91 アフターデイ
朝起きたら、見知らぬ天井だった。布団もなんだか固い気がする。
「ここ……どこ?」
右腕を確認すると、なんかチューブが繋がってる。えーとこれ、点滴? ぼけーっとする頭を抱えて、状況を整理しようとする。私の名前は佐藤良子。確かさっきまでキッカ姉ちゃんを助けに行くため、異空間に突入して、悪魔と戦って、殴り合いになって、えっと……
ーー不意に思い出す。キッカ姉ちゃんが死んだ瞬間のことを。胸を貫かれて、最後に私の方に手を伸ばしていた。その瞬間をフラッシュバックのように鮮明に思い出している。
心臓がバクンバクンと鳴っている。嫌な汗が出てくる。信じたくない。信じたくないけど、鮮明に思い出せる。私の記憶が確かなら……そんな……そんなことって……
「あら、起きたのね。良子ちゃん」
……何か聞き慣れた声がするんだけど。
「おはよう、良子ちゃん♪」
「あ、うん、おはよう」
目の前にいたのはキッカ姉ちゃんだった。うん、どうやら私の記憶は確かじゃなかったようだ。つまり、私が見たあの光景は夢か何かか。ところで、ここは……病室かな? 部屋にあるベッドは私の使っている一つだけ。個室の病室なんて初めて入った。呆然としている私を心配してか、キッカ姉ちゃんが話しかけてきた。
「調子はどう? 熱は下がった?」
「えっと、多分大丈夫」
「体は痛くない?」
「体……?」
自分の体を見ると、あちらこちらに湿布やら包帯やらガーゼやらの処置がしている。試しに腕についてる湿布を一つぺりりっと剥がしてみた。めくったところが腫れて赤くなっている。触ると痛い。
えっとつまり、これって異空間で悪魔と殴り合ったときのアレだよね。えっ、つまり私がさっきまで見てたのは夢じゃなくって、でもキッカ姉ちゃんも生きてるし……混乱する頭で私が導き出した結論は。
「ああ、これも夢か」
「いや、夢じゃないわよ」
私の言ったことをキッカ姉ちゃんは即座に否定して、頭にぽんと手を置いた。確かに感じる彼女の手の感触。寝ぼけた頭がどんどん覚醒し、リアルな感覚を取り戻していく。これは、今いるこのときは夢じゃない。
「もう何がなんだか……」
「無事で良かったわ、本当に」
「わっ」
キッカ姉ちゃんが私の体を起こして、ギュッと抱きしめてきた。顔の位置に胸が来る。どくんどくんと鼓動を感じて、とても暖かい。でもちょっと息苦しい。
「ぷぁっ。とりあえずどういう状況なのか説明して」
私はぐっと押して、抱きつく彼女を引きはがした。キッカ姉ちゃんが残念そうな顔をする。
「そうね、良子ちゃんに1から説明するとね……」
そのとき急にガラッと扉が開き、キッカ姉ちゃんの台詞を遮った。
「来ましたわ!」
「しゃあっす!」
騒がしいかけ声をあげながらばーんと入ってきたのは、銀華と瀬良ちゃん。すぐに駆け寄って、二人して私のベッドになだれ込んだ。
「もう治りましたのね!」
「うー、生きてて何よりっす!」
とりあえずなんだ、いきなりうるさい。
「はい、ちょっと二人ともおすわり」
ぐいっと二人の肩をつかみ、引き戻すキッカ姉ちゃん。腕力で勝てない二人は、借りてきた猫のごとく大人しく地面に正座した。
キッカ姉ちゃん、銀華、瀬良ちゃん、三人とも無事だった。なんで無事なのかよく分からないけど、とりあえず良かった。そこではたと気付く。
「むつきは? むつきはどこ?」
彼女の所在を尋ねると、キッカ姉ちゃんは何も喋らずに、窓の外の遠い空を見た。私が覚えてる最後のむつきの姿は、悪魔の攻撃をまともに受けて倒れた姿だった。まさかあのとき彼女はもう……最悪の想像をすると、キッカ姉ちゃんが外を指さした。
「あそこ」
その指が示す方向には大きな木。そしてその枝に大きな魔女帽子とマントをつけた少女が体全体でしがみついてた。私は窓を開けてむつきに言う。
「……何やってるの?」
むつきは泣きそうな声で言う。
「ちょっと様子を見に来て、あの、なんか思ったよりグラグラして怖くて……」
いや、正面から来い。そこでキッカ姉ちゃんが場を仕切るためにぱん、と手を合わせる。
「とりあえず、皆無事だったことだし……」
「祝杯ですわ!」
「めっちゃ祝ってやるっす!」
「ですわですわ!」
「しゃらー!」
騒ぎ出す二人。そしてキッカ姉ちゃんに怒られて再び正座する二人。なんなんだ、もう。
その後、病院を出た私達は未成年まじりなのに飲み屋に行って、めちゃくちゃ祝った。
……
…………
………………
家に帰ったら、なんか小っさい白い犬がいた。私はこの犬に見覚えがある。なんかサイズが小っさくなっているけど。
「……よう」
少し照れくさそうに一言発する白い犬。
「何でそんなに小っさくなってるの、デン?」
「わからん。とりあえず泊めてくれ」
なんかキッカ姉ちゃんのところに帰りづらそうにしてるデンを家に泊めることにした。




