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47 学校での生活Ⅱ

 最近少し悩みの種がある。何故か最近みちかちゃんの所持品によく悪戯される。先日は体操服が破られて花壇に投げ捨てられていた。第一発見者は私だ。

 そして今日はみちかちゃんの机がやられていた。これも第一発見者は私だ。

 園芸委員の当番の日なので一番早く登校したら、落書きだらけで灰みたいな汚れをかぶっているみちかちゃんの机を発見した。特に怒ることはなく、「傷はついてないから、拭いたら綺麗になるな」と冷静に考えて、そのまま花壇の水やりをいつもより雑に手早くすました。そして水で絞った雑巾を持って教室に戻ってくると、既に教室には人が何人か集まっていた。うん、優先順位間違えた。水やりなんかより机の方を早くなんとかすべきだった。というか君らいつも遅いのに、今日に限って早すぎだわ。


「これ、あんたがやったの?」


 私の事を睨みながらそう言ったのは、先日の下履き落書き事件の時に過剰に騒ぎ立てた女子だ。名前は調べた。木村えりな。バレー部所属で勉強もそこそこ出来る評価の高い生徒だ(ただし底辺校)。


「やってない」


 それだけ私は答えると、雑巾を持ってみちかちゃんの席に向かった。が、そいつが通せんぼしてきた。木村えりなの背は私より10cm以上高い。そいつは私を見下ろしながら、再び同じようなことを言ってきた。


「あんたがこれやったんだ」

「やってない。どいて」


 私は目を特に合わせずにさっきと同じように言い返した。だけど相手がどく気配がない。続けて木村は私を非難するような口調で言う。


「何でこんなことするの?そんなに美智花が嫌い?」


 ……段々イライラしてきた。正直、みちかちゃんの上履きや机に悪戯されようが、しょせんは物的被害だし、そこまでイライラしてなかった。一番イライラしたのは、こいつが彼女のことを下の名前で馴れ馴れしく呼び捨てにしたことだ。

 私はイライラしながらも相手を観察する。木村は私より身長が高く、力も強いと思われる。その他、木村の取り巻きが3人。相手は合計4人。対して私は1人。ここで怒ろうが暴れようが、どう考えても詰んでる。


「なんとか言いなさいよ!」


 取り巻きの1人が机の脚をガツッと蹴って大きな音を立てた。ちょっとビクッとしたけど、ここでビビっちゃ負けだ。私はそいつを無言で睨み返し、踵を返す。


「職員室行ってくる」


 私はそう言って振り返らずに教室を出ていく。こんな不快な現場にいても何にもならない。こいつらは私を悪者にしたいだけだ。そしてここには、私を庇ってくれる味方はいない。とてもイライラするが、ここは怒りを抑えて逃げるしかない。

 後ろを向いた私の頭に、がつんと何かが当たる。うん、これは筆箱だ。そんなに固いものではないが、中に筆記用具が入っており、結構な勢いでぶつかった為、かなり痛くて頭がぐらんぐらんする。私は痛みに顔をしかめながらも、振り返らずにそのまま足早に教室を出た。


「待てコラァ!」


 後ろから取り巻きがヤンキーみたいな言葉で脅しをかけ、止めようとしてくるが、奴らが追ってくることはなかった。はぁ、なんとか逃げ出せたか。


 私は職員室に着くと、おそらく今来たばかりであろうキッカ姉に声をかけた。


「井上先生、話したいことがあるのでちょっといいですか?」

「はい、佐藤さん……ってなんで雑巾持ってるの?」

「ああ、ただのうっかりです。気にしないでください」


 私はキッカ姉を呼び出し、応接室で話すことになった。学校では義理の姉妹ということは伏せている。そもそもキッカ姉はもうとっくの昔に養子縁組じゃなくなってるし、厳密に言えば姉妹でも何でもない。だから「井上先生」「佐藤さん」とお互いに呼んでいる。ちなみにこのルールはキッカ姉が私のことを贔屓しすぎることを恐れて、私が作った。学校ではあくまで先生と生徒の関係でいたいのだ。

 とはいえ、今は2人きりである。私は普段のようにくだけた感じで事のあらすじを話した。


「……ということが先ほどあったよ」

「ええ!? 頭大丈夫!?」

「いや、その聞き方はちょっと……うん、ちょっと痛かったけど怪我はないよ」


 キッカ姉はかなり心配そうに私の頭をさすってくる。そんな姿を見てると、頭痛いとかどうでもよくなった。うーむ、プライベートじゃいいけど、学校じゃこの姿は見せられんな。


