44 元魔法少女の飲み会
今日は散々な日だった。朝起きたら昼になってるし、良子ちゃんやキッカ先輩たちがいきなり訪ねてくるし、良子ちゃんにはいじめられるし、新しい魔法少女の子にはドン引きされるし。うん、散々だなぁ。はぁ、久々に遊びに来てくれたんだから、ぷよぷよとかしたかった。今度は弟くんも連れてきてさー、一緒にやろうよぷよぷよー。
そんなこんながあったけど、私の一日はまだ終わらない。なんかキッカ先輩に「今夜飲みにいこっか」と誘われて、「奢りならいいっすよ」と答えたらOKされたので、二人は夜の街にロンリーナイトです。よそ行きの服に袖を通すのは久しぶりだけど、鏡を見て髪とか整えてたら何故かちょっと憂鬱になってきた。
私の名は瀬良清美。中学の時、『魔法少女セラ』とか名乗ってた時期もあるけど、全ては過去のこと。社会に出てからは職を転々としつつも遂に挫折し、ニート生活2年目に突入しました。失業保険もとっくに切れてるし、実家でご飯食わせてもらって色々と節制しているけど、貯金額が30万を切りました。28歳独身ニート、色々とがけっぷちです。
そしてそんな私を連れてキッカ先輩はどうしようというのか。説教とかされるのかな……と内心戦々恐々としているところです。
時刻は午後6時。夕暮れどきはそれなりに暗く、女1人で歩くのはちょっと怖いので、キッカ先輩が迎えに来ました。久しぶりに外に出るのがおっかなびっくりな私の腕を引いてエスコートしてくれる。この人の背中を見てると、本当に頼もしい。暴力団の1つや2つ来ても平気な気がする。
昔と比べたら頭をぶつけたサイヤ人のごとく穏やかな性格になって、普段おっとりとした印象を与える人だが、行動の節々にイケメンが見え隠れするし、これはモテるでしょうなぁ(但し女子に)
「ついたわよ」
ちょっといかがわしい夜の店もある繁華街とは少し離れた位置に、そのお店はあった。立派な一枚の木の板で出来た看板に、墨で『居酒屋 命桜』と書いてある。「いのちざくら」って読むのかな?純和風な感じ。
「ここ、前に飲み会で行ったの。結構いいところよ」
『飲み会』というキーワードに少し胃が痛くなる。うー、前の職場では飲み会のノリについていけず、ついでに説教されて肩身せまい思いしたからなぁ。
店員のお姉さんが話しかけてきた。たぶん私より若い感じの子で、紺色と白を基調とした和風の制服でお出迎えする。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「6時に予約していた井上ですけど」
どうやらキッカ先輩は予約していたらしく、和室に案内された。日曜日なんだけど、早めの時間に来たからかまだ人は少なかった。6人掛けの和室だけど2人で座る。ちょっと贅沢な感じするけど、他人との距離が近いカウンターより、やっぱこっちの方が落ち着く。気を使ってくれたのかなぁ。
「何飲む?」
「甘いものしか飲めないっすよ」
ぱらぱらーとメニューをめくると、酒の種類が結構充実していることが分かった。リキュール系でなんかモスコミュールとか色々あるんだけど……どんなのだっけ?普段飲まないから酒の名前に疎くて困る。
「あ、先輩。『大魔王』って酒があるっすよ!『大魔王』!」
「またネーミングだけで決めて……それ焼酎だから甘くないわよ。飲める?」
「じゃあキッカ先輩頼んで欲しいっす」
「仕方ないわねー」
メニューを見ながら悩んでるうちに店員さんがおしぼりを持ってきて、注文を聞いてきた。
「ご注文はいかがいたしましょうか?」
「パリパリサラダ、焼き鳥、揚げ豆腐、軟骨からあげ。とりあえずこれくらいかな…瀬良ちゃんは?」
定番メニューをすらすらと頼むキッカ先輩。大人だなぁ、と思いつつ私も急いでメニューをめくる。
「あ、えーとえとマルゲリータピッツァと山盛りポテト……えと、ソーセージの盛り合わせ、あと芋もち!」
「カロリー高そうなの選ぶわね……」
「デブになる食べ物ほど美味しいんすよね……」
キッカ先輩の居酒屋って感じの注文に比べて、私のはファミレスって感じの注文になった。私には私なりのスタイルがあるのです。今日は奢りなので、とことん好きに頼んで奢らせてやるのです。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「大魔王の水割り」
「モスコミュール!」
私は何か分からないけど、気になった名前を頼む。リキュール系だし多分いけるだろう。店員のお姉さんが「承りました」と言って下がっていった。二人きりになった個室は広すぎて……やっぱり少し寂しいかもしんない。ちょっと沈黙が続いたので、私は機先を制して地雷を踏んでみた。
「……で、どうしてまた急に飲みに行こうなんて?はっ、もしや説教とか!?」
「しないわよ。私が言わなくても、親に色々言われてるんでしょ?」
「ま、そうっすね……」
よし、説教の可能性は消えた! いや、元々説教する雰囲気はなかったからそうだと思っていたけど、飲み始めたら状況が変わるかもしれないし、とりあえず言質は取った。これで説教はない!
