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36 待つ側は暇

 キッカ姉とむつきが謎空間におでかけした後、取り残された私とデンのところに、ひょっこりと黒いマリモのような神獣クロモが帰ってきた。


「何? 何かあったの?」


 ひょこっと帰ってきたクロモが辺りを見回す。机の上にはティーカップが3つ。私以外に誰かがいたという証拠だ。


「ん?誰かいたの? というか何でその犬がいるの?」

「犬よばわりとは失礼なやつだな、コウモリ」


デンがおっかない目でギロリとクロモをにらんだ。


「どっかいってるから話の流れについていけないのよ。というか。というか説明するのめんどいからいつものように心を読んだら?」


 私はクロモに投げやりにそう言った。私の持っているマジカルチャームは変身に必要なアイテムだが、神獣の身体の一部から出来ており、持ってると私と神獣との間に繋がりができる呪いのアイテムらしい。おかげで所持してると心が読まれることが多々あった。全くプライバシーもへったくれもない。


「マジカルチャームは別に心を読める機能があるわけじゃなくて、念話と心の声を区別できてないよしこサイドが駄目なだけだから。ちなみに今、念話聞いても『説明するのめんどい』って聞こえるだけだよ」


 まじか。よくクロモが私のモノローグに突っ込んでたけど、心を読んでたわけじゃなくて、念話になってただけだったのか。


「どうやったら心の声と念話を区別できるの?」

「閉心術を習得するしかないんじゃない?」

「へいしん……なにそれ?」

「心を閉ざす術。精神攻撃してくる悪魔にも有効だよ」

「今更そんなこと教える? いつも思うけど、説明なさすぎるわ」

「はー。だって、何も知らない良子に一から全部教えるのってしんどいし、そんな重要じゃない小事のひとつふたつ漏れたって仕方ないじゃん」


 マスコットの風上にも置けない職務怠慢だな。隠し事多いし、重要なことも色々漏れてる気がするんだが。


「で、ボクが離れてる間に何かあったの?」


 改めて説明を求めるクロモに対し、私はキッカ姉に正体をバラしたことと、むつきに引き合わせたことを伝えると、クロモは驚愕した。


「ええええええええ!? 何バラしてるの!? ボクの承諾もなしに!」

「別にあんたの許可なんていらないでしょ? それともばれてなんか不都合ある?」

「ぐぬぬ……そもそもボクは他の魔法少女にあんまり関わりたくないんだよ……」

「それも初耳だわ。何か事情があるの?」

「べーつーにー」


 クロモはどうやら他の魔法少女に関わりたくないらしいが、理由を聞いてもむっつり膨れて事情を話してくれなかった。ふよふよ浮かんでいるクロモを見上げて、デンが睨めつけた。


「……おいコウモリ。前々から思っていたが貴様は何者だ? 他の神獣とは何かが違うな」

「何かって何が? ボクはただの善良な神獣だけど?」


 クロモはとぼけて言うけど、善良なヤツはことさら自分を善良だと言う必要ないと思うんだが。


「神獣は様々な姿で現れる……とはいえ、我輩は貴様のようなコウモリタイプのツノが生えた神獣など見たことがない。それに……属性は何だ? 火・水・土・風の四大属性のどれにも当てはまらないようだが」

「属性? エレメントのこと? どうでもいいじゃんそんなの」

「どうでもよくない」


 話についていけない。四大属性って何? 私が首をかしげてるのを見て、デンはため息をついて説明しだした。


「良子は聞いたことが無いのか? 神獣というのはそれぞれ属性を持っており、自分の属性に対応する者を魔法少女として選びだす。特に火・水・土・風は四大属性といわれ、最も神獣の数が多い。我輩の属性は雷だが、四大属性でいうと火と風の複合属性といえるな」

「ふーん」

「重要なのは、魔法少女の魔法は個人の資質によって決まるものだが、それに加えて神獣の属性が大きく影響するということだ。例えば火属性の魔法少女は攻撃に優れた魔法を持っていることが多いし、水は回復、土は防御、風は速さといったところか。だが良子の魔法は、どの属性なのかわからん。神獣が何属性なのかわかれば、お前の魔法の謎も解けるかもしれんのにな」

「属性か……光とか闇はあるの?」


 四大属性の火・水・土・風と来たら光と闇もあるのが道理だと思う。なんとなくいたらかっこいい! というわけで聞いてみた。


「四大属性に当てはまらない特殊属性の神獣は数が少ない。だが光属性の神獣ならいるし、闇属性も……いることはいるな。ただ、闇の神獣は人間に対して非協力的だし滅多に姿を現さないが……ふむ、コウモリ……」


 じっとクロモを見て考えるデン。やがて合点がいったのか、口を開いた。


「……闇、か。闇属性の神獣。お前がそうだな? コウモリ」

「えっ、そうなの?」

「えっ、そうなの?」


 クロモと私の台詞が一字一句違わずに被った。っておい、お前はその台詞言うところじゃないだろ。


「いや、闇とか知らないし……でも闇……うん、闇いいね! 今日からボクは闇属性!」

「おいこら、気分で決めるな」


 こいつ……いつも説明少ないと思ってたけど、実はあんまりものを知らないのかもしれん。


「はぁ、むつきまだかな……暇だなー」


 私は暇を持て余しつつ、右手でデンの首もとをさわさわ撫でる。白い毛並みとじんわり伝わってくる人肌より高い体温が気持ちいい。ついでにふよふよ浮いているクロモを左手で捕まえ、羽のあたりをつまんでみた。体温は低く、なんだろうこれ……シリコンっぽい触り心地。


