6 考えるな。感じろ
魔法少女に変身したはいいものの、肝心の敵がこの異空間のどこにいるのかわからなかった。
「で、悪魔はどこにいるの?」
「今の良子なら悪魔の気配が感知できるはずだよ。ほら、意識を集中させて」
「意識を集中……」
良子は目を閉じ、悪魔の気配を感じとろうとした。しかし何も感じとれず……
「なるほど、わからん」
「えっ、あんなにわかりやすいのに?」
「なんかコツとかないの?」
「ないよ。感じるものは何もしなくても感じるんだよ」
ハァ、とクロモがため息をついた。
「並の感受性持ってたら一般人でも嫌な気配がするのが分かるよ?そのレベルもダメ?」
「全然わからない。嫌な気配ってどんなよ?」
「良子……きっとキミって感受性が致命的に乏しいんだね。人間としては致命的な欠陥だよ」
「そんなことを言うのはこの口か! この口か!」
「ふぎゅ、神獣虐待はんたーい!」
良子がクロモのほっぺをつねりあげ、クロモは抗議の声を上げる。むにょーんとクロモの体はよく伸びた。
ちょっとだけ生意気なマスコットをイジメて憂さを晴らした良子は、つねるのをやめてクロモを抱き抱えた。
「よし、案内しなさい」
「ちょっと神獣使いが荒いんじゃないの?」
自分に分からないことは、他の分かるやつに任せればいい。ここにちょうどいいナビがあるではないか。
「いいからとっとといく」
「えーと、あっちだよ」
「あっちね、わかった」
抱き抱えたクロモの案内に従い、良子は走り出した。
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「疲れた」
「はやっ!」
100mで走り疲れた良子はとぼとぼと歩いていた。
「なんかこう、一瞬で移動する魔法とかないの?」
「いや、普通だったら魔法少女になった時点で、常人をはるかに超える身体能力を手に入れるんだけど」
そうは言われても、特に足が速くなったり、腕力が強くなったとは感じられなかった。特に普段と変わらないし、魔法的なパワーも感じない。本当にこれで戦えるんだろうかと疑問に思う良子であった。
「別段変化を感じられない。不良品じゃないの?このチャーム」
「何その掌返し!前回ベタ褒めだったよね!」
「それは気のせいよ」
とりあえずてくてく歩いていく良子。どうも異空間は距離感がつかみにくく、進んでるのか戻っているのか分からない。
殺風景な景色は変わらないし、前方の黒いビル群にちゃんと近づいているのかも分からない。
「こんなことならチャリ乗っていけばよかったわ」
「異空間をチャリで進む魔法少女とか見たことないよ!」
「大事なのは形じゃなくて心よ」
「魔法少女らしくなろうって心が全然見えないんだけど!……ってよしこ、もう歩く必要はないみたいだよ」
「何?着いたの?」
「いやそうじゃなくて……むこうから来た」
良子が前方を見ると、黒いビル群が伐採される木のごとく薙ぎ倒されて何かがやってきた。