29 デンとお散歩
私は今、キッカ姉のアパートに遊びに来ている。魔法少女ではなく、ただの佐藤良子としてだ。一度来てみたかったのだ、単純に。
クロモは隠蔽の魔法で姿を隠すことが出来るらしいが、怖がってついてこなかった。隠蔽の魔法は魔法少女にも神獣にも効くらしい。前キッカ姉がうちに来たときにバレなかったのは、このおかげだ。だが弱点があって、他の魔法を使うと魔力の流れで感知されやすくなる。ま、リアルバレしたくなかったら、来ないのが正解かもね。
キッカ姉の家はわんでぃーけーの駐車場つきでペット可なアパートだ。ここらへんにしては割と家賃高め。せまい。でも物をあまり持たない人なので、これくらいでいいのかもしれない。
「飲み物はカルピスでいい?」
「うん」
我が家の風習、とりあえず客にはカルピス。キッカ姉ちゃんも相変わらずだなぁ。
キッカ姉の飼い犬のデンは柔らかそうなソファーでくつろいでいる。あ、これ人をダメにする低反発ソファーだ。お客様を差し置いて、なんという特等席を取ってるんだ、この犬は。
私はくつろいでいるデンをそっと撫でてみた。相変わらず、白い毛並みがサラサラで気持ちいい。はー、癒されるわー。
「おい良子、話がある」
「……へ?」
いきなりデンが話しかけてきた。突然の出来事に言葉を失ってしまった私を見て、デンはやれやれといった溜め息をついた。
「……やはり言葉が分かるんだな、良子。いや、魔法少女シュガーだったか?」
ニヤリと悪い笑みを浮かべて、すっくと立ち上がる。は、はめられたー!
「外に出る。少し散歩に付き合え」
「……あ、うん。キッカ姉ちゃんは?」
「いや、二人きりで話したい」
デンは真剣な目つきで言った。何か大事な話でもあるのだろうか?
「……分かった。キッカ姉ちゃーん!ちょっとデンと散歩行ってくるー」
「あら?分かったわ。迷子にならないようにねー」
ーーーーーーーーーーーー
デンに連れられて、人気の少ない神社のベンチに座った。
「あのさ、普通神社って犬連れてきちゃダメなんじゃないの?」
「ここは近所の人もたまに犬を散歩させてるぞ。細かいこというな」
「まぁ、確かに人はいないけどさ……」
デンもベンチに飛び乗って座った。猫かお前は。
「あのコウモリはいないのか?」
「クロモのこと?あいつは逃げた」
「そうか」
デンは周囲を警戒し、誰もいないことを確認した後、こっちに向き合った。相変わらず鋭い眼光だ。そんな目で見つめられると、思わず頭を撫でたくなる。
「デンはどうして気付いたの?」
「お前のことならいくら姿を変えてもすぐ分かる。赤ん坊のときからの付き合いだぞ」
「……キッカ姉ちゃんは知ってるの?」
「あいつは鈍感だから気付いてない」
うん、キッカ姉は気付いてないのか。まぁ、そういう人だからね。
「……お前が内緒にしようと思うのも分かるがな。あいつはお前のこととなると心配しすぎる」
「デンは私のこと話さないの?」
「……我輩から言うべきことではないな。お前が話したければ話せばいい。それに我輩はあいつといつまでも一緒というわけにはいかない」
「それってどういうこと?」
「……」
少しの沈黙があった。デンはゆっくりと私から視線を外し、語りはじめた。
「……変身してない状態のキッカにはもう我輩の声は聞こえなくなっている。あいつはとっくに魔法少女としての限界を迎えている」
「魔法少女の……限界?」
「人間は幼い頃は不思議な力を持っている。その力は成長期に最も強くなるが、成長が終わると……大人になるとその力は失われてしまう。それが魔法少女の限界だ」
「でも、キッカ姉ちゃんはめちゃくちゃ強かったし、普通に魔法少女やれてたじゃない」
「あれはマジカルチャームの補助と今まで集めたエレメントの力で無理矢理続けられてるだけだ。もう全盛期の力の半分もないし、自力で魔力を生み出すこともない。そして何より致命的なのは、感知力が全くなくなったことだな。我輩が教えねば、悪魔の気配すら分からん。戦闘経験でなんとか補ってはいるが、大きなハンデを背負っているといっていい」
あの、感知力は私も神獣任せなんで大して変わらないんだけど。
「本来なら我輩もキッカの代わりの魔法少女を探す必要があるのだがな……」
「デンは……代わりは探さないの?」
「本来ならお前が候補に入っていたんだがな……」
まじでか。
「……神獣には属性があり、それによって魔法少女との相性が決まる。我輩の属性は雷なのだが、致命的にお前と合わなかった上に、お前の不思議な力は小学生になる前に既に失われていたという早熟ぶりだった。完全にアテが外れた」
「え、それって私が悪かったの?」
「全部お前のせいだ」
ギロリとこっちを怖い目で睨みつけるデン。仕方ないのでなでなでしてやる……ハッ、つい癖が
「……最近になって何故かお前の力が復活し、更には魔法少女になっていたのは意味が分からなかったな。全く、レアケースにも程があるぞ。再びお前と話せる日が来るとは思ってもなかった」
「え?それって過去に私とデンって話せてたってこと?」
「小学校に入る前はな」
「……何でそんなこと忘れてたんだろう」
「人間は忘れる生き物だからな」
……そういうものなのかな?
でも何となく分かった。私の心に何か足りない感じがしたのが。私があのときむつきを無理矢理捕まえて、脅してまで家に持ち帰った理由。多分、忘れたくなかったんだ。
「……そっか。私はデンともう一度話せるようになって嬉しい。すごく。それだけで魔法少女やっててよかったと思う」
「……ふん」
デンはぷいっと顔を背けた。照れ隠しのつもりなのだろうか。私がなでてやると、いつものようにしっぽをふりふり振った。全く、ツンデレ犬め。




