表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/145

75 黒翼との戦い⑤

 空を飛ぶ醜い巨鳥のような悪魔が急降下して襲い掛かってくる。それを迎え撃つ槍を持った魔法少女、井上菊花。15年前の当時は「稲妻のキッカ」と呼ばれていた。


 菊花が槍を投擲し、一撃必殺の威力で巨鳥の悪魔を葬るとその少女は興奮した様子で駆け寄ってきた。


「キッカ先輩!かっこいー!」


 明るい声をあげる彼女の名は赤石桃香。最近魔法少女になったとかいう2年生の後輩だ。褒められる菊花だが、素直に喜べない事情があった。


「あなたもこの程度ならすぐに倒せるようになるから」

「ホント!? よーし、がんばるぞー!」


 桃香はガッツポーズをして、腕をぐるぐる回しながら猛然とどこかに走り去った。


「元気だねー」


 走り去る桃香を見て、のんびりと言ったのは2年生の後輩の一人、天乃あめのひかり。最近転校してきたばかりの謎の多い魔法少女だ。


「それに対して、キッカは元気なさげ?」


 彼女は先輩に対する菊花に対しても、遠慮なくタメ口であったが、どこか達観した雰囲気が年齢以上の深みを感じさせているので、菊花もそれを受け入れていた。


「まー、わかるよ。みんなキッカよりずっと才能があるもんね」

「そうね」

「追いつかれるのってこわい?」

「……そうね」


 ひかりは人の言いにくいことをずけずけと言ってくる。実際ひかりの言う通りなのだ。十二神将に選ばれた桃香とちふるはもちろん、水龍に選ばれた瀬良も魔法少女としては破格の才能の持ち主だった。

 中学一年生の頃から2年間魔法少女をやっている経験の差で、今はまだキッカの方が強いが、そのうち追い越されるだろう。


「……悪魔側もどんどん強くなってる。どちらかというと、私が戦いについていけなくなるのが怖いかな……」


 後輩なのに、そんな弱音を吐いてしまった。普段の菊花なら言わない弱音を何故かひかりの前では言ってしまう。不思議な魅力が彼女にはあった。


「ねぇ、雷電のことは好き?」


 いきなり突拍子もないことを聞く彼女。彼女の中では話が繋がってると思われるが、周りからするとよく分からない。


「ええ? それなりに……かな?」

「そっかー。あの子は私のお気に入りなんだ。チカラは他の子たちに劣るけどねー」


 うんうんとうなづきながら、菊花の頭をぽんぽんとたたくひかり。


「きっと君たちはいいコンビだよ。だから大丈夫」

「何が大丈夫なんだか……」


 ひかりが笑う。根拠のない励ましの言葉。だけどそれが菊花には嬉しかった。


 ______________________


 何故今そんなことを思い出すのだろうか。神獣合身し、雷電と一つになった菊花は静かに微笑む。自分の中にもう一つの意思を感じる。彼も今、同じ気持ちを抱いてる気がする。


(そうね、私達はなんだかんだでいいコンビよね)


 菊花が地面に槍を突き立てた。


属性遷移シフト・エレメント!」


 突き立てられた槍が激しく光り、大量の雷気を放って消えた。放出された雷気は菊花とゼドを巻き込み、周囲を覆う。


(使える槍はあと3本か)


 菊花は新しい槍を召喚し、握りしめる。菊花の投槍魔法には弾数制限がある。使い切ってしまったら、1日経たないと復活しないのだ。


「ほう、この空間は……」

「周囲の環境ごと属性を塗り替えた。この空間では、私が圧倒的に有利だ」

「なるほど、な……」


 塗り替えられた空間は、直径20mの円といったところだ。それほど広くないし、むつきがいる場所までは及んでいない。


「だがこれでは狭すぎるな。いいのか? もう逃げられなくなるぞ?」

「それでいい」

「このおれと接近戦でやり合うつもりか……面白い!」


 神獣合身した今の菊花でも、15年前にゼドを倒したときと比べると半分以下の魔力だ。しかもあの頃と違い、瀬良がいなくて一人で戦わなければならない。未だ絶望的な戦力差に変わりはない。ならどうやって勝つか。


(魔力の量が足りないなら、凝縮させる。短い時間でもいい。あの頃よりずっと高い密度で、強く……もっと強く!)


