61 事後
目をつむって悪魔に突っ込んだ私がゆっくり目を開けると、空中に放り出されており、落下してる最中だった。はう、さっきみたいな無重力感は感じない。重力加速度にのっとって、どんどん地面に向かって加速していく。私が背中に手をまわすと、既にクロモがいなかった。
あー、つまりあれか。これはあれか。
あの野郎、ぶつかる瞬間に私を放り投げやがった。
そう思案しているうちに、地面が近づいてくる。このままだと頭からぶつかる!私は手を突き出し、体をかばった。
がつーん!ごろんごろん……
手から着地するはずだった私の思惑どおり、手は地面をキャッチしたのだが、体を支えきれずにそのまま倒れて、体がごろごろと地面を転がった。
うん、予想は出来ていたけど無傷。防御力高すぎない、私?逆にどうやったらダメージ受けるのこれ?
ちょっと自分の無敵っぽさに若干ひきつつ、よろよろと立ち上がる。はぁ……どきどきした。自分の胸に手を当てると、心臓が今でもばくんばくん鳴ってるのを感じた。はぁ、とため息をつく。生きてる。うん、生きてるなぁ。私って普通の人間だよね?
「やったぜ」
声がした方を振り向くと、いつの間にか隣にクロモがいて、パタパタと浮いてた。こいつ、私を投げ捨てといてのうのうと……私は呑気に浮いてるクロモを捕まえて両手でぐりぐりとする。
「グワーッ」
「お前な……まじな……怖かったんだからな……」
いや、正確に言えば怖いと思う暇も無かったが。もう地面だもん。無事でよかったけども、死んだらどうする!
「……で、どうなったの?」
「目玉貫通したら倒せたよ。あの技を必殺シュガーロケットと名付けよう」
「名付けんでいい」
私が辺りを見渡すと、既に悪魔の巨大な影は無く、悪魔がいたと思われる場所にキラキラ輝く黒いモヤモヤがあった。デビルエレメントだ。
「大物だよー大物のデビルエレメントだよー」
「はいはい、回収すりゃいいんでしょ」
そのデビルエレメントの近くに、みちかといじめっ子女子4人組が気絶するように倒れていた。解放されたのか。私がみちかにかけより、その手を握るとほのかな体温と、どくんどくんと血流が流れる音を感じた。
うん、生きてる。他4人は知らないが、多分生きてると思う。
「はやくはやくー!」
クロモが急かしてくる。うるさいなこいつ。私は息を整えて、意を決してデビルエレメントに触れた。デビルエレメントはモヤモヤのまま、私の胸にあるマジカルチャームに吸い込まれていく。これで私はみちかの負の記憶をみるわけか……心なしかいつもより多く吸収されてる感じがする。これは覚悟しないと…
そして頭の中に、いつもの記憶の強制鑑賞会が始まった。ああ……リレー、クラス会、陰湿ないじめ、うぐ、うぐぐ……
うがー!ネガティブすぎぃ!この子の記憶ネガティブすぎ!
私は頭を抱えて、吸収を中止した。
「良子、どうしたの?」
「いや……私この子のこと、一生理解出来そうにないなって」
「え、キミが今まで吸収するとき、人の気持ち理解したことあった?」
「失礼なヤツだな。私だって少しくらい……」
そこでちょっと今までのことを思い出してみる。ないわ……よく考えたら無かったわ。どうでもよかったんだ。他人のことなんて。そりゃそうだ。私と関わりの無い他人だもん。理解する必要なんかない。
でも今回は、とても身近な人だ。高校での初めての友達。短い間だったけど、いつも引っ付くように行動していた。ただのぼっち回避という打算もあったんだけど……でも、自覚した。こんな良い子なかなかいないわ。だからか。こんなにキツイのは。
それに、少し引っ掛かることがあった。
「ねぇ、このデビルエレメント全部私が吸収して浄化しちゃったら魔力の元になるんでしょ?そしたらみちかはどうなるの?」
「今までと同じだよ。悪魔からも負の記憶からも解放されて前向きに歩けるよ。前向きにね!」
ああ、そうだよね。今まで悪魔を倒したら、悪魔を生んだ人はすっきりした顔で前向きに歩くようになった。だからね……うん、これは駄目だ。
「ねぇ、マジカルチャーム。私の気持ち分かるよね」
私は胸の宝石に話しかけると、それに返事をするように煌めいた。吸収される途中だったデビルエレメントは、矛先を変えて元の主のもとに戻っていく。そう、倒れてるみちかのもとに。
「うええええええ!? 何してるの良子!」
「ん? はんぶんこ」
クロモが叫ぶが知ったことじゃない。私はもう半分背負った。もう半分は彼女に背負ってもらおう。元々は彼女のものなんだから。
「ほら、よく言うじゃない。二人で分けあえば、楽しさは2倍、悲しみは半分って」
「本来良子の全取りだよね!? むしろ押しつけてない!? 魔法少女としての仕事押しつけてない!?」
「ごめんもう無理まじで無理」
これ以上吸収すると吐くぞ私。そうこういってるうちに残りのデビルエレメントは全てみちかに吸収された。
「というか魔力がぁ! せっかくの大物なのにぃ!」
「別にいいじゃない。あの程度また倒せば」
「あの程度はなかなかいないんだよ!ていうか一般人に吸収させるなんて、どうなっても知らないからね!」
クロモが口うるさく批判する。うん、そうだね。これは私の我侭だ。彼女に負の記憶を全部無くして、前向きに歩いてほしくなかった。弱いままでいて欲しかった。
だって……それが彼女らしさだと思ったから。うまく説明できないけど、弱さを知っている彼女だから、もっと強くなれるというかなんというか……私は精神科の先生じゃないし分からんけどね!
もういいや。マジカルチャームさんも同意してくれた。間違った判断かもしれないけど、後悔しないもん。私はみちかの寝顔を見た。砂だらけの汚れた顔だ。うん、きっと大丈夫。彼女はきっと強い。だから大丈夫。
デビルエレメントが消えたことで異空間も消滅したみたいだ。月明かりがさし、風が虫の声を運んでくる。
不意に月明かりが遮られて影が出来た。
いつの間にか、そこに黒い魔女帽子の少女……むつきが立っていた。




