67 朱鷺宮銀華②
新手の魔法少女である朱鷺宮銀華という少女と交流するという名目でキッカ姉のアパートで会合をしていたのですが、その少女はどうやら私のことが気に入らないようでした。
「勝負よ佐藤良子! おもてにでなさい!」
その少女の一言で私は外にでました。ちなみにキッカ姉は止めようとしなかった。あの人は穏やかそうな見た目に反して、根底に脳筋の魂を宿してるので、「殴りあえば分かり合えるだろう」と思っていると思われます。まぁ、その理屈も分からないでもないけど、それは力ある者が取れる選択肢だよ?
「ふふ、今宵は魔力が昂ぶるわ……!」
「今真昼なんだけど」
なんだかノリノリのご様子の銀華お嬢様。とても楽しそうである。ちなみに試合会場はいつも私達の特訓場となっている閑散とした神社の広場。デン曰く、この場所は水龍の加護があり、一般の人に見つかる心配はないらしい。つまり都合のいい不思議空間ということだ。
「さぁ! いきますわよ! 神の力を我が手に!」
銀華お嬢様がかっこよくマジカルチャームを取り出して天にかざした。チャームの宝石の色は彼女の名前を示すような銀色。
「我が前の敵を討ち祓う力よ! 我が身に宿れ! 変身!!」
銀華お嬢様が口上をあげると、マジカルチャームから銀色の光があふれて彼女の体を覆う。ノリノリでなかなか様になっている。まるでアニメに出てくる魔法少女のような変身だ。クロモも「すごい! まるで魔法少女だ! 実在したのか!」と私をチラチラ見ながら言って煽ってくる。
うん、そうだね。でもこんな魔法少女みたいな変身を一般人が素のテンションでやるのってキツイよ。相当頭がキマってないとできない。
銀色に輝く変身の光が治まると、そこには赤と黒を基調としたゴスロリファッションの銀華がいた。銀色の髪はツインテールでまとめられており、先端が縦ロールになってる。背中からは灰色の翼が生えて、堕天使っぽい。顔に幼さを残しつつも、攻撃的にも見える釣り目が妖艶な雰囲気を醸し出している。
文句なしの美少女である。変身前から美少女であったが、キラキラエフェクトのオーラが更に輝きを増した。
「どうですの! これが真の魔法少女の姿ですわ!」
……喋らなければ非の打ち所のない美少女なんだけどなぁ。とりあえず私は社交辞令として賛辞を送っておく。
「とても綺麗で可愛くて、貴方に似合ってる衣装だと思うわ」
「そ、そう? やっぱりそう?」
私の褒め言葉に頭をかきながらテレテレしだすお嬢様。どうしたのだろうと思っていると、銀華の神獣のネズミが解説した。
「お嬢様は魔法少女になって日が浅いっチュ。魔法少女の容姿に自信は持ってるけど、実際褒められた経験があんまり無いっチュ」
「ちょっとチュースケ! 余計なことベラベラ喋らないで!」
コホンと咳払いをして気を取り直したが私をビシッと指差した。
「それじゃあ佐藤良子! 今度は貴方が変身する番よ!」
「はぁ……」
私は肩を落として縋るようにキッカ姉を見たが、彼女はとても期待しているわくわくした視線を返してきた。誰も止めてくれない。やるしかないか。私はマジカルチャームを取り出した。
「……変身」
「え、なんて!?」
聞こえるか聞こえないかの声でぼそりと呟き、変身を開始する私。マジカルチャームから黒い奔流が溢れ出て、私の体を覆った。それを見て銀華は「ダークパワー!?ダークパワーですの!?」と驚きの声をあげる。はいはい、ダークパワーダークパワー。
黒い光がおさまると、私の姿は魔法少女になっていた。雪のように白い髪をサイドテールにして、青と白を基調にしたプリンセス風の姿。最大の違いは眼鏡が外れて二重まぶたになったところだろうか。前、試しにこの姿のまま眼鏡をかけたらコスプレ臭が増して、オタサーの姫みたいになった記憶がある。
「うそ……あなた誰?」
銀華が驚愕に目を開く。うん、そういう反応くると思った。
「ふふん、今の良子は魔法少女シュガーと呼ぶんだよ」
クロモがなんか偉そうに言ってる。おい、シュガー呼びは恥ずかしいんだが? でもまぁ、この姿のときに佐藤良子と呼ばれてもアレだし、甘んじて受け入れるしかない。身バレ防止の為に!
