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55 みちかの異空間

 墨で染めたような黒い地面、漂白したような白い空。学校はそのままあるのだが、世界の色が変わったせいで全く現実感が無くなっていた。

 みちかから悪魔が生まれ、この異空間を作り出した。虫の声も、夜風の冷たさも、生命の気配も何も感じない。息が詰まる世界だ。


 みちかが黒い地面に吸い込まれて消え、周りには黒い巨人の群れが地面からにょきにょきと生えて現れた。黒い巨人には頭がなく、身長は2mから5mと様々であり、手足の大きさや体の比率も不均一。出来の悪い粘土人形のようだった。数は20……いや30か。まだ増えそうな予感がする。この数はどうにかなるのか?


 ……冷静になろう。むつきやキッカ姉が街での対処に当たっている今、私一人でなんとかしなくてはならない。私の優先順位はみちかの救出が一番だ。


「ねぇ、クロモ。みちかは地面に呑まれたけど、どうやったら助けられる?」

「いつも通り悪魔を倒せば助けられるよ」

「そう、簡単なことね」


 私は手に持っていたトンボで一体の巨人に殴りかかる。トンボのカドがバキィっと敵の足に命中したが、振り抜くことは出来ずにトンボの柄が折れた。

 かたい。やはり悪魔には普通の武器は通用しないみたいだ。むつきは包丁や鉄パイプを武器にしてるけど、なんかカラクリがあるんだろう。多分私には出来ない。


「って、何いきなり殴りかかってんのよしこ!?」

「こういうのは先手必勝でしょ」

「そうじゃなくて、今の接触でボクのかけてた隠蔽魔法が剥がれたんだよ! この考えなし!」


 なるほど、接触で剥がれるのか。確かに体を覆っていた薄くて黒い幕が消えている。

 私に気付いたのか、叩いた黒い巨人がこっちを向いた。そして首無しののっぺりとした肌に沢山の亀裂が走り、その亀裂がぱかっと開いた。開いた中から見えたのは、目だ。体中から無数の目が開き、こちらを見つめている。文字通りの注目。その目付きは何故かとても嫌悪感を感じた。視線を感じるってレベルじゃない。

 しかし巨人はダメージが無かったからか、すぐに私を無視した。そしてその視線が動いた先は……木村たち4人だ。


「ひっ!目が!?」

「あんたどこから現れた!コスプレか!?」

「なんか黒いコウモリみたいなのが浮いてる!」


 木村たちもこちらに気付いたようで、声を上げる。ん?クロモのことも見えてる?


(そりゃ異空間だからね)


 説明になってないが、そういうものだと思っておこう。


「来んなっ!こっち来んなぁ!」


 木村が黒い巨人達に向けて声を張り上げる。さて、別に助ける義理は無いんだけど……


 私は白いステッキをマジカルチャームから取り出し、すたすた歩いていく。


(さて、私は敵の実力とか分かんないんだけど、クロモはどう見る?)

(良子の魔力が1だとしたら、あいつらは一体あたり20はあるよ)


 私の20倍ってこと?ちょっと大袈裟すぎない?


(しかもあいつらは眷属であって本体じゃない)

(というと?)

(本体は最低でも500よしこ以上はあるとみた)


 500よしこって何?新しい単位を作らないでほしい。


(たぶん今まで戦った悪魔の中で一番やばい。負け濃厚だから逃げた方がいいよ)

(それはやだ)

(なんで?むつきやキッカに任せたら多分なんとかなるよ。それとも、まさかあいつらを助ける気?)


