43 良子から見た瀬良の姿
私は佐藤良子。なんとなく魔法少女をやってる普通の女子高生である。魔法少女は悪魔を倒すのが役割なんだけど、その働きに報酬はない。なんか願いを叶えてくれるとか、そういうのがあったらやる気出してもいいかもだけど、そういうのが無いから逆にいつやめてもいいし、責任も全く感じてない。世を平和にしたいとか、人々を助けたいとか、そういう考えは持っていないのだ。こういうこと、キッカ姉ちゃんに言うと怒られるかな? いや……あの人は多分許しちゃうだろうな。私にだけはすごく甘いから。
そんなわけで今私はむつきの頼みで15年前に魔王を倒したという元魔法少女の家にお邪魔している。なんでも魔王が近々復活するとかいうので、その対策を聞きたいらしい。でも参考になるかなぁ? だってほら……その元魔法少女って、うちの近所の引きこもりニートだよ?
手入れしてないボサボサの長い髪と子供服みたいな幼稚なデザインのパーカーを着た彼女の姿は、ある意味魔法少女的な容姿に見えないこともない……のか?
彼女の名は瀬良清美。私は「瀬良ちゃん」と呼んでいる。キッカ姉の後輩で家が近所ということで、小さい頃からちょくちょく会っていた。私より12歳も年上の28歳なんだけど、あんまり年上の威厳みたいなの出さないし、私も小さい頃からタメ口で接していたので、今もそれが継続している。
元々は転職しつつも働いていたのだが、今や仕事を辞めて昼夜逆転のダメダメニート生活2年目に突入している。女なのに「~~っす」とかいう変な口調で話すが、元々こういう話し方ではなく、ニートになってからそういう口調になった。本人はキャラづけの為とかいうが、意味が分からない。
「というかスルーしてたんすけど、さっきからふよふよ浮いてるちっさい悪魔みたいなの何すか?」
今更ながら、瀬良ちゃんが宙に浮いてるクロモについて言及した。ふむ、魔法少女やめても神獣と話せる瀬良ちゃんには、当然ながら見えてたようだ。しかし…やっぱり悪魔に見えるのか、こいつ。黒いしツノ生えてるしね。
「ん、こいつはただの黒いマリモだから気にしないで」
「マリモっすかー。デザイン的に悪魔だと思ったっす」
「悪魔じゃないよ!神獣のクロモだよ!あとマリモでもないから」
クロモが必死に悪魔というのを否定する。うん、いつも否定するときは過剰反応ですごい怪しい。なんでこんな怪しいのと契約しちゃったんだろうね。
私が普通にクロモを認識してたことに驚いた瀬良ちゃんは、こう聞いてきた。
「ひょっとして……良子ちゃんも魔法少女?」
「うん」
気付くの遅っ。というか私も自分から言ってなかったけど、デンと話してる時点で気付こうよ。私が呆れてため息をつくと、「まじすか」と言って驚愕のまま固まった瀬良ちゃん。
「何?私が魔法少女じゃ不満?」
「いや、なんというか今まで会った魔法少女とはかなりかけ離れてるというか、イメージ違うというか。良子ちゃんって現実主義者で、魔法少女になりそうにないかなーと…」
「目の前で起こってることが現実じゃない」
「あー、なるほど。良子ちゃんらしいっすね」
納得いったようにうなづく瀬良ちゃん。分かるならよろしい。そして瀬良ちゃんは目を輝かせながらこう言った。
「じゃ、魔法少女に変身してみてほしいっす!」
「やだ」
私は即答で断った。別に変身後の姿が恥ずかしいわけでは無い。だが、普段の私を知ってる人からするとギャップが大きすぎるのだ。なんか瀬良ちゃんを喜ばせるネタにしかならないし、なりたくない。
それを知ってか知らずか、瀬良ちゃんは「みたいーみせてー」と連呼しまくる。子供のように駄々をこねる瀬良ちゃんを見かねて、キッカ姉がボソッと「もう変身してあげたら?」と言ってくる。
もう、こういうのは甘やかしちゃ駄目だよって思いながらも、キッカ姉ちゃんが言うなら仕方ないとばかりに、私はマジカルチャームを取り出した。瀬良ちゃんが「おー……」とか感嘆しながら見つめてくる。 さっさと済ませてしまおう……
「へんしーん」
やる気のない声を出し、変身する私。いつものごとく黒く輝くマジカルチャームから漆黒の闇が飛び出し、私の全身を覆う。目の前が一瞬暗転した後、闇が取り払われて私の姿は魔法少女に変身していた。
雪のような白い髪のサイドテール、青と白を基調としたプリンセスのような衣装。自分で言うのもなんだが、普段とは似ても似つかない美少女。それが魔法少女シュガーである私の姿だ。この姿に変身すると眼鏡が無くなって、クリアな視界が見えるようになるのが利点です。
初めて私の変身を見た瀬良ちゃんは、驚愕に目を開き、口をぽかーんを開けて固まっている。うーん、もっと大騒ぎしそうな気がしてたんだけど、どういう反応なのこれ? ただ一言、ぽつりと彼女の口から漏れた言葉は……
「これはやばい」
……いや、やばいって何が?
