11 入学式
今日は私の高校の入学式であった。志望校である光明大附属高校を滑った私は、高校浪人になるわけにもいかず、やむを得ず滑り止めの高校に通うこととなった。
県立床野見高校。公立高校であるが、偏差値30台の不良校として有名だ。私の近所に一番近いから受けた高校で、他の公立を受けようとしたら電車通学になる。
私たち新入生は体育館に集められて校長とかの話を聞いている。1年の学年主任はスキンヘッドのいかつい先生でちょっと恐い。
『ふーん、ここがキミが通うことになる高校かー』
なんか当たり前のようについて来てるクロモ。ぴょこっと出てきて私の頭の上に乗ってる。飛べよお前、飛べるんだから。
『いい学校だね!キミにはおあつらえむきだよ!』
『なにそれ。皮肉?』
私は念話で返す。マジカルチャームはクロモとの繋がりがあるらしく、これに手を触れると思念だけで会話することも可能とのことだ。
私はポケットに入れたチャームにさりげなく触れながら念話での通信をしている。こっちの思考を読まれかねないからあんまり好きじゃないけど。
『いやいや、この学校には悪魔が発生しそうな陰惨な空気を感じるんだよ。狩り場としては上々じゃないか』
『狩り場ね……』
校舎に落書き、ガムがついた廊下、タバコくさいトイレ。入学式だからかそこそこ掃除してる努力は見えるんだけど、使う人間のモラルがなってないせいですぐ汚されるのよね。こういう場所が悪魔の発生には好条件というわけか。
『それよりもあんた、本当に他の人には見えてないんでしょうね』
『だいじょぶだいじょぶ。ボクの姿はもともと普通の人には見えないし、さらに隠蔽の魔法を使ってるから普通じゃない人にも見えないよ』
隠蔽の魔法とかまた便利そうなものを……この神獣はさらっと色んな魔法を使うんだよね。魔法少女である私にはひとつも使えないのに。
『どう?この中に魔法少女はいそう?』
私は勝手についてきたクロモを魔法少女センサーとして有効活用していた。あの三角帽子の魔法少女がいるかもしれない。
『うーん、わかんないね。魔法少女候補なら良子より良さそうな子が100人くらいいるんだけど』
『しばくぞ』
入学生は217人で7クラス。定員枠は240人だったので見事に定員割れだ。新入生の女子の人数は90人しかいないので、さっきクロモが言った100人の中には男子も含まれることになる。しばくぞ。
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さて、入学式が終わってクラスに分かれて移動だ。私のクラスは7組だ。友達100人とは言わないが、最低限ぼっちは避けたい。
ちなみに私と同じ中学出身の生徒はこんな偏差値が低い高校なんか好き好んで選ばないので、ほとんどいない。ゼロからのスタートだが、却って好都合だ。前の学校は本当に居心地悪かったからね。
私の席は中心右寄りで前から2列目だった。まぁ、最初は名前順だからこんなものよね。
そして新クラス恒例の行事とも言える自己紹介が始まる。こういうの苦手だ。失敗は出来ないが無難に終わらせてしまおう。
「ふ、ふ、ふ……ふ、吹ちゅ、吹津中学の斎藤美智花ですっ……」
私の前の席の女子の自己紹介が終わった。
名前と出身校を言うだけなのに緊張しすぎでしょ。席立つときにガタッと派手に音を立てていたし。
「佐藤良子です。よろしくお願いします」
どさくさに紛れて私は名前だけ言って最短で終わらせた。なんか前の人の失敗した感じで空気が微妙になってたもん。あと出身校はそれなりに進学校だったから、悪目立ちしそうだし言いたくない。
そのあとオラついた感じの人、チャラチャラしてる人が2割ほどいる教室での自己紹介は全部終わった。意外といえば意外だったけど、見た感じ普通の人が割と多い。
悪名高き不良校、底辺学校、自転車がすぐに盗まれると評判を聞いてたけど、みんながみんなそうとは限らないみたい。
『ま、実際みんな落ちこぼれなことは変わりないけどね。あ、良子も含めてだけど』
『よし分かった。あとでしばく』
その後ホームルームが終わり、午前中に帰れることになったが、ここですぐ帰るようならボッチ確定である。そう、ここが最初の運命の分かれ目だ。
といっても、すでに同じ中学出身とかでグループが決まってるのが半分いる。決まってるグループに入るなんて無理だ。なんとかあぶれてる人に声かけないと……
ん? なんか前の女子が誰にも話しかけずにそそくさとすぐに帰ろうとしている。吹津中ってたしか同じ中学出身が一番多いのにおかしい。ってことはつまり……
彼女はボッチだ! 友達いない子だ! よし、つかまえよう!
「斎藤さん。よかったら一緒に帰らない?」
「あ、えっと……」
「後ろの席の佐藤よ。佐藤良子。よろしくね」
「あっ、はい。よ、よろしく」
斎藤さんが少し困ったような顔を見せる。もしかして他のクラスの友達でもいるとか?
「ごめんなさい、何か他の人と約束あった?」
「ああ!いえ!そういうんじゃないです!ご、ごめんなさい!」
何故謝るのだろうか。
『良子は無愛想だからね』
『ほっといてよ』
『ほら、彼女から恐怖エネルギーを感じるよ。今から校舎裏に呼び出されてボコボコにされるとか思ってるんじゃないの?』
『しないから! あと恐怖エネルギーってなに!?』
とりあえず気の弱そうな感じの女子、斎藤さん確保に全力だ。もうこうなったらとことんいってやる!
「構わないわね。それじゃ一緒に帰りましょ」
「は、はい。よろしくお願いします……」
消えいりそうな声で彼女が言った。やはり私は怖がられているのだろうか。
いや……なんか他の女子の視線を感じる。チャラチャラグループ女子のボス猿……えーと、名前忘れた。髪染めてピアスはめて短いスカートの初日から校則違反しまくりの服装の女子だ。ヤツになんか睨まれている。さっさと教室を退散せねば。
「さっ、いきましょ」
「あ、はいぃ」
うわ、とっさに斎藤さんの手を握ってしまった。斎藤さんの手、汗ばんでて柔らか……じゃなかった。我ながらなんて大胆な行動に出てしまったのか。
斎藤さんはなされるがままだ。うわ、この流されやすさ……うん、いじめられそう。だが扱いやすくもある。私が強引に連れまわせば、とりあえず私のボッチは免れるのではないか?
『打算で友達になるって、良子はひどいヤツだよね』
『友達に限らず、家族以外のあらゆる人間関係は打算で作られるのよ』
友情は打算でもいい。私は灰色だった中学時代の失敗を踏まえ、高校ではキラキラな青春を送るのだ! ……いや、無理だと分かってるけどね。底辺校だし。
友達(強制)の斎藤さんゲットしました。
良子はわりと必死です。




