108 元凶
ひかりは菊花に特異点について説明していた。
「……で、良子ちゃんの話はいつ出てくるの?」
「うー、人が重要な伏線張ってるのに、このシスコンは。ちょっと待ってよ、そのうち話繋がるから」
「昔からよく話が脱線する癖があったじゃないの……」
菊花は色々重要な情報を聞いてるはずだけど、あんまりピンと来てない。彼女の価値観では良子のことが最優先なのだ。
「キミが覚醒したとき、おそらく特異点に接触した。理由はよく分からないけど、わたしの考えではキミの想いに引き寄せられたのかもしれない」
「私の……想い?」
「そう。特異点は巨大エネルギーの塊だけど……なんらかの意思を持っているように思える。そして重要なのは、特異点のエネルギーは魔力とかそういうのより上の次元の力ということ。だからキミは魔力的には大して強化されていない」
「ふんふん、それで?」
「えーと……そこまで聞いてピンと来ない? それと似たような力持ってるでしょ、良子ちゃんは」
「……あっ」
そこまで聞いてやっと話が繋がり、菊花は納得したようにぽんと手を打った。良子の絶対魔法だ。
「そもそもね、魔法少女が覚醒してもその力は有限なんだよね。例えば私も何度か覚醒したことあるけど、今は覚醒の力は使えない」
「え? そうなの? 覚醒したら今後も無敵とか思っちゃったけど」
「滅茶苦茶強い力なのに使い放題なんて反則じゃん。そんな便利なもんじゃないよ」
「でも良子ちゃんは使い放題よ?」
「そう、それがあの子がイレギュラーな理由。魔力がほとんど無いのにこっちの攻撃を通さないし、こっちの防御は簡単に破る。そんな力をノーリスクで使い放題。ありえないんだよあの力は」
そこまで言うとひかりはぐいっと酒をあおり、ぷはーと親父臭いため息をついた。今までの話を聞いて、菊花はふと疑問に思う。
「でも良子ちゃんは本当に普通の子よ。特別な血統とか持ってないし、一般家庭の子だし。なんでそんな力を持ってるの?」
「あー、それについてはちょっと『元凶』に心当たりある。確証が無いから何とも言えないけど……」
ぽりぽりと頬をかきながら歯切れ悪く答えるひかり。
「思い当たる節があるの?」
「んん、ちょっと後で確かめるから待ってよ。ここで適当言ってて間違ってたら変な誤解招くかもしれないし」
「なによそれ」
「でもまぁ、いくらあの子がすごい力を持ってても、現時点じゃ全然怖くないんだけどね。弱点があるし、どうとでもなる」
「弱点?」
「あの子、わたしの剣にはノーダメージなのにくすぐり攻撃は思いっきり効いてたでしょ。防御力が高くても別に皮膚が鉄になったわけでもないし、感覚は普通に生きてるんだよ。そういう弱点がいくつもあると思うから、大したことない」
「確かに……そうかも。動きも普通の人間並みだし」
「わたしは危機感を感じたよ。あれじゃすぐやられる。今まで運よく脳筋悪魔とばかり戦ってたようだけど、いつも上手くいくとは限らない。弱体化したわたしじゃもう大して戦力にならないだろうし、やっぱりあの子を……というかあの子達モノクローズを強化しないと」
「モノクローズって……また勝手にチーム名決めて。で、どうするの?」
「ふっふっふ、歴代でもわたしに次ぐ才能を持った魔法少女……セラちゃんを復活させてみよう」
「えっ?」
魔法少女セラ。現在ではアラサーニート瀬良清美。彼女のいない場なのに、何故か勝手に再び魔法少女をやるように決定されてしまった。
その後、ひかりは菊花にいくつか言付けし、解散した。
◇◇◇
すっかり夜も更けて丑三つ時。良子たちはホテルでぐっすり寝てる頃。街中によくあるビルの一つにふよふよ浮かぶ不定形の黒い物体があった。
(あーだるいわー。ずっと攻撃されるかもと思って気張ってたわー。目立たないようにするのだるいわー。なーにが伊勢観光だ。こっちは敵の本拠地に乗り込むようなもんで命懸けだっての。やってられっか)
黒い物体はやさぐれながらそんなことを思っていた。
(しかし、アマテラスや神獣どもの勢力も随分弱体化しているな。15年前の半分以下というところか。リスクを冒して様子を見に来た成果はあったな。我が本来の力を取り戻せば、今のあいつらなど敵では無い。あのアマテラスの御子は本来ならクソ強いからな。やるなら今がチャンスというわけか。ククク……)
「ふぁーあ……こんな時間まで起きてるの?」
「っふぉーっ!????」
黒い物体がよからぬことを企んでいると、唐突に少女の声がしたので驚いた黒い物体は奇声を上げた。