しばらく固まってた瀬良ちゃんだが、「あれ?今はやばくない?」と首をかしげて頭の上に疑問符を浮かべている。いや、やばいとかやばくないとか、何のことだ。
「あー、すまんすまん。あまりの美少女っぷりに驚いてたっすよ。で、あんた誰っすか?」
「なぐっていい?」
「すみませんでした、良子様ぁ!」
土下座して平伏する瀬良ちゃん。この人、28歳だよね。アラサーだよね。なんで12も年下の私にこんなへりくだった態度取るのかホント不思議。きっとプライドとか外聞とかゴミ箱にぺいって投げ捨ててるのだろうね。
ゆっくりと顔をあげた瀬良ちゃんは、明らかにほっとした感じで息を吐いた。
「いや、ホント別人かと思ったっすよ。ちゃんと良子ちゃんなんすね。確認したいのでハグとチューしてもいいっすか」
「うん、地面にキスしてろ」
「あはは、やっぱり良子ちゃんだ。よかったー」
ほがらかに笑いながら、こっちに擦り寄ってくる瀬良ちゃん。「へー、こんな風になってるんすねぇ」とか言いながら、私の髪とか腕とか背中とかぺたぺた触ってくる。おい、セクハラやめろこのやろう。瀬良ちゃんの手が腋の近くを触れようとしたので、咄嗟にげんこつを脳天にかました。腋はやめろ、腋は。
「うう、いたいっすよぅ。魔法少女は一般人に手をあげちゃ駄目なんすよ?」
「そんなルールは知らない」
「で、良子ちゃんはどんな魔法使えるんすか?わくわく」
「気に入らないヤツを物理で殴る魔法」
「グワー!」
懲りずに背筋をするっと触ってきたので、べちって手で払ってそのままヘッドロックをかました。小柄な瀬良ちゃんのパワーは貧弱であり、私でも簡単に勝つことができる。首を決められた瀬良ちゃんが「ギブ!ギブ!」と言いながらタップしてきた。
「良子ちゃんの魔法は攻撃力特化なのよ。ここで見せるとモノが壊れるわよ」
「うへぇ、こわい」
いや、魔法というかステッキで殴るだけなんだけどね。私はスマホで写真を撮ろうとした瀬良ちゃんのスマホを取り上げ、速やかに変身解除した。衣装を型どっていた黒い魔力がマジカルチャームに集まり、元の服に戻っていく。
「はい、変身終わり」
「はやっ!もっと触りたかったっす!」
「うっとおしい」
ハエを払うように瀬良ちゃんを押しのけると、今度はそのままむつきの方向に倒れて抱きついた。「ふぇっ!?」と間抜けな声を上げて、固まるむつき。
「うー、こっちはちょっとぷに感足りないっすね。ちゃんと食べてるっすか?はぁ、黒髪美人はすはす」
むつきに抱き着いたまま、犬のようにくんくんと匂いを嗅ぐその姿はまさしく変態。お前、私でも手握ったり頭撫でたりくらいしかしたことないのに、お前。むつきはむつきで、こういうのに慣れてないのか、抱き着かれたままおろおろしている。
「はぁ、やっぱこの黒い肌いいっすねぇ……背徳的な……いい……」
「いい加減にしろ変態」
「あぅぅ。変態は変態でも、変態という名の淑女っすよー」
私は無理やり瀬良ちゃんをひっぺがえし、正座させた。むつきが私にすがるように服の袖をつかんでくると、それを見た瀬良ちゃんが「あら~」とご満悦な表情に変わる。かなりドン引きしてるむつきが、小声でぽつりとつぶやく。
「あの、もう帰っていい……?」
「よし帰ろう」
即断で帰ることを決定した私。「ちょ、ま!すまんかったっす!調子に乗りすぎました!」と慌てて土下座謝罪する瀬良ちゃん。私はその頭を無言で踏みつけて、「帰ろっか」とむつきに晴れやかな笑顔で笑いかける。踏みつけられた瀬良ちゃんが何か喜んでる気がする。あ、駄目だこの人、手遅れだ。
本当はもうちょっと話すこと色々あったんだけど、まぁ次の機会でいいや。私はむつきの手を引き、そのまま本当に帰ることとした。
ただの変態でした




