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34 むつきVSキッカ

 むつきは、佐藤良子のことを会う前から知っていた。

 そして同様に、井上菊花のことも会う前から知っていた。

 菊花が良子に近しい人物だということも、彼女こそ15年前に魔王ブラックモアを倒した魔法少女の1人だということも知っていた。

 むつきは帽子を目深にかぶり、自分を落ち着ける為に深呼吸をする。

 ―――ここからだ。ここから始めるんだ。今度はもう、間違いは冒さない。


 ここは異空間……悪魔が作った空間ではなく、むつきが作った空間だ。

 作った、というのは語弊があるかもしれない。何故なら、異空間の元となる空間は元々そこにあったのだから。原理は分からずともそこに存在する世界、だが現実には存在しないこととなっている空間。その世界は入った者の意識を反映し、形を作り変えて世界の一部を分け与える。そこは物質世界とは異なる法則が支配する異空間となる。

 この場はむつきが支配する異空間……空っぽ(ゼロ)の世界。辺りは闇で覆われ、地面は黒く、風景は何も見えないのに、むつきとキッカの二人だけはくっきりと見えてその存在を主張していた。

 突然連れてこられたキッカは、興味深そうに辺りをきょろきょろ見渡している。


「ふわー、すごいわね。一瞬でこんなところに来るなんて。今のが空間魔法?」

「……いいえ、違う。今のは引きずり込んだだけよ。私の異空間の中に。この中に入ることができるのは魔法少女と神獣くらいだけど、既に入口は別の場所に転移させたわ。つまり、この中に良子とあの犬の神獣は入ることが出来ない」

「え? そんなことできるの? すごい! ……って、そこまでする意味は何? よっぽど聞かれたくない話でもあるのかしら?」


 キッカはむつきのやったことを称賛しつつも、実のところそれほど驚いていない。魔法少女歴17年にもなると不思議体験も慣れたものである。この世界には人間の理解が及ばない超常の存在があり、魔法少女もそのひとつだ。それに、自分で異空間を作ること……それは悪魔だけではなく、魔法少女にも可能であると知っていた。だが、現実世界に依存度の高いキッカに異空間を作るのは不可能だ。それを平然と為してしまう魔法少女はむしろ神獣や悪魔に近く、この世界からはかなり異質(イレギュラー)な存在であるとキッカは推測していた。


「いいえ、二人を入れなかったのは邪魔をされない為」

「邪魔? 何を?」


 キッカがむつきに問うと、むつきは顔を下げたまま無感情な声で言い放った。


「魔法少女キッカ、あなたをここで排除する―――『殺傷空間(パニッシュメント)』」


 むつきが宣言すると、キッカの周囲5m以内に大量のナイフが出現し、キッカに向かって全方位から飛んでくる! 全く隙のないこの包囲からは逃げることは不可能であった。

 しかしそこには既にキッカはいなかった。大量のナイフがぶつかりあい、金属のけたたましいだけが周囲にこだまする。


「すごいわね、どこから出したの? あのナイフ」


 むつきの目の前には無傷のキッカが立っていた。キッカの姿は既に半身状態(ハーフモード)の普段着姿ではなく、ウェーブがかった金色のロングヘアと黒いベレー帽の魔法少女状態であった。ナイフで埋め尽くされた『殺傷空間(パニッシュメント)』の中を、一瞬で変身して無傷で抜けてきたのだ。


「どうやって抜けた?」

「簡単なことよ。進路にある邪魔なナイフをはじき飛ばしつつ、正面突破したの」


 もちろん簡単なことではない。あのナイフは魔法武器でも何でもないただのナイフだが、一つ一つに魔力が込められており、威力と速度を通常の人間の投げる投擲速度の5倍ほどに強化している。そのナイフをキッカは、魔法すら使わずにただの肉体強化のみで対処したのである。雷属性の神獣と契約した魔法少女は、攻撃力とスピードに優れる特徴を持つ。初速から音速に近いスピードを出せるキッカにとっては、あの程度の攻撃なら見てから対処するのは容易いことであった。実は一瞬だけ変身する隙が合ったのだが、半身状態(ハーフモード)からの変身は通常変身と違ってかなり速い。本当に一瞬で終わるので問題にならなかった。


「で。むつきちゃん、何のつもりかしら? あなたは良子ちゃんの友達だと思ったのだけど」


 笑顔のまま、むつきに語りかけるキッカ。しかし、その語気には少しだけ怒気をはらみ、周囲にはビリビリと静電気が発生している。


「ここで消える貴方に答える必要はない!」


 むつきはキッカの威圧(プレッシャー)に怯むことなく……本当は少し怯みつつも次の攻撃を開始した。自身は空間移動(テレポート)をし距離をとりつつ、使う技は先ほどと同じくナイフで全方位から攻撃する殺傷空間(パニッシュメント)。それに加えて―――


「使うしかないか……『加速世界(アクセラレーション)』」


 むつきの魔法でナイフが更に加速される。その速度は先ほどの10倍。もはや弾丸や音速を超えたスピードを出してナイフはキッカに迫るが……


「来ると分かってる攻撃なら、避けることは容易いのよ」


 いつの間にかむつきの背後に槍を装備したキッカが回っており、槍が横なぎに振るわれる。だが『加速世界(アクセラレーション)』の効果はナイフだけでなくむつきにも適用されていた……すなわち、今のむつきは10倍の速度で動ける。通常の反応速度では対応できない攻撃を、むつきは咄嗟に地面を蹴って横に飛び避けた。槍をかわされたキッカは一瞬無防備になり、その隙にむつきは再度地面を蹴り、キッカの懐に潜り込む。そこからキッカの腹部にショートアッパーを放った。むつきが完全に捉えたと思ったその瞬間、キッカは後ろに避けるでもなく、逆に更に一歩を踏み出し、それがそのまま体当たりとなった。


「ぐっ!」


 キッカの体当たりは一見強引な突撃に見えるが、その結果むつきの攻撃は潰されて吹っ飛ぶことになった。そこに追撃をかけようと追いかけるキッカ、しかし計算違いだったのはむつきの吹っ飛ぶ速度だ。『加速世界(アクセラレーション)』によってむつきの体は加速され、吹っ飛ばしたキッカ本人に追いつけない速度だった。ここでキッカはむつきが身体強化ではなく、何かの魔法で不自然に速くなったのだと気付く。


(雷属性の私は別として、普通ここまで速い魔法少女いないものね……何か魔法を使ったのには違いないんだと思うけど、これって空間魔法というか……別物よね、明らかに)


 そう思ったとき、むつきの姿は既に消えていた。空間移動(テレポート)を使い、キッカの頭上を取るむつき。さっきまで吹っ飛ばされていたのに、既に体勢は整っており、更に右手には刃渡り30cmほどの包丁を握っている。10倍の加速によって全ての準備は整っていたのだ。そのまま頭上から落ちて包丁をキッカに向かって振り落ろす。落下速度も魔法によって加速されてキッカに凶刃が迫る。


 だがキッカは頭上の脅威に既に気付いており、包丁を握っていたむつきの右手に槍の柄をぶつけて払った。包丁は吹っ飛び、むつきの上体が無防備になる。その隙に槍を投げ捨てたキッカは、むつきの落下に合わせて小さく飛んで背後に回り、両腕を腰に回した。むつきはまだ落下の途中であった。そしてその勢いを利用され、そのまま……


雷神の背面落とし(ライジング・バックドロップ)!!」


 鈍い音とともに、地面にむつきの頭が沈む。

 超高速戦闘の変則的な初動から、見事なバックドロップが決まったのであった。

魔法少女ならレスリングは基本です。

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