 菊花は長い戦いで自分のぎりぎりの限界を知っている。その限界を越えたらどうなるかも、その後にくる痛みをもって何度も思い知っている。だが今回は、今まで越えた限界のラインを更に越えなければならない。どれだけの代償が必要か分からない。もう戦えなくなるか……最悪、再起不能になるか。

 だが、そうしないと勝てない。それほどの相手だ。


 魔力を高めて対抗しようとするゼドの機先を制して、稲妻が走る。ゼドの首を狙ったその槍は今までで一番速い一撃であった。ゼドはそれでも反応し、首を動かして避ける。


「いくら速かろうと、飛んでくる位置と狙いが分かればこんなもの……」


 だが、通り過ぎたその槍をゼドの後ろでキャッチする手。いつの間にか菊花がそこにいた。


「投擲より速い動きだと!」


 そのまま菊花は槍を反転させて、背中に狙いをつけて突く。ズバァ! ゼドが振り向くより速く、その槍は相手を貫いた。


「があっ!」


 背中に槍が刺さったにも関わらず、怯まずに振り向きざまの裏拳を放つゼド。菊花は槍から手を放し、後ろにとびのく。


雷爆撃サンダーバースト


 菊花が指を鳴らすと、ゼドの背中に刺さった槍が光り、電気エネルギーへと変換された。激しい雷撃が、ばりばりと轟音を立ててゼドを内部から焼き尽くす。


(あと2本……)


 菊花が槍を召喚し、握りしめる。激しい雷撃の中から、黒い巨体が飛び出してくる。


「ふんっ!」


 飛びかかり、殴りかかるゼド。巨大な拳が菊花の目の前に迫る。菊花は拳を避ける最小限の動きではなく、地面を蹴り大きく下がって避けた。ごおん! 拳とともに激しい圧力が叩きつけられる。地面が大きく陥没し、大きく避けたにも関わらず、菊花までその拳圧の余波が届いた。


「ふっ、ははははは!」


 ゆっくりと拳を戻し、笑うゼド。効いてないのかと菊花は疑ったが、その背中は熱によって溶解しており、痛々しい傷痕は残っていた。かなりのダメージだ。だが、その男は心底楽しそうに笑った。


「やはり強くなっているな! それでいい! 今のは効いたぞ!」

「……ちっ」


 効いたといいつつ、まだ余裕のある悪魔に対して菊花は舌打ちをうった。どうやらこの程度では倒すには足りないらしい。それはそうだ。別の時間軸では、私はこいつに殺されているらしい。死んだ私でも、今ほどの力は出せたはずだ。


(あと何秒持つか……私は私を越えなければならない)


 ゼドが黒翼を拡げる。あれはゼドの魔力チカラの源だ。魔力の奔流が、菊花の危険信号を刺激した。


(何かしようとしているなら、させない!)


 菊花は雷光の速度で突撃する。今度は投げないで槍を真っ直ぐ突き出す。心臓を目掛けて放たれたその槍は、ゼドの腕に阻まれた。腕に突き刺さる槍。だが、貫けない。筋肉の硬直のみで槍を止めており、抜き差しできない状態になっていた。


「っぐ!……先程より威力が落ちたか?」


 ゼドが腕をあげると、突き刺さった槍ごと菊花の体が浮く。

 そのまま地面に叩きつけるように腕を振り下ろすゼド。地面にぶつかる前に菊花はするりと槍を手放すと、軽業師のように腕を伝って肩に乗った。どすん!と落とされた槍はぐにゃりと飴のように曲がった。

 振り払おうとする腕をかわし、肩の上でだんっと飛ぶ菊花。ゼドの背後を取り、体を空中で反転させて着地した。


 ゼドが振り向こうとするが、その瞬間に腕に刺さっている槍に秘められた雷の魔力が解放されてゼドを襲う。バリバリッと派手な音を立てて、電流が流れた。

 自分の意志で硬直させていた筋肉が、今度は電気による麻痺で硬直する。「ぐうぅ」とうめき、一瞬顔を歪めるゼド。


 既に菊花の手には新しい槍が握られていた。


(これが最後の一本……)


 そのまま流れるように投擲姿勢に入る。槍を振り上げ、上半身をのけぞるようにひねる。そして地面を思い切り蹴る。今までと違い、ちゃんと地面に着地した状態で投げる全力フォームだ。


(これで決める!)


 菊花はゼドに向かって最後の一槍を投擲した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