とかニュースは?」

「全然。流れなかったわね」

「どういうことなの……?」


 私たちがうーんとうなってると、デンが何かに気付いたように口にする。


「もしかして……『調整者』か?」

『その通り』

「……っ誰!?」


 不意に少年とも少女ともつかない声がした。いつの間にか部屋の中に夜の闇のようにつややかな黒髪の少女がふわりと現れた。年齢は私と同年代ほどに見え、平安貴族が着るような古風な和服に身を包んでいる。何故か兎のお面をしており、顔を見ることはできないが、どこか浮世離れした神秘的な印象を受けた。

 兎面の少女が辺りを見渡して言う。


「ふむ、井上菊花と雷電と……チッ、余計な者が何人かおるな。まぁよい」


 とりあえず、突然の侵入者だけど、私は慌てず騒がずに質問してみた。


「えーと、誰?」

此方こなた其方そなたらの言う通り、『調整者』と呼ばれる存在。主な役目はその呼び名の通り、魔法少女や悪魔の引き起こした諸々の厄介事の調整ぢゃな。此度こたびの騒ぎも、此方が色々と調整し、もみ消しておる」


 えーと、こなたさんって言うの? お仕事はもみ消し屋? その説明を聞き、クロモとデンが驚く。


「『調整者』だって? いるとは噂に聞いてたけど、初めて見た」

「ああ、吾輩もだ。本来は表に出てこない存在だからな。しかし何故現れたんだ……?」


 いぶかしむ神獣たち。私はそもそも調整者なんて単語初めて聞いた。


「あの、揉み消したってどうやって?」

「記憶の消去と操作、そして記録の改ざんぢゃな。面倒くさい役目ぢゃ」

「社会に悪魔や魔法少女の存在が表沙汰になっていないのは、調整者が影で動いてるから、らしいな」

「調整者は記憶操作系の魔法を使うって言われてるね」


 ふむふむ、そのような影の功労者たる役目を果たす人が、何故居間我々の前に現れたのだろう。私はこなたさんに質問する。


「あの、こなたさん?はどうして突然現れたの?」


 その発言をこなたさんは突然不機嫌な声音になる。


「その前に言っておくが『此方こなた』は一人称であって、名前ではない」


 えー、こなたさんじゃなかったのか。そんな一人称初めて聞いた。古風なのかな。


「じゃあ、名前は……?」

「其方らに名乗る名など持ち合わせておらん」

「なんなんだこいつは……」

「頭が高いぞ、雷電」


 どこからか扇子を取り出し、ばちんとデンを叩くこなたさん。叩かれたデンは「いたっ」と言い、不満げな表情でこなたをにらむ。


「此方は普段表舞台には出てこないが、其方のような神格の低い獣よりずっと偉いのぢゃ。かしこまれ。それと……此方は穢れた者や悪魔が大嫌いぢゃ。姉上に止められてなければ、そこにおる輩なぞ家ごと焼き払ってやろうぞ」


 むつきを見やり、扇子をばちんと鳴らすこなたさん。言ってることがめちゃくちゃ物騒だ。むつきはビクッと脅える。キッカ姉ちゃんが笑顔のまま「あら、そうなの」と短く言う。あ、これ絶対内心怒ってるやつだ。


「で、何の用事かしら?」

「ふん、どうせ長居をするつもりは無いが菊花よ。其方に一言伝えることがある」

「へぇ、私に?」

「『伊勢へ来い。天乃あめのひかりが待っている』と」

「え、どうしてそこでひかりが出てくるの?」


 キッカ姉ちゃんが困惑して問いかけるが、こなたはふんっとそっぽを向いた。


「確かに伝えたぞ。ではさらばぢゃ」


 そう言ってこなたの姿が消えていく。キッカ姉ちゃんが「ちょっと待ちなさい」と言うが、それも聞かずに来たときと同じように去っていった。唐突に来て唐突に去っていく。一体何だったの? あの人。


「あの、天乃ひかりって……」

「ええ、かつて私達と一緒に戦った魔法少女よ。戦いが終わった後、行方が分からなくなっていたけど……」

「何故調整者がひかりの名前を出してきたのか謎だな。というかヤツが本物の調整者かどうかすら判断つかん。自称かもしれんし」


 デンはあの調整者とやらが本物かどうか疑っている。無理もない。本人の証言だけで証拠らしい証拠が無いんだもの。でもあの雰囲気、魔法少女っぽくない気もするし、悪魔とももちろん違う。子供みたいな見た目なのに、なんだか畏れ多いような気持ちを抱かせた。

 そんな彼女が言った『天乃ひかり』というキーワード。そういえば前に聞いたことがあるなぁ。確か瀬良ちゃんが言ってたけど、天乃ひかりって子が当時は最強の魔法少女だったとか。15年も経てば、アラサーだけどね。

 雷電がキッカ姉ちゃんの様子をうかがい、問いかける。


「で、どうする? 行くか? 何だか怪しい気もするが」

「行くわよ」


 雷電の問いに即答で答えるキッカ姉ちゃん。迷うことが全く無かった。


「どうして?」

「単純に気になるし。それに、伊勢って今まで行ったことないのよね」

「観光気分か」

「それに、行くっていっても人数は指定されてないでしょ?」


 にっこりと笑ってこちらを見るキッカ姉ちゃん。唐突にむつきと私をギュッと抱きしめた。


「どうせなら、皆でいきましょ? むつきちゃんも一緒にね」

「私も?」

「彼女は色んなことを知ってるし、以前むつきちゃんが言ってた魔王なんとかの話も聞けるかもしれないわよ」

「……そう? でもあの調整者って人、私のこと嫌がってたような……」

「いいのいいの。メンバーは指定されてないんだから。あ、瀬良ちゃんと銀華ちゃんも誘おうかしら」


 ニコニコと微笑みながら予定を決めていくキッカ姉ちゃん。あ、これ多分さっきのこなたの失礼な態度に対する当てつけだ。なんか私も伊勢に行くことになってた。

新章突入です。

いいですよね、伊勢観光。

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