68 クロモとマナ
やぁ、今日も善良に頑張ってるクロモだよ。
良子を魔法少女にしてからもう結構経ったような気がするけど、最近銀華という後輩の魔法少女が増えたよ。まぁ、大して興味ないけど、今日も悪魔退治のときに良子に突っかかってたよ。ライバル意識ばりばりあるみたいで、良子がちょっとめんどくさそうに対応をしてるよ。ぷぷぷ
そんなこんなだけど、最近良子の様子がなんかおかしいことに気付いた。
なんか喋ってるんだよ! ここにいない誰かと!
変身するときとか、ステッキ出すときとかに「マナ、お願い」とか「いくわよ、マナ」とか言ってるの!
だれ!? ねぇマナってだれ!?
というわけで最近良子が頭おかしくなってるので、ちょっと調べてみようと思う。
良子が寝静まったとき、ボクは机の上に置かれているマジカルチャームにそっと触れた。チャームは元々ボクの魔力から創りだしたモノであり、ボクの一部みたいなものだ。これは良子が肌身離さず持っているので、こいつから良子の情報を引き出せるはず。
……そう思ってたんだけど。
「ここどこっ!?」
チャームに触れた瞬間、ボクの意識は良子の部屋を離れて、暗い空間に閉じ込められていた。なにこれ? どうなってるの?
あたりを見渡しても何もない。ボクが戸惑っていると、幼い少女のような声が直接意識のなかに響いてきた。
――なにしにきた?
「だれだよ、お前」
――まず貴方から名乗るべき。侵入者
「クロモだ。お前は誰だ?」
――貴方がクロモ。私は……私は……
不意にボクの目の前で黒い塊が集まっていき、人型を成していく。そして黒い塊がだんだんと色付いていき、人間の少女の形を取った。
そして、少女は目をゆっくり開き、何度かぱちぱちさせた後、手を何度か確かめるようにグーパーした。まるで、自分の体を確かめるような所作を繰り返した彼女は、ぽつりと「よし」とつぶやいた後、こちらを向いて話しかけてきた。
「……私はマナ。マジカルチャームの中にあった意識」
「はぁ? マジカルチャームの意識?」
少女の言った言葉が理解できずに、ボクは聞き返すと少女はこくりと頷く。
「あれはただの変身アイテムでしょ。意識とかあるわけないじゃん」
「そう、ただの変身アイテム」
ボクの言葉を否定せずに、少女はそう言った。うん、だってマジカルチャームはたたの変身アイテム。ボクがそう作った。なのに……
「……ただ、貴方が見様見真似で創ったそれは、致命的な欠陥を抱えていた」
は? 欠陥? ボクが創ったものに欠陥なんてあるわけないじゃん。だって元魔王だよ? ブラックモア様だよ? 偉いんだよ?
「それは致命的な欠陥……それは浄化機能を欠いていること」
「え? どゆことそれ」
「観察した結果、菊花や銀華はデビルエレメントを吸収しても、悪魔の抱えている負の記憶など想起していないことを確認した。それは、彼女らのマジカルチャームには浄化機能がついているから」
「あー、つまりアレって欠陥だったの?」
「おそらく、浄化機能は魔法少女の精神保護の為に必要な機能。それが無いのは欠陥」
まじかー。良子が平気そうにしてたから、別にいいやと思っていたけど。
「浄化という過程を経ずに得た魔力は、悪魔の魔力のまま。悪魔のチカラを吸収し、ひとところに集めた結果、新しい悪魔が生まれた」
「えーと、つまり?」
「それが私」
そう言って少女は自分を指さす。んー、本当に悪魔なのかな? その姿はあんまり悪魔に見えないけど。
「つまりお前はボクの子でもあるってことか」
「そうともいえる。でも私が私を認識し、ここに存在しているのは、彼女が私に名前を付けたから」
「えーと、良子のこと?」
「彼女が存在を定義し、存在を許した。だから私がここにいる。それは、彼女の使える唯一の魔法でもある」
良子の使える唯一の魔法? あのステッキ殴りのことじゃないの?
ボクは良子の魔法のことをずっと疑問に思ってたので、聞いてみることにした。
「良子の魔法の正体を知っているのか?」
「彼女の魔法は……強化魔法ではないし、ましてや無敵のバリアでもない。ステッキで殴る魔法でもない」
うわー、今まで考えてた可能性、全部否定された。じゃあ何だっていうの?