 クロモが指差す方向に、巨人に囲まれた4人がいる。みちかを蹴っていたヤツらだ。私が助ける義務はない。むしろ、天罰とか事故とか起きないかなって思う程度には憎んでいる。でも…


(あんた言ったよね?悪魔が抑えこまれてたって。ずっとみちかの中にいたって)

(うん、いたみたいだね。こんなの出るなんて、どんだけ闇抱えてたんだよって感じだけど)

(でも、抑えつけてた。ぎりぎりまで我慢してた)


 ……我慢せずに開放しちゃえばいいのに。そしてあいつらやっつけちゃえばいいのに。それを、彼女は自分がどんだけ蹴られてもせずに、我慢してた。そして、開放される切っ掛けになったのは、自分のことではなく、私のことでだ。


 だから、本当はやりたくないんでしょ。こんなこと。


 私は巨人たちを通り抜けて、木村達の正面に相対してる巨人の足を白いステッキで思いきり殴りつけた。

 さっきトンボで殴ったときと違って、ぬるって気持ち悪いほどに容易く足が両断される。うん、やわらかい。片足を失った巨人がバランスを崩して倒れた。


「大したことないな、20倍」


 私は倒れた巨人の腹にステッキを叩きつけた。ずぷりとステッキが腹の中に入ったのでそのまま横薙ぎにかっさばく。体に大穴を空けられた巨人は黒い霧になって霧散した。


「あんた誰だ!?」


 木村が私の背後で言う。あんまり話したくないなぁ。私は無視して巨人たちに向き直る。一体倒したとはいえ、まだ30体近くいる。眷属ザコとはいえ、この数は疲れそうだ。

 同胞を倒された巨人達が全員体中の目を開けて、ぎょろりと私を見つめてくる。気持ち悪い視線だ。


「いやぁ……見ないでぇ……」

「見るなぁっ!その目で見るなぁっ!!」

「やめて……怖い……」


 巨人はまだ何もしてないのに、木村達が勝手に怯えている。何なのだろうか。


(あの目に見られたら、恐慌状態に陥るようだね)

(私何ともないんだけど)

(そりゃ神経図太いからじゃない?)


 私はすたすた歩いて怯えて尻もちついてる木村の顔を蹴飛ばした。本気で蹴ってはないけど、蹴ったときの感触が不快だ。こんなの全然楽しくない。あいつらと同じように暴力を振るうとか、私らしくない。でもやりたかったからやった。

 そして倒れた木村と取り巻き3人に向かって、私は言う。


「この事態を引き起こしたのは、全部お前らが悪い」


 ありったけの侮蔑をこめて見下しながらそう言った。木村が呆然としてたが、我に返ったようで怒りにみちた顔で吠える。


「何いきなり蹴ってきてんだこらぁ!」


 はぁ、あのまま怯えてればいいのに、私の蹴りで復活してしまった。慣れないことはやるもんじゃない。


「いいからどっか行って。巻き込まれたいの?」


 全くいつまでそこで尻もちついて怯えてるんだよ。走ってとっとと逃げればいいのに。邪魔。


「足が……足が動かないの……」


 取り巻きの一人が怯えたように言った。その足首を地面から生えた黒い手がしっかりと掴んでいる。全員同じように囚われていた。なるほど、逃がさないということか。というかそもそも普通の人が異空間から脱出できるのか分からないけど。


「手がっ手がぁっ!」

「はなせっ!くそぉ!」


 なんか黒い手がどんどん地面から生えてきて、木村達の体をつかんでくる。そして黒い手に引きずり込まれるように、木村達が沈んでいく。


「たすけっ……だれかぁ!」

「ごぽっ……たすけて……」


 私はそれを見ていた。


「助けないの?」

「いや、私も沈むし……」


 みちかも沈んでるし、悪魔倒したら一緒になんとかなる気がする。勘だけど。


「わりと適当だよね、良子って」

「臨機応変と言え」


 邪魔者はいなくなった。

 私は周囲の敵を見渡す。黒い巨人の群れがこちらを見ている。そして地面からまたごぽごぽと何か生えてきそうな雰囲気がする。


 さて、悪魔退治といきますか。少し時間がかかるかもしれないけど待っててね、みちか。

初めて戦闘力の単位「よしこ」が出てきました。シュガー状態の良子の魔力を1とした単位です。

ちなみに今まで一番強敵だったのは針山の悪魔で、140よしこでした。計測方法はクロモの感覚に依存しており、かなり適当です。

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