64 むつきと話し合い
私は自分の部屋にむつきを呼び出した。あの夜はあまり話が聞けなかったから、聞きたいことがたくさんあった。今この部屋にはむつきと私の二人きり。きっちりと話を聞くまで逃がしはしない。
「で、色々と話が聞きたいんだけど、言いたくないことは言わなくていいわ。その代わり、嘘や誤魔化しをせずにしっかり答えてね」
「……はい」
みちかの悪魔を倒したあの夜、むつき=みちかということが確定したが、まだまだ彼女には謎がある。
「ということでおさらいだけど、貴方は未来からきたみちかちゃんってことでおーけー?」
「おーけー……です」
恥ずかしがってるのか、うつむいたまま喋るむつき。再度の確認だが、重要なことだ。話が食い違うかもしれないから。
「私は貴方を空間魔法の遣い手だと思ってたから、『空間魔法を使って並行世界から来た』ってケースも考えていたんだけど、『未来から来た』で確定なのよね?」
「それは……はい。そうです」
「貴方は過去の世界に戻れる何らかの手段を持っているということ?」
「……そもそも私の魔法は空間魔法じゃない」
そうなのか。ということは……どういうことだね?
「私の魔法は『時空間魔法』。時間と空間を操る魔法」
いかん、予想はしてたが更にチートさが増した。
「と言っても、過去への移動は時間の流れに逆らうことになるから、とても大きな力が必要…二度目は無いと思う」
「というと、時間能力はあんまり使えなかったり?」
「加速と減速、それなら今の私でも使える。停止も使えないことは無いけど、停止できる時間はとても短い……ごめんなさい。そこまで強くなくて」
「いや、それに加えて空間魔法が使えるんでしょ?十分チートなんだけど」
「それでも、キッカに負けた。まだまだ私は未熟」
うん?いつのまにキッカ姉と戦ったの?ていうかそれに勝つキッカ姉どんだけ強いの?時間操作とかラスボス級の能力よ?
まぁ、他にもむつきにはたくさん聞くことがある。とりあえず私は目を覚ましたみちかちゃんの様子を報告した。
「まぁ、そんな感じで目が覚めたみちかちゃんはクロモのことが見れるようになってたわ。ここまで予定通り?」
「そうね。前回もそんな感じだったわ」
むつきが気を取り直して、クールな感じで淡々と答える。むつき=みちかなんだけど、話し方が違うとやっぱり印象変わるなぁ。
「一応、私が魔法少女だってことは伏せて、クロモは悪霊みたいなものって扱いにしたけどあれで問題なかった?」
「特に問題はないわ。まだ知る必要ないもの……」
心なしか、むつきは寂しそうな顔をしている。
「……でも、あなたはもっと早く知りたかった?」
「……分からないわ。知ったところで、どうにもならなかっだろうし。良子の判断は正解だと思う」
むぅ、前も同じような行動を取ったのか、私は。
「あれってもう、みちかちゃんは魔法少女の仲間入りってことになるの?」
「いや、あのままでは魔法を使えない。あくまで素質を身につけただけ。魔法を使うにはマジカルチャームが必要」
むつきが自分の胸にあるマジカルチャームを撫でる。その黒い輝きは私の持っているものと少し似ている気がする。そのチャーム、もしかして…
「ねぇ、むつきのマジカルチャームってどこで手に入れたの?」
その質問をすると、むつきが唇をきゅっと噛み、数秒沈黙したが、やがて絞り出すような声を出した。
「……それは言えない。きっと今回の未来は違うはずだから、前のことは言う必要…ない」
「そっか」
何となく見当がついてしまった。
「つまり、未来の私は死んだってことか」
私の放り投げた言葉に、むつきはびくっと反応する。悲しそうな目をしている。今にも泣きそうだ。むつきは答えないが、確証は得た。
