69 風邪を引いた日
今日も悪魔退治をしていると、銀華お嬢様と鉢合わせになった。今回の悪魔は素早く逃げまわる敵で、私の足では全く追いつけなかったので、彼女の拘束魔法が役に立った。
「全く! この程度の相手に苦戦するなんて、わたくしのライバルとして恥ずかしいですわ!」
「いやぁ、ごめんごめん。ありがとーたすかった」
「すごい棒読みですの!?」
銀華は魔法少女としては優秀な方だと思う。といっても、銀華より弱い魔法少女に会ったことないから分からないけど。
「そういえばシュガー。この街にはもう一人魔法少女がいるらしいですわね?」
「ああ、むつきのこと? まだ会ってなかったの?」
「会ってないもなにも、向こうは姿すら全く現しませんの! もう、どういうことですの!?」
銀華はどうやらまだむつきに会ったことないらしい。あぁ、避けられてるんだな。むつきは銀華のことを知ってるし、多分前の世界で会ったことあるんだろう。
「むつきとやら、本当にいるんですの? ちゃんと魔法少女してますの?」
「あの子普段はソロ狩りしてるから会わないかもね」
「一人で? 協調性ないですわね」
「というかキッカ姉も基本的にソロ狩り」
「え? どうしてですの!?」
「二人とも強いから協力しなくても悪魔倒せるのよ」
まぁ、他にも単純に時間が合わなかったり、むつきが携帯持ってないから連絡取れなかったりとか色々あるんだけど。私も今まで無傷だったので、一人で問題ないけど、今回のような素早い敵についてはキッカ姉とむつきのどっちかが対応してくれてたなぁ。
「駄目ですわ! そんなことでは魔法少女なんてやってられませんわよ!」
「そうなの?」
「魔法少女なら、合体技の一つくらい使うものですわ!」
「合体技だと」
「そうですわ! わたくし達で合体技を作りましょう!」
銀華がうきうきした様子で提案してくる。
「まずはわたくしが赤のビームを撃つので、貴方は青のビームを撃って……」
「ごめん無理」
私は即座に却下した。
「どうしてですの!?」
「ビームとか無理。撃てない」
「貴方ホントに魔法少女!?」
そんなことを言われても、無理なものは無理である。ていうか銀華は撃てるのか。
「キッカ姉とむつきもビームなんて使ってないし、別にいいじゃない」
「ええっ!? みんなビーム使いませんの!? どうして!?」
「うーん、普通に戦った方が強いから?」
キッカ姉は槍投げた方が強いし、むつきは空間ごと斬るので、ビームなんて使わない。というか使える前提なのか魔法少女は。
「まぁ、そういうことだから先に帰るね」
「ちょっとお待ちなさい! 合体技の特訓がまだでしてよ!」
「いや、しないから……」
銀華が引き止めようとして、私の肩を掴んだが、何かに気付いたようにハッと息を呑む。
「貴方……顔色悪いですわよ。そういえば今日の動きも精細を欠いていたように思えますし……」
そうかなぁ? 運動音痴だから元々動きは悪いけど……
「今日はあったかくして早めに寝なさい! 早く体調を戻すの!」
銀華はそう言い残して、あっさり解放してくれた。うーん、別に風邪じゃないんだけど、優しいとこもあるんだな、銀華は……
そして翌朝ーー
だるい体を起こしながら、38.1度を刻んでいる体温計を見て思った。
風邪だこれ。
ーー同日朝、井上菊花のアパート。
「そう? 風邪なの? うん……うん。分かったわ。こっちは大丈夫。気にしなくていいから、ゆっくり休んで。ね? 病院もちゃんといくのよ」
そう言って菊花は、良子からかかってきた電話を切り、居間に座っている魔女帽子の少女ーーむつきに話しかけた。
「むつきちゃんの言った通り、本当に風邪引いてたわね……」
「正確に言えば、季節外れのインフルエンザa型。この日彼女が学校を休むのは、既に決まっていた」
むつきが答えると、その対面にいる白い犬が口を開いた。
「ということは、遂にこの日がやってきたということか……」
「ええ、そうね」
菊花は窓を開けて空を見上げ、ぽつりと呟く。
「今日が私の死ぬ日、か」
その日の空は、どこまでも蒼く晴れ渡っていた。




