74 黒翼との戦い④
山の上の寂れた教会……その礼拝堂に神父服の若いの男と紅い服を着た少女がいた。神父服の男ーーノアは禍々しい意匠を施した大鏡をカタカタと教壇の机に設置しており、少女ーーフィアーは頬杖をつきながらそれを見ている。
「ねぇ、まだぁ?」
「んー、ちょっと電波が悪いですね」
「異空間に電波とか関係あるの?」
退屈そうに言うフィアー。設置を終えたノアがリモコンらしきものをポチポチと操作すると、真っ黒で何も映さなかった鏡から不毛な荒野地帯の映像が映しだされた。
するとフィアーは身を乗り出すようにして、大鏡を覗き込んだ。
「おぉー、映った。ねぇこれどうやってるの?」
「企業秘密です」
立てた人差し指を唇にそえて、にこやかに微笑うノア。それを見たフィアーはげんなりして聞く気を無くした。
「……アンタ本当に謎だらけよねぇ」
「個人情報漏洩には気をつけていますので」
「人のプライバシーはこれで無断で覗いてるくせに……って、もう終わってるこれ?」
フィアーが鏡で見た光景は、キッカという魔法少女がぼろぼろの体で槍を支えにしながらもなんとか立っている状況であり、対するゼドは無傷であった。
「いいところ見逃しましたかね」
「ちょっと待って。このでかい帽子かぶってるやつ誰? こんなやついたの?」
フィアーが倒れてるむつきを指差す。
「さぁ? それより、まだ見どころは終わってないようですよ」
「はぁ? どうみても終わってるじゃぁない。元々無理なものは無理だったのよぅ」
そう言ってキッカを見るフィアー。だが、キッカは槍を支えにするのをやめて、どこからどうみても満身創痍にも関わらず背筋を伸ばしてゼドの方をにらみつけた。
「……あの体でやるつもりなの? まさか勝てる方法があるの?」
「何か話してますね……音量を上げますか」
ノアとフィアーが見つめる中、両者の戦いが再び始まろうとしていた。
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「神獣合身をしろ。お前の最強の形態でかかってこい……!」
「しんじゅう……ごうしん?」
ゼドが菊花に言い放った聞き慣れない単語に、むつきは戸惑う。雷電が疑問に答えるように、説明した。
「神獣合身とは、魔法少女の変身形態の一つだ。神獣と一体化することで、更なる力を得ることができる」
「つまりは合体ね」
「合体!?」
「だが、あれは魔法少女の到達点であり、最強の変身形態だ。魔法少女にも神獣にも負担が大きい。全盛期ならともかく、今の菊花で出来るかどうか……」
「む、失礼ね。私は今でも全盛期よ。それに出来るか出来ないかじゃなくて、やるの」
菊花が力強く言う。見据える先には強大な悪魔。
「だってもう、万策尽きたもの」
こちらは既に満身創痍だ。むつきは魔力放出と魔法の連続使用で動けなくなっており、菊花は二度も打撃受けて体にかなりダメージが残っている。対して、ゼドの方は大した怪我もなく、ピンピンしている。
菊花はゼドに問いかける。
「ねぇ、少し聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「貴方はどうして私を狙うの?」
「お前が己を倒したからだ」
「目的は復讐? 私を倒したら、他の子を狙う気?」
「復讐か……少し違うな」
ゼドがニヤリと笑い、拳を握りしめる。
「他のヤツらが魔法少女を続けているなら殺すが、普通の人間ならば興味はない。それに中途半端なヤツらと戦うのは、闘争の純度が下がるからな」
「闘争の純度?」
「ヤツらがやっているのは、所詮ごっこ遊びに過ぎん。だがお前は違う。そうだろう? キッカ」
「どうかしら……ね」
菊花は心の中で溜息をつく。やれやれ、とんたとばっちりである。むつきの言う通り、魔法少女を辞めていれば戦わずに済んだことだ。菊花はちらりと這いつくばっているむつきを振り返る。
(巻き込んじゃってごめんね、むつきちゃん。でもね……それでも私は守りたいから、戦う)
菊花のもとに雷電が寄り添う。
「吾輩は付き合うぞ、最期まで」
「ええ、ありがとう。貴方が神獣で、本当に良かったわ」
雷電の姿が黄色い光となって消えていく。そしてその黄色い光はキッカの体を包む。
大きな雷が菊花のもとに落ちた。まばゆい閃光が走る。ばちばちと凄まじい雷のエネルギーを放っており、触れたら人体など一瞬で焼失してしまいそうだ。
「これが……神獣合身……」
目の前で起こっている現象を食い入るように見つめるむつき。雷光の中から、彼女は現れた。
金髪の鋭い目をした少女。金の鎧を纏った獣の耳と尻尾を生やしている。ベースは菊花だと分かるが、雰囲気は明らかに違う。まるで武神……ゼドと同じく、絶対的強者の出せる雰囲気。
ゼドは彼女を見て満足気に笑う。
「そうだ。それでいい。そのお前と戦いたかった」
雷光で光り輝く槍を手に、戦闘の体勢をとる菊花。いや、既に菊花ではない。神獣と一体化した彼女は、菊花であり、雷電でもある。彼女は普段の菊花とは違う口調で話す。
「ああ、お前が笑ってられるのも、これが最期だろうな」
「だといいがな……!」




