66 朱鷺宮銀華(ときのみやぎんか)
「ふぅん、ここが下々の者の住処なのね」
開幕から高慢な貴族みたいな台詞を放った少女に私は思わず心の中で「うへぇ」と声を上げる。
私は佐藤良子。見た目普通、感性も普通の一般市民である。しかしながら目の前にいる少女は我々一般人とは違っていた。長いまつげ、つやつやした髪、豪奢な生地を使った仕立てのいい服。心なしかキラキラしたエフェクトをまとっているような気がする。まるで少女漫画から出てきたような御令嬢だった。
「これは魔法少女同士の会合でしたわよねぇ。もしかしてこの地味な眼鏡の子も魔法少女だったりするのかしら?」
この尊大な少女は、キッカ姉が先日の悪魔大量発生の際に出会ったらしく、今日は顔合わせということで会合が開かれた。場所はキッカ姉のアパートで、参加者は私とキッカ姉とこの少女とそれぞれの神獣の三人と三匹。ちなみにむつきは誘ったけど辞退した。そういえばむつきは「面倒くさい子」って言ってたな……
「まぁ、そうですけど」
「本当に? こんな没個性の子が務まるのかしら? オーラが無いわよオーラが」
なんか何もしてないのに駄目だしされた。初対面なのにすごいえらそう。何故かクロモも「モブ眼鏡だよね」と同意しながらうなづくのでちょっとイラッとする。そこをキッカ姉が穏便にとりなす。
「まぁまぁ、お互い初めて会うんだし、まずは自己紹介しましょ。ねっ?」
「そうですわね。ではわたくしの尊き御名をお聞きなさい!」
少女は立ち上がり、自分の胸に手を当ててびしっと名乗りを上げた。
「わたくしの名は朱鷺宮銀華。あの朱鷺宮財閥の朱鷺宮銀華ですわ!」
「なにそれしらない」
「えーと、どこかしら?」
私とキッカ姉が揃って首をかしげる。残念ながら聞いたことがない。
「全く、これだから無知な一般市民は!」
「それって光菱商事よりすごいの?」
「ちょっと!そこと比べないでくれる!?」
流石に日本一の商社とは比較できないようだ。少女が地団駄を踏んで憤慨するので、私はスマホで「ときのみや財閥」と検索して調べてみた。
【朱鷺宮財閥】
明治より続く旧十五大財閥の一つ。現在では財閥は解体され、朱鷺宮ホールディングスという名称に変わっている。鉄鋼生産量日本2位のトキノスチールと造船竣工数日本4位の朱鷺宮造船を子会社に持つ、西日本の工業を支えるグループ会社。バブル崩壊後は主力となる生産部門の事業は縮小の一途を辿っている。
うん、財閥解体されてた。正しくは財閥「系」ね。とりあえずそのことには触れずに会話を進める。
「へー、あの鉄鋼所のとこのお嬢様か」
「正確には違うわね。あの会社もわたくしのところの子会社でしてよ!」
「小学生のときに社会見学で行ったわ。大きいところね」
「そうよ、大きいの!」
ここらへんの子供は社会見学でトキノスチールに一回は行っている。確かにここらじゃ大きな工場だ。
ふふーんとドヤ顔を晒す少女を見て、ちょっと地域の未来が心配になった。
「じゃあ私も自己紹介するわ。私は佐藤良子。こっちの黒いのはクロモ」
「善良な神獣のクロモだよー」
「私は井上菊花。教師をやってるわ」
「雷電だ」
それぞれが簡単に挨拶を済ます。ところで銀華お嬢様の神獣はどこだろう?