「クロモは失格。なんか生物っぽさを感じない」

「なんか採点された!?」

「体は低反発クッション、羽はシリコンゴムみたいな感触がするもん。まるで人工物だわ。こんなんじゃ癒されない」

「えー、ボクに何を求めてるの……」


 私は改めてデンを全力で撫でることにした。あたま、みみ、くびもと、せなか、しっぽ……もふもふもふもふ。デンも撫でられるのは嫌いじゃないのか、黙って受け入れ、たまにぐるる……とうなる。うーん、黙ってると可愛いな。低音で渋いボイスもそれはそれでいいけど……ん? こいつ男みたいに低い声だけど、身体はメス……だよね。性別はどうなってるの?


「……そういえば、デンってオスなの? メスなの?」

「……神獣に性別は意味をなさない。生殖器によって交配するわけではないからな」

「ふむ、だからついてないのか」

「お前な……デリケートなところをずけずけと……」

「じゃあメスってことでいいの?」

「メスじゃない。確かに厳密な性別は定義されてないが、女扱いも気に入らん。我輩のことは男だと思ってくれていい」

「へー、まぁ知ったところで扱いは変わらないけど」

「……意味あったのか、今の問答」


 無い。無いけどなんとなくスッキリした。人間なら男女の違いは社会的に重要だけど、犬の性別とかどっちでも扱いは変わらない。まぁ、本人が望んでるんだから、男扱いしてやろう。


「コウモリのことは……まぁ置いておく。だが、あの神獣喰らいの娘は何者だ? どこであんなのと知り合った?」

「むつきのこと? 正体は私も知らないし、出会ったのは……うーん、たまたま? なんか異空間で出くわしたから捕まえて帰った」

「は!? お前から近づいたのか、あんな怪しいやつに!?」

「だって魔法少女でゾンビだよ? 珍しそうだし、捕まえなきゃと思って」

「カブトムシを捕まえるような扱いだな!?」

「それにあの子、空間魔法なんてチートくさい魔法使えるんだよ? なんか便利そうじゃない」

「便利ってお前な……しかし空間魔法の使い手か。規格外だな。神獣の力を吸収した魔法少女というのは。ヤツは信用できるのか?」

「信用はしてないけど、信頼はしてるわ」

「……普通逆じゃないのか?」


 逆ではない。信用と信頼は同じ信じるという意味だけど、信じるに至る過程が違うのだ。信用というのは過去の実績や信じるにたる理由があって信じることだ。対して、私はむつきのことを何も知らないから何も信じる根拠はない。だけどそれでも無根拠に信じているのは、彼女がどうしても悪い子に見えないから。私は私の目で見て、むつきを信じようと決めた。つまりそういうのが信頼だと思っている。


「はぁ……お前はどうしてこう、何でもあっさり受け入れるのか……そういうところが普通じゃない」

「私は普通よ。私が普通じゃなかったら、普通の人間なんていないわ。いや、こうとも言えるな……普通じゃないのが普通。普通すぎるのは逆に異常だと」

「あまり哲学的なことを言うな。意味わからん」


 自分でも言っててわからなくなってきた。でも考えてみてほしい。例えばデン。彼は話してみたら思ったより常識的に受け答えできて、普通の人間に近い思考を持っている。だが彼は普通なのだろうか? 答えは否。犬が普通の人間の思考ができる時点で普通じゃない。

 対して私は、デンの言う通り普通ではない思考を持っているとしよう。だが私は普通の一般家庭で、普通の両親から生まれ、特に恵まれた才能もなく、普通の女子高生として日々を過ごしている。どんなに特殊な思考を持っていようとも、実績が私を普通たらしめている。つまり社会的にはこのうえなく普通の人間である。


「暇ね……30分経過」


 うん、暇すぎるから普段しないような無駄な考察してしまうのだ。早く帰ってこい、ふたりとも。

 そのとき、部屋の空間にクレバスのような亀裂が走り、人が通れるくらいの穴が開いた。やっと帰ってきたようだ。空間の穴の中から、キッカ姉とむつきがゆっくり歩いて出てくる。何故かむつきはぐったりしてて、おんぶされていた。


「おかえりー……ってどうしたの?」

「ただいま!よしこちゃん!」


 元気に挨拶し、笑顔を返すキッカ姉はなぜか魔法少女姿だった。むつきは頭を抑えてうーんとうなっている。


「……バックドロップが……うぅ」

「ええと、色々あったのよ、色々! あ、でも秘密なのよ!」


 バックドロップとか小声でよくわからないことを言うむつき。あたふたと慌ててるキッカ姉。いや、うん、何があった。


 結局私の疑問に答える者はおらず、今回の女子会的な集まりはむつきの帰宅を持って強制終了したのであった。

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