それにしてもキッカ先輩と飲みに行くの、もしかして初めてかな? てゆーか先輩は今まで他県にいたし、最近こっちに帰ってきたばっかだし、同窓会じゃ学年違いで会えないし、こういう機会無かったんだよね。向こうも同じことを思っていたのか、私の顔を見てこう言った。
「……今までこうして飲みに行くことってなかったわね」
「えー、プライベートじゃ飲まないんすか?先輩」
「付き合い以外じゃあんまりね。自衛隊や大学時代にも友達はいたけど、そんなに親しくはなれなかったかな」
「うちも交友関係は全然っすねー」
「……お互い不器用なのかもね」
プライベートで遊ぶのなんて、それこそ良子ちゃんと弟くんくらいしかいないんだが。それも良子ちゃんが中学生になってからあんまりなくなったし。はぁ、どうしてこう人間関係ってうまくいかないのか。
「結局残ったのは二人だけか……」
ちょっと寂しそうにつぶやくキッカ先輩。やっぱり一番にぎやかで充実してた時期は中学生のときだ。みんなで魔法少女やってたあの頃が一番楽しかった。
「同窓会でも開きます? 元魔法少女同士で」
「幹事どうするのよ。風早さんか赤石さんがやる気になってくれなきゃ無理よ」
「二人とも遠い人になってしまったっすね……」
「……そうね」
大人になるというのは、一人で社会の中に放り込まれて孤独に戦うことだと思う。だから人は結婚するのかもしれない。愛する人がいて、子どもが出来たら寂しくなくなる……のかも。
「お待たせいたしました。大魔王の水割りとモスコミュールです」
「おお、大魔王きた」
店員がお酒を運んでくる。ついでに小皿に入った前菜も。オトウシっていうんだっけ?
大魔王は普通っぽい透明な焼酎。スライスレモンつきのグラスで出てきたモスコミュールは透き通った緑色のお酒だった。よくわかんないけどオシャレ。
キッカ先輩がグラスを持ち上げたので、私もそれに合わせてグラスを持ち上げる。
「えーと、乾杯したいんだけど、何かいい言葉ないかしら?」
「じゃ、うちらの友情に乾杯ってことで」
「そうね…私たちの友情と、大きくなった良子ちゃんとリュータくんに乾杯」
「かんぱーい!ってなんか色々まじった!?」
お互いのグラスをカチャリと合わせて乾杯する。なんかうちとの関係はついでにされたみたいでちょっぴりアレな気分になった。この筋金入りのシスコン先輩め!
菊花さんも飲み屋慣れしてるように見せかけて、飲み物から注文しないあたり微妙な感じがするのでした。
ほとんど名前が出てきてないので忘れられてるかもしれませんが、リュータくんというのは良子の弟の龍太郎のことです。
あと命桜はめいおうって読みます。どうでもいい設定。吹津=不吉、床野見=常闇、命桜=冥王。意味なんてないけど、不穏な名前つけるの楽しいです。