「魔法少女シュガー……どうやら貴方を見くびっていたようだわ。ここまでやるなんてね」
「まだ何もやってないんですが」
「赤と青――奇しくもわたくしと対となる色合い……貴方をライバルと認めてあげてもよろしくてよ!」
「謹んでお断りさせていただきます」
「こうなればわたくしの魔法を見せるほかないようね!」
なにがこうなればなのか。私を無視してどんどん話を進める銀華お嬢様。デンが警告を発する。
「気を付けろ良子。ヤツの神獣、鉄鼠は神格こそ低いが、鋼属性というレアな属性だ。使用者によってはかなり強い魔法が使えることもある」
「なるほど」
「わたくしの魔法は罪人を裁く鎖! その名も『罪咎魔法』!! 貴方に見切れるかしら?」
銀華が手をふるうと、何もない中空から魔法陣が浮かび、そこから鎖がジャラジャラと飛び出した。そのまま鎖が私に向かって伸びる。なるほど、鎖の魔法か。汎用性ありそう。
ぼーっと見てたら、鎖が私の体に巻き付いて私を縛った。
「って、なぜ避けませんの!?」
「えーと……まぁ、避けるのがめんどかったというかなんというか」
私は縛られたまま答える。鎖がギチギチ鳴ってるけど、別に痛みは感じない。ノーダメージである。
「わ、わたくしを舐めると痛い目に遭いますわよ! 大人しく負けを認めなさい!」
「まぁ認めてもいいんだけど……」
私はちらりとキッカ姉の方を見た。私があっさり捕まってから、ちょっとおろおろしだした。心配かけるわけにはいかないし、仕方ないなぁ……
私はふぅ、と息を吐いて力を込めた。両腕を思い切り伸ばす。ばきんっと音を立ててあっさり鎖は千切れた。ふむ……拘束系魔法も特に問題ないのか。今まで散々つかまってきたけど、普通に力づくで脱出おーけーだったらしい。だけど、拘束素材が柔らかかったら、こんなふうに破壊できなかったかもしれないし……
「あ……え?」
「さて、どうするお嬢様」
銀華が驚愕して信じられないというような視線を向けてくる。それを見ていたキッカ姉とデンが歓声をあげる。
「すごい! すごい! 良子ちゃんすごい! いつの間にそんなこと出来るようになったの!?」
「驚いたな……見たところ、あれはただの鎖ではなかった。強度に優れた鋼属性の魔法をあっさりと」
なんか褒めすぎじゃない? ただ何の工夫もせずに引き千切っただけだよ?
「ぅううう! まだ終わってませんわ!」
「あ、まだやるんだ」
「右手に死神! 左手に眠神!」
銀華が赤と青の双剣を召喚し、握りしめた。あれが彼女の魔法武器か。
「マナ、お願い」
私もマジカルチャームに命じて、いつもの白いステッキを取り出すことにした。黒い宝石から光が放たれ、形を成していく。でもリーチが短いのが難点だよね。もっと長ければいいのに。
そう思っていると、いつもの白いステッキが3mくらいの槍のような長さになってた。
「長っ!?」
突然のステッキの変化に驚く私。なんだこれ、今までこんなこと一度もなかったのに。何の影響だろうかと考えたけど、よく分からない。ただ、胸のマジカルチャームが誇らしげに輝いている。マナという名前をつけたことで何か変化あったのか、こいつ?