「あれは、ただそこに在るだけの魔法……それだけの魔法」
「そこにあるだけ?」
「絶対魔法という名はよくできている。その魔法を呼称するのにふさわしい」
「つまり……何?」
ボクの質問に、少女は少し思案して答える。
「彼女の魔法は存在するだけの魔法……いうなれば、『存在魔法』。彼女はそれしか使えないが、その魔法を使っている限り、彼女の存在は保証される」
「存在するだけの魔法?」
「それは、存在に干渉する魔法でもある。その魔法は魔力の多寡とは関係なく、一方的に相手の存在を打ち破ることが出来る」
存在魔法? 魔力に関係なく? つまり、実力差がどんなに離れていても通じるってことか? ……そんな馬鹿な。そんなものがあるはずがない。それが出来るなら、敵がどんなに強い魔力を持とうが、良子の前では関係ないことになる。
「そんな魔法、聞いたことが無い。ありえない。ましてや……良子は普通の家庭の一般人。魔法少女の片鱗の一つも見えないただのモブ眼鏡だぞ」
「でも、貴方は彼女を選んだ。それは何故?」
無表情のまま、ことりと首を傾げて尋ねてくる少女。ボクが良子を……我がヤツを選んだ理由、それは……
「……魔法少女に相応しくない、そういうところが気に入った」
「つまり、貴方は最初から魔法少女を作るつもりは無かった」
……そういうことになるな。言われてみて初めて気づいた。元々当初の目的……魔法少女を自分で作って、そこから魔力を回収する作戦。あれは名案だと思っていた。でもそれには魔法少女自体の強さが必要不可欠。だが、我が選んだのは魔法少女の才能が無い人間だった。
「貴方が求めていたのは、普通の人間? それとも悪魔? 友達? パートナー?」
少女が尋ねる質問に、我は答えることが出来なかった。佐藤良子という一人の人間に、一体何を期待していたのだろう?
だが、それはそれとして……
「それはそれとして、結構悪魔倒して魔力溜まってるでしょ。回収するよー」
ボクはマジカルチャームに魔力のバイパスを作り、チャームから魔力を回収することにした。よくやってることなので、手慣れたものだ。
「……あの、人が話してるときに勝手にしないでほしい」
「なんだよ、文句あんの? 生まれたてのくせによく喋るなー」
「……貴方はいつも魔力を持っていきすぎる」
「良子は有効活用できないんだからいいじゃん。持ち腐れじゃん」
そういうと少女はキッとにらむような視線を向けてきた。
「……彼女の魔法はまだ、成長の余地があると思う。いつも魔力を持っていきすぎだから、未だに撲殺しか出来ない」
「そーなの?」
「きっとそう」
少女は力強くうなづく。何その良子に対する謎の信頼度? だって良子だよ?
「8割は持っていきすぎだと思う」
「昔の年貢でもこんくらいの割合だったし平気平気」
「貴方はろくに働いていない。常に前線に出ている彼女の働きを考えると、比率は逆にするべき。彼女が8割、貴方が2割が妥当」
「えー、2割は少なすぎでしょ」
「じゃあ半分で許してやる」
「なにをー!」
少女が生意気なことを言うが、ボクはそんなこと関係なしに魔力を持っていくぞー!
……あれ? 吸えない? ナンデ?
「今頃気付いた? マジカルチャームに私という意思が生まれた以上、既に貴方の制御下から離れつつあることを」
少女がニヤリと悪い笑みをする。無表情だった少女が初めて見せた笑顔だ……あれ? ボク、とんでもない欠陥品を作ってしまったんじゃ……
それでも無理やり魔力を吸おうとして、ボクは翼をばさっと広げた。支配力を強めるんだ! ボクの方が上の立場なんだから!
…あれ? ぐぐぐ、魔力が吸えないだとー!!
少女は憐れんだような顔をして、手を差し伸べる。
「半分で許してやる。それが私の優しさ。貴方は親でもあるから」
許しを請わねば魔力を得られなくなったとか……とか……ボクは愕然として翼を落とす。
立場が……逆転した。
「この、欠陥品めーーー!!」
くそぅ、適当に4時間で作った罰が当たったのか。ボクの絶叫が空間にこだました。




