表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/145

63 みちかの目覚め

 夢を見ていた気がする。

 怖い目をした人たちに何度も、何度も、つぶされる夢。

 何度も繰り返される怖くて、痛くて、救いのない悪夢。

 永遠ともいえるその夢の中で、彼女に出会った。


 雪のように白い髪をした少女。

 1人きりの世界で、彼女だけが手を握ってくれた。

 ……これは夢だ。だけど、彼女が一緒ならこの悪夢も悪くはないんじゃないかと思った。


 まぶしい。閉じているまぶたが明るくなる。

 私はまぶたに光を感じて、体の感覚を取り戻していく。外から鳥の声が聞こえる。車の通る音が聞こえる。どうやら完全に目が覚めてしまったようだ。

 目を開ける前に手に違和感を感じる。なにかが手に触れている。あたたかい何かが。確かめるように力を込めてそれを握り返すと、柔らかくて気持ちいい。もうちょっと感触を確かめたいと思って、ちょっと強く握ってみた。

「痛っ!」という声とともに、頭をぱしんと叩かれた。何が起こったのかよく分からない。でも、何か人がいる。寝てる間に寝室に忍び込まれたのか?なんかすごく怖い。でも誰かいる。確かめないのも怖いので、恐る恐る目を開けてみた。


 そこには、見慣れた眼鏡をかけた黒髪の少女がいた。どうしてか分からないが涙目だった。手を離せとばかりにぶんぶん振り回してきた。気が付けば、私は彼女の手を握っていて、ぎゅっと強く握りしめたままだった。


「おはよう、みちか」

「えと……おはよう?よしこちゃん」


 彼女の顔を見てると、さっきまで何の夢を見ていたのか忘れてしまった。彼女の手は私より小さくて柔らかくて、可愛いなと思ったけど、乱暴に振り払われた。ちょっと残念だった。

 あたりを見渡すと、見慣れた私の部屋だった。何故彼女がここにいるのだろうと、ぼけーっと考えてたら、彼女が「おーい、起きてるー?」と言い、目の前でぶんぶんと手を振った。

 私はゆっくりと体を起こすと、なんとなく彼女の頭に手が伸びた。彼女はしゃがみこんでいて、丁度いいところに頭があった。わしゃわしゃと髪を撫でてみる。髪質は結構固めのようだった。彼女は手を払いのけないが、なんか不機嫌そうな顔をした。


「あの、みちかちゃん。本当に起きてる?まだ寝てない?」

「起きてるよー」


 もちろん起きてる。けどなんか、夢を見てる気もする。彼女のすぐ横に変な黒いぬいぐるみみたいなのがパタパタと羽を動かしてるのも、なんか現実感を感じない。私は手を伸ばして、その黒いのを捕まえて引き寄せた。


「ちょっ、なに? なんでボクをつかめるの? てゆーかみえてんの!?」


 黒いぬいぐるみが喋る。よく見たら目と口がついてる。口がついてるなら喋るのは当たり前だ。ためしに口を引っ張ってみた。


「いたいいたいいたい! 何してんの、もう!」


 やっぱり喋る。ということは夢かもしれない。その様子を見て、良子ちゃんが頭をかかえて声を上げる。


「あー……なるほど、こうなっちゃったか。まぁ、私の責任でもあるわね」

「どうしたの?良子ちゃん」

「見えるようになった他には、何か異常はない?」

「えっと、普通だよ?」

「……寝惚けてない?あんた」


 私の頬をぺちぺちと叩きながら、良子ちゃんが言う。


「一応聞くけど、あんた昨日の記憶ある?」

「昨日の……?えっと今日って何曜日?」

「金曜日」


 えっ?学校は?


「学校は休んだ」

「休んでいいの!?」

「バカ高校だし、学業に問題ないでしょ」


 自分の通っている学校なのに、ひどい言い様である。その通りなのが悲しいけど。でもちょっと意外だ。例えバカ高校と思っていても彼女は真面目に出席するタイプだと思ってたし、今までも特に休んだことなかった。じゃあ、なんで?


「ま、大丈夫ならいいんだけどね。みちかがちょっと心配で」

「えと……私の為?」

「……当たり前でしょ」


 ぶっきらぼうに言ってぷいって顔をそらした。彼女は言葉は素直に伝えるタイプだけど、態度が素直じゃないときがある。今も人から見ると怒ってるようにもとれる仏頂面である。でも、ホントは恥ずかしいだけだというのを、私は知ってる。彼女が心配してくれたと思うと、とても嬉しくなる。


「昨日何かあったの?」

「まぁ端的に言うと色々あって気絶してたのよ、あんた」

「あの、色々って?」

「あー、覚えてないなら無理に思い出さなくてもいい」


 昨日の何があったのか、思い出せない。いや、起きる前は覚えてたはずなんだけど、まるで朝起きたら忘れる夢のように思い出せない。夢?私が見ていたのは、本当に夢だったのだろうか?どこから?


「ま、何にせよ今のとこの問題は、みちかが色々見えるようになったってことか。じゃあそいつを紹介しないとね」


 彼女は私が持っている黒いのを指さして言う。


「そいつはクロモ。悪霊みたいなもので、私に取り憑いてる」

「悪霊じゃないよ! あと取り憑いてもないし!」

「似たようなもんじゃない」


 黒いのが良子ちゃんと親しげに喋っている。やっぱりこれは夢なのかぁ。良子ちゃんは普通の人だし、こんなよく分からない生物と平然と話してるはずないよね……と思ったら良子ちゃんが頬をつねってきた。


「いひゃい!」

「いや、なんかぼーっとしてたからつい」


 良子ちゃんがほっぺから手を話す。頬かじんじんしているのを感じる。この痛みは……


「……もしかして、現実?」

「なに? 寝てたの? じゃあ起こしてあげる」


 良子ちゃんがいじわるな顔で頬を伸ばしたりしてつねったりしてくる。感覚がだんだん鋭敏になってきたようで、さっきよりじんじんとしていたい。私の腕の中で、黒いのがもぞもぞ動く。もちもちの感触がリアルだ。夢じゃなかった!

 ……というか!頬の痛みより、良子ちゃんに自分の部屋とか寝顔とか見られたことに今更ながら気付き、恥ずかしくて死にそうになったんですけど!だれかたすけて!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