22 キッカお姉ちゃん
床野見高校に入学してから一ヶ月。むつきに「魔王が復活する」とか言われたけど、特に何事もなく5月になった。
むつきは魔法少女探しであちこち回っているようだが、いまだ手がかりがつかめないらしい。ちなみにむつきは携帯電話を持っておらず、連絡が取れないので、最低週1回以上うちに来るように念押ししておいた。もし来なかったらツイッターで「迷子の魔法少女探してます」と写真つきでツイートして拡散する、と脅しておいた。
そんな感じでむつきは毎週うちに来て晩御飯を食べている。色々と秘密の多いむつきだが、彼女との仲はいたって良好であり、健全な関係を築けていると言えるであろう。
「え、どこが健全?」
モノローグに突っ込むのやめてよね、性悪神獣。
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私が家に帰ると玄関に母親のものではない女の人の靴があった。この靴は……まさか。
私は「ただいま」を言うのも忘れてリビングに駆け出した。
「おかえり!キッカ姉ちゃん!」
「ただいま、よしこちゃん」
リビングの扉を開くと、そこには優しげな笑みを浮かべる私が世界で一番尊敬する姉がいた。
ただいまとおかえりが逆になってしまったが間違いではない。なんせ、キッカ姉は久々に我が家に帰ってきたのだ。
『えっと、どういう関係?お姉さん?』
クロモが困惑して聞いてくる。仕方ない、答えてやるか。
『この人の名前は井上菊花。名前で分かるように、私の直接の姉じゃないわ。遠い親戚なんだけど、小さい頃は一緒に暮らしてたし、何かとお世話になったの』
『へー』
キッカ姉のそばで寝ていた犬も私の帰宅に気付いて起きた。
「デン、お前も久しぶりー」
ギロリとおっかない目でこちらを睨んだ犬はデンという名前のキッカ姉の飼い犬だ。実は別に威嚇しているわけではない。元々目つきの悪い犬なので仕方ないのだ。
デンは白い毛に覆われた犬で大きさは柴犬くらい。若そうに見えるが、私の生まれた頃から既に飼われていた老犬だ。犬ってのは年齢判らないね。
そのままプイっとそっぽを向いたが、これは頭を撫でてほしい合図だ。興味なさそうな顔して、しっぽだけふりふりと揺れている。このツンデレ犬め。
よしよしと撫でてあげたら気持ち良さそうにしていた。うーん、白い毛並みがさらさらして気持ちいい。変わらないなぁ、こいつ。
「よしこちゃんも大きくなったわね。もう高校生かぁ」
そう言ってキッカ姉は小さい頃と同じように、私の頭を撫でてくる。相変わらず子供扱いが抜けないけど、それが私にはすごく嬉しい。高校生になったけど、身長はキッカ姉の方が10cmほど高く、この差は一生縮まらないのだと思う。でもそれでいいんだ。キッカ姉にはいつまでもお姉ちゃんでいてほしい。
「ところでよしこちゃん、今どこの高校に通ってるの?やっぱり光明?」
ぐふっ!私の精神に大ダメージ!
あーそうだ、言ってなかったね。言ってなかったわ。なんせ久しぶりだもん。私は柔和な笑みを浮かべるキッカ姉から目をそらしつつ、意を決して言った!
「あの……床野見高校です」
「えっ……床野見?」
キッカ姉がぴしっと固まった。うう、ごめんようお姉ちゃん。光明すべっちゃったんだよう。
「床野見ってあの床野見よね?生徒の半分が不良で、年間100人以上退学者を出してて、毎年何かしらの事件を起こしてる悪名高い不良校の」
「はい、その床野見です……」
あながち事実だから困る。一週間に一回は窓ガラス割られたり暴力事件が起こるし、私のクラスはまだ3割くらいしか不良がいない(一ヶ月で1割増えた)からいいものの、問題児クラスと呼ばれる4組はほぼ全員不良で一ヶ月で担任が辞めた。公立なのに国が何故改善策に乗り出さないのか分からないくらいの底辺校だ。
「床野見なんてよしこちゃんみたいないい子が行くべきところじゃないわ!何かの間違いよね!何かの間違いよね!」
「うぅ、ごめんよぅ。ごめんよぅキッカ姉……」
涙目になって錯乱しながら私の肩を掴んでガクガクと揺らすキッカ姉。不出来な妹分でホントすまん。でもみんながみんな不良というわけではないし、普通の子もちゃんといるからね。みちかちゃんとか。
うん……入学してから受けた英語のテストがアルファベットレベルで、数学が掛け算割り算レベルだったのはなめてるのかと思ったけどね。あとで平均点聞いたら45点だって……うっかり学年一位を取ってしまった。でも全く嬉しくない。
やがて落ち着いたのか、キッカ姉は私の肩を離し、覚悟を決めたように私を見据えてこう言った。
「これも……運命なのかもしれないわね」
「あの……運命って」
「大丈夫!私が絶対によしこちゃんを守るから!絶対に大丈夫よ!」
「あの、えっと……」
何やら決意を込めて空にガッツポーズを決めたキッカ姉。だが、その発言の意味は翌日すぐに分かることとなる。
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「あー、今日からこのクラスの担任になる井上先生だ」
「井上菊花です。1年間よろしくお願いします」
私のクラスにキッカ姉が来ていた。




