表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/145

73 黒翼との戦い③

 菊花はむつきの正体を聞いていた。むつきの正体が未来から来た斎藤美智花だということを。だが、彼女がどうやって魔法少女になったのか、どうしてそんな体になったのかは、詳しく聞けていなかった。

 今、むつきの手に握られているのは、良子の白いステッキを模したような黒いステッキ。彼女は他にも何か重大な秘密を隠しているということを、菊花は感じていた。


「このステッキは殴る為のものじゃない」


 むつきがステッキをゼドに突き出して言う。


「当然だろう。そんなおもちゃサイズのもので殴るくらいなら、最初からハンマーでもかついだ方がいい」


 唐突なむつきの発言に対し、ゼドは当たり前のことを言って返した。そんなおもちゃサイズのステッキで悪魔を殴り倒す魔法少女の存在を、彼は知らない。


「そう、戦闘用の武器としては使えない。だから使ってなかった。でも、貴方なら分かるでしょう? このステッキに込められた魔力が」


 むつきはステッキを両手で握りしめる。すると魔力が洪水のようにステッキから噴出された。


(このステッキは、良子のとは違って物理威力を持っているわけじゃない。ただ魔力を高める為だけのものだった。今までつかいどころがなかったけど……これで一気に"場"を支配する!)


 ステッキを中心としてぶぁっと魔力が放出される。空間をむつきの魔力が支配していくのを感じる。まるで、空間ごと自分の体の一部になったような心地になっていた。

 広がった魔力は、その場にいた全員を呑み込む。ゼドと菊花と雷電。3つの異物が魔力の支配下に紛れていることをむつきは感じた。異物の存在を認識したむつきは、まるでこの空間を支配する王のように、菊花と雷電の2人は疎外せずに自由に動けるように許可して、ゼドには更に圧力をかける。


(なるほど、これが魔力の陣取り合戦か。確かにこの中では何でも出来そうね)


 しかし、ゼドの魔力は山のようにびくともしていないことを感じていた。まるで肩が凝っているかのように、首をこきこき鳴らすゼドだが、動きに遅滞が全く見えず、余裕の表情も崩していない。むつきの魔力下の中で、ゼドだけが支配できずにいた。


「ふむ、確かに魔法少女としてはそこそこの魔力だ。だが、この程度でおれを抑えられるとでも?」

「思っていない……でも、彼女の魔法は使えるようになった」


 ドォん!

 突然ゼドの足元で爆発が起きた。足元には、先ほどゼドに折られた槍の穂先が転がっていた。それが雷撃を含んだ爆発をしたのだ。


「"雷撃爆弾エレキマイン"。最初に貴方にわざと折られたその槍は、雷撃の威力を封じ込めた投槍アキュリスよ。折られても、魔力さえ通えば起爆できる」


 足に爆発を受けたゼドは一瞬顔をしかめ、姿勢を崩した。その隙に、雷電を背負った菊花はむつきのもとに走り、彼女に抱きついた。


「ふぇっ!?」

「むつきちゃん、『タクティクス・セカンド』よ!」

「わ、分かった!」


 その瞬間、ゼドの目の前から、むつきが抱きついた菊花ごと消えた。


「瞬間移動か……どこだ?」


 むつき達はゼドのはるか上空を飛んでいた。菊花の両手は召喚した槍でふさがれており、今度は姿勢が入れ替わるようにむつきが菊花の腰にしがみついている。


「いくぞキッカ! 最大出力だ! お前の本来の戦い方を見せてやれ!」


 前衛向きの味方がいない為、前衛をしていた菊花だが、本来彼女は"遠距離専門"の魔法少女である。その魔法は射程がとても長い代わりに、ある程度距離を取らないと使えない。


(ゼドと戦って分かった。接近戦では絶対に勝てないことが。私達は二人とも後衛向きの魔法少女。『タクティクス・セカンド』はむつきちゃんの移動能力を活かし、私が遠距離攻撃をする作戦。あいつとは絶対にまともに戦ったらだめ)


 菊花の背中に乗った雷電が電流を放ち、菊花の槍に集めていく。まるで電池を充電するかのように、パワーを蓄えていく投槍。


投槍魔法アキュリス・マギア、"神罰の雷エル・サンダー"!」


 空中で落下しながら、思い切り槍を投げる菊花。地上にいるゼドをめがけて、雷そのもののような速さで、槍は落ちていく。


 頭上からの脅威に気付いたゼドが、咄嗟に上を向いたが一瞬の出来事であった。そのまま槍が命中し、凄まじい音を立てて雷撃エネルギーが爆発した。


「当たった!」

「むつきちゃん、移動!」


 命中したことに喜ぶむつきだったが、菊花が鋭く注意を発する。彼女の前に猛スピードで何かが飛んでくる。片翼の黒翼が拡がる。ゼドだ!


