60 みちかの異空間⑥
みちかの悪魔の本体……さっきまで、小さな少女の姿をしていたものを中心にして、異空間の全ての力が集まっていく。眷属も、学校も、周りの景色も全て溶けて吸い込まれていくのが見えた。
「うわー、どんどん大きくなっていく」
「これ、今のうちに叩いてもいいやつ?」
「良子って大概脳筋だよね。巻き込まれたいならどうぞ」
黒い渦の力が集まり、どんどん肥大化していく。もうさっきまでの少女の姿は黒に覆われて全く視えない。
そんなことはともかく、みちかの精神はどうなったのだろうか。それだけが心配だ。
「みちかはどうなったの?ってゆーかなんで巨大化しだしたの?」
「んー推測だけど、これ特異点の影響を受けてるのかも」
「特異点って何さ」
「すっごいチカラのナニカ」
うん、相変わらずこいつの言うことは分からん。そんなこと言っているうちに、肥大化した力の渦が、巨大な人型を形成していた。眷属のいびつな造形とは違い、ちゃんと頭があって体の均整も取れている。その悪魔にはただ足がなく、地面から胴が生えているようだった。そして、10階ビルに相当するでかさ。でかい。これステッキ一つで壊せるのかってでかさだった。
その大きさに、私は圧倒されていた。
「でかい」
「でかいね」
悪魔は巨大な黒い影のようだった。魔女のような黒い帽子を被った姿をしている。顔部分は白粉を塗ったような真っ白の能面だったが、帽子の部分に大きな目がついてて、私を見下ろしていた。
クロモがこっちを見て言う。
「倒せる?」
「とりあえず足元から削ってみる」
とりゃー!と勢いよく駆けていこうかと思ったけど、もう結構歩いたので、わりとヘトヘトである。私はてくてく歩いて向かっていった。
「緊迫感ないなぁ」
「疲れてるのよ」
するとこちらを見ていた悪魔がいくつも黒い剣を空中から出して浮かべた。ずらーっと並んで発射待機状態だ。
「ほら、来るよ良子!」
「分かってる。お前は後ろに隠れてろ」
「眷属の攻撃とは威力が違うよ」
分かってる。でも、どうせ避けられる量じゃない。今までだったらもうちょっと必死に避けてたけど、今はもう避けない。耐えられるか、信じるだけだ。
悪魔が手を振り下ろすと、空中の黒剣が雨あられと降ってきた。頼むわよ、私の魔法。これしか能がないんだから、しっかり防いでよね!
私の願いに呼応するこのように、胸のマジカルチャームがどくんと高鳴った。
ズドドドドド!
ぎゅっと目をつむった私に黒剣が降り注いだ。だが、当たった感触はしない。音がやんで、ゆっくり目を開けると、私の周囲に黒剣が全て外れて刺さっていた。
「…外れた?」
「いや、当たったよ!直撃したよ!」
「えっと、当たったの?」
「当たったヤツは全部消滅したんだよ!気付いてないの?」
防ぎきった…ということか。つまり、あの攻撃では私には通用しないということ。勝てるわこれ。
「うし、突っ込むわ!」
結果に勇気づけられた私は疲れを忘れてダッシュで突っ込んだ。
「てやああああ!」
悪魔の足元に着いた私はステッキを振り下ろして攻撃した。ざしゅっ!とめり込むように悪魔の体を切り裂くステッキ。だけど、そんな攻撃を意に介さないように、黒剣を放って反撃をしてきた。
黒剣は私の体に刺さった。
「ぐっ!……いた……くないね?」
うん、刺さらなかった。私の体に当たった刀身が全部黒いモヤになって消えている。やはり私には通用しない。だけどまぁ……私の攻撃もさほど効いてない。これは泥仕合になりそうだ。
「やはり規模が小さすぎるね、このでかさを相手にするには」
うむ、なんせビルみたいなでかさだ。何か打開策はないものかと悪魔を観察する。こいつの弱点は……
「目って大抵弱点だったりするわよね」
「えー、高いよ?」
「うん、どうしたものか」
悪魔を見上げ、帽子についている目玉を見つめる。高い。20mくらい高いけど、この悪魔には階段とかついてるわけじゃない。あんな高所に登るには、空でも飛ぶしかないじゃない。
私は試しにジャンプしてみる。ぴょん!……うん、ただのジャンプだ。普段と全く同じ。
「魔法少女って空飛べたりする?」
「普通飛べるでしょ」
当然だという風に言うクロモ。うん、魔法少女だもんね。空を飛ぶのは当たり前だよね。
「どうやって?」
「んーと、感覚? 空を飛ぶイメージをするんだよ」
感覚……? 私は目をとじ、意識を飛ぶことに集中させる。足にこう……力をこめて……ぴょん!