「まぁ、それより問題は今後のことだけど……これからどうなると思う?」

「えっと……どうなるの?」


 私の質問に対し、いまいち分かってない風に聞き返すキッカ姉。なんかこうこの人、人の悪意に疎いんだよね。武力が強すぎるのが原因かもしれない。


「これから私はみちかちゃんを虐めた犯人扱いされて、吊し上げくらいます」

「ええっ!?そうなの!?あんなに仲がいいのにどうしてそうなるの!?」

「仲が良かろうが悪かろうが、決めつけられたらそうなります」


 あくまで予想だ。でも十中八九そうなると思う。あいつらの行動はとても読みやすい。あと、なんとなく分かってたことだけど……私はあいつらに嫌われてる。いつからとか、何がきっかけでとか、そういうのは知らないけど、たぶん最初から。理由はしらないけど、とことん嫌われていることは分かる。だから元々みちかちゃんへの悪戯は、私が標的であったとさえ思える。

 もしそうだとしたら……尚更イライラする。私の事じゃなくて、みちかちゃんを巻き込んだことが。


「はぁ……めんどくさいことになった」


 これは私の落ち度だ。私がみちかちゃんと友達でなければ、彼女は狙われずに私一人が標的になっていたはずだ。中学校のときも虐められたけど、一人だったからこんなにイライラしなかった。

 友達が出来たから、これからは体育組むときとか集団行動とか楽になるぞーとか思ってた私が浅はかだった。こんなデメリットがあるなんて……私はなんて馬鹿で身勝手なんだろう。


「キッカお姉ちゃん、お願いがあるんだけど……」

「何?良子ちゃん」

「この件で私に過剰に肩入れしないでね」


 そう言うと、キッカ姉は「どうして……?」と悲しい顔をする。


「逆効果だから。あいつら先生の前では大人しくなっても、他のところで絶対に不満が募る。絶対に同じことを繰り返す。私はあいつらが最近みちかちゃんに悪戯している犯人だとほぼ確信してるけど、証拠がないしね」

「でも、それじゃあ良子ちゃんだけが悪い子になるじゃない」

「あくまで先生として、この件は公平に判断してほしい。あと、職員会議とかで言わないで欲しいし、おおっぴらにしてほしくない」

「どういうこと?」

「犯人が分かってない状態で、『みちかちゃんが虐められてるという事実』だけを公表したところで、傷つくのは被害者だけだから。あの子、メンタル弱いしあまり傷つけたくない」

「それじゃどうすればいいの……?私は先生なのに……」


 キッカ姉が頭を悩ませる。もしかして、教師になって初めていじめ問題に直面したのかもしれない。もっとも、こういった問題にまともな解答なんかない。無視を決め込む先生の方が多いくらいだ。だから、まともに私の話を聞いてくれる人が担任をやっているというのは、とても幸運なことだと思う。


「……ま、現状よくないけど、かといってこのまま黙ってやられるつもりはないわ」

「良子ちゃんはどうするの?」


 私がやることは決まっている。というかみちかちゃんに手を出してる時点で、泣き寝入りをするという道は消えた。


「もし、あいつらが私を犯人扱いして吊し上げるようなら…報復する。あいつらが犯人だという証拠を見つけて晒してやる。ボイスレコーダーでも何でも使って」

「良子ちゃん……」


 普段冷静であるはずの私も、今回の件ではかなりキレていた。やられるならやり返す。やるなら徹底的にだ。いじめる対象を間違えたことを、あいつらに思い知らせてやる。

 心配そうに見つめるキッカ姉に、「だから、私に肩入れをしないでね」と再度言おうとすると、その前にキッカ姉がぎゅっと抱きしめてきた。


「私は絶対に、良子ちゃんの味方だからね」


 おっぱいが眼鏡にあたって前が見えなくなる。真剣に話を聞いてくれるキッカ姉には申し訳ないけど…おっぱいの癒し効果すごいね。さっきまでのイライラが消えていく感じがする。誰にでも言える励ましの言葉より、こうやって直接抱きしめてくれる方が、私はとても嬉しい。

 ……私がクロモやむつきちゃんを撫でたりする癖って、たぶんこの人由来なんだろうなぁ。人に触れるとそれだけで、とても幸せになることを知っているから。キッカ姉のことをシスコンだブラコンだと思ってたけど、私もかなりのシスコンなのかもしれない。そもそもキッカ姉に相談しておいて、肩入れするなって言うのも間違ってる気がする。うん、間違いだらけだ。

 ……帰りにボイスレコーダー買おっと。


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