「ふんっ!」


 眼の前に巨大な拳が圧力を伴って繰り出されてくる。あれを食らったら死ぬ! むつきは菊花に抱きついたまま、拳が命中する直前に急いで空間を飛んだ。


「ハァッ……ハァッ……」


 呼吸の必要がない体にも関わらず、生きている人間と同じように息を切らすむつき。ゼドが菊花の槍を食らっても無事だったのと、一瞬で距離を詰めて反撃してきたことに恐怖して、息を乱してしまった。


 転移した先はまたも空中。ゼドの斜め下200mの位置。むつきとは対象的に、冷静にゼドとの位置関係を確認し、次の槍を召喚するキッカ。


「おい、キッカ! ピンピンしてるぞ!」

「全力だったんだけど、あれじゃ足りないみたいね……」

「ハァッハァッ……どうする? キッカ……」


 不安そうに尋ねるむつきに対して、菊花は答える。


「むつきちゃん、連続で悪いんだけど、槍に加速魔法かけてくれない?」

「なるほど、質量×速度=エネルギーだから、速度を10倍にすれば威力も10倍に……」

「えっ? 速度上げたら威力も10倍になるの?」


 むつきの言ったのは、単なる質量保存の法則で、物理の基礎中の基礎だったが、菊花はそんなに強くなるのかと驚いている。自分の担当していない教科については、全然だめな英語教師であった。

 むつきは抱きついたまま、魔法を発動させる。むつきの魔力がコーティングするかのように体を覆っていく。


「……"加速世界アクセラレーション"。今から私達は10倍の速度で動ける」

「ありがとう、むつきちゃん」


 こちらに気付いたゼドが、空を蹴って向かってきた。本来なら200mなど一瞬で飛んでこれるのだろうが、今は1/10のスピードなので遅く感じた。しかし時間的余裕はそれほどない。菊花は槍を握りしめると、雷電が槍に電流を送る。


「これで決めろっ!」

投槍魔法アキュリス・マギア、"神罰の雷エル・サンダー10倍"!」


 大きく槍を振りかぶり、上半身のバネを使い、全力で槍を投擲する菊花。雷速すら越えた光がゼドに向かっていく。

 だが、槍が当たる瞬間、ゼドの魔力が増大し、ぶわっと放出された。一瞬で起こった魔力の洪水は菊花達も飲み込んでいく。むつきが黒いステッキを握りしめて対抗しようとするが、魔法の連続使用がたたり、反応が遅れた。

 体を敵の魔力で無理矢理抑えつけられて、潰れそうになる。


(しまった! 槍は……)


 ゼドは空中で静止し、飛んできた槍を掴んでいた。


「防がれた……」

「くそっ! あれだけの威力を殺したのか!」


 ゼドは防御用にシールドを張ったわけでも何でもなかった。ただ、魔力を放出して槍にかかっている加速を解いただけだ。加速魔法はあくまで時間的に速くなってるだけで、元々のスピードが上がっているわけではないので、加速分の慣性は発揮されなくなる。解かれた瞬間、元のスピードに戻った槍をゼドはキャッチして、起爆しないように魔力で抑えつけた。


「お返しだ」


 ゼドが槍を振りかぶり、思いっきり投げた。キッカの魔法と違って雷撃を伴わないただの槍なのだが、その凄まじい膂力は恐ろしいスピードを生んだ。菊花たちの目の前に迫ってくる槍。


「くっ!」


 むつきがまた空間魔法で移動しようとしたが、ゼドからの魔力のプレッシャーが残っていて、うまく発動しない。


 だんっ!

 菊花が空中を思いっきり蹴って、むつきと雷電を連れたまま横に飛んだ。槍は菊花達をかすめてさっきまでいた場所を飛んでいった。

 しかし、避けたと思った瞬間、どがん! と強い衝撃をぶつけられる。菊花は胸を打つ衝撃にはじかれて、落下していく。


「ぐぅっ!」

「キッカ!?」

「何だ!? 何が起きた!」


 落ちながら菊花はゼドの方向を見ると、ゼドが拳を突き出して正拳突きを放った後のような姿勢をしていた。


空拳くうけん……ただ空気を殴るだけの打撃……ここまで届いて……)


 菊花にしがみついていたむつきは、体勢を崩した菊花を抱えるようにして、落下しながら体勢を整える。そしてなんとか二本の足でどすっと無事着地した。

 着地の衝撃に耐えかねて転んでしまったが、菊花と雷電は無事だった。


「……思ったよりつまらんな」


 ゼドが腕組みをしたまま、黒翼をはばたかせてばさりと着地した。むつきはすぐに立とうとしたが、足に力が入らずに立てなかった。


(魔法の連続使用……体への負担が一気に……)


 ゼドは動けないむつきをつまらなそうに見送ると、菊花の方を向いた。菊花は打撃を食らったにも関わらず、新しく召喚した槍を杖代わりにして再び立ち上がっていた。


「遊びはここまででいいだろう、キッカ」


 ゼドはそんな菊花を見て、そう言った。この悪魔にとっては、今までの攻防は勝負にすらなっていなかった。ただの遊びだったのだ。


「……神獣合身をしろ。お前の最強の形態チカラでかかってこい……!」


 ゼドの声が真剣味を帯びて今までより低く、重く響く。ここからは本気の戦いだと、その目はうったえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