「飛べんわ!」
「うわー良子バカみたい。てゆか何その背中の羽、飾りなの?」
「うるさいだまれ」
空を飛ぶ作戦はうまくいかないみたいだ。そうだね、身体能力の時点で一般人と同じなのに、何故他の魔法少女と同じように私が飛べるというのか。人には出来ることと出来ないことがある。じゃあ出来ないことはどうすればいい?
簡単なことだ。出来る誰かにやってもらえばいい。私はパタパタと飛んでるクロモを見て言った。
「クロモ、あんたあの上まで私を運んでよ」
「え、やだ。重そうだし」
「失礼だな!」
私はデブじゃない。体も小柄な方だからそんなに重くない!「いいからやれ」とステッキをぴしぴし叩きながらと脅したら、しぶしぶ了承してくれた。
「神獣をこき使いすぎじゃない?マスコットにこんなことさせる魔法少女なんてどこのアニメにもいないよ?」
「うん、アニメとかしらんしさっさとやれ」
「はいはい」
クロモが私の背中に磁石みたいにぴたってくっつくと、自分の背中の羽をぱたぱたさせる。……浮かない
「無理ッ!」
「無理じゃない!やれ!」
悪魔の黒剣が飛んできて攻撃してくる。私はステッキを振り回して黒剣をかき消した。
「ほら、早く飛ばないともっと攻撃くるわよ」
「わかったよ、もう!」
クロモが背中の羽を3倍くらいに巨大化させた。おお、私の羽と合わせて4枚の羽だ。あと2枚増えたら、そうまるでルシフェル! 堕天使ルシフェルに見えないかな!
「いや、見えないから」
「うるさいわね。とっとと飛べ」
クロモが羽を大きく伸ばし、ぶぉんと振るう。おお、なんか体がひゅっと軽くなったような……足元を見ると、微妙に浮いてる。これいけるんじゃない?
再びぶぉんと羽を振るうと、どんどん体が浮いてくる。「重量制御……良子の質量に作用する重力子を無効化……あとは揚力で方向をコントロール……うん、慣れてきた」とかぶつぶつ言うクロモ。あ、こいつ魔法使ってやがる。人にはイメージで空を飛ぶとか言っておきながら、堂々と魔法使いやがって。マジで何なのこいつ? 便利なの?
「いくよ、マジにいくからね!良子!」
「よしいけクロモ!」
勢いよく飛び上がるクロモと私。地面がどんどん離れていく。うわー、初めて空を飛んだよ! 体が軽い! 感動するこれ!
あっという間に悪魔の頭の高さを超えて飛び上がると、今までにないほど大量の黒剣に取り囲まれた。だがもう悪魔は目の前だ。ここで引き下がるものか!
「突っ込めクロモ!我らは前進しかしない!」
「ああもう、ホントしらないからね!」
悪魔が手を振り下ろすと、それに合わせて黒剣が四方から発射される。私には効かないけど、背中のクロモがやばい。クロモも全速で前に向かって突っ込む。狙うは帽子についた目玉!
目の前を真っ黒に染めるほどの黒剣が降りかかってくる。すさまじい勢いで私の目の前にぶつかってくる。だがそれは全部私に触れた瞬間に消滅する。だから怖くない!
ずがががが!
連続する叩きつけるような音が止み、黒い闇が晴れて目の前が開けると、既に帽子の目に直撃するところだった。近づくと私の体より大きな目だと分かった。
「とりゃああああああ!」
私はステッキを突き出して、目玉に突っ込んだ。




