35 事後
キッカの放ったバックドロップにより頭蓋骨を強打したむつきはそのまま意識を失った。
やり過ぎた――― 落下の加速に二人分の重量をのせた必殺のバックドロップだ。魔法少女がいくら頑丈とはいえ、首の骨とか折ったらどう再生すればいいのか分からない。
キッカは慌ててむつきの状態を確かめる。どうやら首は折れてないらしい。頭は……ちょっと陥没してるかもしれない。そして脈は……脈が無い! 心臓の鼓動が聞こえない!
「あわわ……しっかりして、むつきちゃん!」
心臓は止まったが、まだ死んだと決まったわけではない。キッカは倒れたむつきに対し、電気ショックによる心臓蘇生を試みた。
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ばちぃっ!
電気の流れる大きな衝撃によって、むつきは覚醒した。
「ぐ、げほっ、げほっ」
むつきが目を開けると、そこには心配そう見つめているキッカの姿があった。
「よかった! 生きてたのね、むつきちゃん! 心臓が止まってたからどうしようかと思った!」
「……いえ、元々止まってるから、心臓」
「……あら?」
「死んでるのよ、この体は」
むつきは自分の右半身の腐った部分を指差し、そう言う。
「……まだ事情聞いてなかったわね。教えてくれる? そのへんのこと」
「あなたはどうして……突然襲い掛かった私に対して、怒ったりしないの?」
「そうね……でも手加減してくれたでしょう?」
キッカはむつきの投げたナイフをつまみ、その先端に指を這わせると、ナイフの刃はみょいんと曲がった。
「こんな玩具じゃ人は殺せないものね。私の実力を試したかっただけかしら?」
キッカが問いかけると、むつきは少しだけうつむき、小さく言った。
「そんなんじゃない……もっと違う理由。確かに命を取るつもりじゃなかったけど、ここで叩き潰すつもりではあった。だって、貴方が魔法少女を続けることは……きっと悪いことになる……」
「……どういうこと?」
キッカが怪訝な声で聞くと、むつきは帽子で顔を隠し、視線を合わせようとしなかった。キッカはどう反応したものかと思ったが、むつきがかすかに肩を震わせていることに気付き、そっと肩に手を置いた。
びくっとむつきの体がはねたが、それ以上彼女は抵抗しなかった。
「……ねぇ、話してくれない? ゆっくりでいいから。大丈夫よ、ここなら私以外に誰もいないから、ね?」
小さい子をあやすかのように、優しい言葉をかけるキッカ。だけどむつきはただうつむいたままで黙り込んでいる。
(あー、なんだか小さい頃、靴を隠されて裸足で帰ってきた良子ちゃんもこんな感じだったかしら? あのときはどうしたっけ?)
キッカは肩に置いていた手をむつきの背中に回し、まるで卵を抱く親鳥のように優しくむつきを抱きしめる。体温を感じない、折れそうな体だった。
(えと……こんな感じだったかしら? というかさっき知り合った子にこれするってどうなのかしら? どう声をかけよう……)
内心、どきどきしてるのを隠しながら、キッカはただ黙って抱きしめた。むつきは最初こそ抵抗せずにいたが、やがて体の震えが止まった頃、そっとキッカを押して距離を取った。
両者の間に気まずい沈黙が流れる。
「あー……あの……」
「……事情を話す。でも、その前に約束してほしい。これから話すことは良子には秘密にすると」
淡々と、努めて感情を込めないように話すむつき。キッカはそれを見てうなづき、約束する。
「あなたがそういうなら、分かったわ」
多分、悪い子じゃないのよね。そう思いながらキッカはむつきの話を聞いた。
「……あなたがこのまま魔法少女を続けると……近い将来、死ぬ」
キッカはいきなり死を宣告されてしまった。