眠い目をこすりながら、黒い物体に話しかける少女の名は天乃ひかり。最強の魔法少女だが、今では犬耳を生やした5歳児くらいの姿になっている。黒い物体は突然話しかけられたことに驚き、空へと逃げようとする。
……が、少女はぴょんと飛んでそれをキャッチする。
「貴様……」
「つーかまーえた。その姿あれだね。あんまかわいくないから元に戻ったら?」
「クッ……ぐおお!?」
ぎゅーと握り締められた黒い不定形の物体が苦しみの声を上げ段々実体を取っていく。そして黒くて丸いマリモにツノとコウモリの羽が生えたような姿になった。
「なんで逃げるかなぁ、『元凶』ちゃん」
「何だよ! 何の用だよ!」
バタバタとクロモが慌ててひかりの腕の中で暴れるが、がっちりとホールドされてて逃げ出せそうになかった。
「せっかく二人きりになったんだからちょっと話そうよクロモ。いや、こう言った方がいいか。魔王ブラックモア……」
(げげ、やっぱり気付いてた。ガキに見えてもやはりアマテラスの御子、侮れん)
「お前、やはり気付いて……」
「……の『分け身』ちゃん」
「……へ?」
分け身、と聞いてクロモは呆気に取られてキョトンとする。
(いや、何言ってるの。分け身って? すり身の親戚? なにそれオイシイノ?)
「んん? 何この反応? もしかして自分が本体だと思ってるの?」
「えっ? え?? ……え???」
クロモはひたすら困惑する反応しかなかったが、ひかりは関係なしに話を続ける。
「本人に言うのもあれかもしれないけど、魔王ブラックモアの正体はふわふわの不定形なんだよ。だから15年前もよく分裂して魔王のミニチュアバージョンみたいなのがよく発生してたんだよね。それを分け身って言ってるんだけど。あ、知ってるよね」
「し、知ってっし!」
「魔王本体は倒したし、魔王の分け身も大体殲滅したけど、もしかして生き残っているのがいると思ってねぇ。キミがそうでしょ?」
「は?? 何言ってんの?? ボクが本物に決まってるでしょ? だって頭いいし!!」
もちろん、クロモの言い分にも理由がある。ひかりの言っている「魔王の分け身」というのは、勝手にあふれ出た力の塊みたいなもので、おおよそ知性と呼べるものは持っていない。中級以上の悪魔が作る「眷属」と同じようなものである。
ただ違うのは数がやたらと多く、しかも一つ一つが不定形でどんな姿にでもなれるし、とても強いというだけだった。その強さから魔王ブラックモア本体と勘違いをするくらいで、一体発生すると強い魔法少女20人がかりでも苦戦すると言われたくらいだ。だからただの「眷属」呼ばわりではなく、「魔王の分け身」と呼んでいた。
(でも我は賢いし、こいつらと最後に戦った記憶が確かにあるし、分け身などではない!)
そう思うクロモだが、確信が持てずに揺れていることがあるのは確かだった。
ひかりはふむぅ、と考え込みながら話した。
「確かに、キミはただの分け身にしては特別な個体のように思えるね。どうやら他の神獣たちを欺けるほどの隠蔽魔法を使えるようだし、何よりわたしの自信作であるマジカルチャームをコピー出来るところとかも……あれは上位の神獣じゃ無ければ出来ないことだ。まぁ、劣化品だけど」
「劣化品じゃない! お前らのよりよっぽど優れてる!!」
自分の作ったモノを馬鹿にされて怒るクロモに、ひかりははぁとため息をつく。
「劣化品じゃなければ粗悪品と言った方がいいか。魔力の変換効率は良いかもしれないけど、浄化機能が備わってない」
「邪魔だろ、あんなもん! 使える魔力減らすだけだし!」
「分かってないね……良子ちゃんがイレギュラーなだけで、普通ならあんなもの使えるような代物じゃないんだ。あんなダイレクトに悪魔の魔力……呪いを溜め込む装置、『何が生まれるか』分かったもんじゃない……いや、それが狙いなのかな」
「は? はぁ? な、何言ってんの??」
クロモは惚けながらもひかりの言ったことを少しだけ理解していた。
(もう既に生まれてるんだよなぁ……)
そう、あのマジカルチャームの中には既に住民がいる。なんか白い子どもみたいなやつだったけど。でも意図してやったわけじゃないと断じて言える。あんなの邪魔なだけだし。
「クロモ、キミはアレを利用して新しく『魔王』を生む気でしょ?」
「え……? は? はああああああああああ!??」
全く意図してやったことじゃなく身に覚えのないことを言われて、素っ頓狂な声を上げるクロモであった。