すると銀華お嬢様のバッグの中から、ぴょんと跳ねるように手の平サイズの獣が出てきた。
「はじめまして! オイラは神獣のチュースケ! よろしくっチュ!」
ネズミだ。灰色のネズミが喋っている。その姿を見て、デンが顔をしかめた。
「何がチュースケだ。お前は鉄鼠だろう。あとその語尾はなんだ」
「おや、誰かと思えば雷電の旦那じゃねぇですかい」
デンと鼠が話している。どうやら、お互いに見知った顔らしい。
「知り合いなの?デン」
「ああ。こいつは鉄鼠だ。まぁ、偶に会う程度で特に親しくはないが」
「へっへ。つれねぇこと言わねぇで下さいよ。あっしと旦那の仲じゃねぇですかい」
にまりと笑う鉄鼠に対し、デンがイヤな顔をした。あんまり関わりたくなさそうな顔だ。
「チュースケ!貴方はネズミらしくチューチュー言ってればいいの!」
「す、すみませんっチュ。気を付けますっチュ!」
銀華お嬢様が鉄鼠の尻尾をつまみ、宙ぶらりんにした。どうやら上下関係がはっきりと決まっているらしい。しかし、神獣と魔法少女の関係って何なんだろう? 普通なら力を与える側の神獣が上位になりそうなものだけど。
「安心しろ。こいつがマゾで下っ端根性が染み付いてるだけだ」
「なるほど、マゾか」
「ついでに面食いで美少女とばかり契約する」
「ちょ、風評被害はやめるっチュ!」
鉄鼠の尻尾をつかんでた銀華お嬢様が「そうだったの!?」と言ってちょっと引いた。そこを鉄鼠が慌ててフォローする。
「オイラは悪くない! オイラは女神の化身のようなお嬢様に魅せられただけなんだっチュ! 悪いのは美しすぎる銀華お嬢様だっチュ!」
私からすると更にドン引きする台詞だったが、銀華お嬢様の反応は違った。
「そうですわね……わたくしの美しすぎるのが罪なのですわ!」
部屋の中でビシッと立ちポーズを決めるお嬢様。背景に花びらが舞ってそうだ。私は小声でデンに話しかけた。
「なにこの子。アホの子なの?」
「鉄鼠は面食いに加えて、知能指数の低い人間とよく契約する……」
「雷電の旦那も分かってねーっチュね。魔法少女はバカな子ほどよく伸びるっチュよ」
「お前その喋り方気持ち悪いからやめろ」
アホの子お嬢様とマゾのネズミか。むつきが会いたがらない理由がよくわかった。あの子じゃ対応不可能だろう。
「というわけで、これからは魔法少女同士仲良く頑張りましょうね。良子ちゃん、銀華さん」
キッカ姉が強引に締めたが、銀華は納得してない顔をする。
「ちょっとお待ちなさい。まだわたくしは貴方を認めたわけではなくてよ!」
「えぇ? あのときのじゃまだ足りないのかしら?」
「あ、いや、菊花様のことじゃなくて!」
銀華が慌てて否定し、こほんと咳払いをした。ていうかこの高慢なお嬢様に菊花”様“って呼ばれるとか……一体何をしたんだ、キッカ姉。
「わたくしは貴方のことを認めてないって言ってるの!佐藤良子!」
「なに? 私?」
「そうよ! 貴方のどこが魔法少女というの! どこにでもいる平民じゃない!」
「否定はしないけど」
「魔法少女とはわたくしみたいな可憐な存在がなるものですのよ!」
なんか私のことが気に食わないらしく、喧嘩腰である。その様子を見て、キッカ姉がボソッと言った。
「私は銀華さんより良子ちゃんの方が強くて可愛くて魔法少女に相応しいと思うなぁ」
さらりと爆弾を投下した。
「嘘……こんな一般人が菊花様に認められてるなんて……」
「あのー銀華さん?」
「勝負よ佐藤良子! おもてに出なさい!」
ビシッと人を指差して宣戦布告をするお嬢様。面倒くさいことになった。「よしこがんばれー」とクロモがニヤニヤしながら応援してきたのがむかついたので、チョップしといた。