キッカ姉も「すごいすごい!」と興奮気味だが、ボキャブラリーがあんまり無いのがキッカ姉の特徴であった。
「えーと、とりあえず戦う?」
私が銀華に尋ねると、ハッと気付いたように彼女が答える。
「も、もちろんですわ!」
「ではどうぞ」
「いきますわよ!」
銀華が双剣を交差して走り出す。速い。キッカ姉程では無いが、少なくともむつきの次くらいの速さだ。素早さでは敵わないだろう。だから私は槍状のステッキを前方に構え、悠然と待った。
「赤と青の円舞曲!!」
「必殺技名まで言うのね……」
ワルツと言いながら彼女は直進してきた。真っ向勝負かい。
彼女の双剣が私の槍ステッキと激しくぶつかると、彼女の双剣がぽっきりと折れた。
「え……あれええぇーー!?」
折れた双剣を抱え、がっくりと膝を落とす銀華。彼女をじっと見つめてると、えっぐえっぐと嗚咽の声が漏れ始めた。え? ガチ泣き? クロモが「やーいやーい泣かしたー」と煽ってくる。あいつうざい。
「うぅぅ……折角作ったわたくしのタナトスとヒュプノス……こんな姿になって……」
「えっと……ごめんね?」
いたたまれなくなった私が謝ると、彼女はキッと顔を顔をあげて睨んできた。
「返して! わたくしのタナトスとヒュプノスを返して!!」
「あの、その、ホントすまんかった」
泣きながら私の襟を掴み、がくがくと揺らしてくる銀華。よっぽど大事だったんだろうか。すまん、予想は出来てたのに。それを見て、下らんという風にデンが言い放つ。
「魔力を消費すればまた作れるだろ。魔法武器なんだから」
「えっ? そうなの?」
銀華が「右手に死神、左手に眠神」とおそるおそる唱えると、壊される前と全く同じ形状の双剣が現れた。それらを握りしめると、にんまりと笑みを取り戻して銀華が叫ぶ。
「復活ッ! 朱鷺宮銀華復活ッ!」
良かったね、と私は拍手を送る。やれやれとデンがため息をつく。
「本当に最近魔法少女になったばかりなんだな。色んなことを知らなすぎる……」
それに対し、キッカ姉は「まぁ、これから学んでいけばいいじゃない」と答える。
「それよりそれより! 良子ちゃんすごく成長したと思わない?」
「お前はいつも良子良子だな……まぁ、我輩も驚いたが」
「流石私の妹よね!」
褒めすぎで、照れる。私の成長というか、マナが成長してるんじゃないかな? それを聞いた銀華が、ぽかんと口を開いた。
「菊花様の妹ですって……!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてませんわ! 全然似てませんし!」
「まぁ、義理の姉妹だし」
「義理!? いけませんわ、そんなこと!」
少し顔を赤らめて叫ぶお嬢様。おい、何と勘違いした。言っておくが、「良子さん、タイが曲がってましてよ?」「お姉様……」というような義理の姉妹じゃないぞ。養子縁組だから。
「とにかく、わたくしもシュガーも無傷! ということで勝負は引き分けでよろしいですわね!」
「いや、完全に負けてただろお前」
「というか怪我するまでやるつもりだったの?」
「お嬢様は往生際が悪いっチュ」
「負けを認めなければ負けではありませんわ!」
負けず嫌いなお嬢様の謎理屈。でもまぁ、すごくポジティブだ。ここまでいくと見習いたい。
「魔法少女シュガー! 貴方をわたくしの正式なライバルとして認めますわ!」
「ライバルかぁ……」
「何? 不満ですの?」
銀華がぶすっと睨みつけてくる。表情がコロコロ変わって面白い子だ。きっと学校じゃ友達いないタイプだな。私のぼっちセンサーがそう言ってる。
私は本来このお嬢様のライバルになれるようなキャラじゃないんだけど、魔法少女やってるとホント色々あるなぁ。まぁ、私としてはこの子嫌いじゃないけどね。面倒くさい子だけど。
「いや、認めてもらえて嬉しいわ。これからもよろしく、銀華」
「えっ? へっ? よ、よろしくてよ!」
私が手を差し出して握手を求めると、彼女もおずおずと手を伸ばしてきた。彼女のすらりとした細い手をぎゅっと握りしめる。手も美人だわ、この子。性格がアレじゃなければいいのに勿体無い。いや、そこも彼女の魅力か。
「負けませんわよ! 魔法少女シュガー、いえ佐藤良子!」
「うん、私も負けないけどね」
正直勝負には関心ないし、負けてやってもいいのだけど、このお嬢様は煽った方がいい成長しそうな気がする。まぁ、偶に相手をするくらいならいいかと私は思ったのでした。