彼女には辛い思いをさせてしまうかもしれないが、更に確信を得る為に私は質問を続ける。
「近いうちに魔王が現れるって、むつき言ってたよね。じゃあその魔王に私は殺されたの?」
「……いや、原因は魔王じゃない」
「魔王じゃない?どういうこと?」
「それは……あいつが……」
むつきが突然頭を抑える。頭痛をこらえるように、表情を歪めている。
「……言うのって、やっぱりつらいの?」
「……いや、違う。あいつは自身についての記憶を操る。思い出そうとしても、あいつのことだけ思い出せない。顔も、名前も」
「でも、あいつのやったことは忘れない」
むつきは思い出そうとしてるのか、苦悶の表情を浮かべる。記憶を操るとは、厄介なやつがいたものだ。
「そいつは……敵なの?」
「……ええ、敵。そう、敵よ。あいつだけは許せない。あいつだけは……」
むつきの表情に憎悪が浮かぶ。初めてみた、こんな顔。とても……彼女らしくない顔。あんまり、そんな顔してほしくない。
私はむつきの顔を両側からぱしんと叩く。手に顔をはさまれたむつきが呆然とした表情をする。
「大丈夫よ、むつき」
「……どうしてそんなことが言えるの?」
「だって、貴方がいるもの。最悪の未来を防ぐ為に、貴方が来たんでしょ?」
私は自信を持って答える。大丈夫だと。なにせ時間操作と空間操作を使える上に、未来のことを知っているイレギュラーな存在が目の前にいる。彼女はいわば物語のジョーカーだ。
「前の私がどうだったのかは知らないけど、貴方がいる限り、今の私は負けたりしない。魔王だろうがなんだろうが、ぶっとばして最終的に勝つ。そうでしょ?むつき」
「そうね……そうだったわ」
むつきの顔に決意が浮かぶ。だけどさっきのような悲壮な感じは少し消えた気がする。
そしてむつきは少し自分のマジカルチャームを見つめた後、こう言った。
「……もう気付いてるかもしれないけど、貴方のマジカルチャームには自我が芽生えつつあるわ」
「あ、やっぱり?」
唐突な言葉だった。でも私は何となく知ってた気がしたので素直に受け入れた。いや、だってさ。このマジカルチャーム、なんか変な感じするもん。ただの変身アイテムじゃないよ、これ。私の意思を汲みとって行動してくれる感じがする。あと、魔法少女服のセンスがとても少女趣味で、私の地味センスとは違う気するし。
私はポケットから、マジカルチャームさんを取り出した。黒い輝きがとても綺麗。
「彼女に名前をつけてあげるといい。きっと喜ぶと思う」
彼女?マジカルチャームさんの性別は女の子なの?女の子かー、何という名前にしよっかなぁ。私はマジカルチャームさんを撫でながら考えた。
「じゃあ、ル……」
「ただし、『ルナ』と名付けるのはやめて」
いや、なんでさ!?なんかすごいピンポイントな指摘だけど、むつきが大真面目で真に迫った表情だったので、素直に聞くことにした。ルナはダメかー。じゃあどうしよ……そうだ。
「マナ、なんてどうかな?」
頭の中で考えていた第一候補のルナが却下されたので、一字変えてマナにした。うん、いい名前だ。魔法っぽいいい響き。むつきがホッとした表情で胸を撫で下ろした。
「マナなら問題ない」
「よし、じゃあお前の名前はマナね。よろしくね、マナ」
私はマナと名付けたマジカルチャームを撫でる。マジカルチャームはそれに反応したかのようにひときわ輝いた。喜んでるの?これ?
まぁいいか。マナ、私は御主人様だから絶対服従ね。クロモの言うことは聞かなくていいからね。分かった?ね。
時間も空間も操れる超絶チート魔法少女だったむつきさん。でも本気で殺す気でいかないと、キッカには百回勝負挑んでも勝てません。キッカはチートな魔法をもってませんが、戦闘経験と人間性能が段違いなのです。




